キー・コンピテンシーと...

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1.は 中央教育審議会は,文部科学大臣からの諮問を受けて,初等中等教育分科会教育課程部会等 の審議を経て,2008年1月17日には「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の 学習指導要領等の改善について(答申)」を示した。さらに生涯学習分科会等の審議を重ねた 結果を同年1月23日に,「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について(答申)」として 発表した。 この2つの答申は,基本的な考え方において共通する基軸を持って構成されている。 21世紀社会が知識基盤社会(knowledge-based society)であるという時代認識が前提にあ り,そのような社会においては,知識を創造する人への投資が重要であること,そこでは国境 を越えた知識の急速な伝播・移動により,さらなる競争と技術革新が生まれ,相乗的にグロー バル化が進展するという理解が必要であると考えられていると思われる。それゆえに,狭義の 知識や技能のみならず,自ら課題を見つけ考える力,柔軟な思考力,身に付けた知識や技能を 活用して複雑な課題を解決する力及び他者との関係を築く力等,また豊かな人間性を含む総合 的な「知」が必要となると答申は述べている (1) 21世紀社会が,学習社会から知識基盤社会へのパラダイム転換であるという指摘は以前から なされていたが,今まさに生涯学習政策のもとに知識基盤社会へ移行するということが現実の ものとなりつつある。これからの社会を形成する人々が,知識の創造,活用,普及という知識 経営(knowledge-management)できる力を,教育がどのように養成するのかという重要課 題に切り込んだのが今回の2つの中教審答申だと言えよう。 改正教育基本法第3条にあるように,日本の教育の基本的な理念である生涯学習においては, 総合的な「知」が求められる時代としての生涯学習が必要とされ,国民一人一人が社会生活を 営んでいく上で必要な知識・技能等を習得・更新し,それぞれの持つ資質や能力を伸張するこ とができるよう,国民一人一人が必要に応じて学び続けることができる環境づくりという課題 キー・コンピテンシーと DeSeCo 計画 〔要 旨〕 21世紀社会は知識基盤社会とされ,教育においては,知識や技能の習得にと どまらず,学習力を身に付け,実際の生活から労働につながる広く深い学力を獲得する ことが必要とされるようになってきている。また,統合化の道を歩むヨーロッパ社会は, 内包する領域内の課題等から,各国がヨーロッパ全域に共通する教育システムの構築や 学力標準の策定を始めた。こうした社会の動向から,OECD DeSeCo と呼ばれる計 画のもと,キー・コンピテンシーを特定する事業を実施した。本稿では,ヨーロッパ社 会の教育領域の統合の実態と,キー・コンピテンシー特定のための作業と概念構成の経 緯を研究することを通して,今後の教育の進め方について論じている。 〔キーワード〕 キー・コンピテンシー,DeSeCo 計画,PISA 調査,OECDEU 西 79

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1.は じ め に

中央教育審議会は,文部科学大臣からの諮問を受けて,初等中等教育分科会教育課程部会等

の審議を経て,2008年1月17日には「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の

学習指導要領等の改善について(答申)」を示した。さらに生涯学習分科会等の審議を重ねた

結果を同年1月23日に,「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について(答申)」として

発表した。

この2つの答申は,基本的な考え方において共通する基軸を持って構成されている。

21世紀社会が知識基盤社会(knowledge-based society)であるという時代認識が前提にあ

り,そのような社会においては,知識を創造する人への投資が重要であること,そこでは国境

を越えた知識の急速な伝播・移動により,さらなる競争と技術革新が生まれ,相乗的にグロー

バル化が進展するという理解が必要であると考えられていると思われる。それゆえに,狭義の

知識や技能のみならず,自ら課題を見つけ考える力,柔軟な思考力,身に付けた知識や技能を

活用して複雑な課題を解決する力及び他者との関係を築く力等,また豊かな人間性を含む総合

的な「知」が必要となると答申は述べている(1)

21世紀社会が,学習社会から知識基盤社会へのパラダイム転換であるという指摘は以前から

なされていたが,今まさに生涯学習政策のもとに知識基盤社会へ移行するということが現実の

ものとなりつつある。これからの社会を形成する人々が,知識の創造,活用,普及という知識

経営(knowledge-management)できる力を,教育がどのように養成するのかという重要課

題に切り込んだのが今回の2つの中教審答申だと言えよう。

改正教育基本法第3条にあるように,日本の教育の基本的な理念である生涯学習においては,

総合的な「知」が求められる時代としての生涯学習が必要とされ,国民一人一人が社会生活を

営んでいく上で必要な知識・技能等を習得・更新し,それぞれの持つ資質や能力を伸張するこ

とができるよう,国民一人一人が必要に応じて学び続けることができる環境づくりという課題

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画

〔要 旨〕21世紀社会は知識基盤社会とされ,教育においては,知識や技能の習得にと

どまらず,学習力を身に付け,実際の生活から労働につながる広く深い学力を獲得する

ことが必要とされるようになってきている。また,統合化の道を歩むヨーロッパ社会は,

内包する領域内の課題等から,各国がヨーロッパ全域に共通する教育システムの構築や

学力標準の策定を始めた。こうした社会の動向から,OECDは DeSeCoと呼ばれる計

画のもと,キー・コンピテンシーを特定する事業を実施した。本稿では,ヨーロッパ社

会の教育領域の統合の実態と,キー・コンピテンシー特定のための作業と概念構成の経

緯を研究することを通して,今後の教育の進め方について論じている。

〔キーワード〕 キー・コンピテンシー,DeSeCo計画,PISA調査,OECD,EU

今 西 幸 蔵

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が存在する。自立した個人の育成や自立したコミュニティの形成という社会的要請,さらには

持続可能な社会の構築の要請など,生涯学習社会を「知の循環型社会」として構築していくこ

とが求められているのである。

こうした生涯学習は,わが国の教育の基本的理念として機能するものであり,すべての国民

に必要とされる力を育てることをめざしている。たとえば学校教育においては,変化の激しい

社会を担う子どもたちに必要とされる力を「生きる力」という言葉で示してきた。子どもたち

が基礎・基本を確実に身に付けるだけでなく,社会の変化に対応して生き抜く力を自己管理的

学習活動の中で育てようとしてきたのである。

この「生きる力」が必要であるという認識は,実は国際社会の動向と一致するものである。

経 済 開 発 協 力 機 構(ORGANIZATION FOR ECONOMIC CO-OPERATION AND

DEVELOPMENT,以下 OECD)は,「知識基盤社会」の時代を担う子どもたちに必要な生活

の中で生きて働く能力として,単なる知識や技能だけではなく,技能や態度を含むさまざまな

心理的・社会的なリソースを活用して,特定の文脈の中で複雑な課題に対応することができる

力を「主要能力=キー・コンピテンシー(Key-Competencies)」として位置付けた。中教審

は「生きる力」はこのキー・コンピテンシーの先取りであると述べている(2)

今回の中教審答申による学習指導要領の改定に向けての考え方は,まさしく OECDの考え

方を受けたものであり,特に OECDが実施した DeSeCo計画(Definition and Selection of

Competencies : Theoretical and Conceptual Foundations Project)と,その具体的調査研究

である PISA調査(The OECD Programme for International Student Assessment)が有す

る学力観に根ざしたものであると考える。答申では,PISA調査などの国際的な学力調査の結

果の分析に基づいた施策の立案についての提言が述べられており(3)

,こういった考え方は,既に

一部改正された学校教育法第30条で学力の重要な要素として示されているのである。

また DeSeCo計画については後で詳述することになるが,ここで注意しなければならない

のは,子どもだけを対象としたものでなく,生涯学習の視点に立って,すべての年齢の人々を

視野に入れた中で進められた国際的学力指標の確定という営みであったという事実である。

国際的な事情もあり,中教審は,求めるべき成人能力について「社会を構成し運営するとと

もに,自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」として,これを「人間

力」と定義している(4)

こうしたことから,今回の2つの中教審答申が何をめざしているのかが見えてくる。特に2

つの答申に共通する部分としての「主要能力の育成」という学力観は,今後の日本の教育の最

重要課題につながるものであり,これを考える上で,国際社会の動向すなわち OECDなどが

提唱する学力観について注視することが必要となろう。DeSeCo計画の中で,PISA調査を推

進してきた OECD教育局指標分析課長のアンドレア・シュライヒャー(Andreas Schleicher)

は,日本での講演の中で,「暗がりのなかでは,どの学校も教育システムも同じように見える

………だが,少し光を当てると………」とした後,「PISA調査は国際的な比較を行うもので,

それによって,この暗い状況に光を当て,各国の相対的な長所や短所がどこにあるのかを理解

するのに役立てることを目的としています。光が差してだんだん明るくなってくると,学校の

成績,教育システムの成績がそれぞれ違うということがわかってきます。………このような比

較によって自分たちの長所や短所を知った上で,それぞれの国が既存の教育システムを改善し

ていく際の参考にしていただきたいと思いますし,さらには,単に既存のシステムを最適なも

のにする以上のことも期待しています。すなわち,これらの教育システムの基本になっている

80 天 理 大 学 学 報

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パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と

述べている(5)

。また,シュライヒャーは「『生徒はそれぞれ異なって生まれてくる。何人かは賢

く生まれ,それ以外は生まれながらに頭が悪いのだ。生徒がどう生まれてきたかは大きく異な

り,その問題と取り組むのはわれわれの責任ではない。生まれつきの問題なのだ』と考える人

がいます。しかしわれわれの調査結果は,それが事実ではないことをはっきりと示していま

す(6)

」とも述べている。

こうした考え方に立って,シュライヒャーは「PISA調査では,我々はどういう社会・経済

的な課題に直面しているのか,若者が将来に向けてどのような準備を進めているのかという点

についてみています」とし,「明日の世界のための学習」というテーマのもとに,世界がどの

ように変わってきたのかについて分析している(7)

