振動基礎実験 - Tokushima...
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振動基礎実験
担当:知能機械学 日野順市場所:機械棟1階 M110
1.はじめに
機構や構造物におけるほとんどの振動・騒音の問題が,共振に起因していることはよく知られている.それらに対応する動的な設計および制振を考慮するために機械力学を学ぶ必要がある.その際の最も基本的な運動として落体運動や単振動がある.ここでは,1自由度の粘性減衰振動実験機を使ってその波形を測定し,その系の減衰比と固有振動数を導出する.実際の運動を目で確認し,運動と指標(減衰比,固有振動数)の関係を正しくイメージする手助けになることを期待する.また,パソコンによるデータ収集とプログラミング言語を用いたデータ操作といった技能の習得も目指す.
Key Words: 1自由度振動系,減衰自由振動,固有振動数,減衰比,最小二乗法
2.1自由度自由振動系の運動方程式とその解
図1に不減衰自由振動系のモデルを,図2に減衰自由振動系のモデルを示す.先ず不減衰自由振動系の運動方程式は次のように求められる.
mx+ kx = 0 (1)
ここで,mおよび kはそれぞれ質量およびばね剛性を表す.xは変位であり,ドットは時間微分を表す.式 (1)の両辺を質量mで割って整理する.
x+ ω2nx = 0, ωn =
√k
m(2)
ただし,ωn(rad/s)は固有角振動数である.式 (2)の解は x = Xeλtとおき,式 (2)に代入することで求められる.すなわち,
(λ2 + ω2n)Xeλt = 0 (3)
となり,式 (3)は解が満たすべき方程式である.ここで,X = 0とすると解がゼロになってしまう.これは,静止状態を表すともいえるが,ここで求めたい振動の解としては不適切である.また,eλt = 0であるため,次式が導かれる.
λ2 + ω2n = 0 (4)
式 (4)は特性方程式と呼ばれるものであり,λを特性根と呼び,λ = ±jωnとなる.よって,自由振動の基本解は次のように表される.
x = Xejωnt + Xe−jωnt (5)
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図 1: 1自由度不減衰系 図 2: 1自由度粘性減衰系
ここで,Xおよび Xは任意の定数である.また,XはXの共役複素数である.次に,オイラーの公式
e±jωt = cosωnt± j sinωnt (6)
を式 (5)に適用すると,基本解は最終的に次のようにまとめられる.
x = A cos(ωnt− ϕ) (7)
ただし,Aは振幅,ϕは初期位相角を表す.同様に,図 2の減衰自由振動モデルについての運動方程式を求める.ここで,減衰は粘性減衰を仮定する.
mx+ cx+ kx = 0 (8)
ここで,cは粘性減衰係数を表す.式 (8)の両辺を質量mで割って整理する.
x+ 2ζωnx+ ω2nx = 0 (9)
ただし,ζ = c/2√mkは減衰比を表す.減衰自由振動が生じる際には,0 < ζ < 1となっ
ている (不足減衰).式 (9)の特性方程式と解を求めるために,不減衰モデルと同様に x = Xeλtとおいて,式 (9)に代入する.そして,解がゼロにならない条件を考慮すると特性方程式は,
λ2 + 2ζωnλ+ ω2n = 0 (10)
となる.この λに関する 2次方程式を解くことで特性根を得る.上述のように減衰自由振動を生じる条件が 0 < ζ < 1であることを考慮すると,
λ = −ζωn ± jωn
√1− ζ2 (11)
となる.したがって,減衰自由振動の解が最終的に次のように求められる.
x = Ae−ζωnt cos(ωn
√1− ζ2 t) (12)
図 3に不足減衰時の減衰自由振動の波形を示す.図 4に参考文献 [1]に記載の方法で,固有振動数および減衰比を求める際に読み取るデータを示す.
