II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

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II. と混 象* 論― 夫*・ 西 肇** 化学工 学 が対 象 とす る輸 送現 象 は,輸 送の推進力が有 効に働 く境 膜を 考 え て,境 膜の厚みを支配する操作因子 と,輸 送のフラックスとの相関をもとめるといった方法 で,そ のほとん どが と り扱 われ てきた。 しか し,壁 に ご く接近 した領 域 で あ って も,輸 送 され る諸 量 の拡 散 係 数 の 大小関 係に よっ ては,乱 れの影響を含んだ有効境膜を 考 えね ば な らない 。 流体 中 の輸送 現 象 が,層 流中で行なわれることはむし ろ まれ であ る。した が っ て,壁 か ら離 れ た領 域 の 乱 れ の性 格 を知 り,そ の乱 れ が現 象 を 支 配 す る境 膜 に どの よ うな 影響 を及 ぼ すか を 考 慮 して,壁 に 近づ い てゆ くのが,ほ ん と うの 方 法で あ ろ う。 流 体 に よっ て運 ば れ なが ら ,粒 子群,あ るい は ガス が ひ ろが って ゆ き,各 粒 子,各 成 分 の ガスが,周 囲の流 体 と物 質 交換 を起 こ し ,あ るいは反応 を起 こす場 合 に は,移 動速度は流体の乱れそのものによ って支配 され る であ ろ う。乱 流 の基 礎 的 な 考 え方 が ,化 学 工学 の解 析 を助 け る もの とな るの は い うまで もな い。 ここでは,壁 の 制 約か ら離 れ た 乱 れ の性 質 を ,数 学的 な取扱 いを 従 と して お こな い乱 流 の物 理 的 イ メー ジを 明 らか にす る ことに 努 めた 。 また,代 表例 に よ って ,拡 散 な どの輸 送現 象 に乱 れ が い か に 関 与す るか を 説 明 し,壁 の近 くの乱 れ に もふ れ て お い た。 1. 乱流の基礎方程式 乱流 にお い て も,運 動 方程 式,Navier.Stokesの 式が そ の まま適 用 で き るの は い うまで もな い。 この 方程 式 は 数学 的 には 複雑 で あ り,ほ と ん ど一 般解 を得 る こ とはで きない。 したが って,数 学 的 な 変形 を行 な って ,そ こに 物 理 的 意味 を見 出 そ うとす る試み が 行 な わ れ て きた。 そ の中心 を なす の が非 線 型項 の 役 割 で あ り ,こ れ をた ど っ て,乱 流 の 方程 式 を,渦 あるいは乱子の運動学に代えて 解 釈 しよ うとす る近 年 の 方法 を導 い て お こ う。 1.1 非 線 型 項 とN・S式 1) Reynoldsの 2次 元 のNavier-Stomkesの 式(以 下N・S式 と略 る) (1.1) に おい て,す べ て の量 を 時 間的 平 均 値 とそれ か らのず れ (乱れの成分)に わけ る。u',v'はx,y方 向の速 度 変動, p'は 圧力変動である。 (1.2) 上2式 より (1.3) (1.1),(1.3)式 を く らべ れ ば,乱 流 であ るた め に見 か け の応 力 ρu'u',ρu'v'があ らわ れ て い る。 この項 を知 れ ば,乱 流 の問 題 は 解 け た こ とに な る。 しか し,こ の項 を求 め るに は(1.1)式 にu',あ る い はv'を かけて, u'u'あ るい はu'v'に 関する方程式をつ くらねばならな い 。 そ の式 に あ らわれ る未 知 数 は,u'u'u',u'v'u'… あ る。 した が っ て,単 な る平 均 操 作 で は乱 流 のN・S式 を 解 く ことは で きな い。 数 学的 には,解 け ぬ原 因は,N・S式 が 非 線型 項u∂u/∂ x な どを 含む か らで あ る。 この非 線 型 項 は そ の物 理 的 意 味 か ら慣 性 項 と も呼 ば れ て い る。 この 理 論 的 困難 を さけ る た め に,未 知量 で あ る乱 れ速 度 の積u'v'な どを 平 均流 の 歪 み に よ って あ らわ そ うと した のが,乱 流理論初期の試 み で あ って,そ の代 表例 が混 合 距 離 理 論 で あ る。 この 理 論 は 今 日で も強 力 な 解 析手 段 で あ って,一 応の成功をお さめ てい るが,理 論 的 に は 多 くの 矛 盾 を 含 んで い る。 *昭 和39年1月17日 受理 **北 海道大学工学部 ***東 京大学工学部 第28巻 第6号(1964) (69) 495