分析結果について,シュライヒャーの指摘をまとめると以下のようになる。

第1に,社会が農業社会から産業社会,サービス産業社会,そして知識社会へと移行し,生

産を規制するものとしては,農業社会においては自然の法則と季節の変動が支配することであ

ったが,産業社会では,資本,労働力,機械化,工程の「テイラー化」が中心であり,サービ

ス産業社会においては,需要が何かを明らかにしていくことが重要となり,知識社会において

は,複雑なネットワーキング,ロジスティックスが重要であること。

第2に,生産にとっての理想は,農業社会では耐久性の高いものを生産し,一貫した品質で

生産することであったが,産業社会では大量生産,画一性,低価格による生産が理想となり,

次のサービス産業社会では機能性,カスタム化が求められ,知識社会においては,より柔軟な

生産体制,組み込まれたサービスの提供が求められる時代であること。

第3に,進歩的な生産者を取り上げ,彼らが社会とともに変化してきたとし,農業社会にお

いては家族経営の農場と協同組合が,産業社会においては株式による連携,ひとりの有力者,

階層性が,サービス産業社会においては公共部門,ネットワークが,そして知識社会になると

提携と協力,コ・ペティション(協力と競争)が重要になってきたと分析できること。

第4は,成長を牽引する主な要因の分析結果である。農業社会では機械化,化学肥料の使用,

新しい種類の作物があり,産業社会では資本,労働力,機械化,「テイラー化」が,サービス

産業社会では家族の機能の外部化が,そして知識社会では知識,技術革新システムへのアクセ

スとなっていること。

第5に指摘された事項は,主な職業の特徴についてである。農業社会では,役に立つ僕(し

もべ)であることが重要であり,産業社会では固定化された職業的なアイデンティティが国に

よって決められており,教育システムが国の状況によって決められた枠組みの中で動いていた

というのである。サービス産業社会では,動機付けを持った自律した市民であることが重要に

なり,知識社会では,リスクに立ち向かう企業家であることが重要だと考えている。グローバ

ル化が進み,技術の進歩が進む中で,新たにさまざまな職業的な要件が必要となり,それらに

対応していくことが重要だとされている。

シュライヒャーの指摘は,以上の5点をふまえて,こうした状況をよく理解し,「自分たち

の学習を管理し,自分で目標を立て,忍耐強く進歩についていき,対応しながら学習戦略を適

用していくことが求められているということに及ぶ。そして,教育システムは分析し,比較し,

対比し,批判していくことができるような技能を発達させるもの」でなければならないとし,

「ある知識がそのままでは価値がどんどん下がっていくという状況がみられるようになるにつ

れ,生涯学習という考え方が出てきました。これは大きなチャレンジであると同時にチャンス

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でもあるのです。個人に限らず国にとっても,限りない上昇が可能になってきたのです」と述

べている(8)

。またシュライヒャーは,大学レベルの資格を持つ者の増加について触れ,教育シス

テムの量的拡大と日本の高等教育の現状についても言及している。

シュライヒャーの講義の要旨を紹介してきたが,それでは何故 DeSeCo計画があり,PISA

調査が実施されたのか。こうした国際社会の動向と背景には,どういった問題が存在するので

あろうか。そして,ここで論じられている学力とは何なのか。またどういった過程を経てそれ

が特定されたのだろうか。さらに何故わが国の文教政策に導入されねばならないのかについて

解明しようとした研究の成果を報告するのが本稿である。

2.労働人口の流動化とヨーロッパ市民像

1990年代は「移民」の時代であると言われた。アメリカ合衆国は,雇用確保のための外国人

労働者へのビザの発給を大幅に認め,一時在留資格を提供した。同様に,イギリスやオースト

ラリアも移民政策に積極的であり,ドイツにおいても,一時就労資格による人材受入政策を採

用している。この背景には,IT関連業種からの人的要求があり,そのために一定程度限定さ

れた職種のものが多く,単純労働者の雇用への要求はそれほど需要が高まっていないことも事

実であるが,労働人口の移動の問題は国際問題として静かに拡大しているといえる現状にある。

特に高度人材の国際的流動化の問題は,今後の国際社会の在り方に大きな影響を与えることが

予想される(9)

こうした国際的動向に鋭く反応し,雇用のための前提条件としての教育環境の整備に努めて

きているのが EU(European Union)である。勿論,EU自身が統合によって成立した多民

族,多言語,多文化の国家連合体であり,域内の労働人口の移動に関連して発生する諸問題が

不可避なものであるが,EUは域内の人材流動性の確保と,その実現のための教育環境の整備

という担保に腐心してきたのである。

EUが成立したのは1993年11月1日のことであり,2007年1月1日にはブルガリアとルーマ

ニアが加盟し,現在の加盟国は27か国にのぼる。人口は4億9,500万人を超えて世界第3位,

面積は432万4,800平方メートル弱で世界第7位,GDP値は約12兆 USドルで,日本の約2.6倍

強の国家連合体である。もちろん従前の国家定義ではなく,新しい時代の国家概念として捉え

てのことである。1992年2月,オランダのマーストリヒトで調印されたヨーロッパ連合条約

(Treaty on European Union),締結地の名称からマーストリヒト条約(Maastricht

Treaty)とも言うが,この条約によって,経済面のみならず,通貨,社会面でヨーロッパを

1つの国家単位として統合することをめざし,対外政策や安全保障において加盟国が共同歩調

を取ることを約束した(10)

その後の EUでは,ユーロ通貨が流通を始めた2002年の3月1日に,「ヨーロッパの将来に

関する協議会」が発足し,「ヨーロッパ憲法」の起草など,ヨーロッパ域内に関連するさまざ

まな事項の検討を継続している。EU域内では単一労働市場であり,EU市民であるならば域

内での就労は基本的に自由であり,このことは労働力の質に関わる重要な教育課題を内包して

いることを意味する。つまり旧来の国家が提供してきた教育の質と量が労働者個々において異

なり,労働力の質が必ずしも保証され得ないという事実である。

またヨーロッパの拡大という事実の中で多くの問題が発生しており,たとえば人口増加,労

働者の移動,資格社会の到来,高い失業率などの問題が山積しており,その解決のための教育

施策が求められていたという点も見逃してはならないだろう。

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そこで,EUの域内において,初等・中等教育段階での一定程度の質が保証された「教育の

統合化」が必要となり,そのためにヨーロッパ各国が教育システムの構築に取り組んで来たと

いう経緯がある。

EUが採用した教育政策は,経済的には同一域内市場の成立に見合った教育システムへの要

求によって具体化されることになる。前述したように,高度人材の国際的流動化の問題に対す

るアプローチが優先されている傾向にあるが,一般的な労働人口の移動の問題に,各国の教育

政策の焦点が当てられたのである。それは,1974年頃まで職業訓練が中心であった教育観の変

化に見られる。

1974年に開かれた EC教育大臣会議では,教育における流動化(mobility in education),

移民労働者の子弟に対する教育,教育におけるヨーロッパの視点(European dimension in

education)の実行意思の3項目が主要な課題として採択された。この3項目のうちの,移民

労働者の子弟に対する教育が,後述する OECDの重要な教育課題となり,教育における流動

化とヨーロッパの視点の2項目は,以後のヨーロッパ高等教育政策の鍵概念となったと考えら

れている(11)

こうした流れは,ECによる1986年の単一ヨーロッパ議定書(Single European Act)の採

択によって同一域内市場の実現化が進展し,教育領域が重要な政策対象となり,生涯学習概念

の導入は,ヨーロッパ社会に新たな教育的視座を形成することになった。

1987年の「エラスムス計画(ERASMUS Programme)」は,「大学生の流動化のためのヨー

ロッパ共同体活動計画(European Community Action Scheme for the Mobility of

University Students)」というのが正式名称であり,国を越えた教育統合をめざして,大学生

の留学生交流を目的とした,いわば短期交換留学制度というものである。大学間で交換留学制

度の協定が締結されているならば,大学生の一定期間(3か月から1年以内)の留学を支援す

るという制度である。

1989年には,語学教員の交流を実現するための「リンガ計画(Lingua Programme)」がス

タートした。今日の EUにおいては,公用語の権利を放棄したアイルランドを除き,加盟27

か国の言語が等しく公用語として使用され,公式文章も22の言語に翻訳されている。リンガ計

画においては,語学教員の初任者研修や現職研修にも関係し,具体的には,新しい教材や教授

法の開発,生徒と教員の交流ジョイント教育プログラムや学生の交換プログラムの実施などが

進められた(12)

1990年代に入ると,第126条で普通教育を,第127条で職業訓練を規定したマーストリヒト条

約の締結があり,EUにおいて積極的に教育政策が推進されることになった。

このような EUの動きについて吉川裕美子は,「ヨーロッパの教育政策は,1992年のマース

トリヒト条約の調印とともに大きな転機に立つことになった。EUが超国家機関として初めて

教育問題にかかわる権限を主張し,普通教育と職業訓練の領域で具体化することに成功したの

である。このときから教育政策に取り組む際の EUの基本理念は,教育領域,とくに高等教

育領域における国境を越えた協力はヨーロッパの競争力を強化し,ヨーロッパ市民の形成に役

立つという政治的信念に裏打ちされている」と述べている(13)

吉川の指摘から推察すると,マーストリヒト条約の第126条は,「共同体は,教育内容と教育

システムの組織,並びに文化的言語的な多様性に対する加盟国の責任を十分に尊重しながら,

加盟国間の協力を奨励することにより,必要であればその活動を支援し補助することによって,

教育の質の発展に寄与するものとする」とあり,EUの役割としての補完性を示すことによっ

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て,EUと加盟国との間で生じる問題の緩和に努めたと解すべきであろう。そして第126条第

2項において EUの活動領域が特定されている。

この6点をあげると,�特に加盟国の教育と言語の普及を通じて,教育におけるヨーロッパの視点を進展させること �特に卒業証書と学修期間の学術的な承認を奨励することにより,学生と教員の流動化を促すこと �教育機関間の協力を促進すること �加盟国の教育システムに共通の問題について,情報と経験の交換を進展させること �青年交流および社会教育指導員の交流の進展を促すこと �遠隔教育の進展を促すこととなる

(14)

マーストリヒト条約で新たな目的が明確化された EUの教育計画は,やがて2つの流れが

生まれ,1つは1993年のソクラテス計画(SOCRATES Programme)として,もう1つは

1995年のレオナルド・ダ・ヴィンチ計画(LEONARDO DA VINCI Programme)として発展

する。前者は普通教育から成人教育までを包括するプログラムであり,後者は職業訓練に関す

る統合プログラムをめざすものであった。1997年には,ヨーロッパ評議会とユネスコのとりま

とめにより,「ヨーロッパ地域の高等教育に関する資格の相互承認協定(リスボン協定)」が締

結され,同年2月にはヨーロッパ評議会によって「EDC(Education for Democratic

Citizenship)計画」が発足し,12月には DeSeCo計画が始まっている。

こうした経緯を踏まえて,1999年6月19日に北イタリアのボローニャで開かれたのが,EU

加盟15か国を含むヨーロッパ29か国の教育大臣会議であり,そこでボローニャ宣言(Bolonga

Declaration)が発せられている。このボローニャ宣言に象徴されるヨーロッパの教育改革運

動は,基本的には高等教育の課題から生まれたものである。1980年代から1990年代にかけての

ヨーロッパの高等教育機関,特に大学を取り巻く情勢について木戸裕は,「特徴としては,マ

ス化する大学への移行と,それにともなう「入学制限」の導入,後期中等教育と大学のアーテ

ィキュレーションの多様性,学生のドロップアウト率の上昇などである」と述べている(15)