2
t
x
図 3: 自由振動波形 (不足減衰)
t
xx1 x2 x3
xN
TN−1
図 4: 固有振動数および減衰比の求め方
3.実験装置
実験装置は,図 5に示すように板バネによって支持されたおもり (質量)を水平方向に振動させるものである.おもりの下に減衰板を取り付けて,減衰を与えるために油 (シリコーンオイル)を入れる容器を取り付けてある (図 4).振子下部の板を容器中のシリコーンオイルに浸して粘性抵抗を与える.先ず,シリコーンオイル無しの状態で振動を測定する.その後,シリコーンオイルを入れて測定を行う.振動の計測には,板バネの固定端側の両面にひずみゲージ (共和電業 KFGS-5-120-C1-
11LM2R)が貼り付けられている.すなわち,2ゲージ法により板バネの曲げ歪みを測定する.ひずみゲージはブリッジ回路を介してひずみ計測ユニットに接続されている.ひずみ計測ユニット (共和電業 EDX-10)はUSBインターフェースを介してパソコン上で波形を確認することができる.なお,ひずみゲージは保護のためゴムシートにより覆っている.ひずみゲージおよび板バネは非常に壊れやすいので,取扱には注意すること.
図 5: 片持ちはり振動子
図 6: シリコーンオイル容器
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以下に本実験で用いる装置の諸元について示す.
ひずみゲージ (共和電業 KFGS-5-120-C1-11LM2R)
ゲージ率:2.09± 1.0%(23, 50%)
ゲージ長:5mm
ゲージ抵抗:119.6Ω± 0.4%(23, 50%)
横感度比:0.2± 0.2%(23, 50%)
ひずみ計測ユニット (共和電業 EDX-10)
・制御ユニット EDX-10B
インタフェース USB2.0に準拠 サンプリング周波数 1Hz~20kHz(1~4チャネル)
1Hz~10kHz(1~8チャネル)
1Hz~5kHz(1~16チャネル)
・ひずみ測定ユニット EDX-11A
ひずみゲージ式変換器,ひずみゲージ 入力チャネル数 4
測定レンジ 10000, 50000×10−6ひずみ (2レンジ)
適用ブリッジ抵抗 120Ω~1kΩ
ブリッジ電源 DC2V
ゲージ率 2.00 固定 レンジ精度 各レンジ ±0.1%FS以内 非直線性 ±0.1%FS以内 応答周波数範囲 DC~2kHz
ローパスフィルタ カットオフ周波数:100Hz, 2kHz 伝達特性:2次バタワース
シリコーンオイル KF-96-10CS 信越シリコーン (信越化学工業株式会社)
動粘度 10 mm2/s (25C) 比重 0.935 (25C)
図 7: ひずみゲージKFGS-120 図 8: ひずみ計測ユニット EDX-10
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図 9: ゲージ率
図 10: ブリッジ回路 (例:1GAGE)
3.1 測定の手順
1. 片持ちはり振動子をセットしたら,パソコンを立ち上げる.最初は,プラスチック容器にはシリコーンオイルは入れないこと.
2. ひずみ計測ユニット EDX-10をパソコンにUSBインタフェースにより接続する.
3. 計測ソフト「DCS100A」をダブルクリックして立ち上げる.
4. 図 11のダイアログが開くので,EDX-10A/B を選択する.
5. 図 12のダイアログが開くので,USB2.0 を選択する.
6. 図 13の測定ウィンドウがひらく.
7. CH(チャネル)設定条件を選び,図 14のダイアログを開く.CH1をチェック (選択),レンジは 10kµϵ,ローパスは 2kHz,バランスは’ON’,校正係数はとりあえずは 1としておく.後ほど,モーメント (Nm)に換算する値を計算する.OKを押してダイアログを閉じる.
8. 次に測定条件設定を選ぶ.図 15に示すように測定条件設定を開く.測定モードで,マニュアル (収録データ数設定),サンプリング周波数 20Hz,収録時間 60sec.繰り返し回数 1回,OKを押してダイアログを閉じる.
