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70 1.導体 1.ケーブル構成材料 6 導体材料 導体材料としては、銅および銅合金ならびにアルミニウム(Aℓ)お よびアルミニウム合金があり、これらをさらに分類すると表1-1-1の とおりとなります。 電線・ケーブルの導体に使用される材料の大部分は銅です。そ の銅には一 般に電 気 銅より精 製されたタフピッチ銅( T P C: Tough Pitch Copper)が用いられています。TPCは酸素を (0.02~0.05%)含有し、導電率は銀に次いで良好であり、加工 性もよく、機械的性能や耐久性にもすぐれ、古くから製造されて います。 ①地金 電気精錬によって得られた電気銅地金は品位99.96%以上 で、不純物としてヒ素、アンチモン、ビスマス、鉛、鉄、硫黄など を含有しています。この電気銅地金は、主にシャフト炉によって 製造され、連続鋳造圧延設備により荒引線となります。電気銅 の化学成分の一例を示すと、表1-1-2のとおりです。 ②機械的性質 銅は常温で伸線、圧延などの加工を行なうと変形に伴って結 晶がひずみ、さらに加工が進むと結晶粒が細かくなります。そ のひずみの程度に応じ変形に対する抵抗が増大し、弾性限 一般用電気銅 無酸素銅 銀入り銅 クロム銅 ジルコニウム銅 すず入り銅 銅覆鋼 銅覆アルミニウム アルミニウム イ号アルミ合金 耐熱アルミ合金 アルミ覆鋼 高力アルミ合金 TPC OFC Ag-C Cr-C Zr-C Sn-C CS CA Aℓ IAℓ TAℓ AS KAℓ アルミニウムおよび アルミニウム合金 銅および銅合金 表1-1-1 電線・ケーブル用各種導電材料略号 *  JIS H 2121「電気銅地金」、ただしAgはCuに含む。 分析例 規格値 規格値 分析例 以下 0.010 0.0003 S 99.99 以上 99.96 Cu 以下 0.005 0.0001 Sb 以下 0.0001 0.01 Fe 以下 0.0003 0.003 As 0.0001 以下 0.001 Bi 以下 0.005 0.0001 Pb 表1-1-2 電気銅の化学成分(%) 度、降伏点、引張り強さおよび硬さが増し、伸びは減少します。 冷間加工により加工硬化した銅製品を加熱すると、細かくなっ た結晶は約200℃で再結晶し軟化します。再結晶が進むにつ れて引張り強さ、硬さは次第に減少し、伸びは増大します。軟 化温度は加工度が大きいほど低温度です。軟化が進むと性 能はほぼ一定となります。さらに温度を高くすると、結晶粒子は 著しく成長し、引張り強さと硬さは低下します。このため銅の焼 鈍は心線のサイズ、焼鈍数量によって異なりますが、工業的に は350~500℃が選ばれます。 ③物理的性質 加工材を焼鈍し“標準状態”としたときの、おもな物理的特性 は次のとおりです。 融   点 1,083℃ 比   重 8.89 線膨張係数 17.7×10 -6 /℃(20℃~300℃) 熱 伝 導 率 393.5W/m・K 固 有 抵 抗 1.673μΩ・cm(20℃) ④科学的性質 銅は常温で乾燥した空気中ではほとんど酸化しません。また 湿った空気中でも耐食性が比較的良好ですが、炭酸ガス (CO2)の存在によって比較的安定な塩基性炭酸銅を生じま す。塩類の水溶液のうち、アンモニア塩類には著しく侵されま すが、その他の塩類に対する耐食性は良好です。 ⑤導電率 1913年万国電気工業委員会においては軟銅の標準を決め、 20℃において長さ1mで1mm 2 の均一な切断面積をもつ場合 の抵抗を1/58Ω=0.017241Ωとすることにしました。なおこの万 国標準軟銅(IACSと略記することがある)の導電率を100%と しています。 ⑥不純物による影響 銅の導電率は図1-1-1に示すように、その中に含まれる不純物 の量と質によって大きく影響を受けます。したがって、導電性を 生命とする電気用銅には不純物の混入を極力避けなければ なりません。 図1-1-1 銅中の不純物と導電率の関係

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Page 1: 1.ケーブル構成材料 - hst-cable.co.jp · 70 1.導体 2.金属の物理的性質 1.ケーブル構成材料 6 技術資料 71 6 技術資料 導体材料 導体材料としては、銅および銅合金ならびにアルミニウム(aℓ)お

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1.導体 2.金属の物理的性質

1.ケーブル構成材料

6技術資料

71

6技術資料

導体材料導体材料としては、銅および銅合金ならびにアルミニウム(Aℓ)およびアルミニウム合金があり、これらをさらに分類すると表1-1-1のとおりとなります。

銅電線・ケーブルの導体に使用される材料の大部分は銅です。その銅には一般に電気銅より精製されたタフピッチ銅(TPC:Tough Pitch Copper)が用いられています。TPCは酸素を

(0.02~0.05%)含有し、導電率は銀に次いで良好であり、加工性もよく、機械的性能や耐久性にもすぐれ、古くから製造されています。①地金

電気精錬によって得られた電気銅地金は品位99.96%以上で、不純物としてヒ素、アンチモン、ビスマス、鉛、鉄、硫黄などを含有しています。この電気銅地金は、主にシャフト炉によって製造され、連続鋳造圧延設備により荒引線となります。電気銅の化学成分の一例を示すと、表1-1-2のとおりです。