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II.  乱 流 と 混 合 拡 散

乱 流 と 輸 送 現 象*

― 最 近 の 乱 流 理 論―

遠 藤 一 夫*・西 村 肇**

ま え が き

化学工学が対象 とす る輸送現象は,輸 送の推進力が有

効に働 く境膜を考えて,境 膜の厚みを支配する操作因子

と,輸 送のフラックスとの相関をもとめ るといった方法

で,そ のほとん どが と り扱 われ てきた。 しか し,壁 に ご

く接近 した領域であって も,輸 送 され る諸量 の拡散係数

の大小関係に よっては,乱 れの影響を含んだ有効境 膜を

考えねばならない。

流体中の輸送現象が,層 流中で行なわれ ることはむ し

ろまれであ る。したがって,壁か ら離れた領域の乱れの性

格を知 り,そ の乱れが現象を支配する境膜に どの よ うな

影響を及ぼすかを考慮 して,壁 に近づ いてゆ くのが,ほ

んとうの方法であろ う。流体に よって運ばれなが ら,粒

子群,あ るいはガスがひろが ってゆ き,各粒子,各 成分の

ガスが,周 囲の流体 と物質交換 を起 こし,あ るいは反応

を起 こす場合には,移 動速度は流体の乱れそのものに よ

って支配されるであ ろ う。乱流 の基礎的な考え方が,化

学工学の解析を助け るもの とな るのはい うまで もない。

ここでは,壁 の制約か ら離れた乱れの性質を,数 学的

な取扱いを従としてお こない乱流の物理的 イメー ジを明

らかにすることに努めた。 また,代 表例に よって,拡 散

などの輸送現象に乱れがいかに関与す るかを説明 し,壁

の近くの乱れに もふれておいた。

1.  乱流の基礎方程式

乱流においても,運 動方程式,Navier.Stokesの 式が

そのまま適用できるのはい うまで もない。 この方程式は

数学的には複雑であ り,ほ とんど一般解 を得 ることはで

きない。 したが って,数 学的な変形 を行 なって,そ こに

物理的意味を見出そ うとす る試みが行なわれて きた。そ

の中心をなすのが非線型項 の役割であ り,こ れをた どっ

て,乱 流の方程式を,渦 あるいは乱子の運動学に代えて

解釈 しよ うとする近年の方法 を導いてお こ う。

1.1  非線型項とN・S式

1) Reynoldsの 式

2次 元のNavier-Stomkesの 式(以 下N・S式 と略記す

る)

(1.1)

におい て,す べ ての量を時間的平均値 とそれか らのずれ

(乱れの成分)に わけ る。u',v'はx,y方 向の速 度変動,

p'は 圧力変動である。

(1.2)上2式 よ り

(1.3)

(1.1),(1.3)式 を くらべれば,乱 流 であ るために見

かけの応力 ρu'u',ρu'v'があらわれている。 この項 を知

れば,乱 流の問題は解けたことになる。 しか し,こ の項

を求め るには(1.1)式 にu',あ るいはv'を かけて,

u'u'あ るいはu'v'に 関する方程式をつ くらね ば な らな

い。その式にあ らわれ る未知数は,u'u'u',u'v'u'… で

あ る。 したがって,単 なる平均操作では乱流のN・S式

を解 くことはで きない。

数学的 には,解 けぬ原 因は,N・S式 が非線型項u∂u/∂x

な どを含むか らである。 この非線型項はその物理的意味

か ら慣性項 とも呼ばれてい る。 この理論的困難を さけ る

ために,未 知量 である乱れ速 度の積u'v'な どを平均流 の

歪み によってあ らわそ うとした のが,乱 流 理論初期の試

み であって,そ の代表例 が混合距離理論である。 この理

論は今 日で も強力な解析手段であ って,一 応の成功をお

さめ てい るが,理 論的には多 くの矛盾を含んでい る。

*昭 和39年1月17日 受理

**北 海道大学工学部

***東 京大学工学部

第28巻  第6号(1964) (69) 495

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その もっとも大 きな原因は,乱 れの性質が,ま わ りの

