が つくる未来社会 - SMBC Consulting Co Ltd ·...

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SMBCマネジメント+ 2019 March 5 2019 March SMBCマネジメント+ 4 写真/GettyImages Case2 事件の発生をAI が予測して 街の安全確保に貢献 日本電信電話株式会社(NTT) Case3 イチゴの画像をAI が分析して 生育状況から収穫量を予測 キヤノンITソリューションズ株式会社 総 論 松原 仁 公立はこだて未来大学教授・副理事長 に聞く AI の社会への導入には 解決したい課題の設定が不可欠 Case1 AI 乗合タクシーで、実需に応じた 公共交通システム構築を目指す 長野県伊那市 AI (人工知能)が、社会 の現場で活躍し始めた。 ディープラーニングの発達で、高度な分析・予 測ができるようになったことがその背景にある。 近い将来、パソコンやインターネットと 同様に身近な、当たり前の存在となり、 高齢化や人手不足などの課題を解決するた めに人間を支援することが期待されている。 本特集では、交通、公共 安全、農業の各分野で 社会課題の解決を目指す AIの事例をレポートする。 が つくる未来社会 特 集

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SMBCマネジメント+ 2019 March5 2019 March SMBCマネジメント+ 4写真/GettyImages

Case2

事件の発生をAIが予測して街の安全確保に貢献日本電信電話株式会社(NTT)