9. 計測ウィンドウの操作ダイアログのMONITORボタンを押す.このとき,振動子は静止させていること.ひずみがウィンドウに表示されるので,BALボタンを押す.波形 (静止)がゼロの箇所になるように,何度かBALボタンを押して調整する.ほぼ,ゼロの位置になったら,STOPボタンを押す.
10. 片持ちはり振子のおもり部分を指で押して,静かに放す.操作ダイアログの REC
ボタンを押す.収録が終わるまで,静かに待つ.
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11. ファイルメニューからCSVファイルの保存を行う.
12. 実験データは,1回だけでは信頼性が低いため,3回程度同じ条件でデータを取得すること.
13. 次に,プラスチック用にシリコーンオイルを減衰板が浸るまで入れる.周囲にこぼさないように注意すること.
14. 9.から 12.を繰り返して行う.以上でデータの測定は終了である.USBメモリ等にデータを保存して持ち帰り,課題に回答する.
図 11: EDX-10Bの接続
図 12: インタフェースの選択 (USB2.0)
図 13: 測定ウィンドウ 図 14: CH(チャネル)条件
3.2 固有振動数の求め方
固有振動数も減衰比も得られた波形の単位には関係が無いので,このまま固有振動数を求める.測定されたひずみは図 16のような自由振動波形になっているので,エクセル等でグラフを描く.その際に,測定条件が記録されているヘッダ部分は除いておく.任意の時間 (10sec.程度以上)に振動した回数を読み取り,周期を計算する.なお,ここで得
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図 15: 測定条件設定
られる周期は減衰の影響を受けた周期 Tdである.正確な,固有振動数 fn = ωn
2πおよび周
期 Tnは,減衰比 ζを求めてから,改めて計算する.
3.3 減衰比の求め方
減衰比の求め方は,図 4にあるような機械力学 2の教科書に記載の片振幅を利用する方法と図 16にある両振幅を利用する方法がある.片振幅を利用する方法では,機械力学2の教科書どおりに計算をして ζ1を求めることにする.両振幅を利用する方法は,図 17
のようなグラフを描いて,最小二乗法による計算で ζ2を求める.
t
x
x1 x2x3 x4
x2N−2
Tm
1 2 3N
図 16: 自由振動波形
x1
x2
x2x3
x4
x3
xn+1 = k xn
図 17: 減衰比の求め方 2(最小二乗法による)
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4.実験結果の整理
レポートでは,以下のそれぞれの結果を項目毎に記述すること.
1. 2種類 (A:シリコーンオイル無,B:シリコーンオイル有)の減衰自由振動の周期を求める.
2. それぞれの自由振動波形より片振幅の大きさを読み取る.
3. 機械力学2の教科書に記載の,片振幅を用いた対数減衰率から減衰比 ζ1A,ζ1Bを求める.
4. 自由振動波形より両振幅の大きさを読み取る.
5. 本テキストに記載の両振幅を使用する方法で減衰比 ζ2A,ζ2Bを求める.
6. それぞれの減衰比に対する不減衰の固有振動数および周期を求める.
5.課題および考察
レポートでは,以下の課題について答えよ.
1. ひずみゲージをブリッジ回路に接続する際の 1ゲージ法および 2ゲージ法について調べよ.
2. 実験では 2ゲージ法によりひずみを得た.曲げモーメントの物理量に変換する校正係数を求めよ.
3. サンプリング定理について調べ,本実験での振動周期に対して,計測で用いたサンプリング周期が十分なことを示せ.
4. シリコーンオイルがない場合でも減衰振動となった.この理由を述べよ.
5. 片振幅による ζ1と両振幅による ζ2の差について考察せよ.
6. 一般的には,両振幅を用いた方が良いと言われている.この理由を考えよ.
7. 実験データの整理に最小二乗法を用いる意味を考察せよ.
