教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S...

11
ቼ³ሗ᥄Π࿎੪ 2020 年 9 月 22 日発行 1 第 848 号 2020 2020 9 9 1.教授就任 ………………………………… 2.教授就任インタビュー ………………………………… 3.学術欄 江畑 智希 ………………… 4.150 周年記念記事 豊國 伸哉 ………………… 宮田 卓樹 藤城 光弘 ………………… 鈴木 理史 5.創基 150 周年医学部基盤整備 支援事業卒年別寄附状況 ………………………………… 6.人生山あり谷あり 井口 昭久 7.新院長に聞く 中部ろうさい病院 佐藤 啓二 ………………… 安城更生病院 度会 正人 ………………… 江南厚生病院 河野 彰夫 ………………… ⑽ 8.Covid-19 医学教育 錦織 宏 ………………… 加藤 大暉 柴田 莉奈 市野 貴大 中島菜都美 9.研修報告 佐々木宥典 ………………… 10.前期学生生活報告 ………………………………… ⒀ 11.学友大会ご案内 ………………………………… 12.学友会名古屋支部総会のお知らせ 13.編集後記 ………………………………… ⒃ 病理病態学講座 腫瘍病理学 教授 えの もと あつし 〈略 歴〉 1998 年 名古屋大学医学部卒業 1998 年 大垣市民病院研修医 2000 年 名古屋大学大学院医学系研究科博士課程健康 社会医学専攻予防医療学(分院腎臓内科) 2000 年 杏林大学大学院医学研究科特別研究生 2003 年 日本学術振興会特別研究員(名古屋大学大学 院医学系研究科病理病態学講座腫瘍病理学) 2006 年 名古屋大学高等研究院特任講師(テニュアト ラック制度・科学技術振興調整費・若手研究 者の自立的研究環境整備促進事業) 2011 年 名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学准 教授 2020 年 名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学教授 〈業 績〉 1.Miyai Y, Esaki N, Takahashi M, Enomoto A. Cancer-associated fibroblasts that restrain can- cer progression: Hypotheses and perspectives. Cancer Sci, 111:1047-1057, 2020. 2.Kobayashi H, Enomoto A, Woods SL, Burt AD, Takahashi M, Worthley DL. Cancer-associated fibroblasts in gastrointestinal cancer. Nat Rev Gastrolenterol Hapatol, 16:282-295, 2019. 3.Wang X, Enomoto A, Asai N, Kato T, Takahashi M. Collective invasion of cancer: Perspectives from pathology and development. Pathol Int, 66:183-92, 2016. 4.Weng L, Enomoto A, Ishida-Takagishi M, Asai N, Takahashi M. Girding for migratory cues: roles of the Akt substrate Girdin in can-

Transcript of 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S...

Page 1: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 ( 1 )第 848 号

2 0 2 02 0 2 0

99

1.教授就任 …………………………………⑴2.教授就任インタビュー …………………………………⑵3.学術欄 江畑 智希 …………………⑶4.150 周年記念記事 豊國 伸哉 …………………⑸ 宮田 卓樹 藤城 光弘 …………………⑹ 鈴木 理史5.創基 150 周年医学部基盤整備 支援事業卒年別寄附状況 …………………………………⑺6.人生山あり谷あり 井口 昭久7.新院長に聞く

中部ろうさい病院 佐藤 啓二 …………………⑻ 安城更生病院 度会 正人 …………………⑼ 江南厚生病院 河野 彰夫 ………………… ⑽8.Covid-19 医学教育 錦織  宏 …………………⑾ 加藤 大暉 柴田 莉奈 市野 貴大 中島菜都美9.研修報告 佐々木宥典 …………………⑿10.前期学生生活報告 ………………………………… ⒀11.学友大会ご案内 …………………………………⒂12.学友会名古屋支部総会のお知らせ13.編集後記  ………………………………… ⒃

病理病態学講座腫瘍病理学 教授

榎えの

本もと

  篤あつし

教 授 就 任

〈略 歴〉

1998 年 名古屋大学医学部卒業

1998 年 大垣市民病院研修医

2000 年 名古屋大学大学院医学系研究科博士課程健康

社会医学専攻予防医療学(分院腎臓内科)

2000 年 杏林大学大学院医学研究科特別研究生

2003 年 日本学術振興会特別研究員(名古屋大学大学

院医学系研究科病理病態学講座腫瘍病理学)

2006 年 名古屋大学高等研究院特任講師(テニュアト

ラック制度・科学技術振興調整費・若手研究

者の自立的研究環境整備促進事業)

2011 年 名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学准

教授

2020 年 名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学教授

〈業 績〉

1.Miyai Y, Esaki N, Takahashi M, Enomoto A.

Cancer-associated fibroblasts that restrain can-

cer progression: Hypotheses and perspectives.

Cancer Sci, 111:1047-1057, 2020.

2.Kobayashi H, Enomoto A, Woods SL, Burt AD,

Takahashi M, Worthley DL. Cancer-associated

fibroblasts in gastrointestinal cancer. Nat Rev

Gastrolenterol Hapatol, 16:282-295, 2019.

3.Wang X, Enomoto A, Asai N, Kato T, Takahashi

M. Collective invasion of cancer: Perspectives

from pathology and development. Pathol Int,

66:183-92, 2016.

4.Weng L, Enomoto A, Ishida-Takagishi M,

Asai N, Takahashi M. Girding for migratory

cues: roles of the Akt substrate Girdin in can-

Page 2: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 第 848 号( 2 )

cer progression and angiogenesis. Cancer Sci,

101:836-42, 2010.

5.Enomoto A, Endou H. Roles of organic anion

transporters (OATs) and a urate transporter

(URAT1) in the pathophysiology of human dis-

ease. Clin Exp Nephrol, 9:195-205, 2005.