Case3

イチゴの画像をAIが分析して生育状況から収穫量を予測キヤノンITソリューションズ株式会社

総 論

松原 仁 公立はこだて未来大学教授・副理事長 に聞くAIの社会への導入には解決したい課題の設定が不可欠

Case1

AI乗合タクシーで、実需に応じた公共交通システム構築を目指す長野県伊那市

AI(人工知能)が、社会  の現場で活躍し始めた。ディープラーニングの発達で、高度な分析・予  測ができるようになったことがその背景にある。

近い将来、パソコンやインターネットと  同様に身近な、当たり前の存在となり、高齢化や人手不足などの課題を解決するた  めに人間を支援することが期待されている。

本特集では、交通、公共  安全、農業の各分野で社会課題の解決を目指す  AIの事例をレポートする。

が つくる未来社会

特 集

2019 March SMBCマネジメント+ 6SMBCマネジメント+ 2019 March7

つけ、2016年に株式会社未来シェアを

立ち上げました。「人を運ぶ」乗合タクシー

だけでなく「物を運ぶ」宅配便や、今は法

律の壁がありますが「人と物を混在して運

ぶ」運行システムの管理にもSAVSは役

立つと考えています。

 函館地域の特性に合わせて、大学のAI

研究センターは漁業や観光も研究テーマの

柱にしています。例えば漁業では、定置網

の魚群探知機のデータをAIが分析して、

どんな魚がどのぐらい獲れるかを予測して

います。既に8〜9割の魚種を特定できる

ようになりました。この予測を水産流通と

連携させて役立てようという研究です。

少ないデータで学習できる

AIの開発が課題

 前述したように、具体的な課題の発見と

解決目標の設定が、AIの活用には欠かせ

ません。その一方で、もっとAIが社会

で活用されていくにはAI自身にも課題

があります。少ないデータで効率よく学習

できるAIプラットフォームの開発です。

 例えば、AIが猫の概念を理解した「グー

グルの猫認識」という研究がありますが、

猫の写真を数万〜十数万枚見せたと言われ

ています。一方、人間は子供でも、数十〜

百匹くらいを見れば猫がどんなものかとい

 過去にも、いわゆる「AIブーム」とい

うものがありましたが、今回は、さまざま

な社会の現場で活用されて役に立つものが

たくさん出てきたという点で、過去のブー

ムとは大きく違っています。

 幅広い領域での実用化に至った理由とし

ては、2010年代に入って、ディープラー

ニング*ができるようになったことが一番

大きいと思います。コンピューターの性能

が向上して、膨大な計算を短時間でこなせ

るようになったからディープラーニングが

できるようになったのです。

 また、90年代初頭からパソコンやイン

ターネットの普及が進み、約30年かけて大

量のデジタルデータが蓄積されてきたこと

も大きいです。例えば囲碁AIソフトの

「AlphaGo」には、3000万対局の

データを学ばせているといいます。ネット

対戦などの普及によって、3000万対局

の棋譜データが手に入るようになったから

ディープラーニングができ、強くなったと

いう循環が生まれたわけです。

社会課題の存在する

すべての分野でAIは役立つ

 AIがどんな分野で実用化するかと問わ

れれば、それは「すべて」と答えるしかあ

りません。AIが人間の傍らで使われるの

は特別なことではなく、パソコンやネット

のように、どこにでも存在し、普通に活用

されて役立つものになっていきます。

 これから大切なのは、どんな課題を、ど

のように解決するためにAIを使うか、と

いう具体的な発想です。よく「AIをわが

社でも使いたい」というご相談を受けるこ

とがありますが、その会社が今、何に困っ

ていて、AIでどう解決したいのかが分か

らないと、答えようがありません。

 そういう意味では、私自身もここ函館の

大学に移ってきて、さまざまな社会課題と

直面したことで、より現場に即したAI

の開発に取り組むことができています。函

館では公共交通が疲弊して、市民にとって

使いづらい状況になっています。30万人弱

の人口がある函館でもそうですから、全国

の多くの地方都市が同じ状況か、もっと悪

化していると推測できます。

 街を存続・発展させるためには、スムー

ズな交通システムが必須です。そこで開発

したのが時間・ルートを固定しないで乗合

い車両の配車決定をAIが行うSAVS

(Smart Access Vehicle Service

)のシス

テムです。90年代から複数のロボットを連

動させながら動かす「マルチエージェント

システム」を研究していましたので、これ

をベースに約10年をかけて実用化にメドを

う概念を学びます。今のAIは、人

間と比べてはるかにたくさんのデー

タを必要とするのです。たくさんの

データがある領域というのは限られ

ますから、AIの適用分野も限られ

てしまいます。

 ただ、人間にできるということは、

何か人間の脳に秘密があるはずです。

つまり、AIを研究することは人間

を研究することなのです。脳の神経

回路にある、しなやかな仕組みを見

出して再現できれば、少ない学習

データで済むようになり、AIの社

会への導入を一層、加速させるはず

です。

取材・文/菅野 武 写真/丸山達也

特 集 AIがつくる未来社会

データの蓄積が進み、AIが社会の現場で活用される時代がきた。AIを活用するには、具体的な課題・解決目標の設定が不可欠という。一方でAI自身も、人間の脳に近づくための進化が必要になる。

総 論

松原 仁 公立はこだて未来大学教授・副理事長 に聞く

AIの社会への導入には解決したい課題の設定が不可欠

未来AI社会~地域スマートサービス基盤の構築~

公立はこだて未来大学未来AI研究センターの主な研究プロジェクト1モビリティIT分野:フルデマンド&シェア型交通システム「スマートアクセスビークルサービス(SAVS)」の社会実装等2マリンIT分野:総合的な水産・海洋情報学の研究開発、社会実装、普及等3メディカルIT分野:遠隔医療支援、リハビリ支援装置の開発等4ミュージアムIT分野:地域の文化財・歴史・観光資源の集積、オープンデータ化、活用技術の開発等

Profile

(まつばら・ひとし)1959年東京都生まれ、81年、東京大学理学部情報科学科卒業。86年、同大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。工学博士。電子技術総合研究所(現・産業技術総合研究所)を経て、2000年から現職。主な著書に『AIに心は宿るのか』(集英社インターナショナル)、『スマートモビリティ革命』(共著、近代科学社)など。

頑健・安全安心で持続可能な地域エコシステム

モデル実証都市 システム情報科学知能×複雑系×デザイン

未来AI社会

スマートコミュニティ

産学官連携

函館道南圏

観光資源農水資源文化資源

超高齢縮小社会

商農工連携

公立はこだて未来大

デザイン研究との融合

AI/IoT研究重点化

市民参加

医工連携

公立はこだて未来大学未来AI研 究センターの構想。地域が抱える社会課題を解決するため、地域資源も活用しながら、AIで新しい地域社会モデルの形成を目指す

*ディープラーニング:深層学習とも言う。データから有用な規則や判断基準などを学ばせる機械学習手法を発展させたもので、多層のニューラルネットワーク(脳の神経回路を模したネットワーク)を構築して学習させることで、音声、画像、言語などを対象とする問題に対し、高い判断能力を示す。

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2019 March SMBCマネジメント+ 8SMBCマネジメント+ 2019 March9