また大場淳は,この宣言を1つのきっかけとして,翌2000年3月に,ヨーロッパ委員会の呼

びかけによって集まった各国高等教育質保証機関代表及び各国政府代表によって,ヨーロッパ

高等教育質保証ネットワーク(ENQA)の設立が合意されているとしている(16)

そして具体的な問題として,「かつては同年齢のわずか数%に過ぎなかった大学進学率が,

90年代には,EU諸国において大体2割から4割に達するようになった」こと,「後期中等教

育の修了試験が,同時に大学入学資格試験となっており,これに合格した者は,あらためて大

学入試を経ることなく大学に入学する権利があるというシステムが採用されてきた」こと,後

期中等学校では,「普通教育と職業教育をむしろどう結合させるかに重点がおかれ,職業教育

で得られる資格によっても大学入学を認めるさまざまな学校タイプが各国で設置されている」

こと,「中世以来の伝統をもつ大学(ユニバーシティー)に加えて,さまざまなタイプの非大

学高等教育機関が設置されている」こと,「大学という名称は冠していても,従来のユニバー

シティーとは異なる形態の大学タイプも数多く登場している」こと,「大学生のドロップアウ

ト率が上昇している」ことなどがあがっている(17)

このような具体的問題に対するヨーロッパの高等教育機関に存在する課題に対して,改善策

が講じられており,その1つが「各大学は,それぞれに投じられた公的資金の使い道について,

広く社会の『評価』を受けなければならないという考え方が,従来そうした面にあまり眼が向

けられてこなかったヨーロッパの国々においても,しだいに関心が払われるようになった」こ

とであり,さらに「EU域内での学生・教員の積極的な移動の促進と,それを支える共通の行

動基準の開発がメインテーマとなっている」とし,「『1つのヨーロッパ』に向かってヨーロッ

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パ全体が動きつつあるなかで,ヨーロッパ内外の大学間の流動性を促進し,大学同士の競争を

通して高等教育の質を維持・向上させること,学生や市民の意識の覚醒を通して大学全体の活

性化を図ること,総体として高等教育の透明性(Transparenz)を高め,ヨーロッパの大学の

魅力を回復することが,広くヨーロッパにおける大学改革のもっとも中心的な課題となったと

言えるだろう」と木戸は分析する(18)

さらに木戸は,ボローニャ宣言に向かう課題として,高等教育と経済界の間の相互作用の促

進,高等教育計画の経済関連性の促進,適切な指標を使用した質の保証の促進,学生および教

員の移動の促進,人生のあらゆる段階で高等教育にアクセスできる生涯学習の促進,高等教育

のサイクル構造の明確な区分,学習達成の承認のための単位システムの促進,大学間,高等教

育のセクター間,国同士の間での単位転移の促進,高等教育の資格可読性および比較可能性の

向上をあげている(19)

またボローニャ宣言を理解する上で重要なものが,ボローニャ教育大臣会議に先立って1998

年に開催されたソルボンヌ大学創立800年記念式典で,イギリス,フランス,ドイツ,イタリ

アの4か国の教育担当大臣が署名した「ヨーロッパ高等教育システムの構造の調和に関する共

同宣言(ソルボンヌ宣言)」である。

経済面での統合とともに,知の統合,すなわち「知のヨーロッパ(a Europe of

Knowledge)」の構築をめざして大学の役割を明確にしたものであり,ボローニャ宣言につな

がる内容を持つ。つまり,高等教育領域での「ヨーロッパ教育圏」の確立を求めた宣言文であ

り,1974年に開かれた EC教育大臣会議で指摘された「教育における流動化」と「ヨーロッパ

の視点」という2つの課題が,「教育におけるヨーロッパ領域(European dimension in

education)」の策定という形で表されたものと捉えることができる。

ソルボンヌ宣言は,主に高等教育を問題としており,開かれたヨーロッパ高等教育圏の中で,

学位と学修サイクルの全体的な枠組みを徐々に調和させること,学士課程と大学院課程の2段

階を採用し,共通レベルの学位システムを設けること,学生と教員の流動化を高めること,そ

のために障害を取り除き,学位と学術的な資格の承認を改善することがあげられている(20)

「知のヨーロッパ」の構築において,ソルボンヌ宣言でヨーロッパの4大国が協力・連携し

て高等教育に取り組み,共通の教育システムを構築することを宣言したということの意味は大

きい。なぜならば,この宣言が前述した木戸の指摘する課題そのものであり,翌年のボローニ

ャ宣言への地ならし的内容を示しているからである。

ボローニャ宣言の内容として,次の6点があげられている(21)

。内容を列挙すると,�理解しやすく比較可能な学位システムの確立 �2サイクルの大学構造(学部/大学院)の構築 �単位互換制度の導入 �学生,教員の移動の障害除去 �ヨーロッパでの教育の質の保証 �高等教育におけるヨーロッパ次元の促進である。こうして高等教育の領域での「ヨーロッパ教育

圏」の確立が図られたのであり,次に述べるボローニャ・プロセスを経て,2010年までに「ヨ

ーロッパ高等教育圏(EHEA)」を作り上げることが期されたということなのである。

このことは,ヨーロッパの高等教育機関相互が国境を越えての単位互換を認めることであり,

域内のどこにおいて学んでも良いとするものであった。

ところで,「ボローニャ・プロセス」と呼ばれているのは,ボローニャ宣言後の2年おきに,

ヨーロッパ各国で高等教育機関関係大臣会議を開催するという約束であり,実際には,2001年

にプラハで,2003年にはベルリンで,2005年にはベルゲンで,そして2007年にはロンドンにお

いて新たにモンテネグロを加えた46か国で会議が開かれている。

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それぞれの会議では,コミュニケが発表されており,ボローニャ宣言に参加した29か国にキ

プロス,トルコ,クロアティア,リヒテンシュタインの4か国を加えた33か国が署名した「プ

ラハ・コミュニケ」(2001年)では,生涯学習の促進,EHEAの形成に学生を1つの主体とし

て参加させること,さらに EHEAに魅力を持たせることなどが施策として追加された。

次のベルリン・コミュニケ(2003年)では,旧ユーゴスラヴィア諸国,アンドラ,バチカン,

ロシア連邦の7か国が加わり,計40か国がボローニャ宣言の内容として示した2サイクルの大

学構造の構築,ディプロマ・サプリメント(学位証に添付される補足資料)の提供と教育の質

の保証の3つを優先課題として取り扱うことに同意した。第3回目のベルゲン・コミュニケ

(2005年)では,旧ソ連邦構成国家のアルメニア,アゼルバイジャン,グルジア,モルドバ,

ウクライナが加わって45か国となり,優先課題の進捗状況の検討を行い,質の保証と基準の適

用,国毎の資格の枠組みの改善,共通の修了証の授与などについて話し合われた。第4回目の

ロンドン・コミュニケ(2007年)では,2009年に向けて,学位や在学期間の認知,3サイクル

の学位システム,質の保証を優先課題とすることになったことが示されている。

ボローニャ宣言とそれ以降のボローニャ・プロセスをみると,確実に「知のヨーロッパ」の

構築が進んでおり,特に高等教育領域での「ヨーロッパ教育圏」の確立が,既に EUの枠を

越えて現実のものとなって機能しつつあることが分かる。「教育におけるヨーロッパ領域」の

策定は,もはや EU領域内のものでなく,ヨーロッパ全域に拡大し,ロシア連邦を巻き込ん

で一気にアジアにまで及びつつある。そのことは,EUへの加盟国の増加や OECDの教育事

業への参加国から判断できよう。

また中・東ヨーロッパ諸国の学生を対象とした教育訓練計画で,ヨーロッパの大学での就学

機会を与えることを目的としているテンプス計画(Tempus Programme(22)

)は,ヨーロッパ域

内で,EU・アメリカおよび EU・カナダ協力プログラム,アフリカ・カリブ海・太平洋

(ACP)諸国を対象とするエデュ・リンク,ラテン・アメリカとの関係を持つ ALFA計画や

ALBAN計画,アフリカを対象とする新しいニエレレ計画などは,ヨーロッパ以外の大陸との

関係であり,こうした EUの戦略は,アジアに対してのアジア・リンク・プログラム(Asia−

Link Programme)として,アジア各地での「ヨーロッパ留学フェア」の実施という形になっ

て現れている(23)

高等教育領域の「ヨーロッパ教育圏」の構築が進む一方で,ヨーロッパ委員会は,義務教育

についても戦略的に体制づくりに取り組んでいる。その中で最も重要であると思われるのが

「義務教育の目標」の設定に向けての取組である。

1995年に開催され,『教育と学習-認知的社会に向けて(白書)』を発表したマドリッド EU

サミットに続き,2000年のリスボン EUサミットでは,「2010年までにヨーロッパを最も競争

力があり,躍動的な知識基盤経済にする」という目的を掲げた「リスボン戦略」が示されてい

る(24)

。「知のヨーロッパ」の実現に向けて,期限を切ったヨーロッパの一大攻勢を宣言したので

ある。もちろん,この攻勢はアメリカや中国などの非ユーロ-経済圏に対してであることは言

うまでも無かろう。

このような動向は,2001年のストックフォルム会議の開催,2002年の「コペンハーゲン宣

言」という形を取り,EU加盟国間の共通の教育目標が形成されていくことになる。

具体的には,2002年3月に「EUヨーロッパ教育情報ネットワーク本部」と「ヨーロッパ委

員会教育・文化総局」による「普通義務教育における教育目標としてのコンピテンシー」に関

する調査が実施され,2003年に『キー・コンピテンシー』という報告書が出されている。ヨー

86 天 理 大 学 学 報

Page 9: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

ロッパが共通の教育目標を持ったということである。

ここまで述べてきたヨーロッパの動向から,高等教育機関だけでなく,義務教育にも積極的

に関わっていることが窺える。こうした動きを示すものとして,スイスのジュネーブに本拠を

置く国際バカロレア機構のような動きがあることからも,教育によって育てるべき学力の内容

が検討される時代が到来したことを知らねばならないだろう。

つまり学力指標の策定という課題に向けて,ヨーロッパ各国が取り組みを始めたということ

であり,各国の成果を集積することによって,国際標準の学力とすべきものを明示することを

OECDなどの機関が試みることになったのであり,こうした経緯の中で PISA調査が実施さ

れたと理解すべきである。

3.PISA調査とDeSeCo計画

OECDは,PISA調査や DeSeCo計画を実施する以前の1968年に,教育研究革新センター

(CERI)を発足させ,その後,各種のデータの取得に努めてきている。そして1988年からは,

国際教育指標(INES)の策定のための研究を開始している。この結果については,年次報告

書『図表でみる教育』として刊行されていることは周知の通りである。CERIの創設と研究の

目的と,1986年の単一ヨーロッパ議定書の締結に始まる教育政策とが深く結びついているであ

ろうことが予測される。

ここで重要なことは,CERIが示す教育指標が,学校教育の一部だけを評価したような学力

ではなく,生活に関わる広い学力を追求している点にある。福田誠治は,CERIは,1995年頃

から学校教育の一部だけが測定されているために,学校が十分な力を発揮していないのではな

いか,もし新しいテストが開発されて,新しい質の教育が評価されれば,学校が本来行うべき

教育活動に陽の光が当たり,理想的な教育に弾みがつくだろうという提案をしたと分析する(25)

