さいたま市が臨む多言語対応 - Saitama University ·...

1
埼玉大学の学生が授業の一環として『地域の魅力づくり』の課題発見とその解決策をフィールドワークを通じて模索し、成果を発表していきます。 U La La Report について さいたま市が臨む多言語対応 2020年に開催される「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」では会場の一部となるさ いたま市でも、様々な取り組みが始まっています。ここでは、その際のインバウンド(訪日旅行客) 対策に着目し、多言語対応を中心に取材をしました。 「東京オリンピック・パラリンピック」をきっかけに 官民が共に取り組んでいるという2020年に 向けての多言語対応ですが、さいたま市の行 政はどの様に臨んでいるのでしょう。 私たちは、 市にオリンピック・パラリンピック部があると知 り、取材をしてきました。 市ではオリンピックを さいたま市の振興のきっかけとして捉え、「オリ ンピックまでにはこうしよう」といった“締切効果” を活用しながら大会開催へ向けての取り組みを しているところでした。 主な目的は市の活性化 と、来県のリピーターを増やすことです。プラ ンを検討する上で、今までのような行政主体の 取り組みではなく、市民の意見を取り入れ、市 民と共に考えていくという点を重視しているそう です。 実際に、プラン検討の際に民間企業 等の意見を募ったり、市民の会合に職員が出 向く「出前講座」という形で市の施策等につ いて話す場を設けています。 市は大会へ向けた取り組みとして、まず1年 目の2015年度は、4つの方向性『円滑な開 催への準備』『スポーツ・文化・教育振興』『地 域資源を活用した観光・経済振興』『大会レ ガシーの継承 』を定めました。2年目の2016 年度には熱中症対策や多言語対応、環境整 備等の12のテーマへの取り組みについての検 討。 そして3年目 の2017年度はこ れらの対策を『お もてなしアクション プラン 』としてそ の策定のために 大学・民間企業・ 医 療 機 関 等と協 力しながら官民一 体となって検討・取りまとめをしているところです。 この取材をきっかけに、私たちはさいたま市 を訪れる外国人向けの多言語対応について詳 しく知りたいと思いました。 東京オリンピック・ パラリンピックでは多くの外国人観光客の訪日 が予測されます。さいたまスーパーアリーナと 埼玉スタジアム2〇〇2が競技会場として使用 されるため、さいたま市にも多くの外国人観光 客が訪れるでしょう。 調べ進めてみると、私た ちは意外にも身近なところにその取り組みを発 見しました。 「おもてなしうちわ」で“指差しコミュニケーション” 大会開催は夏の盛りとなります。その暑さ 対策と、外国人観光客対策と記念品的活 用に地域情報の提供までを兼ねたツールが 既に試用されていました。それが「おもてな しうちわ」です。 このうちわ、さいたま商工会議所とのコラ ボで埼玉大学が制作した物でした。 経済学 部齋藤友之ゼミの皆さんにお話を伺いました。 まずうちわとして熱中症対策になる上に、 印刷されたピクトグラムを指差すことで、その 場 所を尋 ねら れるという多 言語対応の機能も備えています。 大会に先 駆けて「第8回世界盆栽大会」で配布され た物を見せていただきました。 表面は外国人に受けそうな和風で漫画 チックな明るいデザイン。 裏面には14個の ピクトグラムが、人間は左上からものを見る という心理に基づいて、使用頻度の高いも のから順に配置されています。また表面には 盆栽大会の、裏面にはさいたま市のホーム ページに繋がるQRコードが掲載されていて、 リンク先では常に新しい情報を見ることが出 来ます。 このうちわを原型にした物が昨年11月の 「サイクルフェスタ」で配布され、更に改良 を重ねて「東京オリンピック・パラリンピック」 で配布される予定となっており、今からとても 楽しみです。 観光と国際交流 さいたま市には、市を観光と国際交流の 面から盛り上げるための取り組みをしている 団 体があります。 公 益 社 団 法 人さいたま 観光国際協会は、大宮・さいたま新都心・ 浦和・岩槻4カ所の駅もしくは駅に直結した 場所に観光案内所を設置しています。ここ では英語での対応が可能で、さいたま市の 観光ガイドや観光地図が配布されています。 またJR浦和駅東口にあるコムナーレ内に 国際交流センターを設置しており、日本語教 室や在住外国人への生活支援などが行われ ています。 他にも毎月テーマ別に世界の文 化紹介や季節ごとの展示が行われています。 このような施設がある一方で、現状ではさ いたま市を訪れる観光客の少なさが課題と なっているそうです。 宿泊施設が少なく他の 都市へのアクセスが良いため、さいたま市に 滞在してもらえないとのことでした。 協会では 「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」 や「世界盆栽大会inさいたま」などのイベン トや大 会を誘 致することで集 客を図ってい ます。 何気なく暮らしているさいたま市も、観光 や国際交流という視点で見ると、多数の外 国人観光客を迎え入れるためのインフラ不 足という問題を抱えているという事が分かりま した。 Goods Future Town 地域活性化と市民参加 「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」とさいたま市との関 連について調べるうちに、多言語対応について興味が広がりました。 取材では様々な方からお話を伺うことができましたが、さいたま市をより 良くしよう、盛り上げようという共通の思いを感じました。また、地域 活性化の課題や、市民参加の重要性についても学ぶことができ、自 分たちの街に関心を持ち積極的に参加していこうという気持ちが強く なりました。 記事を作る作業は難しさもありましたが、浦和の地域を改めて知る きっかけにもなり、とても貴重な経験をさせていただきました。 訪日外国人観光客が増えること自体は喜ばしいですが、数 を増やすことだけを目指していては、観光客の満足度やリピー ト率をアップさせることは難しいでしょう。 世界の著名な観光都市には、受け入れ側に「おもてなし の心」が詰まっています。そして何より、ハード・ソフト両面で、 多言語化、バリアフリー化など様々なユニバーサルデザインが 施されています。 学生たちの取材記事から、さいたま市が都市型観光地とし て成熟していくために何が必要なのかをあらためて考えさせられま した。取材にご協力いただいた皆様には厚く御礼申し上げます。 埼玉大学教授 石阪督規 編集後記 教養学部3年 飛田野 志保 教養学部3年 福沢 麻子 担当教授 石阪 督規 出前講座の様子 競技会場となる埼玉スタジアム2〇〇2 トイレや身体障害者用設備などのピクトグラム 協会の発行している広報誌 さいたま市オリンピック・パラリンピック部 048-829-1023 〒330-9588 さいたま市浦和区常盤6丁目4番4号 さいたま市役所5階 [開庁時間]8:30〜17:15(土日祝、年末年始を除く) 国立大学法人 埼玉大学 広報渉外室 048-858-3927 〒338-8570 さいたま市桜区下大久保255 公益社団法人さいたま観光国際協会 048-647-8338 330-0853埼玉県さいたま市大宮区錦町682-2 JACK大宮3F P2 February 2018