ら「時間までの送迎は不可」とAIが判断

して、乗車希望者にその旨を伝えた。今回

の実験では車両が1台だけだったためこう

した判断になったが、実用化段階になれば

2台目、3台目の乗合タクシーが送迎に向

かうことになる。

利用見込み客のデータ取得で

より効率的な配車が可能に

 名古屋大学未来社会創造機構の特任准教

授で、伊那市新産業技術推進協議会・イン

テリジェント交通部会の部会長を務める金

森亮氏は「SAVSの挙動は計画通り。第

1回の実験なので、AIが利用するデータ

は走行ルートの把握程度にとどまったが、

今後は実際の利用頻度などのデータも活用

して、さらに効率的な配車・運行ルートを

判断できるようにしたい」と話す。長谷地

域の巡回バスの利用実態の分析なども進め

る考えだ。

 この3月には、中山間部の長谷、高遠町

両地区の住民から希望者を募り、運行範囲

を伊那中央病院などがある伊那市中心部ま

で拡大して、4台の乗合タクシーを用いた

第2回の実証実験を行う。片道30分程度の

長距離走行も見込む広範囲を対象とした実

験を行うことで、広域でのSAVSの挙動

確認と、住民の実際のニーズを掴むのを目

 長野県伊那市は、中山間部の公共交通シ

ステムとして、AI乗合タクシーの導入を

計画している。早ければ2021年度にも

実用化したい考えで、18年度からその実証

試験に着手した。

 AI乗合タクシーは、利用希望者がス

マートフォンなどから予約を入れると、最

適な走行ルートや乗車順番をAIがリア

ルタイムで判断して指示を出し、効率的な

輸送を可能にするシステム。実際の需要に

応じた乗合タクシーの配車を完全自動(無

人)でできるようになる。同市は、AI配

車サービス「SAVS」を開発した株式会

社未来シェア(「総論」参照)、総合建設コ

ンサルタント会社とともに3者で検討・実

験を進めている。

 導入の背景には、住民の高齢化と交通需

要の減退がある。現在、伊那市の中山間部

には巡回型のコミュニティバスが走ってい

るが、利用客が少なく、慢性的な赤字になっ

ている。また、走行ルートが決まっている

ので、目的地まで直行することができず、

時間がかかるという問題もある。傾斜地の

多い地域のため、「バス停まで歩くのが大

変」という利用者の声も挙がっている。

 AI乗合タクシーを導入して、ドアツー

ドアで、具体的な需要に応じたオンデマン

ド型の公共交通システムに変えることで、

こうした問題を解決しようという狙いだ。

配車を差配する人手が不要になるほか、曜

日や時間帯で異なる需要に合った車数を配

置することで、現在のコミュニティバスと

タクシーを合わせた状態よりも車両や人手

の削減につながるものと期待している。

 18年11月に行った第1回の実証実験は、

国土交通省の自動運転バスの実証実験と連

動して行った。下の図のように、長谷地区

にある道の駅と高遠町地区中心部の間を自

動運転バスが運行しており、そのバスに乗

るための乗客を長谷地区内からAI乗合

タクシーで道の駅に集めるというスキーム

だ。無料で提供するため、タクシーには市

役所が所有するワゴン型の公用車1台を利

用した。

 11:15から5分おきに4人の乗車希望者

がスマホから「乗車希望」を入力すると、

入力から数秒で、乗合タクシーに搭載した

タブレット画面に新しい運行ルートが表示

される。ルートが変更になるとアラーム音

が鳴り、運転手は車を止めてルートを確認

する。目的地に到着し、人が乗車した後に

乗車確認ボタンを押すと、残りの運行ルー

トに自動的に切り替わるという仕組みだ。

 3人目の乗車希望者は「11:40までに道

の駅に行きたい」という希望を入力したが、

乗合タクシーが逆方向に走っていることか

的としている。

 高齢者が病院や買い物に行く際、

家族の送迎などでまかなっている

家庭は年々減少しており、「5年

後、10年後はそれが確保できるか

どうか難しい状況になっている」

と伊那市役所企画部企画政策課・

新産業技術推進係長の安江輝氏は

懸念する。「新しい公共交通とし

て、地域の方が利用しやすく、巡

回バスに近い価格で利用できるよ

うな交通システムを目指したい」

と話す。

 「利用者のデータが蓄積されてい

けば、曜日や時間帯による需要予

測に基づく配車など、一層の効率

化が実現できるだろう」と金森特

任准教授は期待する。

写真/柚木裕司 取材・文/菅野 武

特 集 AIがつくる未来社会

走行ルートや乗車順をAIが自動的に判断する乗合タクシーで、中山間部の公共交通システムの構築に向け実験を開始した。ドアツードアで便利な、実需に応じた輸送体制の構築を目指す。