流れ とは無 関係に一点の平均流 の状態だけで きまるとし

た ことにある。 しか し,流 体 ではあ る点の動 きは,そ の

周囲の動きとは無関係ではない。互いに影響を及ぼ しあ

っている。層流状態では,も っとも強い相関があるが,

Reynolds数 が 大き くな って乱れ て くると,偶 然的 な運

動を ともなって,相 関の度合は減 って くる。 しか し,流

れが運動方程式に よって規定 され る以上 は,相 関は零に

はな り得ないのであ る。す なわち,空 間中の2点 が どの

よ うに影響を及ぼ しあってい るかを知 ることが,乱 れ の

性格 を知 るもっとも良い近づ き方 であ る。

この よ うな見かたか らvonKArmanら は次 のよ うな

式を導いてい る。

2) Kaman-Howanthの 式

二つの点P(x1,y1,z1)と,Q(x2,y2,z2)に おける変動

速度の成分をそれぞれ(u1,v1,w1),(u2,v2,w2)と す

る。Q点 におけ る運 動方程式は

x方 向(1.4)

上 式 の 両 辺に,そ れ ぞ れu1,v1,w1を か け て,加 え 合

せ,時 間 平均 を と る と

(1.5)がえ られる(Karman-Howarthの 式)。

rは2点 間の距離であ り,上 式は,乱 れの速度の分布

が,座 標軸 を回転 させ て も,座 標軸 を交換 しても変 らぬ

とい ういわゆ る等方性 の仮定か ら導かれ てい る。

す なわち

(1.6)で あ る。 また,f,hは

(1.7)2点 の速度相関である。fは2重 相関,hは3重 相関 と

呼ばれ,こ の他 の相関量は,等 方性 の条件 と,連 続 の式

か ら,fお よびKに よって関係づけ られ る。

2点 間の相関を求め るためには,(1.5)式 をfに つい

て解けば よいわけであるが,こ れは未 知量 と して3重 相

関hを 含んでいるか ら解けない。 この ことは(1.3)式 を

解 く場合にであったむず か しさ と全 く同じであ って,や

は りN・S式 の慣性項に起因 してい る。 次に乱れ速度 を

さ らに細か く分解 して,上 式を検討 してみ よ う。

3)  乱れのスペ ク トル表示

乱れをい くつか の波長を もつ波の合成 された もの と考

え よ う。 いま,x軸 上で同時に速度成分,た とえばx方

向の成 分uを 測定 した とする。簡単 のため平均速度は零

としてお く。そ してu(x)を いろいろな波長(一 次元で

は,x方 向の波長をL1,波 数をkiと す れば,k1=2π/

L1)の 調和成分に分解 した とすれば,u2の 平均値は,

おのおのの波数に よるものの総和 と してあ らわ される。

(1.8)

す なわ ち,エ ネ ル ギ ー の ス ベ ク トル表 示が で き る。 が

の うち,波 数 がk1とk1+dk1と の 間 に あ る 成 分 は

u2F1(k1)dk1で あ っ て,F1(K1)は スペ ク トル関 数 で あ る。

Taylorは,F1(k1)とf(r)と の 間 に,次 の よ うな フ

ー リエ変 換 の 関 係 が あ る こ とを 見 出 して い る.

(1.9)

実際には,乱 れ は3次 元的に存在す るので,乱 れのス

ペ ク トル もx ,y,z3方 向にそれぞれ波数k1,k2,K3を も

つ と してフー リェ分解を行なわなければな らない.