また2000年から,わが国でも実施されてきた PISA調査が,「生きるための知識とスキル

(Knowledge and Skills for Life)」という枠組みで学力を測定しており,PISA調査で測り

うる生徒の能力観にこそ CERIが求めてきた教育指標が存在するのであり,DeSeCo計画の目

的がある。つまり,学校教育で特に重視されてきた教科・科目における知識の習得よりも,そ

れらを活用して社会に出てうまく生きる力を測定することに CERIは重点を置いたのである。

ところで,PISA調査というのは,OECDが実施する学校教育調査のプログラム名であり,

OECED加盟国を中心にして,これまで2000年,2003年,2006年の3回にわたって調査を実施

してきている。実際的には,2000年調査においては32か国,2003年調査では42か国,2006年調

査では57か国が参加し,各国の教育プログラムに在籍する(いわゆる学校に在籍する)15歳の

生徒,各国4,500人から10,000人を対象に実施した国際的な学力標準化テストなのである。調

査は,紙と鉛筆を用いて行われ,テストは各生徒に対して計2時間実施される。

これまで3回の調査をみると,第1回の2000年には「読解力(読解リテラシー)」を,第2

回の2003年調査では「数学的リテラシー」を,そして第3回にあたる2006年調査では「科学的

リテラシー」をというふうに,「中心となる」領域を設定しながら,次にあげる事項を測定し

ている。それは15歳の生徒の知識・技能における基本的な特徴であり,生徒と学校の特性に関

する背景指標であり,調査結果の経年変化をみるトレンド指標であり,さらに各国の教育政策

の調査・分析のための貴重な知識データ・ベースである(26)

。また各回にわたって「学習の背景」

を調査し,第2回の2003年調査においては「問題解決能力」を調査項目にあげている。

この種の学校教育調査ということになれば,代表的なものに TIMMS調査(国際数学・理

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 87

Page 10: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

科教育動向調査)があるが,数学や理科の学力向上をめざす TIMMS調査には,従前からの

学力観に近いものがあり,PISA調査とは一線を画するものである。

前述したように,PISA調査は,「生きるための知識とスキル(Knowledge and Skills for

Life)」という学力観を基にした学習到達度調査であり,高度に教育を受けた社会において必

要とされる知識と技能の獲得の状況を測定しようとしたものである。特に PISA調査で重視さ

れる学力とは,社会的に責任ある行動が形成できるような知識と技能,すなわち社会的スキル

を指し,未知の社会を生き抜くためのコミュニケーションスキルと問題解決スキルであるとさ

れる。

そこで PISA調査においては,これらのスキルの獲得状況を「読解力(読解リテラシー)」

「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」と「問題解決能力」といった枠組みの中で明らか

にしようとしたのである。

PISA調査が,これからの社会に必要な学力として,社会的スキル,コミュニケーションス

キルや問題解決スキルを取り上げた背景に,大きくは次の4つの視座が存在する。

1つ目は成熟した民主主義社会の建設のために必要な「民主的市民性(Democratic

Citizenship)」に基づく教育の要求,2つ目にはポスト工業化社会の経済への対応,3つ目に

はテクノロジーの急激な変化への対応,4つ目には「社会的統合」へのプロセスとしての異文

化理解である。特に最後にあげた異文化理解については,エスニックな文化の理解という次元

の問題ではなく,国際社会で発生する種々の社会問題をコントロールする力,そのための創造

力と自己信頼能力の育成,たとえばシチズン・キャピタルな社会関係を構築する力,さらには

多元的な価値観と個人主義的な思考とを結合する力を身に付けることができることである。

そこで必要な学力として,アカデミズムに基づく専門性とは異なった広範で柔軟な学力を求

めたのであり,それは深い意味合いで「労働観」と結合するものであったと考えられる。

PISA調査が求める学力とは,「これまで何を学んだか」ではなくて,「これから何ができる

か」であるとされる。そうであるがゆえに,知識やスキルの質や量を競うのではなく,知識や

スキルを活用,普及するための「思考力」「応用力」「創造力」が問われるのである。このこと

は,知識の生産,普及,活用というナレッジ・マネージメントを担いうる技能として,知識基

盤社会が要求する内容に一致し,そこには「生涯学習社会への移行」と「知の生成」という,

教育と学習の必要性が存在するのである。

知識は学習を通じて得られるが,そこで重要な点は,学習のプロセスがどのように行われる

かによって得られる知識が変化するということである。OECDは,教育システムを考えるに

は,教育に変化をもたらす知識の生産,普及や活用の質的な理解が必要となるというのである。

PISA調査が,スイス連邦統計局と OECDの協力によって取り組まれ始めたのは1997年以

降であり,福田は「1997年の時点では,CERIはこのような実践的な能力をどのように育てる

のか,また教育目標が潜在的カリキュラムによるのか,あるいは教科横断的コンピテンシーに

よって教育され,達成されるものなのか,よく分からなかったようである」と述べ,その後の

PISAの研究活動の結果として,次のような結論に至ったことを説明している。

「コンピテンシーを幅広くとらえ,社会的かつ動的にとらえ,カリキュラム上形成されたコ

ンピテンシーや,教科横断的なコンピテンシーのほかに,自己の学習動機づけ,自己信頼,学

習戦略など,総合的な実践力をあつかっている」というのである(27)

ここで述べられている PISA調査のコンピテンシー観の形成に重要な影響を与えているのが,

PISA調査の実施のために必要な「コンピテンシーの定義と選択(Definition and Selection

88 天 理 大 学 学 報

Page 11: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

of Competencies)」を行うための調査であり,DeSeCo計画と呼ばれるものである。DeSeCo

計画は,2002年に作業を完了,最終報告書(以下,最終報告書)を2003年に刊行している。

なお,OECDが実施するプログラムとして,PISA調査以外では,PIAAC調査(The

OECD Programme for International Assessment of Adult Competencies)等がある。

PIAAC調査は,PISA調査の成人版ともいうべきものであるが,現在は我が国では未実施で

ある。

この PIAAC調査のように,成人を対象とする学力調査については,PIAAC調査の基礎調

査と考えられる「国際成人リテラシー調査(IALS)」がある。2000年以降については,カナダ

統計局及び ETS(Education Testing Service)によって,IALSを発展させたものとして,

「成人のリテラシーとライフスキル調査(ALL)」が実施されている。

ところで,2008年1月23日に中央教育審議会から発表された「新しい時代を切り拓く生涯学

習の振興方策について(答申)」において,子どもたちに主要能力(キー・コンピテンシー)

を必要とした上で,成人についても,「社会を構成し運営するとともに,自立した一人の人間

として力強く生きていくための総合的な力」を「人間力」として定義した上で,「必要とされ

る能力を明確化し,その伸張を図ることが不可欠であるとの考え方もある。また,国際的にも

OECDにおいて,成人に必要とされる能力を調査しようとの試みもあり,国内外で,成人が

社会の変化に対応するための力等についての関心の高まりが見られる」と述べられている。

この指摘は,近い将来,わが国でも PIAAC調査が実施される可能性が高いとみるべきだろ

う。ということは,成人学力の問題が,わが国の今後の教育課題となることは避けられず,と

りわけ社会教育の役割がクローズアップされることを予測させる。

OECDは「生きるための知識と技能」の獲得を目的とした PISA調査を実施し,その一方

で,PISA調査と連携した上での「コンピテンシーの定義と選択」を開始していた。1997年12

月から,スイス連邦統計局の主導のもとに,PISA調査や PIAAC調査を実施していく上で必

要とされるコンピテンシーの具体化,すなわち「コンピテンシーの定義と選択」という重要課

題に向けての調査が始まり,福田の指摘にあるコンピテンシー観とその内容については,各国

および各界が合意できるための研究として立案され,その後実施されたプログラムが DeSeCo

計画なのである。この同じ年に,EDC計画と DeSeCo計画が開始されたことは前述した通り

である。

OECDのシュライヒャーは,日本での講演の中で,「1997年以降,OECD諸国は PISA調査

の枠組みを確立し,どのような能力が重要かということを明らかにし,主要な能力を測定した

り,成績を比較したりすることができるようになりました。PISA調査は,生徒の能力をみる

最も包括的な調査であると言えます。地理的に非常に広い範囲をカバーしているだけでなく,

世界経済の生産量の10分の9をカバーする地域を網羅しています。調査問題で取り上げる課題

も非常に幅広く,現実の世界に即した課題も用いています。また,多肢選択式の問題だけでな

く,短答式や自由記述式の問題も組み込まれています」と述べ,PISA調査で何を評価するの

かという点について,「PISA調査の特徴の1つとして,単に内向きの課題だけをみているの

ではないことが挙げられます。生徒が学んだことだけでなく,学んだことを使って,今後どう

いうことができるのかということを評価しています。能力の評価には基準が必要です。生徒は

大人になると,学習者,労働者,市民,家族の一員,消費者といったいろいろな役割を果たし

ていかなければならず,様々な状況の中で生活していかなければなりません。複雑な課題に直

面するわけです。そこで OECD諸国が協力し,人々にとって,社会にとって成功のために重

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 89

Page 12: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

要と思われる技能の枠組みを確立しました。重要なのは,能力とは単に認知的なものだけでは

ないということです。我々の能力の概念には,認知的な知識や実際の技能のみならず,社会的,

行動的な要因,例えば態度も含まれています」とし,鍵となる能力の3つの広範な領域と9つ

のコンピテンシーを説明している。

DeSeCo計画は,シュライヒャーが示した「成功のために重要と思われる技能の枠組み」を

確立しようとしたものであり,同計画は2002年に調査を終えて,2003年には最終報告書を刊行

している(28)