Case1

長野県伊那市

AI乗合タクシーで、実需に応じた公共交通システム構築を目指す

「AI乗合タクシーで、実需に応じた、低価格で利用できる公共交通システムを目指す」と話す、安江輝伊那市役所新産業技術推進係長

「利用実態やニーズのデータをAIに学習させて、さらに効率の良い配車システムをつくりたい」と話す、金森亮名古屋大学特任准教授

利用客が乗車地点、目的地などを入力すると(上)、AIが送迎ルートを設定し、車載画面に表示する(右上)。別の乗車希望が入ると、リアルタイムでルートを変更してドライバーに知らせる(右下)

②11:20「住民票を取りに長谷総合支所へ行きたい」

①11:15「長谷地区の孫の家に遊びに行きたい」

送迎不可と判断

自動運転バス

高遠町地区へ

美和湖

道の駅南アルプスむら長谷

③11:20「道の駅に11:40までに行きたい」

④11:25「道の駅のレストランに昼食に行きたい」

AI乗合タク シー運行実験ルート

昨年11月に行った実証実験では、時間をずらした4人からの乗車希望から最適な運行ルートを判断し、目標時間内に送迎可能な3人を道の駅へ輸送することに成功した

〈②プロアクティブ・レポート〉・群衆混雑予測・逆走予測・事件性の高い事象予測

・トレンド分析による予測

・エッジにおける認識、検知

〈③迅速で効率的なICTリソースの配備〉 コグニティブファウンデーション

先進分析機能

〈①リアクティブ・レポート〉・群衆人数(場所)・逆走(車両ナンバー)・異音等(場所)

〈①事件・事故対応〉・警官の派遣・消防車の派遣・一斉同報、アナウンス

〈②予測対応〉・警官の派遣・消防車の派遣

オーソリティによる判断 署員によるアクション・ネットワーク設定

③迅速で効率的なICTリソースの配備

②予測対応(プロアクティブ)

①事件・事故対応(リアクティブ)

Analysis

ICTリソース(Dell関連製品)

一部データのみ転送ネットワークコストの削減

CityNTT G

roup

オーケストレータ*

Recognition

市街地、イベント会場

ICTリソース(Dell関連製品)

ICTリソース(Dell関連製品)

お客様のデータセンター(コア)

NTTのデータセンター(クラウド)

マイクロデータセンター(エッジ)

センサー(Video/Audio)