 学友会の皆さまにおかれましては、ますますご清栄の

こととお慶び申し上げます。この度、髙橋雅英先生の後

任として腫瘍病理学教授を拝命いたしました。就任させ

て頂くにあたり、一言ご挨拶をさせていただきたいと存

じます。

 私が紆余曲折を経ながらも現在、研究の道におります

のは、名古屋大学学生時代に当時の生体防御研究部門の

吉開泰信先生・西村仁志先生の厳しいご指導のもと、苦

しみながらも論文を発表させていただいたことがきっか

けになっております。その後、大垣市民病院研修医を経

て、腎臓内科学(予防医療部 丹羽利充先生・下方薫先生)、

腎臓生理学(杏林大学 遠藤仁先生)、がんのシグナル伝

達、神経発生、血管新生、がん・線維化疾患の間質の生

物学(以上、髙橋雅英先生)と様々な分野で多くの先生

方にご指導を受けて参りました。髙橋先生には分子の機

能を基軸に丁寧に研究をすすめることの重要性を指導し

ていただきました。博士研究員の期間が終わろうとする

頃、髙橋先生に病理医としての道を示していただき、以

来、病理診断学の研鑽も積んで参りました。実に多くの

病理医の先生方、特に名古屋大学医学部附属病院病理部

の中村栄男先生・下山芳江先生、大垣市民病院病理診断

科の岩田洋介先生には診断病理学および組織形態学につ

いて徹底的にご指導をいただきました。また研究に関し

ましては、貝淵弘三先生(神経情報薬理学)、浅井直也

先生(藤田医科大学)をはじめ、学内の多くの基礎研究

者や臨床医の先生方あるいは友人・同級生・先輩・後輩

から、生化学、分子生物学、発生学、臨床医学の基本を

教えていただく機会に恵まれました。改めてここにお礼

を申し上げる次第です。

 現在、私が注力している研究テーマのひとつは、が

んおよび線維化疾患の間質の生物学(stromal biology)