6.参考文献
[1] 横山,日野,芳村:基礎振動工学 [第 2版],共立出版,2015.[2] 共和電業webページ,ひずみゲージについて (2018年 2月 27日)
(URL:http://www.kyowa-ei.com/jpn/technical/strain_gages/index.html)
[3] 中川,小柳:最小二乗法による実験データ解析,東京大学出版会,1982.
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7.付録(最小二乗法もしくは最小自乗法)
ここで用いる最小二乗法は振幅比の関係を求める係数 kを求めるものである.両振幅を用いた場合の振幅比の関係は,
xn+1
xn
= exp(−ζπ/√
1− ζ2). (13)
粘性減衰の場合に振幅比は定数であり,振幅は時間が経つとゼロに収束することも知られているので,図 17の原点を通る 1次関数の勾配は kとなる.したがって,今回用いるデータに最小二乗法で適合させるのは,
xn+1 = kxn (14)
の原点を通る 1次関数である.すなわち,以下の二乗誤差を評価関数として用いる.
J =1
2
2N−3∑n=1
(xn+1 − kxn)2 (15)
kに対して Jが最小となる場合を調べればよいので,dJ/dk = 0の式を求めればよい.すなわち,
k =
∑2N−3n=1 xn+1xn∑2N−3
n=1 x2n
(16)
を計算すれば良い.
注意:この実験テーマを行う際には,各自USBメモリを持参すること.
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評 価 基 準目 的• 実験の意義を理解する
– 固有振動数および減衰比の計測方法を理解する– 減衰自由振動波形を用いる意味を理解する.
• 精度の高い実験結果を得るという考え方を育む– 装置の準備,設定等の重要さを理解する
• 実験結果に潜むことがらを読みとる能力を養う– 測定データから,人為的なミスか真の特性が得られているかを読みとる能力
• 実験結果の傾向を的確な日本語で表現できる能力を養う• 実験結果の傾向に対して,その原因を探り出す能力を養う
– 実験結果の誤差の取扱かた.最小二乗法を用いる意味を理解する.• レポート作成能力を養う評価の観点• 精度のよい実験結果が得られている• 表およびグラフが読みやすい形で作成されている
– 表題が的確につけられている– 縦軸,横軸の表示と単位が的確である
• 考察ができている:(1) 校正係数について– 2ゲージ法について理解できているか– 片持ちはりのひずみの計算式を導けるか
• 考察ができている:(2) 固有振動数,減衰比– 固有振動数の読み取りは正確にできているか– 減衰比 ζ1A,ζ1Bおよび ζ2A,ζ2Bは正確に求められているか– 減衰比 ζ1Aおよび ζ2A,ζ1Bおよび ζ2Bの間の考察はできているか– 最小二乗法を用いる意味について考察できているか
• 課題ができている– それぞれの課題について十分な記述があるか
• 自らが作成したレポートに関して,きちんと説明ができる– 筋道が通った説明ができる
• 体裁の整ったレポートを作成することができる.– 目的・方法・結果・考察・課題– 使用した機器の要目の記述– 参考文献の記述
採点基準 Dレベル :一応レポートは提出しているが,グラフが完成されていない.誤字脱字が多
い,体裁をなしていないなどの欠陥があるもので,再提出を求める.
Cレベル :レポートの体裁は成立しているが,グラフが読みにくい,課題が十分に調べられていない,書き方が乱雑である.など,不十分な点が多いので再提出を求める.
Bレベル :レポートの形としては,精度のよい実験結果が得られている.グラフが読みやすい形で作成されている 結果の傾向を正確に読みとっている.結果の記述まで満足しているが,考察および課題が不十分なため再提出を求める.
Aレベル :結果がまとめられ,考察および課題の項目がすべて満たされている.
A∗レベル :Aレベルを満足し,さらに独創的な考察および卓越した調査を行っている.
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