。DeSeCo計画が,最終報告書に至る過程に,注目すべきヨーロッパの動向が見られ

る。2002年3月に,「EUヨーロッパ教育情報ネットワーク本部」と「ヨーロッパ委員会教育

・文化総局」による「普通義務教育における教育目標としてのコンピテンシー」に関する調査

などが開始されたことである。ヨーロッパ全体が,1つのヨーロッパに向かって,コンピテン

シーの確定をめざして具体的に動き出したのである。

4.コンピテンシーの定義と選択

DeSeCo計画では,コンピテンシーの確定に至るための「作業」というべきコンピテンシー

の定義と選択の試みが各種調査を通じて実施された。キーとなるコンピテンシーは,既に

OECD諸国において考えられているものからの選択であり,それを一つ一つ検証することか

ら始まる「作業」であった。DeSeCo計画においては,まずキー・コンピテンシーの概念化を

図るための背景の設定が必要とされたのである。

DeSeCo計画の最終報告書によると,そのために「国別報告プロセス(country

contribution process : CCP)」のレポートと,経済的ならびに社会的領域の施策立案者と専門

家によるコメントを求めたとされている(29)

。OECD加盟国の参加により招聘された CCPは,キ

ー・コンピテンシーの定義と選択の過程において,同時に企画された理論的研究の補足に対し

て,コンピテンシーに対する各国の見解の導入と紹介を目的とするものであったと述べられて

いる。CCPには12か国が活動に参加し(30)

,各種のレポートを提出しており,ウリ・ピーター・

トリアー(Uri Peter Trier)によってまとめられている(31)

。内容については,最終報告書に詳

しく示されているので,そこからコンピテンシーの確定に至った経緯と考え方について考察し

たい(32)

DeSeCo計画では,OECD諸国やその他の国々において,標準学力に関連するキー・コン

ピテンシーの存在の可能性について論じた後に,OECD諸国がキー・コンピテンシーの存在

を認め,まず選択するのに用いるさまざまなアプローチについての検討を行っている。

それはキーであると考えられる一連のコンピテンシーを果たして特定できるのか,さらに

OECD加盟国やその他の国においても,同様の意味を持つものかどうかという重要な問題提

起であったといえよう。

こうしたコンピテンシーについての議論や適用から,OECDはコンピテンシーとは何かを

表明していったのである。コンピテンシーを明らかにするような実践であるとともに,その結

果もたらされる内容,コンピテンシーのうちの類似性と相異性について論議したのである。

共通する価値もしくはコンピテンスの領域が,これを構成するコンピテンシーの詳細と,そ

の詳細がどう評価されるかについては,コミュ二ティによって異なり,国によっても異なるの

ではないかと懸念されたからである。

このような懸念から,普遍的なコンピテンシーの国際比較という作業よりも,個々の国々の

訓練や労働体系の中での特定の文脈において,特定の集団(例えば熟練していない人々)に重

90 天 理 大 学 学 報

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点をあてるというフランスの提案に至った(33)

。それは文化的差異が明白であることは,国を越え

てのコンピテンシーの実証的比較を行うために意味をもつということであった。

しかしながら前述したトリアーは,レポートの中で「普遍的なキー・コンピテンシーという

考え方を支持するものは誰もが,これらのコンピテンシーを具体的な社会および文化的文脈に

関係づけることができるとし,関係づけるべきではないかと言っている。そしてまたコンピテ

ンシーが,それを特定の文脈および社会政治的な条件に関係づけてはじめて,巧みに討議され

ると信じているものは,誰も普遍的な価値の存在を否定しないであろう」と述べている(34)

。この

ようにして,重要なコンピテンシーの性質について,諸国間での統一した見解を見出したので

ある。

次に各セクターでの検討の経緯について,各国別にどのように作業が進展したのか,そこで

コンピテンシーの定義と選択に至るための考え方がどのように論議されたのかを見てみよう。

まず,教育セクターの中でのキー・コンピテンシーに対する議論では,コンピテンシーはカ

リキュラム改革と拡張,あるいは教育目標の改善に関係するいくつかの方法として取り扱われ

ている。CCPおよびその他の資料から,コンピテンシーは,(1)高校以上の上級中等学校の

修了の必要条件,(2)学校のカリキュラム,および(3)すべてを包含するような教育目標

にあらわれてきていることが分かったのである。

例えばドイツとスイスでは,各科目領域にまたがるコンピテンシーは,学制上の上級中等学

校を卒業するための証明書を得る必要条件で,ドイツで「アビトゥール(Abitur,ギムナジ

ウムの卒業試験)」を取得するには,ドイツ語,外国語および数学といった科目に加えて,生

徒たちは知識の構造の理解,自分自身の学習の管理,自分自身の学習の思考,および判断と行

動のふりかえりを含んだ12項目の多岐にわたるコンピテンシーを必要としている(35)

スイスでは,「マチュリタット(Maturitat,高等学校の卒業=大学の入学資格)」という

「学際的な目標」があるが,生涯学習の力を持っているとか,独自の判断能力と知性的な表現

力といったような12種の同じようなコンピテンシーを認めている(36)

次に,いくつかの国においては,学校カリキュラムの中でコンピテンシーが新しく改訂され

たり,開発されたカリキュラム内容に重要な位置づけを与えている例が見られる。

オーストリアの事例では,「人格重視」のコンピテンシーと「現実の生活志向」を強化する

コンピテンシーを多く取り入れた主題中心の知識に,現実の焦点を広げることに努めている。

10~14歳の生徒向けのカリキュラムが改革され,言語とコミュニケーション,人類と社会,自

然と技術,創造性とデザインおよび健康と運動がコンピテンシーとしてあげられている(37)

フランダース地方のプロジェクトでは,中等学校のコンソーシアムが,カリキュラムとして

キーコンピテンシーを開発している。コンピテンシーへのアプローチとして,人間を「関係の

交差点」と見なし,社会の発展と個人の発展に批判的並びに創造的な方法で参加するために重

要な5つの広いコンピテンシーをまとめているのである(38)

イギリスでは,1990年代に,仕事の複雑性と増大に労働者が対処できるようなキーとなるス

キルの確定に努力が払われている。非常に早い段階で,生徒をスキル領域で評価しようとして

おり,確定されたスキルは6つの広い領域に分類され,コミュニケーション,数値の応用,情

報技術,他者と共同作業,自分自身の学習と行動の改善,および問題解決があげられる(39)

DeSeCo計画の最終報告書では,コンピテンシーは,北欧諸国,ドイツ,ニュージーランド

で全般的な教育目標として設定されたと述べられている(40)

例えばノルウエーやニュージーランドでは,全体の教育システムに焦点を置いた包括的カリ

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 91

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キュラムの説明の中で,多くの多岐にわたるコンピテンシーが含まれているとされ,ノルウエ

ーのカリキュラムは,教育の目的を「統合された人間」の発達として,崇高で,創造的で,勤

労家で,教養を備えて,社会的で,そして環境に対する意識の高い個人を育てることを目標と

している(41)

。ニュージーランドでは,生徒に必要不可欠なスキルとしてのコミュニケーションス

キル,数量的思考スキル,情報スキル,問題解決スキル,自己管理と競争的なスキル,社会的

で協力的なスキル,身体的スキル,および仕事と学習のスキルを特定している(42)

またスウェーデンとフィンランドの両国は,学校において発達させ,評価すべきものとして,

より一般的な性質のコンピテンス領域を設定している。スウェーデンの例では,領域として,

関係の理解,外部の世界に自分自身の道を見出す能力,倫理的決定ができること,民主主義を

理解して応用すること,および創造的になりコミュニケートできることをあげている(43)

。フィン

ランドでは,学び方の学習,コミュニケーション・コンピテンシー,および生涯学習を含み,

さらに,いくつかの要素から構成されるコンピテンシーが加えられている(44)

デンマークでは,コンピテンシーは工業発展政策において重要な役割を果たし,初等教育,

中等教育,職業教育,成人教育にわたって「民主的社会への積極的な参加」や「人格の成長」

を促進するための教育目的が強調されている(45)

ドイツでは,教育フォーラム(Forum Bildung)が,個人の発達と社会参加の重要性を述

べた教育目標を整理し,重要なガイドラインとしての6つの基本的なコンピテンシー,すなわ

ち知性のある知識,応用できる知識,学習のコンピテンス,方法に関連した/役に立つキー・

コンピテンシー,社会的なコンピテンシー,および価値判断を提案している(46)

ここで述べてきたように,各国のコンピテンシーの定義と選択に向けての努力は,社会的革

新を目標とする広義の国家的努力であり,その社会的革新に対して,教育は必要不可欠な貢献

をするものであるという認識に至った。「どのようにして教育は改善することができるのか」

ではなく,「教育は何ができるのか,そしてそれは何のためなのか」ということであり,これ

に対して,教育がより広いヒューマニスティックな目標を達成するような,よりホリスティッ

クなものであるべきだという回答が示されている。

最終報告書では,コンピテンシーの概念の確定に向けての努力に対して,教育セクターと経

済セクターの両方において,雇用者と被雇用者の両方から重大な関心が寄せられたとある(47)

次に,経済セクターにおける教育の諸成果は,生産性と競争力の観点から重要な要素として,

「生産性と市場競争力を押し上げるために用いることができる第一の戦略的要素(48)

」と考えられ

ている一方で,生存戦略のキーとしての労働者の質,スキルとコンピテンシーの重要性につい

てはビジネスの視点からは余り高く評価されなかったという(49)

経済セクターにおけるキー・コンピテンシーについての論議は,外部的にはコンピテンシー

を開発する役割をもつものとしての教育および訓練システムに対して向けられ,内部的には望

む雇用者と,被雇用者(すなわち組合)に対してであった。また,経済セクターのコンピテン

シーに関係する活動として,�新しい戦略としてのコンピテンス,もしくは技能の開発と管理�労働組合の利害と主導 �職業プロフィールと職務の分析 �キー・コンピテンシーに関する雇用者調査があがっている。被雇用者を惹き付け,管理しようと望む雇用者の戦略としての

コンピテンスの開発と管理については,経済セクターでのコンピテンシーに関する議論として,

組織的視点からコンピテンシーの開発と管理の重要性に対する特定の関心の拡大からおこって

いる。つまり,組織管理と改善の包括的な目標の中に,人材配置や養成に関する組織的決定を

とりまとめる構成要素として,コンピテンスとその能力開発を取り扱おうとしているのである。

92 天 理 大 学 学 報

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雇用者は,キャリア開発と人的資源管理のための指導的な枠組の焦点にコンピテンスを置いて