です。上皮細胞等の実質細胞に比べて、線維芽細胞やそ

の近縁の間質細胞等の本態や多様性の意義の理解は遅れ

ています。常にヒトの疾患を形態学の立場から見る病理

学者ならではの視点を軸に研究をすすめたいと考えてお

ります。研究はうまくいくことが少なく、私の能力不足

ゆえ、きれいなパスをつないで美しいシュートを決める

ことも難しく、従いまして体ごとゴールに転がり込むよ

うな泥臭い研究を展開できればと考えております。今後

も是非、多くの分野の研究者の方と共同研究等をさせて

いただき、結果について愉しく論ずる機会をいただけれ

ばと願っております。

 私ども病理学教室に与えられました重要な使命は、学

部生および病理専門医資格の取得を目指す大学院生の

方々に病理学、病理解剖および病理診断の真髄を指導す

ることです。幸い、名古屋大学および関連病院において

は、これまで中村栄男先生、髙橋雅英先生、豊國伸哉先

生(生体反応病理学)および関連病院の先生方が築き上

げてこられた病理学の教育体制が確立されており、その

継続・拡充が必須と考えております。近年発展が著しい

人工知能や分子病理診断技術を専門にする人材の育成も

重要と考えています。

 皆さまには、今後とも一層のご指導・ご鞭撻をいただ

きますよう謹んでお願い申し上げます。

榎本教授就任インタビュー

   現在の心境と抱負を教えてください

 比較的気楽な立場であった今までと異なり、いろいろ

な責任を伴う、特に後進の指導をしていかなくてはいけ

ない立場であり、緊張しています。周囲の先生方にご指

導をいただき、なんとかやっていきたいと考えています。

   研究に進まれたきっかけを教えてください

 挨拶文でも書かせていただいた通り、学部生時代に大

変厳しい指導を受けながらも、論文という形にまとめさ

せていただいたことが強いきっかけとなりました。ただ

研究は苦しくて、これはもう絶対無理、と思って卒業し

たのも事実です。 終的には、自身の時間を自身の裁量

で使える、ということで研究の道をずっときているのか

なあ、という感じがしています。

   自分の研究分野の魅力を教えてください

 病理学のアドバンテージはなんと言っても、常に病気

を形態学の視点から見ている、ということに尽きるので

はないかと思います。例えばがんあるいは線維化という

言葉を聞いたときに頭の中にイメージするものは、私達

病理医と臨床医あるいは他分野の生命系研究者ではかな

り違うはずです。なんとか自分たちにしかできない研究

を展開していきたいと考えています。

   学生へのメッセージをお願いします

 研究は試験勉強のような傾向と対策ではだめな世界で

すから、常に心細く不安な心持ちでやっているのですが、

一方で研究のおもしろいところは、やってみないとわか

らない、という楽しい不安と言いますか、そんなところ

だと思います。 近はそれを、かなり古いですが「ふり

むきざまシュート」型研究と呼んでいます。苦しまぎれ

のシュートは成功確率が低いのですが、ゲームチェンジ

につながるかもしれません。そんな仕事もいいかもしれ

ないと思われる学生さんは研究の道を考えてもよいのか

もしれません。

Page 3: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 ( 3 )第 848 号

胆道癌術後補助化学療法への名古屋大の功績

病態外科学講座 腫瘍外科学 肝胆膵外科学分野 教授 江え

畑ばた

 智とも

希き

������������������

��

�����������

��

はじめに

 厚生省の 2019 年統計予測によると、胆道癌の年間罹

患数は 22000 人の第 13 位、年間死亡数は 18600 人で第

6 位です。両者の差は少なく、この癌のタチの悪さが理

解できます。生存期間は無治療で約半年、化学療法で約

1 年、生存確率は約 2-3 年で 0% です。一方、切除例で

は約 3.5 年、術後の 5 年生存率は 40% 程度です(Mizuno

T et al, Ann Surg in press)。手術を行わないと長期生

存の可能性はないと言われますが、満足できる成績では

ありません。これを改善するための一つの方法は術後補

助化学療法です。本法は、切除後に体内のどこかに潜ん

でいる(であろう)癌細胞を早期にたたいて、生存率を

向上させることを期待します。

胆道癌の化学療法

 胆道癌は抗癌剤治療が遅れている領域です。疾患頻度

が少なく市場規模が小さいことと関係するかもしれませ

ん。代謝拮抗薬の gemcitabine(GEM)は切除不能膵

癌において(わずか)1 ヶ月少々の延命効果を有しまし

た(Howard A, JCO 1997)。この結果、本邦で膵癌に

対して保険収載され、さらに類似する胆道癌に対しても

なし崩し的に 2006 年に認められました。比較試験はあ

りません。その頃、膵癌切除後の補助化学療法として

GEM の有効性がドイツから報告されました(Oettle H

et al, JAMA 2007)。これをみて、親戚の胆道癌でも…

と 2 匹目のドジョウを狙おう人がいても不思議はありま

せん。胆道癌多発国である本邦で臨床試験を行う機運が

高まりました。

名大主導の臨床試験へ

 胆管癌切除例に対する GEM 補助療法施行群と手術単

独群の第 III 相比較試験(Bile Duct Cancer Adjuvant

Trial, BCAT)のプロトコールが完成したのは 2007 年

7 月 20 日です。研究事務局は名古屋大学腫瘍外科内で

す。代表研究者は当時の二村雄次教授でした。全国から

55 病院が参加を表明しました。多くの外科医がその必

要性を医学的に理解し、All Japan で取り組むぞ!とい

う気概あったのは事実ですが、実際には鼓舞するために

は報奨金(1 例 10 万円)が必要でした。なお、当時報

奨金は珍しくはなかったことも付け加えておきます。各

群 150 例、計 300 例の予定症例を 3 年で集積するための

苦肉の策とも言えました。

 この BCAT 試験にはいくつかの特徴があります。第

一に、肝外胆管癌にこだわったことです。胆道癌は肝外

胆管、肝内胆管、胆嚢どこからでも発生し、すべて同じ

胆道上皮由来です。抗癌剤ではこれらを区別しません。

にもかかわらず、主任研究者の外科医としての肌感覚か

ら胆嚢癌と肝内胆管癌を対象から除外しました。準備段

階では、症例集積を増やすために、全てを含めるほうが

よいとする意見が主流だったと記憶します。当時の私も

そう思っておりましたが、今ではあの肌感覚は正しかっ

たと断言できます(詳細割愛)。

 第二は、 終登録時から 5 年間経過後に全生存を比較

するという正々堂々すぎるデザインです。臨床試験では

途中報告と 終報告がしばしば異なります。無再発生存

と全生存の結果がしばしば食い違います。都合が悪くな

ると、途中でプロトコールを改訂(解析対象・解析法・

登録症例数の変更)することも業界の常套手段です。す

べては、報告業績を増やしたり、有意差をひねり出した

り、類似試験に先んじるためです。現在でも人間くさい

ことが行われてる事実を知っていて損はないでしょう。

BCAT では 後の症例登録から 5 年経過後に全生存を 1

発解析し、Full paper 1 本を提出すると決まりました。

稀有なストロングスタイルです。

BCAT 試験

 臨床試験が始まると事務局の関心事は症例集積速度が

全てです。2 年を過ぎるころから遅延が生じ始めました。

その主な理由は、患者の参加拒否です。ネットで医療情

報が容易に得られ、胆道癌の術後成績が不良であるとい

Page 4: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 第 848 号( 4 )

う自分の将来についてよく知っています。BCAT でも

し手術単独群に割り付けられるぐらいなら化学療法を受

けたいとなります。標準治療は手術単独群であるという

医療者側の科学的正論はなかなか通用しません。副次的

な理由としては、胆管癌に限定したためと考えます。こ

れは外科医の矜持に由来しますので、プロトコールを

修正することはありません。集積期間を 1 年半延長し、

2011 年 1 月 226 例をもって集積終了としました。報奨

金で医師は動いても、その医師はさらに患者まで動かす

には至らなかったようです。事務局にも責任はあるで

しょう。

 結果は、GEM 群(117 例)と手術単独群(108 例)

の術後生存曲線は全生存(図 1)、無再発生存ともにぴ

たりと重なりました。すがすがしい程の Negative な結

果です。GEM 補助化学療法には再発予防効果も予後改

善効果もないことが示されました。層別化因子(断端、

リンパ節)でみても GEM の有用性は示されませんでし

た。“進行再発での有効性と術後補助治療としての有効

性は必ずしも一致しない”、業界の金言は BCAT でもあ

てはまりました。

世界との競合

 胆道癌補助化学療法の臨床試験は当時世界で 5 つ行

われ、うち 3 つは症例集積が終了していました。BCAT

試験の仮想敵と英 BILCAP 試験(Capecitabine 群 vs 手

術単独群、2006 年開始)と仏 ACCORD18 試験(GEMOX

群 vs 手術単独群、2009 年開始)の 2 つでした。BCAT

は、2016 年夏に 終調査を行い、秋に解析終了と同時

に参加施設への報告を行い、2017 年から執筆を始めま

した。2017 年 1 月に ASCO-GI で仏 PRODIGE18 試験

の結果が公表されました。GEM よりも治療強度の強

い GEMOX でも予後延長効果が示せなかったという結

果でした。さらに、2017 年 6 月には業界のメジャーイ

ベント ASCO にて英 BILCAP 試験の有効だったよとい

う結果が世間に公開されました。しかし、プロトコー

ルは 2 回途中改訂し、intention-to-treat 解析から per

protocol set 解析に変更しています。すなわち、全症例

解析の前者では有意差が出ず、症例を減らした後者で有

意差が出たというもので

す。報告者達は有効性を

誇示しましたが、我々は

モヤっとしています。こ

の結果、北米ではすぐ

に Capecitabine( 経 口

フッ化ピリミジン)は術

後補助治療として使用さ

れるようになりました。

私 ど も は ASCO の 1 ヶ

月後に初めての投稿を行

いましたが、査読コメントは“BILCAP があるので本

研究に意味はない”と辛辣でした。我々のこだわり、長

期観察後で結果にブレがないことよりも、一番乗りが

Global には大事です。BCAT 試験は予定通り論文公開

が先行し(Ebata et al, BJS 2019)、その後に国内で 1

回、海外で 1 回だけ他施設の先生が責務として口演発表

し BCAT は幕を閉じました。

展 望

 BCAT 試験の意義の一つは、臨床試験に参加可能な

選ばれし患者たちの手術単独群成績が判明したことで

す。5 年生存率約 50% は想像以上に良好であり、今後の

基盤情報となります。良好な理由は、予後良好群を含む

ことによります。良好すぎて差が出なかった可能性も否

定できません。術後補助化学療法では予後不良群の成績

を改善することが重要です。有名な予後不良因子である

リンパ節転移例に限定して検討すれば結果がでやすい可

能性があります。本邦では Capecitabine は保険収載さ

れていませんので、別のフッ化ピリミジンである“S-1”