上式を よ り一般化 し,波 数(k1,k2,k3)空 間に よる平

均値を とれば

(1.10)

これは乱れの速度を フー リエ成 分に分解 した とき,そ

れぞれの波長に対応す る うず の集 ま りとして,乱 流場が

構成 されてい ることを示 している。

3次 元の(波 数)空 間におけ るスペ ク トル関数F*(k)

と,1次 元 のみを対象 とす る ス ペ ク トル 関数F1(k)と

は特定の関数関係を有 し,し たが って(1.9)式 で示 した

f(r)をIF*(k)の 関数 としてあ らわす ことがで きる。ま

た,h(r)もF*(k)の 関数 としてあ らわす ことが できる。

す なわ ち,(1.5)式 をフー リエ変換 してF*(k)で あら

わせば

(1.11)

が得 られ る。

た だ し

(1.12)

(1.11)式 が乱流を考え る基礎 とな る式であ る。 この式

をkに ついて積分すれば

(1.13)

(1.14)

N・S式 は ここまで変形 できた。 上式 は 波数を バ ラメ

496(70) 化 学 工 学

Page 3: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

ターとしたエネルギーの方程式である。

4)  慣性項の役割.

(1.13)式 のT(k,t)は 慣性項に相当 し,慣 性力の作

用に よって波数Kの 所に入って くるエ ネルギーをあ らわ

している。2vk2E(k,t)は 粘性項で,粘 性の作用に よっ

て熱 となって失なわれ るエネルギーをあ らわ してい る。

この項がk2を 含んでいることか らわ かるよ うに,粘 性

の作用でエネルギーを消費 してゆ くのは,波 数の大 きい

部分,すなわち,小 さい うず である。 しか しこの部分は,

ほとんどエネルギーを保有 していない。 したがって,消

費すべ きエネルギーは,も っ と大きな うずか らもらって

こなければならない。いいかえれば,慣 性力の作用に よ

って,エ ネルギーは波数の小 さい領域か ら大 きい領域へ

と運ばれてこなければな らぬ ことになる。

このことを直観的に解釈す るとつぎの ようにな る。す

なわち,大 きい うず同志ぶつか り合って一 まわ り小さい

うずを生じ,そ んな うず同志がぶつか り合 って一まわ り

小さな うずを生 じ,そ んな うず 同志が またぶつか り合 っ

て,さ らに小さい うずを生ず るとい う過 程が くりかえ さ

れて,小 さな うずが できて ゆ くので あろ う。 この際 に

は,ま だ運動エネルギーは保存 されている。 しか し,う

ずがある程度以上小 さくなると,粘 性 の作用が著 しくな

って,運 動エネルギーは終局では熱に変 って しま う。

以上,く りかえ して述べた ごとく,乱 流の性格 を支配

す るのはN・S式 の非線型項(慣 性項)で あ る。(1.5)式

の左辺の第2項,す なわちhを 含む項は,N・S式 では,

運動方程式の慣性項か らでてきてい る。(1.13)式 のT

も同様である。N・S式 に戻って,こ の項 の役割を考えて

みよ う。

いま,時 間初期の速度が

x方 向

y方 向

z方向 }(1.15)であったとする。N・S式 を解けば,△t時 間た った後の

速度uは

(1.16)

θ,A2,A3はA,B,C,a,b,cで きま る常 数 で あ る。

v(△t),w(△t)に つ い て も類 似 の 形 の 式 が 得 られ る。 最

初の 波は,粘 性 の ため に 減 衰 して,波 数 の2倍 の 波が っ

く りだ され てい るの で あ る。

あ るいは,慣 性項,た とえ ばu∂u/∂xに つ い て

u=Asinkx

(1.17)

として も,同 様な事 情が うかがわれ るであろ う。慣性項

に よってつ くりだ されるTは,小 さな波数か ら大 きな波

数をつ くりだ して,エ ネルギーを大 きな波数に伝 えてい

るといって もよいであ ろ う。あるいは,大 きな うずが こ

われ て,小 さな うずに変ってゆ くと考えて もよいであろ

う。

1.2  うず(あ るいは乱子)

