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遺伝子治療DDSの開発について
2019年9月3日
慶應義塾大学 理工学部 機械工学科
准教授 尾上弘晃
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Drug Delivery System (DDS)
- 薬剤などを様々な材料で封入・装飾・加工- 放出の量,時間,場所などの制御が可能
背景: DDS
L. Robert, Nature. 392, (1998) Y. Hiruta, et al., RSC Adv. 7, 29540-29549 (2017)
磁力と温度・pH変化による薬剤放出 特定の環境での薬剤の放出
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• 遺伝子治療
異常な遺伝子を持っている細胞に
対して遺伝子を導入することで欠陥
修復・修正する治療手法
• アデノ随伴ウイルス(AAV)
ウイルスベクターとして注目
- 非病原性で安全
- 遺伝子導入の効率が良い
背景: 遺伝子治療
AAVの模式図
S. Kronenberg, et al., EMBO Reports. 2, 997-1002 (2001)
AAVの電子顕微鏡写真
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投入されたAAVによる遺伝子導入には3日程度の時間が必要
• 内耳遺伝子治療老人性難聴や突発性難聴など
の根治治療が可能
AAVによる遺伝子治療適用例
投与したAAVを狭く複雑な構造に固定すること
一度の投与で継続的にAAVを徐放すること
J. Suzuki, et al., Scientific Reports. 7, 45524 (2017)
ラットの内耳へ遺伝子を高効率に導入
医療応用への課題手術により正円窓窩からAAVを投与
遺伝子としてGFP(緑色蛍光タン
パク質)を導入したので,遺伝子導入に成功した細胞は緑色に染色されている
内耳の模式図 正円窓窩(投与部位)
内耳手術による内耳へのアクセスルート
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・既にAAVを生体内で除法する方法として、コラーゲンゲルやアルギン酸ゲルなどにAAVを封入し、皮下に投与する手法が報告されている。
(Chandler, L. et al., Molecular Therapy, 2(2), 153, 2000)
・しかし、AAVの徐放の速度の制御
生体深部の特定の場所への固定
等の問題が解決されておらず、広く利用されるまでには至っていない。
従来技術と問題点
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複合マイクロゲル構造体の徐放システム
①放出制御 ②固定性向上
大きさの均一なマイクロビーズにAAVを封入
AAVを担持&放出を制御
マイクロビーズとコラーゲンの混合溶液を内耳に滴下 or ゲル化してか
ら投与することで患部にフィットした形状でゲル化
複雑な構造への固定が可能
(酵素)
ヒトの体温(37℃)でゲル化
直径 約100 µm
数 mm 程度
アルギン酸ゲル
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アルギン酸ゲル
ゲル化の様子アルギン酸塩の構造式
• 高速にゲル化
• メッシュサイズが小さく,AAV(直径 ~20 nm)を担持可能
Gianluca Turco, et al., Bio mac., 12 (2011) 1272-1282
• アルギン酸リアーゼ(酵素)により溶解.放出制御が容易
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遠心機を利用したマイクロゲルビーズの形成
Centrifugal tubeK. Maeda, et al., Adv. Mater., 2012
Metal salt solution
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微小量(< 1 µL)サンプルへの適用
- 油や界面活性剤不要(オイルフリー)- 流路内デッドスペースがないため、サンプルロスがない
~0.5 µL
sample
solution
K. Inamori, et al., RSC Adv. 2014
Metal salt solution
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マイクロゲルビーズ
作製したビーズ径の分布
ビーズ径
変動係数約3%と均一な作製に成功 一定の放出を実現可能
ガラス管先端径:70 µm 遠心加速度:2000 G
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アルギン酸リアーゼによるビーズの溶解の様子
アルギン酸ゲルビーズ
NIH/3T3細胞
100 µm
8倍速
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Hela細胞へのAAVの徐放・感染実験
実験条件
HeLa細胞
アルギン酸ゲル
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Hela細胞へのAAV感染結果
【実験1】AAVのみ
【実験2】AAV封入マイクロゲルビーズ
【実験3】AAV封入マイクロゲルビーズ+アルギン酸リアーゼ
AAVをゲル内に担持可能
高い感染効率を維持したままAAVを放出
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生体内固定を想定したAAV徐放実験
AAVゲルビーズを内包したコラーゲンゲル作製方法
放出原理
Y. Yang, et al., Biophysical Journal. 97, 2051-2060 (2009)
コラーゲンのメッシュサイズ
4mg/mL の時 約 2000 nm
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ゲルビーズの生体内固定を想定したAAV徐放実験
実験条件
HeLa細胞
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AAV感染によるGFP発現率
コラーゲンのみではAAVを担持不可 コラーゲンゲル
を透過しAAVを放出可能であることを確認
マイクロゲルビーズを用いることでAAVを担持可能
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アルギン酸マイクロゲルビーズを用いてAAVを担持することに成功
アルギン酸リアーゼでビーズを溶解させることでAAVのみと同程度の細胞への感染を確認
コラーゲンゲルによるゲルビーズの封入により、AAVを生体内部への固定とAAV放出制御が可能
実験動物(マウスorマーモセット)を用いた in vivo 実験による本DDSシステムの実証実験を計画中
AAVの徐放速度や保持期間のより精密な計測
疾患に対しての効果検証
結論と今後の課題
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新技術の特徴・従来技術との比較
• 均一径のマイクロゲルビーズの利用によりAAVの徐放期間と速度の制御が可能。
• 内耳などの狭い体内の空間に安定して固定が可能。
• 冷凍・解凍による保存が可能。
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想定される用途
• 本技術の特徴を生かすためには、内耳など生体内深部への遺伝子治療に適用することで、カテーテルや注射針などを通してマイクロスケールのDDS担体が低侵襲で固定可能であるメリットが大きいと考えられる。
• また、内耳以外にも、遺伝子治療が有効である皮下や体腔内へのウイルス担体の固定など、汎用的な治療法として展開することも可能と思われる。
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企業への期待
• 本技術の関連分野において、実用化の経験・実績を持つ、企業との共同研究を希望
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :薬物送達用担体
• 出願番号 :特願2018-161863
• 出願人 :学校法人慶應義塾,学校法人慈恵大学
• 発明者 :藤岡正人,尾上弘晃,倉科佑太,宮原英生,岡野ジェイムス洋尚,吉田知彦,小川優樹,栗原渉,宮内央子
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産学連携の経歴
• 2010年-2013年 JST ERATOプロジェクト(竹内バイオ融合)において、株式会社柴崎製作所とポンプシステムの共同研究を実施
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お問い合わせ先
慶應義塾大学
研究連携推進本部 高橋 勇美
TEL 03-5315 - 4368
FAX 03-5315 - 4369
e-mail isami.takahashi@adst.keio.ac.jp