を用いリンパ節転移例に絞り第 II 相試験を行いその

有効性を確認しました(Seita et al, Ann Surg Oncol

2019). さらに、仏 PRODIGE18 試験の主任研究者から

BCAT との統合解析のお誘いがきました(図 2)。敗者

同士の結果を重ねても、やっぱりダメですね。GEM 系

の有効性はないと言ってもいいでしょう。

おわりに

 本邦外科医の期待を背負い、GEM に胆管癌の将来

を夢見て、約 10 年の時間と約 1 億円の予算を注いだ

BCAT 試験は Negative study となりました。これが臨

床試験です。胆管癌の術後は何もせず経過観察すること

が昔も今も標準です。ニッチな領域ですが、名古屋大学

が中心となり世界と少し奮闘した事実を学友会のみなさ

まに知っていただければと思い筆をとりました。今後と

も一層のご指導ご鞭撻を賜りますよう謹んでお願い申し

上げます。

図1 図2

Page 5: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 ( 5 )第 848 号

生体反応病理学 教授  豊國 伸哉

150 周年記念記事 創基 150 周年によせて

 来年には創立記念 150 周年という大きな節目を迎える。これ

まで弛みない努力を続けてこられた先輩の諸先生方に思いを馳

せ、当教室の歴史を簡単に振り返る。名古屋大学医学部は、明

治 4 年(1871 年)仮医学校として設置され、明治 11 年には公

立医学校と改称された。その学科表によると、明治 11 年夏学

期には石井榮三一等訓導が「原病通論」を講じた。この「原病

通論」が今日の「病理学総論」の原形である。病理学教室が独

立して設けられたのは、明治 39 年の愛知医学専門学校時代で

ある。初代教授林直助は、京都大学藤波鑑の門に学び、昭和 6

年まで教室を主宰した。林の も顕著な業積は、ツツガムシ病

の病原体の研究であった。第二代の教授となったのは木村哲二

である。当教室に病理学の基礎が確立し、その水準が国際レベ

ルに達したのは、木村に負うところが大きい。軟部組織に生じ

る好酸球浸潤を来す肉芽腫性疾患は氏の研究報告にちなんで木

村病と命名され、現在でも国際的に使用されている。

 昭和 14 年名古屋帝国大学が創立されるに及んで、病理学第

一講座及び第二講座が設置され、木村が第一講座、大島福造が

第二講座担当の教授となった。昭和 20 年 3 月 12 日、名古屋大

空襲によって病理学教室は灰煙に帰した。戦後、帰還した宮川

正澄が第一講座の教授に就任した。宮川は昭和 36 年第 50 回日

本病理学会総会において「無菌動物を利用する病理学的研究」

と題して宿題報告を担当した。そして昭和 41 年にはラットの

無菌繁殖に成功した。

 昭和 53 年には飯島宗一が病理学第一講座教授として広島大

学から帰還し、教室の再建を実施した。飯島は体系的な疾病理

論に一貫して興味をもち、その業績は多方面にわたる。氏の業

績で特筆すべきは、被爆関連で死亡し広島で部検された症例の

臓器が米国に持ち出され保管されていたのを日本に返還させた

事である。飯島は昭和 55 年には医学部長、その一年後に第八

代の名古屋大学総長に就任した。昭和 59 年に、浅井淳平が第

五代教授に就任した。浅井は、炎症の chemical mediator とそ

の超徴形態、ミトコンドリアを中心とする生体膜の機能と構造

変化の研究を行った。平成 9 年には森尚義が第一病理の教授に

就任した。森は悪性リンパ腫の研究を一貫して行った。種々の

分子生物学的手法を取り入れ、分子病理診断学の確立を目指し

た研究を推進した。平成 20 年に豊國伸哉が京都大学から教授

として赴任し、酸化ストレスの病態への関与をテーマとして実

験病理学を推進し、アスベスト繊維による中皮腫発がん機構を

解明した。またフェロトーシスという新たな制御性細胞死の概

念形成に貢献し、医工連携プロジェクトである低温プラズマの

医療応用に参画した。令和元年には低温プラズマ科学研究セン

ターが名古屋大学に発足した。このような教室の発展は、多く

の教官・技官・学生の努力の賜物であることを強調したい。50

年後、名古屋大学が世界の大学のトップ 100 に入ることを期待

するが、改めて病理学教室は社会の要請に応える研究を推進す

べきと考えている。

細胞生物学分野(旧 解剖学第三講座) 教授  宮田 卓樹

150 周年記念記事 形態・細胞を見つめて

 1939 年、名古屋医科大学が名古屋帝国大学医学部となり、

解剖学教室が三講座へと増やされ、山田和麻呂助教授が第三講

座担任となった(1942 年教授に)。山田教授は下垂体の細胞組

織学を進め、1949 年文部省学術研究会議「体質と遺伝」研究

班の班長、1967 年の第 72 回日本解剖学会の会頭を務めた。伊

藤助教授は、1959 年北海道大学医学部教授に転出し、後に「組

織学」(1977 年)、「解剖学講義」(1983 年)を記した。佐野助

教授が、愛知学院大学歯学部教授を経て 1977 年に第三講座の

次の教授として復帰し、下垂体の計量形態学および免疫組織化

学に取り組むとともに、人体解剖教育センターの設立に尽力し

た。

 佐野教授の後任として 1985 年、若林隆 名古屋市立大学医学

部助教授が選ばれ、教授として着任した。若林教授はミトコン

ドリアに注目し、生化学的手法を組み合わせた形態学的研究を

推進した。また、臼倉治郎助教授、萩原正敏講師・助教授、西

沢祐治助手らのもと、網膜の細胞生物学的手法により、視覚情

報伝達、分化・増殖スイッチなどについて、組織から細胞・分

子レベルにわたる研究がなされた。2000 年、教室名が「細胞

生物学分野」となった。若林教授は日本とポーランドとの間の

学術的交流にも貢献した。1995 年、グダニスク医科大学と名

古屋大学医学部の間に学術交流協定書が、1996 年には同医科

大学と名古屋大学との間に学生相互交流協定書が、それぞれ調

印された。臼倉助教授は、2006 年から名古屋大学先端技術共

同研究センター教授、2007 年から名古屋大学エコトピア科学

研究所教授として、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などを用いた

先鋭的イメージングを開拓した。著書の「よくわかる生物電子

顕微鏡技術(2008 年)」が広く普及している。萩原助教授は、

学部生の研究を積極的に応援し、研究室への配属をカリキュ

ラム(「基礎医学セミナー」)として確立する礎を築いたのち

1997 年、東京医科歯科大学難治疾患研究所に教授として転出

し(2010 年からは京都大学大学院医学研究科形態形成機構学

教授)ケミカルバイオロジーを先導している。

 若林教授の後任として、2004 年、宮田卓樹 理化学研究所脳

科学総合研究センター研究員が選ばれ,教授として着任した。

宮田は、脳の発生についての研究を三次元培養下のライブイ

メージング等を用いた手法で進めている。西沢助手(2007 年

助教)は、2008 年に准教授となり、次いで中部大学の教授に

着任した。西沢准教授の後任として、川口綾乃准教授が 2008

年に着任した。榊原明助教(2009 年から)は講師を務めた後、

2014 年に准教授として中部大学に着任した。宮田は、文部科

学省の新学術領域研究(「動く細胞と場のクロストークによる

秩序の生成」: 2010 年度~ 14 年度)の代表を務め、「脳の発生

学(2013 年)」の編集に携わった。

Page 6: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 第 848 号( 6 )