2019 March SMBCマネジメント+ 10SMBCマネジメント+ 2019 March11

を未然に防ぐ。

 3つめの柱は「迅速で効率的なICTリ

ソースの配備」だ。センサーとエッジはイ

ベントの開催場所などによって設置場所を

変える必要が出てくる。そのたびに現場で

個別に設定変更などを行っていては手間が

掛かる。そこでNTTは、ネットワーク全

体の設定や管理・運用を、同社のデータセ

ンターから一元的に遠隔操作で行う「コグ

ニティブ・ファウンデーション」という仕

組みを導入し、フレキシブルな対応を可能

にしている。

 ラスベガス市では今後、同ソリューショ

ンの事件・事故対応以外への用途の拡大も

検討している。例えば、交通渋滞の監視デー

タをもとに、信号機を制御して交通をス

ムーズにするスマートトラフィックの実現。

市内の公園にいるホームレスの挙動を監視

して、ホームレス問題の解決につなげる。

観光用デジタルサイネージ(電子看板)を、

どういった属性の人が見ているかを調べる

聴衆属性分析などへの応用だ。

 NTTはラスベガス市以外への同ソ

リューションの展開にも積極的だ。同市が

覚書を交わした際、米ネバダ州政府とも覚

書を交わしており、同州の他都市への展開

を目指している。さらに米国他州、世界各

国へも展開していくという。

 市街地やイベント会場などにおける群衆

や交通の動向を把握し、市民の安全を守る

公共安全ソリューションの分野でも、AI

の実用化が始まった。日本電信電話株式会

社(NTT)は2019年2月から米ラスベ

ガス市で、暴動や緊急事態の発生、自動車

の逆走などを迅速に検知すると同時に、事

件・事故の発生を事前に予測する公共安全

ソリューションの商用提供を開始した。

 同社グローバルビジネス推進室担当部長

の栢か

哲之氏は、「当社は行政やさまざまな

産業をスマート化する構想を推進しており、

今回の案件は、その1つであるスマートシ

ティ事業の海外における実施例第1弾」と

言う。同社のAI技術「corevo」を活用

して開発した同ソリューションは、18年9

月から12月まで実証実験を行った。その成

果を市が高く評価し、引き続き商用サービ

スの提供に移行する。個人情報の収集範囲

などについて市民の同意を得るなど市側の

作業を経て、今夏から本格稼働する予定だ。

 同ソリューションを構成する大きな柱は

3つある。1つは「迅速な事件・事故対応(リ

アクティブ)」だ。市街地や交差点などの

状況を把握するために、市のダウンタウン

地区35カ所にビデオカメラやマイクを設置

して、それらと対をなして一次的な情報を

処理する「エッジ」と呼ぶコンピューター

をネットワーク内に置いている。カメラや

マイクが検知した群衆の人数の増減や自動

車の逆走、失踪人や失踪車両の発見、銃声、

ガラス破壊音などの情報をエッジで分析し

て市に報告し、事件・事故などを迅速に検

知し、パトカーや消防車を出動させるなど、

市の素早い対応を可能にしている。

AIが事件発生確率を予測し、

未然に防ぐ対応を可能に

 2つめの柱は「予測対応(プロアクティ

ブ)」だ。エッジが収集・分析した情報のほ

かに、気候データなどの外部情報を市の

データセンター(コア)に取り込んで高度

なトレンド(動向)分析を行い、事件の発

生可能性をAIが予測し、事件・事故が起

こる前に対応策を打つ。

 「例えば、特定の場所に人が集まりつつあ

ることを検知しても、それだけでは今後の

動きは予測できない。そこに、市が持って

いる過去の事件データや、天気や気温・湿

度のデータ、ツイッターなどSNSの書き

込みなどあらゆるデータを集め、AIを

使って事件・事故に至る可能性の解析を行

う」(栢担当部長)。

 放置すると事件・事故へ発展する可能性

が高いとAIが判断したら、パトカーや

消防隊などを事前に急行させ、事件の発生

左の写真/花井智子 取材・文/原 武雄

特 集 AIがつくる未来社会

米ラスベガス市で、公共安全ソリューションの提供を開始した。カメラの映像やマイクの音声などから、事件の発生確率をAIが予測、警官を派遣するなど、事件発生を未然に防ぐことに貢献している。

Case2

日本電信電話株式会社(NTT)事件の発生をAIが予測して街の安全確保に貢献

代表取締役社長 澤田 純本社 東京都千代田区大手町1-5-1設立 1985年4月売上高 11兆8000億円(2018年3月期、連結)従業員数 282,550名(2018年3月現在、連結)事業内容 情報・通信業http://www.ntt.co.jp/