Transcript of さいたま市が臨む多言語対応 - Saitama University ·...

Page 1: さいたま市が臨む多言語対応 - Saitama University · 印刷されたピクトグラムを指差すことで、その 場所を尋ねら れるという多 言語対応の機能も備えています。大会に先

埼玉大学の学生が授業の一環として『地域の魅力づくり』の課題発見とその解決策をフィールドワークを通じて模索し、成果を発表していきます。U La La Report について

さいたま市が臨む多言語対応2020年に開催される「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」では会場の一部となるさいたま市でも、様々な取り組みが始まっています。ここでは、その際のインバウンド(訪日旅行客)対策に着目し、多言語対応を中心に取材をしました。

「東京オリンピック・パラリンピック」をきっかけに官民が共に取り組んでいるという2020年に向けての多言語対応ですが、さいたま市の行政はどの様に臨んでいるのでしょう。私たちは、市にオリンピック・パラリンピック部があると知り、取材をしてきました。市ではオリンピックをさいたま市の振興のきっかけとして捉え、「オリンピックまでにはこうしよう」といった“締切効果”を活用しながら大会開催へ向けての取り組みを

しているところでした。主な目的は市の活性化と、来県のリピーターを増やすことです。プランを検討する上で、今までのような行政主体の取り組みではなく、市民の意見を取り入れ、市民と共に考えていくという点を重視しているそうです。実際に、プラン検討の際に民間企業等の意見を募ったり、市民の会合に職員が出向く「出前講座」という形で市の施策等について話す場を設けています。市は大会へ向けた取り組みとして、まず1年

目の2015年度は、4つの方向性『円滑な開催への準備』『スポーツ・文化・教育振興』『地域資源を活用した観光・経済振興』『大会レガシーの継承』を定めました。2年目の2016年度には熱中症対策や多言語対応、環境整備等の12のテーマへの取り組みについての検

討。そして3年目の2017年度はこれらの対策を『おもてなしアクションプラン』としてその策定のために大学・民間企業・医療機関等と協力しながら官民一体となって検討・取りまとめをしているところです。この取材をきっかけに、私たちはさいたま市