 消化器内科学教室は、内科学講座の臓器別再編により、

第一内科、第二内科、第三内科の消化器内科研究室が一

つとなり、2003 年2月に誕生いたしました。これにより、

院内医師約 60 名、関連施設 65 病院という、日本有数の大

教室となり、初代教授に後藤秀実先生(昭和 54 年卒)が

就任いたしました。消化器内科のカバーする領域は非常に

広いため、診療、研究、教育を行うにあたり、医局員を、

上部消化管、下部消化管、胆膵、肝臓の4つのグループに

大きく分けた教室運営が開始されました。

 上部消化管グループは、伝統的な形態学診断に加え、新

たな内視鏡技術や遺伝子解析技術を腫瘍診断に精力的に取

り入れるとともに、内視鏡的粘膜下層剥離術に代表される

低侵襲内視鏡治療を発展させてまいりました。

 下部消化管グループは、腫瘍に対する診断・治療技術の

開発に加え、炎症性腸疾患などの難治性良性疾患の診断・

治療法も発展させてまいりました。特に、日本初の試みと

して関連病院の協力を得て構築した、小腸カプセル内視鏡

読影ネットワークは、現在もなお、全国的に高い評価を得

ております。

 胆膵グループは、乳頭部腫瘍に対する内視鏡的切除にお

いて、日本 大数の症例数を誇っております。造影超音波

検査、エラストグラフィーなどの新規技術の胆膵疾患への

応用、新たな胆道ドレナージ法の開発、さらには手術不能

膵臓癌に対するウィルス療法なども手掛けてまいりまし

た。

 昨年度の医学部剣道部の主将を務めさせて頂いておりま

した医学科 4 年の鈴木理史です。名古屋大学医学部創基

150 周年にあたり心よりお慶び申し上げます。我々医学部

剣道部が本学部の創基 150 周年という素晴らしい節目の年

をお祝いすることができるのも、ひとえに OB・OG の皆

様方の平素よりのご支援とご協力によるものであると心か

ら感謝申し上げます。

 医学部剣道部は、現在男子 21 名女子 12 名の総勢 33 名

の部活となっています。年々部員が増え、 医学部剣道部始

まって以来 も人数が多いのではないかと思います。普段

は火曜日と土曜日の週 2 回大幸キャンパスの体育館で稽古

をしていて、どちらも自由参加ですが多くの部員が稽古に

参加して非常に活気があります。また、 近では練習をし

たい人が日曜日にも集まり、それぞれ課題を持って稽古に

励んでいます。

 私は大学に入って、高校までの剣道部と大きく違うと感

じたことが一つあります。それは毎回稽古や指導をしてく

ださる師範がいないことです。しかし、それは悪いことば

 肝臓グループは、ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪

肝炎、肝硬変の病態解明、肝臓癌への非外科治療や急性・

慢性肝不全に対する治療法の開発、肝臓における炎症 - 再

生連関の解明などを行ってまいりました。

 特筆すべきは、教室を挙げて行ってきたアジアの医療支

援であり、2013 年に経済産業省にて、日本式内視鏡トレー

ニングシステム普及プロジェクトが採択されて以降、ベト

ナム国フエ医科薬科大学、ベトナム国バクマイ病院、ミャ

ンマー国ヤンゴン総合病院に内視鏡トレーニングセンター

を設立いたしました。さらに厚生労働省の支援により、タ

イ、ラオス、カンボジアにおける内視鏡トレーニングも開

始し、メコン 5 か国の医療支援を広く行ってまいりました。

 2018 年 3 月、後藤秀実先生の退官とともに、2019 年 1 月、

藤城光弘(東京大学平成7年卒)が2代目教授に就任いた

しました。2019 年 6 月、伊藤忠商事次世代がん治療研究

講座が教室傘下の産学協同研究講座として開講となり、新

たながん治療法の開発研究も開始しております。

 また、消化管と膵臓、肝臓の臓器相関や腸内細菌と各種

疾患との関係を明らかにする研究、AI をはじめとする医

工連携研究も、グループ横断的な研究として始まっており

ます。当教室は、現在でも、院内医師約65名、関連施設

55 病院と日本有数の大教室を維持し発展を続けておりま

す。学友会会員の皆様におかれましては、今後とも温かい

ご支援、ご指導を賜りますよう、よろしくお願い申し上げ

ます。

かりではなく、むしろいい影響も大きいと思っています。

確かに師範がいないと絶対的な指導が受けられず、どうし

ても迷うことがあります。ただそれによって逆に、どうし

たらいいのかそれぞれが考えて稽古をしていると感じま

す。そして、それ以上に個人個人が長所を生かして教え合

う関係ができていると思います。上下関係はありつつも、

先輩後輩関係なくしっかりとアドバイスがしあえることで

剣道の技術の向上だけでなく、部全体としてよい雰囲気に

なっています。そのこともあってか、学年を超えて仲が良

く合宿や飲み会などの行事でも非常に盛り上がります。

 医学部剣道部は人数が多くなってもメリハリを持って、

楽しむときは楽しむ、やるときはやる部活です。西医体を

始めとする大会を目指して全力で稽古をしながら、今後も

このメリハリという部分を大切に、さらに強く、さらに楽

しい部活を目指します。剣道部のさらなる発展のために、

今後とも OB・OG の皆様方のご協力を頂けますようよろ

しくお願い致します。

消化器内科学教室 教授  藤城 光弘

150 周年記念記事 消化器内科学教室の更なる発展を目指して

名古屋大学医学部剣道部 主将  鈴木 理史

150 周年記念記事 創基 150 周年に寄せて

Page 7: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 ( 7 )第 848 号

創基 150 周年医学部基盤整備支援事業卒年別寄附状況

医学部卒業年(西暦)

人数 金額(円)

1948 2 25,000

1949 1 50,000,000

1954 1 200,000

1957 2 30,000

1958 1 10,000

1959 1 200,000

1961 3 320,000

1963 2 70,000

1964 3 400,000

1965 2 220,000

1966 1 30,000

1967 2 30,000

1968 2 500,000

1969 45 5,200,000

1970 2 150,000

医学部卒業年(西暦)

人数 金額(円)

1971 1 200,000

1972 1 100,000

1973 2 1,200,000

1974 5 1,100,000

1975 3 430,000

1976 3 360,000

1978 1 10,000

1979 3 600,000

1980 5 1,120,000

1981 3 600,000

1982 7 650,000

1983 5 960,000

1984 3 610,000

1985 4 700,000

1986 2 220,000

医学部卒業年(西暦)

人数 金額(円)