いる。またキャリア管理の視点から,コンピテンスの管理と開発に密接な関係が見られるのは,

個人のコンピテンシーをうまく包括的にできるようなシステムを確立しようとする,いくつか

の国の実践であることが分かったのである(50)

これについては,フランスとフランダース地方のベルギーの事例があり,フランスの最近の

立法上並びに制度上のいくつかの条項では,「すべての市民が学校教育以外で取得する職業ス

キルに対する認定を得られる」方法という重要な問題を方向づけるために,広範囲のコンピテ

ンスの評価ができるような試みがある(51)

一方,キー・コンピテンシーを開発する機会を見つけて,手に入れようと望む被雇用者(す

なわち組合)はどう考えているのかについて,労働組合の懸念と主導権についてみてみよう。

最終報告書は,労働者の視点について,コンピテンス開発と管理は,基本的には労働者にと

っては損になるという心配があること,労働者をさらに管理し,労働者が団体交渉を通して手

に入れた権利や保護を浸すツールだという心配があることを述べている(52)

ローレル・リッチー(Laurell Ritchie)は,「雇用者がコンピテンシーを雇用者の利益から

奨励するのではないかという危惧を示している。個人は,自分の再訓練へ投資すべきであると

する人間資本論の解釈を否定し,これは企業の訓練費用の軽減を擁護する側にとって明らかに

利己的な解釈である」と考えている(53)

もう1つの主要な懸念は,広いコンピテンシーに雇用者が焦点を合わせると,労働市場にお

いて自らの市場価値が向上すると労働者が信じている新しい技能や資格の開発機会をほとんど

もたらさないのではということである。広い領域にわたるコンピテンスと,職務の特殊なコン

ピテンスとの間には,このような緊張関係があると考えたのである。

この緊張関係には,労働者側と企業側の両方の関係者の関心を反映しており,一般的なコン

ピテンシーやその背景,あるいは職務に特有のコンピテンシー,並びにより伝統的な資格の間

の均衡には微妙なものであるということがあげられている(54)

組合活動について,スウェーデンの事例では,主要な労働協議会が,生涯学習とコンピテン

スの開発に関連する議論のために,共通の枠組を開発する試みとしての共同の覚書を2001年に

作成している。その立場は「学習する職場」の発展を支援するものであり,職場を個人的成長

と組織の発展の両面から理解しようとしているのである。

またスウェーデンの労働者組合では,コンピテンシーに対する労働組合の視点として,コン

ピテンス開発と生涯学習を人権として要求している。目標は,個人的要求に明確に結びつくよ

うな学習機会をすべての労働者に保証する条件を生み出すことであるというのである。そうす

ることによって,「人は何を知るのか。人は何が出来るのか。人は何を求めるのか。そして,

人は何を行おうとするのか」という問いかけの組合せとしてのコンピテンシーについて述べる

とともに,あらゆる個人に対して,個々の能力向上を援助するためのコンピテンスの開発を促

進する組織的レベルでの多くの構成要素を確定しているというのである。コンピテンスに関係

した労働組合は,最も弱い労働者に対して,コンピテンスの機会を増やすことを考えている(55)

デンマークの事例では,たとえば貿易組合連盟は,従業員の仕事の責任と影響を大きくし,

より生産的な職場を作り出すために従業員と雇用者の間の協力を改善することに焦点を当てて

いる(56)

。そこでは,キー・コンピテンシーを手に入れることが権利であり,雇用者は新しいコン

ピテンシーの開発の機会の提供と,労働者が学んだことを活用できる職場環境の構築の両方を

保証すべきであるという主張がある。コンピテンスの開発は,単にエリートのためだけのもの

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 93

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でなく,教育程度のより低い労働者のためにもなされていることを保証できているかどうかを

監視しようとする労働組合の試みもある(57)

重要なコンピテンシーを確定し,定義しようとするための経済セクターの実践として,いく

つかの国々では,職業プロフィールの開発と職務の分析を行う形をとってきており,こうした

事例では,雇用者,被雇用者,訓練者の利用を目的としたコンピテンシーの分類と目録作成に

焦点を当てている。

アメリカ合衆国労働省長官によって任命された必須技能委員会(SCANS)は,「職場のノウ

ハウ」の確定をめざし,職場で働く人々が持つべき5つのコンピテンス領域を,資源,人間関

係のスキル,情報,システム,技術とし,3つの基礎領域を基本的なスキル,思考のスキル,

個人的資質として確定する結論を得ている(58)

。また経済セクターがどのようにコンピテンシーに

アプローチするのかという事例に,雇用者調査がある。雇用者調査を実施することによって,

獲得すべき労働に必要なスキルとコンピテンシーを確定しようとする試みなのである。

例えば採用時の職務能力について,雇用者の期待に関するニュージーランドの最近の調査が

取り上げられているが,必要とされるコンピテンシーの大部分が人間関係能力であり,そこで

強調されているコンピテンシーは,コミュニケーション,協調性,創造性および批判的思考力

であり,コンピュータ・スキルやコンピュータ・リテラシーを含めて考えている(59)

フィンランドにおける雇用者調査では,13の必要なコンピテンシーあるいは資質として,他

者との関係の中での率先性,関心,正直さと誠実さを含んだ資質があげられている(60)

。さらにス

ウェーデンの研究では,基礎知識にまで及ぶ広いコンピテンシーを持つことを雇用者が重視し

ていることが分かっている(61)

。7つのヨーロッパの国々に及ぶ雇用者の国際グループは,教育の

改善に関する政府への支持声明書の中で,労働者が協働する際に最も重要なコンピテンスとし

て「情動的知性と抑制」の重要性を強調しているのである(62)

これまで,コンピテンシーの確定に向けての定義と選択について,教育セクターと経済セク

ターからのアプローチについて述べてきたが,DeSeCo計画におけるコンピテンシーに関する

議論は,教育や経済以外のセクターも関連して行われている。いろいろな研究過程で入手され

た各国のレポートから,キーコンピテンシーを4つの文脈で検証するような実践が,最終報告

書で説明されているのである。この4つとは,�指標とアセスメント �国レベルの調査研究�若者の開発 �市民社会,である

(63)

最終報告書は,主として成人に関連した指標や調査活動についての事例を提供している。

まず事例としてあげられているデンマークでは,デンマーク経済委員会,53の加入企業,お

よび公的セクターや学会の他の関係者を通じて国民コンピテンス評価会議(Natinal

Competence Account)を設立している。国民コンピテンス評価会議は,デンマークを除く

OECD加盟の6か国の127の指標をデンマークの指標と比較し,3つの中核的価値(創造性,

競争力,定着性)と4つの主なテーマ(学習,変化,関係および意味)にまとめ,コンピテン

シー構成を示している。

デンマーク以外の他の国々では,成人スキルを直接に測定するような事業の事例もあり,例

えばフランスは,国民の識字および数量的能力に関するデータを収集するために,成人の世帯

調査を計画している。例えばカナダの事例では,スキルに関するデータ収集のための広範な戦

略が,人的資源の開発支援の技能計画(Skills Agenda)において開発されてきたという。こ

の計画では,人的資源の開発を,産業革新や生産性,生活の質の改善にとって不可欠なものと

見なしている。このような実践とともに,各国で全国調査を実施し,スキルとコンピテンシー

94 天 理 大 学 学 報

Page 17: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

の各国間の比較と測定をめざす大規模な調査についても報告されている(64)

前述した「成人のリテラシーとライフスキル調査(Adult Literacy and Life Skills

Survey : ALL)」は,2003年と2005年の2回にわたって実施され,情報通信技術の習熟度に関

する調査も含み,リテラシー,数量的能力および読解力の測定がなされている。

ALLの調査は,「国際成人リテラシー調査(the International Adult Literacy Study)」の

成果から生まれたものとされており,ALLに強い影響を与えたとされる IALSの調査

は,1990年代の中頃からおわりにかけての3回にわたって20の国々で成人に対して実施され,

成人リテラシーのスキルと経済的成果の間に重要な関係があることを見出したといわれる。

1960年代から2000年に至るまでの,生徒を対象とした多くの国内および国際的調査は,主要な

学校教科の成績に焦点を当てたものだった。

しかし,生徒のコンピテンシーをより広く測定することを目的とした研究がなされ,

「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」においては,15歳の生徒の読解力,数学的,科学

的リテラシーに加え,教科間のコンピテンシー(たとえば自己規律的な学習や問題解決)に関

わる情報を収集している。

このような形でのコンピテンシーの確定に向けての定義と選択について,国家レベルでの研

究活動を見るならば,大規模調査研究プロジェクトが,スイスおよびアメリカ合衆国で始めら

れている。その1つであるスイスでの若者調査では,調査研究プロジェクトは,スイスにおけ

る初等教育,中等教育および職業教育カリキュラムの目標の分析と達成目標の確定から始まり,

既存の理論的な研究について検討し,重要なキー・コンピテンシーを示すと考えられ得る15の

構成概念のセットをまとめている(65)

アメリカ合衆国では,国家教育目標委員会のレポートでのコンピテンシーとして,「すべて

のアメリカ成人は,識字力を持ち,グローバル経済において競争に勝ち,市民の権利と責任を

遂行するために必要な知識と技術を持つこと」としている。

国家レベルでのコンピテンシーの確定だけでなく,実際の若者に焦点を当ててコンピテンシ

ーの確定に向けての実践についても検証してみよう。

コンピテンシーに関する論議は,若者の社会的,感情的,身体的または知的発達に寄与する

ことを目標とする学校教育体系以外の組織でも起こっている。このテーマに関するプロジェク

トでは,キー・コンピテンシーの発達における家族の重要性とコミュニティの支援がよく強調

されるのである。例えばアメリカ合衆国においては,若者の発達に必要な生活技能を整理する

研究計画が,4Hプログラム(Hands,Health,Head,Heart)として行われている。その

研究から確定された技能として,ハンドHands(与えること,仕事をすること),ヘルス

Health(存在すること,生きること),ヘッドHead(考えること,管理すること),ハート

Heart(関係すること,世話をすること)がキーワードとしてあげられている(66)

またオランダでは,青少年政策審議会(Youth Policy)が,青少年が直面する必要性と課題

に対応するため,青少年に必要な6つのキーコンピテンシーを確定し,自己決定力,自信,コ

ミュニケーション能力,問題解決力,集中力と社会参加能力とした(67)

これら以外に,市民社会からのアプローチもあった。市民社会の代表は,コンピテンシーが

必要な,あるいは重要なスキルと資質のリストの見地からではなく,投票権の行使やコミュニ

ティ活動への参加といった視点からも論議する傾向があるというのである。そうした活動が,

望ましい社会的目標(例えば平衡感覚,公平,結束力,民主主義への積極的な参加)に寄与す

ると見られているからである。少なくとも2か国における研究報告では,政治的参画というコ

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 95

Page 18: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

ンピテンシーがそれぞれの国民に不足しているという(68)