②機械的性質銅は常温で伸線、圧延などの加工を行なうと変形に伴って結晶がひずみ、さらに加工が進むと結晶粒が細かくなります。そのひずみの程度に応じ変形に対する抵抗が増大し、弾性限

一般用電気銅無酸素銅銀入り銅クロム銅

ジルコニウム銅すず入り銅銅覆鋼

銅覆アルミニウムアルミニウムイ号アルミ合金耐熱アルミ合金アルミ覆鋼高力アルミ合金

TPCOFCAg-CCr-CZr-CSn-CCSCAAℓIAℓTAℓASKAℓ

アルミニウムおよびアルミニウム合金

銅および銅合金

表1-1-1 電線・ケーブル用各種導電材料略号

表1-2-1

* JIS H 2121「電気銅地金」、ただしAgはCuに含む。

分析例

規格値*

規格値*

分析例

以下

0.010

0.0003

S

99.99

以上

99.96

Cu

以下

0.005

0.0001

Sb

以下

0.0001

0.01

Fe

以下

0.0003

0.003

As

0.0001

以下

0.001

Bi

以下

0.005

0.0001

Pb

表1-1-2 電気銅の化学成分(%)

度、降伏点、引張り強さおよび硬さが増し、伸びは減少します。冷間加工により加工硬化した銅製品を加熱すると、細かくなった結晶は約200℃で再結晶し軟化します。再結晶が進むにつれて引張り強さ、硬さは次第に減少し、伸びは増大します。軟化温度は加工度が大きいほど低温度です。軟化が進むと性能はほぼ一定となります。さらに温度を高くすると、結晶粒子は著しく成長し、引張り強さと硬さは低下します。このため銅の焼鈍は心線のサイズ、焼鈍数量によって異なりますが、工業的には350~500℃が選ばれます。③物理的性質

加工材を焼鈍し“標準状態”としたときの、おもな物理的特性は次のとおりです。

  融   点 1,083℃  比   重 8.89  線膨張係数 17.7×10-6/℃(20℃~300℃)  熱 伝 導 率 393.5W/m・K  固 有 抵 抗 1.673μΩ・cm(20℃)④科学的性質

銅は常温で乾燥した空気中ではほとんど酸化しません。また湿った空気中でも耐食性が比較的良好ですが、炭酸ガス

(CO2)の存在によって比較的安定な塩基性炭酸銅を生じます。塩類の水溶液のうち、アンモニア塩類には著しく侵されますが、その他の塩類に対する耐食性は良好です。⑤導電率

1913年万国電気工業委員会においては軟銅の標準を決め、20℃において長さ1mで1mm2の均一な切断面積をもつ場合の抵抗を1/58Ω=0.017241Ωとすることにしました。なおこの万国標準軟銅(IACSと略記することがある)の導電率を100%としています。⑥不純物による影響

銅の導電率は図1-1-1に示すように、その中に含まれる不純物の量と質によって大きく影響を受けます。したがって、導電性を生命とする電気用銅には不純物の混入を極力避けなければなりません。

図1-1-1 銅中の不純物と導電率の関係

一般特性

金 属

ZnWTaSt

SnRhRbPtPd

PbOsNiNaMo

MgLiKIrHg

FeCuCrCoCd

CaBiAuAlAg

アルミニウム

タングステンタ ン タ ルストロンチウム

ロ ジ ウ ム

亜 鉛

す ず

カ リ ウ ム

ル ピ ジ ウ ム

パ ラ ジ ウ ム

オ ス ミ ウ ムニ ッ ケ ルナ ト リ ウ ムモ リ ブ デ ン

マグネシウムリ チ ウ ム

白 金

イ リ ジ ウ ム

コ バ ル トカ ド ミ ウ ム

カ ル シ ウ ム

水 銀

ク ロ ム銅

ビ ス マ ス金

体積固有抵抗20℃

(μΩ・cm)

2.622.40

1154.6

7.59.72.61.6910.0

9.86.07.09.34.46

4.774.64.99.021.9

10.810.512.55.111.4

2315.55.486.1

1.62

体積固有抵抗温度係数

(20℃付近にて1℃に付き)

0.00380.00390.00340.004-

0.0038--

0.003930.0050

0.00098---

0.004

0.0033-

0.006-

0.0039

0.00330.003--

0.0042

-0.00310.00450.0037

※熱起電力(mV)

+0.75+0.38+0.70-7.25-

+0.92-1.99-

+0.75+1.91

0.00+0.65-0.94-

+0.42

+1.31-0.21-1.43-

+0.44

-0.780.00-

-0.65+0.45

-+0.34+0.79+0.77

比重(20℃において4℃の水に対し)

2.719.39.81.55

8.658.97.18.927.86

13.5522.40.360.531.74

10.20.978.9022.4811.37

12.021.451.5312.57.35

2.616.619.37.14

10.5

熱線膨張係数

(20℃)(×10-6)

18.923.0314.213.325.0

29.812.38.216.611.7

-6.5835625.6

47112.86.129.1

11.88.9908420

-7433

溶融点

(℃)

960.5660.01,063.0271.0810.0

320.91,480.01,615.01,083.01,535.0

-38.872,550.062.3186.0651.0

2,620.097.5

1,452.02,700.0327.5

1,555.01,755.038.5

1,955.0231.85

800.02,850.03,370.0

(備考)※熱起電力はt=100℃において白金に対する値、0℃の接続点において電流が白金に向って流れるものを正とする。419.43