1987 4 360,000

1988 3 500,000

1989 1 130,000

1990 1 200,000

1993 2 400,000

1994 1 10,000

1995 2 300,000

1996 1 200,000

1997 5 720,000

1998 1 200,000

2004 1 200,000

2005 1 50,000

※その他 32 38,430,001

合 計 173 107,945,001

2020 年 9 月 7 日現在

※その他 卒年不明者・保護者・団体

人生人生

山あり谷あり山あり谷あり第 58 回第 58 回「「ノックノック」」 井井

いい

口口ぐちぐち

  昭昭あきあき

久久ひさひさ名古屋大学名誉教授名古屋大学名誉教授

愛知淑徳大学教授愛知淑徳大学教授

 診察室は患者がいないときは私一人になる。

 その日は暇であった。ドアをノックする人がいた。

 戯れに「タカギさんどうぞ」と大きな声でいってみた。

 ドアを開けたのは事務の高木さんであった。私のいい

加減の推測は当たっていたのだ。

 突然名前を呼ばれたタカギさんは「どうして私だって

わかったんですか?」とびくりした。

 「私はね、ノックの音で誰かわかるんよ。小さな音で

ツンツンとたたく人は事務の小室さんで、なぜるように

優しくノックする人は高木さんよ」と真面目な顔をして

言うと

 「本当ですか?」と高木さんが念を押した。

 「嘘だよ。分かるわけないだろ」と言うと高木さんは

 「お医者さんが言うと本当だと思うじゃない!」と憮

然として言った。

 新型コロナウイルスが流行っている。

 感染した患者が私のクリニックの診察室のドアをいつ

ノックしても不思議ではない。

 テレビは朝から晩までこの話題で持ちきりである。

 この騒ぎを通じて日本国民は医者と風邪の関係の理解

を深めた。

 患者は医者にさえ

診てもらえばどんな

病気でもたちどころ

に診断してもらえる

と思っていた。

 しかし繰り返され

る報道によって新型

コロナウイルスは初期であろうと中期であろうと PCR

検査によってしか診断ができないことを知った。

 それに発熱があっても2日間は家にいて医者に行くな

とのお達しは「医者へ行ってもしょうがない」というこ

とにホカならない。

 新型コロナばかりではなく普通の風邪にも効く薬はあ

りませんといっているのである。

 医者の主観と経験は何の役にも立たず「黙って座れば

ピタリと当たる」という超能力を医者はもっていないこ

とがばれてしまったのである。

 これからは「お医者さんが言うことは本当かどうか疑

わしい」ということになるかもしれない。

Page 8: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 第 848 号( 8 )