これまでの結論から,教育,経済,その他のセクター間ではキー・コンピテンシーの論議に

も相異点があることが分かっている。CCP報告では,同じようなコンピテンシー,あるいは

ほとんど同じ内容を持つコンピテンス領域が,参加国間で特に重要であると共通に考えられ,

強調されていることが分かった。CCP報告の概要でよく取り上げられるコンピテンス領域の

グループは,多くの OECD加盟国で特に関心と関連が見られた領域であり,コンピテンシー

の確定のための貴重なリストとなっている(表1)。

この表からも分かることは,すべての参加国が,�社会的コンピテンシー/協力 �リテラシー/知性応用的知識 �学習コンピテンシーと生涯学習 �コミュニケーション・リテラシーに関連した領域の重要性を認識しているということである

(69)

�の「社会的コンピテンシーと協力」は,他の人々との協力関係をいうのであり,主張することと影響を及ぼすこと,争いを解決し,交流するといった対人関係技能から構成されるもの

である。狭義には,このコンピテンスの領域は,一緒に働くこと,他の人々を指導し支えるこ

と,他の人々からの指導と支持を求めること,および(きわめて重大なことは)異なった文化

的背景を持つ人々を理解し,協力することとなる。

�の「リテラシー,知性応用的知識」は,本質的には古典的なリテラシーを意味する。言語処理過程(読み,書き,話し,聴き,理解する能力)と,基本的ニューメラシー(計算力)と

関係するものである。より深いレベルで,数学の活用,高度に複雑な情報処理,問題解決,批

判的思考,内省力およびメタ認識に結びつく。

�の「学習コンピテンシーと生涯学習」については,技術的,方法論的,戦略的および動機づけの要因の意味を含む広がりを意味する。例えば,それは「自分自身の学習についてどれだ

け分かっているかを知ること」を求めるものである。

�の「コミュニケーション・コンピテンシー」は,「社会的コンピテンシー」に含まれるものであり,認知的,道具的,技術的な側面と情動的な側面を持つ。

一方,各国のリストで頻度の低い領域について見ると,価値志向性,すなわち誠実,責任,

世話,正直のような個人的「徳」を含む広い領域がある。また,自己コンピテンスや自己管理,

高 い 中 位 低 い

社会的コンピテンシー/協力

リテラシー/知性応用的知識

学習コンピテンシー/生涯学習

コミュニケーション コンピテンシー

自己コンピテンス/自己管理

政治的コンピテンス/民主主義

生態学上のコンピテンス/自然に対する関係

価値志向

健康/スポーツ/身体的コンピテンス

文化的コンピテンシー(美的感性,創造性,異文化間能力,メディア)

表1 各国のレポートに見るキー・コンピテンシーの領域の記載頻度

(出典:Trier 2003, section 2. 3. 3)

96 天 理 大 学 学 報

Page 19: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

自己規制のような行為志向型コンピテンシーと,自己の感性を発達させ,表現させるような反

省志向型コンピテンシーの両方を見る。政治的市民的コンピテンシーがあり,生態学的な気づ

きと行動,すなわち環境と人間の相互作用に関する知識や態度,行動を含む領域が該当する。

基本的なレベルでのキー・コンピテンシーの概念と,「人々は何ができるのか」という発想

は,多くの国々において政治的課題だという点は明白だと考えられている。キー・コンピテン

シーの概念は,政策立案者と他の個人およびグループによって,いろいろなセクターおよびい

ろいろな環境で,それぞれに特有の計画を表現し,進歩させるために利用されるというのであ

る(70)

。さらに,重要な,あるいは「キー」と認められるコンピテンシーの中に,数多くの収斂点

や共通点があることを理解するということが重要であろう。

5.キー・コンピテンシーのフレームワーク

今日の人類社会は,未知への挑戦が課題となっており,その為の人間の英知が問われる時代

となっている。こうした課題にとって,キー・コンピテンシーがどのような意味を持ち,役割

を果たすことができるのであろうか。

「人生の成功」と「常に正常に機能する社会」を構築することを目的としたキー・コンピテ

ンシーの定義と選択の確定について,OECD最終報告書は,3つの広域カテゴリーとそれを

構成する9つの具体的カテゴリーを示した(71)

広域カテゴリーの一つが「社会的に異質な集団で共に活動・交流する力(第1のカテゴリ

ー)」であり,他者とうまく折れ合うという能力であり,協力し合い,チームで作業したり,

対立を解決する能力を意味する。お互いに,どのように知識を共有し合うか,それをどのよう

に活用し合うかということでもある。まず個人が他者との関係を持てるようになることが必要

であり,異質な集団と交流できることが重要なのである。

もう一つのカテゴリーが「自律的に活動する力(第2のカテゴリー)」であり,物事を全体

でとらえて活動すること,責任を取ること,自分および自分以外の人の権利や限界を知ること

といった能力が求められている。個人が,自分の生活や人生について責任を持って管理,運営

し,社会全体の中で自分の人生を位置付け,自律的に動く力をいう。

さらにもう一つのカテゴリーとして,「対話の方法として相互作用的に道具を活用する力

(第3のカテゴリー)」があり,言葉や記号,シンボル,テキストなどを使って情報を駆使し,

テクノロジーを活用して相互に働きかける能力が取り上げられる。人々には,知識や技能を活

用することが期待されているのであり,新しい知識を創造し,活用,普及させる力である。そ

して道具の活用という課題もあり,これについても単に使いこなすというのではなく,道具を

通して人と世界が相互作用する方法を,道具がどのように変化させるのかという課題が存在す

る。またグローバル経済や情報社会の専門的な需要として必要なものは物理的な道具だけでな

く,言語,情報,知識である。個人は,環境と効果的に相互作用するために道具を活用できる

ことが望まれるが,情報テクノロジーのようなものや,言語のように文化的な性質を持ったも

のも必要とされるのである。「コミュニケーション能力」「リテラシー」というのも深くキー・

コンピテンシーに関連する力である。

ところで,キー・コンピテンシーのフレームワークで特に重要なことは,キー・コンピテン

シーの中核として3つの広域カテゴリーを連関させる核心があり,「省察力」とか「思慮深

さ」(Reflectiveness)と呼ぶべきものが中心に存在することである。つまり反省性に立った

思慮深い思考と行為を意味する。思慮深さは,個人にその技術について考えさせるものであり,

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 97

Page 20: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

自分の経験と関連づけ,適合させようとする力である。思慮深さが必要とされるのは,現代教

育学が,メタ認知的な技能や批判的スタンスを取ることが求められているからであり,創造的

な能力の活用が期待されているからである。

こうした指摘の背景には,1990年代からの認知科学の進展がある。学習の過程とは,自分を

客体化して,自分の思考で判断するというメタ認知の立場が主張される今日,これまでの教育

が非構成主義(いわゆる心理学でいう行動主義あるいは実証主義,客観主義)の原理に基づい

て,反復的に,訓練的に実施されてきていることをどう見るのかという問題があり,これに対

する批判がある。それゆえに,価値というものは個人がそれぞれに構成するものだという社会

構成主義に基づく教育として,キー・コンピテンシーが登場したのである。

キー・コンピテンシーのフレームワークについては,次に示すような3つの広域カテゴリー

と,そのそれぞれに3つのコンピテンシーが定められ,合わせて9つのコンピテンシーを

DeSeCo計画は特定している。

第1のカテゴリー(社会的に異質な集団で共に活動・交流する力)

1A 他者とうまく関わる力

1B 協働する力

1C 紛争を処理し,解決する力

人権持続可能性平等社会的まとまり生産性

テクノロジー多様性責任可動性グローバリゼーション

社会のビジョン 生活の必要性

キー・コンピテンシーの理論的要素

異質な集団で交流する

A 他者とうまく関わるB 協働するC 紛争を処理し,解決する

コンピテンシーの核心

思慮深さ

(Reflectiveness)

自律的に活動する

A 大きな展望の中で活動するB 人生計画や個人的プロジェクトを設計し実行する

C 自らの権利,利害,限界やニーズを表明する

相互作用的に道具を用いる

A 言語,シンボル,テクストを相互作用的に用いる

B 知識や情報を相互作用的に用いる

C 技術を相互作用的に用いる

図1 キー・コンピテンシーの理論的枠組み(出典:立田慶裕『キー・コンピテンシー』(明石書店)等)

98 天 理 大 学 学 報

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第2のカテゴリー(自律的に活動する力)

2A 大きな展望の中で活動する力

2B 人生計画や個人的プロジェクトを設計し実行する力

2C 自らの権利,利害,限界やニーズを表明する力

第3のカテゴリー(対話の方法として相互作用的に道具を活用する力)

3A 言語,シンボル,テクストを相互作用的に用いる力

3B 知識や情報を相互作用的に用いる力

3C 技術を相互作用的に用いる力

このような経緯から,OECDがキー・コンピテンシーを定義し,選択したことは,伝統的

な学習モデルを発展させようとしたものでないことが分かる。社会構成主義の立場に立とうと

するキー・コンピテンシーが学校教育に求めたものは,変化する社会を生き抜く力とみなせる

ものであり,社会的責任ある行動や態度,そのために必要な知識や技能,さらに問題解決能力

といった力である。それは成人に対しても,持っている知識や技能を活用した思考力や応用力

を求めているのである。

ゴンチ(Gonczi)の「古い学習理論のパラダイムは,学習が生じる環境に学習者を結びつ

ける新しいパラダイムに代えられる必要がある。新しい学習の概念は,個人の認知的側面と同

様に,感情,道徳,身体を考慮したものであり,そして現実の学習が行為の中で,及び行為を

通してのみ生じるという。したがって,キー・コンピテンシーの学習は,判断を下す力量をお

そらく生涯にわたって増大させるという点で,現実の世界への働きかけを通してのみ生じるこ

とができる(72)

」という指摘は,キー・コンピテンシーの確定に取り組んだ DeSeCoの意図を的

確に表していると思われる。

最終報告書に「ゴンチはまた,キー・コンピテンシーの教授と他の教科素材の教授を統合す

ることを勧め,他の活動と統合することによってキー・コンピテンシーが明確になると勧めて

いる(73)

」という指摘があるが,キー・コンピテンシーの学習は,学校カリキュラムやプログラム

の改善や拡張を必要とするのである。同時に,学校だけで基礎的なコンピテンシー・レベルに

達成できない可能性を考慮すれば,成人期にも発達的な視点に立った教育や学習の戦略を提供

するような教育政策が求められる(74)