Corporate Profi le

公共安全ソリューションの仕組み

「海外で、すでに多くの自治体から引き合いを受けている」と話す、栢哲之NTTグローバル推進室担当部長

信号機など、ダウンタウン地区の35カ所にカメラやマイクを設置した。カメラは下に顔認証用、上に車の逆走検知用と2つ設置している

事件の発生を迅速に察知する「リアクティブ」、さまざまなデータから事件発生を予測する「プロアクティブ」、二通りの対応ができる

*オーケストレータ:複雑なコンピュータシステムの設定や管理を自動化するソフトウエア。

10-30 11-14 11-29 12-14 12-28月日

1株当たりの花・果実の個数

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

80

9.0

10.0(個)花 緑熟期 白熟期 赤熟期 収穫期

2019 March SMBCマネジメント+ 12SMBCマネジメント+ 2019 March13

 スマート農業ソリューションは今後実証

実験の成果なども活用し、社会実装へ向け

た活動を進めていく予定だ。

AIエンジニアの作業を軽減する

新しい開発プラットフォーム

 同社は長年、カメラに代表されるキヤノ

ングループの光学処理技術をIT分野で

活用するため、AIによる画像認識技術の

研究開発を進めてきた。「カメラとAIを

組み合わせたソリューションは2016年

ごろから介護、働き方改革、学校向け分野

などでサービスを提供してきた」と田中部

長は言う。

 その中で浮かび上がってきた課題が、

AI開発に手間がかかること。AIに学習

させる大量のデータの管理や、何度も繰り

返す学習/評価サイクルの記録管理など煩

雑な作業が必要だった。

 この課題を解決するため自社開発したの

が、AIプラットフォーム「LaiGHT」

だ。学習データや計算機リソースの管理、

学習結果の視覚化など、AIエンジニアが

これまで手作業で行っていた工程を極力シ

ステム化することで、AI開発の効率化を

可能にした。少数のAIエンジニアで、多

くの開発案件を迅速かつ効率的に進めるこ

とができるようになったという。

 高齢化や人手不足が課題の農業分野で、

AIを活用する試みも進んでいる。キヤ

ノングループで、システムインテグレー

ター事業などを展開するキヤノンITソ

リューションズ株式会社は、2018年8

月、自社開発したAIプラットフォーム

「Lラ

aiGHT」を活用した、スマート農業

ソリューションの実証実験について発表し

た。九州大学大学院農学研究院と共同研究

を進めてきたもので、農林水産省の「革新

的技術開発・緊急展開事業実証研究型」の

一環として、大分、佐賀、長崎、福岡の15

のイチゴ農家や研究機関の計22カ所のビ

ニールハウスで実証実験を行っている。

 同ソリューションの心臓部は、画像認識

AIだ。ビニールハウスの天井に取り付け

 イチゴの花の数、熟度の判断、熟度別の

果実の数、葉の面積の情報を抽出。撮影箇

所から、ハウス全体の状況を推測する。ま

た、画像認識AIとともに画像解析クラ

ウド上に置かれた収量予測AIは、花や

果実の生育情報と、センサーが収集する温

度や湿度、二酸化炭素濃度、日射量などの

た広範囲なエリア

を撮影可能なカメ

ラでハウス内を定

期的に自動撮影し、

撮影した画像を画

像認識AIによっ

て解析し、生育状

況の数値化などを

行う。

環境情報の時系列情報をもとに、未来の収

穫量を予測する。

 1つのビニールハウスで約100カ所を、

朝8時から夕方4時まで2時間おきに撮影

する。花や実の数をカウントするだけでな

く、「果実は色や形から成長度をAIが推

定して成長度を0から4まで5段階に分類。

成長度4になれば収穫できる」。R&D本

部先進技術開発部部長の田中泰洋氏はこう

説明する。

 農家は、生育状況の推移グラフや収穫時

期の予測結果を、スマートフォンやタブ

レット、パソコンで確認し、生育・収穫・

出荷計画を立てることができる。解析結果

を見て、生育が例年より遅れていることが

分かれば、肥料や水やり、温度・湿度・日

照をコントロールするなどの対策が取れる。

また、収穫時期を迎えたイチゴがビニール

ハウス内のどこにあるかを確認することが

でき、収穫すべきイチゴを見逃すこともな

くなる。

 「収穫予測では、現在2週間先の予測を出

すことにトライしている。2週間先に例え

ば100キロ出荷できると分かれば、農家

は収入予測が立てやすく、安心感につなが

る」(田中部長)。これまでは熟練農家が自

分の眼と長年の勘で判断していたことの大

部分を、AIが代わってくれるわけだ。

写真/花井智子 取材・文/原 武雄

特 集 AIがつくる未来社会

撮影したイチゴの画像から、AIが生育状況を分析、環境データや葉の状況なども合わせて収穫量を予測する。

農家の眼に代わって作物を育てる支援ソリューションとして期待される。

Case3

キヤノンITソリューションズ株式会社イチゴの画像をAIが分析して生育状況から収穫量を予測

代表取締役社長 足立正親本社 東京都品川区東品川2-4-11設立 1982年7月売上高 895億6,500万円(2018年12月期)従業員数 3,711名(2018年12月現在)事業内容 SIおよびコンサルティング、各種ソフトウエアの開発・販売https://www.canon-its.co.jp/

Corporate Profi le

「画像認識AIの発達により、人にはできない長期間の定点観測が可能になった」と話すR&D本部先進技術開発部の田中泰洋部長

イチゴの生育状況の推移(一例)

ビニールハウス天井のネットワークカメラ(右)がハウス内を撮影し、一つひとつの花や実の生育状況をAIが分析する(上)

毎日の生育状況の推移が把握できるので、農家は自分の経験も生かして、水や肥料のコントロールができる