新院長新院長にに

聞 く聞 く

中部ろうさい病院

佐さ

藤とう

 啓けい

二じ

   病院長に就任された今のお気持ち

 「窮すれば通ず」

 平成 14 年 4 月内科外科臓器別再編成に伴う大混乱に

陥った愛知医科大学病院・病院長に就任し、絶対絶命の

ピンチを経験した折、この言葉を拠り所にがんばってき

ました。今年 4 月より中部ろうさい病院・病院長に就任

しましたが、「これだけの病院が実力を十分発揮できず

にいる状況を打破し、飛躍させなければならない」と思

い、再び「窮すれば通ず」を思い返しています。

   病院の特徴

厚生労働省所管の独立行政法人である労働者健康安全機

構の下、32 病院(2 脊損センター、1 リハセンターを含

む)が配置されていますが、中部ろうさい病院は病床数

531(回復期 50 床)と比較的規模の大きい病院で、労働

者の健康安全を守る「勤労者医療」を実践する事を使命

とし、地域中核病院として急性期医療を担当しつつ、治

療就労両立支援事業を実践する役割も担っています。労

災義肢センター(現在は廃止)にて、装具や義足の研究

開発を行ってきた歴史があり、脊損患者を対象とした治

療・看護・リハビリテーションでは東海北陸地区屈指の

センターとして機能しています。

   今後の展望や抱負

 名古屋市南部に位置する病院群(掖済会病院、中京病

院、大同病院、協立総合病院、中部ろうさい病院)の中で、

18 領域ある MDC(major diagnostic category)の退

院患者におけるシェア率を比較すると、中部ろうさい病

院は筋骨格系以外の MDC において中位であり、次第に

競争力を失いかけているのではないかとの指摘をいただ

いています。しかしながらチームワーク医療を根幹とし

た総合医療レベルは高く、ユニークな取り組みも数多く

実践しているので、地域住民の皆さんに理解されるよう

広報活動に力をいれると共に、患者満足度向上に向けた

複数施策を企画する事により、地域に不可欠な中核病院

として継続的発展が見込めるものと考えております。

   卒後研修への取り組み

初期研修医に も強調していることは患者さんのそばに

いることです。将来の医師像が初期研修医の 2 年で決ま

ることが多いため、初期研修医の 初の日から「患者さ

んの話を聞く」という習慣を身に着け、その行動を習慣

として自然に行うことができるようにする。そうすれば

患者さんからの信頼も得られ、多くの経験を身に着ける

ことができ、医師として大きく成長できると思います。

一方、初期研修医を受け入れる側が留意すべきことは、

懸命な初期研修医を決して孤独にしないことであると思

います。必ず一緒に患者を診ること、責任は上級医がと

らなければならないこと、弱者の側に立つ医師であるこ

とを示すことが、初期研修医を受け入れる先輩医師の

低限の役割であり、経験と年齢と専門も異なる医療者が

協力して初期研修医を囲み支えながら患者さんを診る姿

勢を示すことが、当院での卒後研修を

価値あるものにしていると思っていま

す。

   学生へのメッセージ

 朱熹(朱子)の「偶成」という漢詩

だとされている「少年易老學難成」 

 一定の地位についてしまうと、全体

の発展や後輩の育成に時間を取られて

しまいます。自ら成長する為に、自ら

時間を使えるのは、人生でわずかの期

間です。体を鍛えつつ、知的刺激に感

動しながら、深い学問の世界を探索し

てもらいたいと強く願っています。

Page 9: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 ( 9 )第 848 号

新院長新院長にに

聞 く聞 く

安城更生病院

度わた

会らい

 正まさ

人ひと

   病院長に就任した今の気持ち

 安城更生病院は、大学病院に劣らない良質な医療を提

供すべく、官立名古屋医科大学(現名大医学部)の全面

的な支援をうけ、1935 年 3 月に設立されました。以来、

幾多の先人の努力により、大きく発展を遂げてきました。

現在は地域中核災害拠点病院、地域がん診療連携拠点病

院、地域医療支援病院、総合周産期母子医療センター等

の指定をうけ、749 床を有する西三河 大の中核施設と

しての歩みを続けています。私は 1985 年に名大を卒業

し、中京病院での 2 年半の研修ののち 1987 年に当時の

更生病院に赴任しました。以来当院一筋で現在に至って

います。カテ室・CCU での循環器診療一辺倒から、徐々

に管理業務に軸を移すことになりましたが、これも与え

られた責務ととらえています。折からのコロナ禍も含め、

医療を取り巻く環境は決して楽観を許すものではなく、

厳しいかじ取りになろうと思いますが、全力で職責を果

たしていく所存です。

   病院の特徴

 私たちの西三河南部西医療圏は、現在も人口増加を続

け、比較的若年層の多い全国的にも特異な地域です。医

療需要は全国的には 2025 年にピークを迎えると言われ

ていますが、当圏域では 2045 年以降も増え続けると予

測されています。質・量ともに充実した医療を提供し続

けるために、立ち止まることなく進化し続けていかねば

ならないと思っています。幸いなことに当院は、診療科

間・職種間の垣根が極めて低く、全職員が協調して事に

当たることができる風土を持ち、併せて地域住民からの

信頼も厚く、誇りと気概を持って働ける病院だと自負し

ています。

   今後の展望や抱負

 現在当院では“発展的再構築”と銘打った施設整備の

真 中です。2021 年には、高精度放射線治療棟と 6 階建

ての新棟が稼働予定、さらに1年をかけて既存棟の改築

を終えると一段と機能を向上させた新しい安城更生病院

が誕生します。今回の 大の強化ポイントは癌診療と救

急医療の分野です。集学的治療を目指して、総合がん診

療センター(仮称)を立ち上げ、外科手術・化学療法・

放射線治療の 3 本柱を強化します。特に放射線治療では、

全国的にも珍しいトモセラピーとサイバーナイフの 新 2

機種を擁し、あらゆる癌に対応できる体制を構築します。

また、救急医療の面では、循環器センターを一新し、専

用ハイブリッドラボを含めた血管撮影室及び CCU を増設

強化します。ハードの整備と並行して、この新しい舞台

で活躍する医療者の育成に、今までにも増して力を注い

でいきます。診療面は言うまでもありませんが、臨床研究・

学会活動を奨励支援し、当院から世界に向けて発信し続

ける一流の病院を目指していきたいと考えています。

   卒後研修への取り組み

 当院は 1968 年から 1 年間の複数診療科研修を導入、

1974 年には現行制度の原型とも言えるローテート研修を

開始しており、長い歴史と実績を持つ中部地方でも有数

の教育病院です。2006 年には教育研修センターを独立さ

せ、専従のスタッフがきめ細かい研修支援に当たってい

ます。現在は毎年 19 名の初期研修医が仲間に加わって

くれています。例年その半数程度が名大の卒業生ですが、

全国各地から多彩な人材が集まります。36診療科を有し、

それぞれに魅力的かつ熱心な指導医がそろっています。

救急搬送は年間 9,000 台を超え、手術件数は 8,300 あま

り、ハイリスク症例を含む分娩数は全国有数で、救急か

ら高度医療まで充実した研修に意欲的に取り組んでいま

す。初期研修を修了した医師のほとんどがそのまま当院

での専門医研修に進みます。内科・外科・小児科・整形

外科・麻酔科の 5 科では基幹型プログラムをもっており、

初期研修を当院以外で受けた医師も受け入れています。

   学生へのメッセージ

 私が名大の学生だったころと現在の学生生活は大きく

異なり、大学の課題など大変でしょうが、比較的時間が

自由になるのは学生の特権です。今しかできないことに

チャレンジして、学生生活を大いに楽しんでください。

ただ、医師になったらやりたいことができないというこ

とは決してありません。専攻科、さらにその中での専門

領域も、実臨床に触れて楽しいと思えることをそれぞれ

の価値観で選ぶべきです。その選択が許されるのが、医

師という仕事の 大の魅力の一つだと思います。安城更

生病院の研修ではきっと楽しいこと、やりたいことが見

つけられるはずです。

Page 10: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 第 848 号( 10 )