を訪れる外国人向けの多言語対応について詳しく知りたいと思いました。東京オリンピック・パラリンピックでは多くの外国人観光客の訪日が予測されます。さいたまスーパーアリーナと埼玉スタジアム2〇〇2が競技会場として使用

されるため、さいたま市にも多くの外国人観光客が訪れるでしょう。調べ進めてみると、私たちは意外にも身近なところにその取り組みを発見しました。

「おもてなしうちわ」で“指差しコミュニケーション”大会開催は夏の盛りとなります。その暑さ対策と、外国人観光客対策と記念品的活用に地域情報の提供までを兼ねたツールが既に試用されていました。それが「おもてなしうちわ」です。このうちわ、さいたま商工会議所とのコラボで埼玉大学が制作した物でした。経済学部齋藤友之ゼミの皆さんにお話を伺いました。まずうちわとして熱中症対策になる上に、印刷されたピクトグラムを指差すことで、その

場所を尋ねられるという多

言語対応の機能も備えています。大会に先駆けて「第8回世界盆栽大会」で配布された物を見せていただきました。表面は外国人に受けそうな和風で漫画

チックな明るいデザイン。裏面には14個のピクトグラムが、人間は左上からものを見るという心理に基づいて、使用頻度の高いものから順に配置されています。また表面には盆栽大会の、裏面にはさいたま市のホームページに繋がるQRコードが掲載されていて、リンク先では常に新しい情報を見ることが出来ます。このうちわを原型にした物が昨年11月の

「サイクルフェスタ」で配布され、更に改良を重ねて「東京オリンピック・パラリンピック」で配布される予定となっており、今からとても楽しみです。

観光と国際交流さいたま市には、市を観光と国際交流の面から盛り上げるための取り組みをしている団体があります。公益社団法人さいたま観光国際協会は、大宮・さいたま新都心・浦和・岩槻4カ所の駅もしくは駅に直結した場所に観光案内所を設置しています。ここでは英語での対応が可能で、さいたま市の観光ガイドや観光地図が配布されています。またJR浦和駅東口にあるコムナーレ内に国際交流センターを設置しており、日本語教室や在住外国人への生活支援などが行われています。他にも毎月テーマ別に世界の文化紹介や季節ごとの展示が行われています。このような施設がある一方で、現状ではさいたま市を訪れる観光客の少なさが課題となっているそうです。宿泊施設が少なく他の都市へのアクセスが良いため、さいたま市に滞在してもらえないとのことでした。協会では「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」

や「世界盆栽大会inさいたま」などのイベントや大会を誘致することで集客を図っています。何気なく暮らしているさいたま市も、観光

や国際交流という視点で見ると、多数の外国人観光客を迎え入れるためのインフラ不足という問題を抱えているという事が分かりました。

Goods

Future

Town

地域活性化と市民参加「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」とさいたま市との関連について調べるうちに、多言語対応について興味が広がりました。取材では様々な方からお話を伺うことができましたが、さいたま市をより良くしよう、盛り上げようという共通の思いを感じました。また、地域活性化の課題や、市民参加の重要性についても学ぶことができ、自分たちの街に関心を持ち積極的に参加していこうという気持ちが強くなりました。記事を作る作業は難しさもありましたが、浦和の地域を改めて知る

きっかけにもなり、とても貴重な経験をさせていただきました。

訪日外国人観光客が増えること自体は喜ばしいですが、数を増やすことだけを目指していては、観光客の満足度やリピート率をアップさせることは難しいでしょう。世界の著名な観光都市には、受け入れ側に「おもてなし

の心」が詰まっています。そして何より、ハード・ソフト両面で、多言語化、バリアフリー化など様々なユニバーサルデザインが施されています。学生たちの取材記事から、さいたま市が都市型観光地とし

て成熟していくために何が必要なのかをあらためて考えさせられました。取材にご協力いただいた皆様には厚く御礼申し上げます。

埼玉大学教授 石阪督規

編集後記

教養学部3年飛田野 志保

教養学部3年福沢 麻子

担当教授石阪 督規

出前講座の様子

競技会場となる埼玉スタジアム2〇〇2

トイレや身体障害者用設備などのピクトグラム

協会の発行している広報誌

さいたま市オリンピック・パラリンピック部048-829-1023〒330-9588 さいたま市浦和区常盤6丁目4番4号 さいたま市役所5階

[開庁時間]8:30〜17:15(土日祝、年末年始を除く)

国立大学法人 埼玉大学 広報渉外室048-858-3927〒338-8570 さいたま市桜区下大久保255

公益社団法人さいたま観光国際協会048-647-8338330-0853埼玉県さいたま市大宮区錦町682-2 JACK大宮3F

P2 February 2018