キー・コンピテンシーを習得することは,学校教育の向上,就職や仕事での成果の向上,職

業的学習の進展,多くの他者との人間関係の形成,企業にとっての組織形成,コミュニティづ

くりなど,さまざまな効果をもたらすことになると考えられている。そして何よりも重要なこ

とは,キー・コンピテンシーは,個人に幸福をもたらすだけでなく,より良き社会を実現する

ための能力として提示されたものであるということである。

すべての人々が生存できる持続可能な社会をめざして,能力があり,責任感があり,思いや

りがある人間を育てることの意味が,キー・コンピテンシーという形で示されたのである。

こうして確定されたキー・コンピテンシーを活用としていることの1つが,前述したレオナ

ルド・ダ・ヴィンチ計画である。キー・コンピテンシーのプログラム活用を行うチームが作ら

れ,2007年には一体の作業を終えている(75)

立田の説明によると,このチームの目標が「ヨーロッパ市民」の就職活動の向上のためのも

のであり,職業訓練機関,職業学校,大学,企業,商業部門が協力して,国境を越えた形での

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 99

Page 22: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

労働力の移動,職業移動,技術革新,訓練の質の向上などを行い,国際レベルでの新しいキー

・コンピテンシーに必要な道具と訓練の開発や定義を通じて,ヨーロッパ全体にわたって生涯

学習を進めることを目的としているという(76)

今日のわが国の学校教育(77)

や社会教育(78)

においても,キー・コンピテンシーを活用し,その獲得

をめざすような学習プログラムを策定することが緊急の課題であると考える。すでに,いくつ

かのモデルが現れてはいるが,今後のさらなる研究が待たれるところである。

6.お わ り に

OECDがキー・コンピテンシーを定義・選択しようとした背景に,ヨーロッパが1つの国

家であるという認識と,それに連なる動きから教育圏を定め,ヨーロッパ域内の学力の特定に

乗り出したということがある。その動きは,ヨーロッパ域内にとどまるものでなく,地球規模

で展開される,教育のグローバリゼーションとして理解すべき事項なのである。EU等が求め

ている「ヨーロッパ市民」とされる人間像に,「明日の市民(Citizen of Tomorrow)」という

言葉が重ねられ,「地球市民」というパラダイムでの人間像の模索がみられる。

こうした機運の中で,OECDによる定義と選択によって確定されたキー・コンピテンシー

は,今後の世界各国の教育政策の方向性を示すものであり,キー・コンピテンシーによって教

育デザインが描かれるべき時代に突入したと考えられる。

キー・コンピテンシーは,極めて革新的なリテラシー概念であり,さまざまな課題に対して,

問題解決に取り組む際の種々のリテラシーを育む機能を持つものである。

また,キー・コンピテンシーは,生涯学習との関連の中で捉えられるべきものであり,人間

の学習活動総体に関わって,その役割を発揮する概念でもある。つまり,コンピテンシーは生

涯にわたり成長し,変化する発達性を持っているということである。

人間にとって,コンピテンシーは可能性の増大とその逆を同伴する性質があることを我々は

忘れてはならないだろう。個人の社会化とその要求は,人生の中で生々流転するものであり,

そのたびにコンピテンシーの内容も効果も変容する。したがって人間の成熟は,その人にとっ

てのコンピテンシーの成熟でもある。こうした生涯学習との関連性をふまえた上で,キー・コ

ンピテンシーを理解することが必要となる。

DeSeCo計画が,このような結論を示したことによって,今後の日本の学校教育,社会教育

などは多大の影響を受けるにちがいない。それはまた生涯学習研究にとって,大きな課題が示

されたことになる。

日本の子どもたちの現状を見る時,こうした国際社会の動きとは異なったパラダイムで展開

される教育環境があり,そこでしか通用しないような学力観や教育観が先行している事実につ

いて,筆者は疑問を持たざるを得ない。いつまでも狭義の知識中心型の教育や行動科学に基づ

くような教育的アプローチ,いわゆる非構成主義の教育のみを重ねていくならば,日本の教育

は国際社会から確実に遊離していくにちがいない。この問題は,子どもだけの問題ではなく,

PIAAC実施の可能性にあるように,日本の成人にとっても大きな課題となりつつある。

DeSeCo計画が,テストのためのテストではなく,従来の教育観やテストでは捉えきれなか

った領域にアプローチするということから生まれたものであり,そのためのテスト(学力調

査)であることを忘れてはならない。こうした状況にあって,日本の成人教育,すなわち社会

教育の在り方,進め方についても,真剣に再検討すべき日が来ている。EDC計画がめざす

「参加する市民」となれるような価値と技能を,生涯学習というパラダイムの中でどう獲得し

100 天 理 大 学 学 報

Page 23: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

ていくのかということが,すべての人々に問われているということなのである。

(1) 中央教育審議会「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について(答申)」(2008.1.23,

pp.3―4)

(2) 中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校,特別支援学校の学習指導要領等の改

善について」(2008.1.17,pp.9―10)

(3) 前掲書 pp.11―14

(4)(1)の p.7

(5) 国立教育政策研究所『OECD-PISA調査から見る日本の教育』(2005.8)にある,アンドレア

・シュライヒャー OECD教育局指標分析課長による講演録。実際の講演は,2005年1月26日に

文部科学省と国立教育政策研究所の主催により,東京の日経ホールにて行われている。

(6) 日本教職員組合編『どうなる,どうする。世界の学力,日本の学力―日教組第52次全国教研

・特別分科会「学力問題」記念講演とシンポジウムより』(アドバンテージサーバー,2003,

p.16)など。福田誠治『競争やめたら学力世界一』(朝日新聞社,2006.5,p.10)で紹介され

ている。

(7)(5)の pp.5―8

(8)(5)の p.7

(9) 小林信一・齋藤芳子「科学技術人材を含む高度人材の国際的流動性―世界の潮流と日本の現

状」(文部科学省科学技術政策研究所第2研究グループ調査資料,2003.3)などの調査報告が参

考になる。

(10) 吉川裕美子「ヨーロッパ統合と高等教育政策」(大学評価・学位授与機構研究紀要『学位研

究』第17号,2003.3)の p.73

(11)(10)の p.74

(12) 平尾節子「EU(ヨーロッパ連合)における言語政策の研究」(愛知大学語学教育研究室紀要

『言語と文化』第8号,2003.2)の p.34

(13)(10)の p.76

(14)(10)の p.76(吉川の訳による)

(15) 木戸 裕「ヨーロッパの高等教育政策―ボローニャ・プロセスを中心として―」(『レファレ

ンス』第658号,国立国会図書館,2005.11)の p.75

(16) 大場 淳「ボローニャ・プロセスにおける質保証の枠組構築とフランスの対応―評価の規準

を中心に―」(広島大学高等教育研究開発センター『COE研究シリーズ』28号(2007.2)」の

p.1

(17)(15)の pp.75―76

(18)(15)の p.77

(19)(15)の p.77

(20)(10)の p.83

(21)(15)の pp.79―80,また注(16)としてあげた大場淳の論文も参考になる。

(22) 萩原大輔「国際統合と教育―欧州連合の教育政策を手がかりに―」(富山大学人文学部国際文

化学科,2006.3)の p.41

(23) 広報誌『ヨーロッパ』(EUニュース第64号,2007.5.10)

(24) 福田誠治『競争やめたら学力世界一』(朝日新聞社,2006.5)の pp.210―211

キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 101

Page 24: キー・コンピテンシーと DeSeCo...パラダイムあるいは考え方の変革を考えるきっかけにしていただきたいとも思っています」と 述べている

(25) 福田誠治『競争しても学力行き止まり』(朝日新聞社,2007.10)の p.164

(26) 国立教育政策研究所編『生きるための知識と技能―OECD生徒の学習到達度調査(PISA)

2000年調査国際結果報告書』(ぎょうせい,2002.2),国立教育政策研究所編『生きるための知

識と技能2―OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2003年調査国際結果報告書』(ぎょうせ

い,2004.12),国立教育政策研究所編『生きるための知識と技能3―OECD生徒の学習到達度

調査(PISA)2006年調査国際結果報告書』(ぎょうせい,2007.12),国立教育政策研究所編

『PISA2003年調査 評価の枠組み』(ぎょうせい,2004.5)などの刊行物が出版されている。

(27) 福田誠治『競争やめたら学力世界一』(朝日新聞社,2006.5)の p.198

(28) D. S. Rychen and L. H. Salganik(eds.)『Key-Competencies for a Succussful Life and a

Well-Functioning Society』(Hogrefe & Huber, Gottingen, Germany. 2003) 邦訳は,ドミニク

・S・ライチェン,ローラ・H・サルガニク著,立田慶裕監訳『キー・コンピテンシー―国際標

準の学力をめざして―』(明石書店,2006.5)筆者も共訳者の一人である。

(29)(28)の p.36

(30)12の国々は,オーストリア,ベルギー(フランダース),デンマーク,フィンランド,フラン

ス,ドイツ,オランダ,ニュージーランド,ノルウエー,スウェーデン,スイスとアメリカ合

衆国であった。また,DeSeCo計画のために作成された他のレポートからも引用している。例

えばオーストラリア(Gonczi, 2003),カナダ(Brink, 2003)やイギリス(Oates, 2003)から

である。これらはコンピテンシーに関係した実践の,国家レベルのレビューを意味するのでは

なく,むしろ特別な実践を記述するためのものである。

(31) Trier, U. P. (2003). Twelve countries contributing to DeSeCo : A summary report.

In D. S. Rychen, L. H. Salganik & M. E. McLaughlin(Eds.), Selected contributions to the

2nd DeSeCo symposium. Neuchâtel, Switzerland : Swiss Federal Statistical Offce.

(32)(29)の pp.36―62

(33) Emin, J-C.(2003). Proposal for a strategy to assess adults’ competencies.

In D. S. Rychen, L. H. Salganik & M. E. McLaughlin(Eds.), Selected contributions to the

2nd DeSeCo symposium. Neuchâtel, Switzerland : Swiss Federal Statistical Offce.

(34)(29)の p.38

(35) Witt, R., & Lehmann, R. (2001). Definition and selection of key competencies in Germany.

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(78) 拙稿「社会教育行政の新たな課題―学力と評価の視点から」(『天理大学生涯教育研究』第11

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調査(PISA)2006年調査国際結果報告書』(ぎょうせい,2007.12),国立教育政策研究所編

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立田慶裕監訳『キー・コンピテンシー―国際標準の学力をめざして』(明石書店,2006.5)

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キー・コンピテンシーと DeSeCo計画 107