新院長新院長にに

聞 く聞 く

江南厚生病院

河こう

野の

 彰あき

夫お

   病院長に就任した今の気持ち

 江南厚生病院は、江南市内にあった愛知県厚生連の愛

北病院・昭和病院の統合により、2008 年に尾張北部医

療圏 大規模の病院として開院し、歴代病院長のリー

ダーシップのもとに成長を続けてきました。2025 年問

題に代表される医療の転換期に向かう時期にバトンを託

されたということも含め、大きなプレッシャーを感じて

いますが、江南厚生病院が地域の皆様に信頼される存在

であり続けるよう、職員とともに努力したいと考えてい

ます。

   江南厚生病院の特徴

 地域周産期母子医療センター・救命救急センター・地

域中核災害医療センター・がん診療拠点病院・地域医療

支援病院の指定を受けている地域の中核病院であり、高

度急性期・急性期医療の提供を中心に地域貢献に努め、

「断らない医療」を実践して、2019 年度の救急搬送は約

7,200 台、応需率は 99.8% を誇ります。診療科同士の垣

根が低く、メディカルスタッフも非常に協力的で、風通

しがよいのが特徴といえます。当院では日常の光景です

が、実習や見学に来た学生さんからは「気持ちのよい挨

拶が飛び交っていて、他の病院と比べて雰囲気がよい」

とよく言われます。

   今後の展望や抱負

 地域住民の皆様の期待に応えるべく、診療機能のさら

なる充実を図りたいと思います。特に大きな柱の一つで

あるがん治療に関しては、一昨年トモセラピーが導入さ

れており、さらに手術支援ロボット導入の計画がありま

すので、それぞれの特徴を活かして、より洗練された集

学的治療を展開したいと考えています。

 一方で、ハード面だけでなくソフト面での充実も重要

であり、個人レベルでも組織レベルでも、病院全体とし

てより高いレベルでの医療安全文化が醸成されること、

多職種間の相互の理解と尊重に基づく有機的なチーム医

療が実践できることなど、より成熟した医療を提供でき

る病院を目指したいと思っています。

   卒後研修への取り組み

 当院では、インターン制度が廃止され旧臨床研修制度

が創設された当初、約半世紀前から名古屋大学の関連病

院として臨床研修を行ってきましたが、新臨床研修制度

が開始となった 2004 年以降も、自然な流れで「名大方

式」によるスーパーローテートを堅持しています。自

分も 1987 年に名古屋大学を卒業後、昭和病院で臨床研

修を行い、大学を含む他施設での研鑽を経て、縁あって

1999 年に昭和病院に戻りました。そして、まもなく臨

床研修に携わるようになり、江南厚生病院開院後、2009

年からプログラム責任者として当院の臨床研修のレベル

アップに取り組んできました。

 当院では、すべての研修医ができるだけ早い時期に救

急科研修を受けられるようにローテーションが組まれて

おり、救急専門医の手厚い指導を受けることができます

ので、現場でしっかり経験を積んだうえで、1 年次のう

ちから救急車のファーストタッチをしてもらっていま

す。他の多くの名大関連病院がそうであるように、屋根

瓦方式の指導体制がしっかりしており、各科の専門医・

指導医のバックアップ体制も整っています。救急外来症

例の共有も含め、指導医のレクチャーを主体とする勉強

会、研修医自らが企画する勉強会などを行っており、互

いに切磋琢磨しながら高みを目指す環境があります。ま

た、メディカルスタッフも優秀かつ協力的で、病院全体

で研修医を育てる文化が根づいています。

   学生へのメッセージ

 医師という「肩書」を得た後も、医師である前に一人

の社会人であること、一方で、医師にはプロフェッショ

ナリズムが求められるということを忘れないようにして

ほしいと思っています。医師として何十年の経験を積ん

でも、すべての医療従事者と仲間として尊敬し合える関

係を築けること、患者さんを全人的に捉え、それぞれの

物語を持つ一人の人間として尊重できることが大事で

す。学生時代は時間がたくさんあります。学問を究める

ことも大事ですが、少なくとも臨床に携わるのであれば、

人道に反することでなければ何でもよいので、多様な価

値観に触れる機会をたくさん作って、世界を広げると同

時に、人間としての幅を広げてほしいと思います。

Page 11: 教 授 就 任 - 名古屋大学...cues: roles of the Akt substrate Girdin in can- |³ D Î j S (2 ) 2020年9月22日発行 第848号 cer progression and angiogenesis. Cancer

 2020 年 9 月 22 日発行 ( 11 )第 848 号

Covid-19 医学教育

 2 月中旬ごろから毎日、新型コロナウイルス感染症拡大

に関する情報が入ってくる中、臨床実習を休止すべきかど

うかについて 初の打ち合わせを行ったのは、2 月 26 日、

学部教育委員長である木村宏先生の教授室においてであっ

た。展開は早く、2 月 28 日には翌週からの 5 年生の臨床

実習の休止を決定。そしてその後すぐに 6 年生の臨床実習

の休止も決まった。

 3 月上旬に、2020 年度の講義・実習を全面的に、名古

屋大学独自の LMS(Learning Management System) であ

る NUCT(Nagoya University Collaboration and Course

Tools) を基盤に行うことが全学(東山)で決まった。そ

れ以後は、学生研究会/薬理学の黒田啓介助教、卒後臨床

研修・キャリア形成支援センター/総合診療科の近藤猛助

教とともに、医学部の全教員が NUCT を利用できるよう

にするためのインフラ構築の仕事が始まった。東山の情報

基盤センターの関係者に半日かけて電話をかけまくった

ら、藤巻理事や松尾総長まで巻き込んで土日にメールで対

応を議論することになったことも、今となっては良い思い

出である。

 Covid-19 対策 WG に 26 人の学生委員が加わり Zoom

会議に初めて参加したのは、実習などの中止が相次いで決

定された 4 月上旬であった。学生に課された仕事は、代替

措置に関する各学年の意見を取りまとめたり、自宅学習(反

転授業やオンライン試験など)で生じた問題点をフィード

バックしたりすることだった。ただ、「自分たち学生にで

きる仕事はないか」と積極的に行動したことで、より多く

の役割を果たせたと感じている。例えば、オンラインでの

実施となった PBL の試験運用を 4 年生の学生委員が中心

となって進め、改善点や注意事項を事前に学生と担当教員

へ周知した。それが功を奏し、「しっかりした制度設計の

おかげで、例年より議論が活発になった」と話す先生もい

たようだ。1年生からは、部活の新歓や同級生と会う機会

がほとんど無くなってしまい、大学の雰囲気がつかめず不

安だという意見が届いた。そこで、医学入門のガイダンス

を兼ねてオンラインでの新入生交流会を実施した。交流会

の準備を行った 1 年生の学生委員の仕事ぶりは上級生と遜

色なく、現在も精力的に活動している。

 他の手段による代替が特に困難なものとして、解剖実習

と臨床実習がある。解剖実習は神経解剖学・発生学と時期

を入れ替える形で 10 月以降に延期されたが、これは 3 年

 4 月に入って学生のインターネット環境に関するアン

ケート調査を行った際に、教員側が気づいていなかった学

生の不安の声を聞けたことが、学部教育委員会 Covid-19

対策 WG に学生委員が加わることになったきっかけであ

る。経緯は国立情報学研究所のサイバーシンポジウムでの

発表(https://www.nii.ac.jp/news/upload/20200501-13_

Nishigori.pdf)に詳しいが、学生の自治を重んじる名古

屋大学医学部の伝統をこの有事に大事にすることができた

ことは、学友会の諸先輩方に胸を張れることだと思ってい

る。

 ピーク時には毎日 Covid-19 対策 WG の Zoom 会議を行

い、オンライン教育を構築していった。この場を借りて、

WG 委員の木村教授、黒田助教、近藤助教、学生委員、学

務課の皆さん、そして全ての教職員の皆さまに感謝申し上

げたい。本学の医学教育は今後、医学教育分野別認証評価

の受審、そして岐阜大学との教育連携に取り組むことにな

るが、今回の名大医学部のコロナ有事対応は、文部科学省

が他大学へのモデルとして取り上げるレベルの内容であっ

たことを 後にご報告申し上げる。

生の助言をもとに、2 年生の学生委員が解剖学講座の先生

方と直接話し合ったうえで決定した。臨床実習は 3 月から

休止されレポートとなったが、「志望科を考える機会でも

あるので、中止された実習を別の時期に行いたい」という

意見が 5 年生から多く寄せられた。そのため、任意かつ選

択制で中止となった診療科の臨床実習Ⅰを夏休みに行うこ

とを計画し、その仕組みづくりを 5 年生の学生委員が自ら

行うことになった。前例のない取り組みのため苦労が絶え

ず、WG の先生方や診療科の先生方に何度も相談に乗って

いただいた。愛知県内の感染者が再び増加し、夏休みの 1

週目を終えたところで残念ながら実習は中断となったが、

ご協力くださった先生方や学務課の皆様に改めて感謝申し

上げたい。

 学生委員は他にも様々な活動を行い、学生が主体となる

ことで自分たちの意見を具現化し、コロナ禍での医学教育

を改善することができた。このことは「コロナレガシー」

と言っても過言ではないと思う。私たち 5 年生はあと 1 年

半で卒業するが、ともに WG を支えた後輩たちの手で、

学生の主体性を大切にする名大医学部の伝統は引き継がれ

るだろう。

新型コロナウイルス感染症拡大状況下での本学の医学教育における対応 総合医学教育センター長・教授 錦織  宏

Covid-19 対策WG学生委員の活動 Covid-19 対策WG 5年生学生委員 加藤 大暉 柴田 莉奈 市野 貴大 中島菜都美