日常的な体験か らわれわれは乱流 を一種 の うず と考え

てい る。Prandtlの 混合距離理論で も,Taylorの 渦度

輸送論でも,う ず のかた ま りとか,う ず とい う直観的イ

メージがあ った。 これに反 して,上 述の統計理論では,

乱流場を フー リェ 分 析 とい う数学 的操作に よって解釈

し,直 観的な内容が失なわれ てい るように見える。 しか

し,フ ー リエ分析す ることは,乱 れ の場を,各 種の うず

の集 りと考えることと同じであ った。

混合距離理論で考える うず と統計理論でい ううずの大

きなちがいは,前 者では うず の大きさは一定であ るか,

または大きさに分布があ るとしても,そ の分布は全 く任

意的であ ると考 えてい るのに対 して,統 計理論でい うう

ず は,(1.10)式 のエ ネルギースペ ク トルF*(k)に よっ

て規定 される内容を もってい る。すなわち

i)  うず は大 きさに分布があ り

ii) それぞれの うずはエネルギースペ ク トルか らきま

る特性的な速度vlを もってい る

のである。 したが って,こ の二つの理論で共通する部 分

を見 出そ うとす るならば,分 布を もつ うずの うち,ど の

大きさの うずに よって現 象が支配 され るかを考え,そ の

うずを選びだす ことになるであろ う。

この よ うな統計理論的 な うず は,そ れな りに単な る う

ず よりも明確な構造をもっているので,Weizsackerら

は これを うず といわず"乱 子"と 呼んでいる。次に,統

計理 論の内容を うずあ るいは乱子の言葉 におきかえてみ

よ う。

1)  平均流と乱れ

平均流 と乱れ とい う使 いなれた言葉の内容を考 えてみ

たい。 もっとも普通 の意味では,あ る点で流速 をはか っ

ていて,時 間的に変動 しない成分を平均流,そ れか らの

ずれ を乱れ と呼んでい る。 しか し,拡 散な どの現象をあ

つか う際には,2点 間の相対速度が問題になるので,こ

の ような測定によっては現象 の性格をあきらかにする こ

とはで きない。た とえば,乱 流中におけ る2粒 子の拡散

に よる距離 の変化を とりあげ よ う。

粒子の間の平均の距離 よ り大 きい直径を もつ うず は,

それ らの粒子を一つのかた ま りとして動か し,粒 子をは

第28巻  第6号(1964) (71) 497

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なれ ばなれに しよ うとは しない。 しか し,粒 子同志の間

の平均距離 よりも小 さな うず は,粒 子をはなそ うとして

働 く。すなわ ち,粒 子間距離 よりも大 きい直径を もつ う

ず は平均流 として観測 され,小 さな うずが,拡 散の働 き

を しているのである。

同様 なことは,大 気 の風速の時間的変化を測定す る場

合に もあ らわれて くる。 測定の 目盛を 時間で とった と

き,分 で とった とき,秒 で とった ときのデー タがあ ると

しよ う。秒以 下の風速の乱れ を問題 とする人 に と っ て

は,数 分程度 の周期で変動す るよ うな風速は,平 均風速

としか感 じないであろ う。 しか し,数 分程度の周期 の変

動 でも測定の 尺度が 時間であれば 乱れ として 観測 され

る。圧力の測定において も同様であ る。

すなわち,何 を対象 とす るかに よって,乱 れの大 きさ

は変って くるのであって,対 象に よってきまる尺度,ス

ケールの と り方に よって,乱 れの度合が異な って くるの

で ある。対象に よって きま るスケール よ りも,大 きなス

ケールに関す る量は,平 均量 と して観測 され,小 さなス

ケールの及ぼす効果は乱れ と して観測され るのであ る。

時 間を単位 とした平均流が もとの流れ とな って,分 を単

位 と した乱れを生み,分 を単位 とした平均流が もとの流

れ とな って,秒 を単位 とした乱れ を発生する。す なわ ち,

大 きな うず(l1)が 平均流の働 きを して小 さな うず(l2)

を生み,l2な る うずが 平均流 として働いて,そ れ よ りも

小さな うずを 生みだ してい る とい うことが で きるであ

ろ う。 あ るいは,エ ネルギー スペ クトル における波数

(∞1/l)を 与えれ ば,波 数,す なわちス ケールに よって

きまる変動速度vlが あ らわ れ ると考える ことがで きよ

う。

2)  うずのエネルギー

うずが どの ようなエネルギーをもつ と考えれば,乱 子

として考えやす くな るであろ うか。大 きさlの うず のも

つ運 動エネルギ ーは

(1.18)

上 式中vlはlな る うず のもつ代表速度である。上式 の

ごとき取扱いでは,う ずは一つの仮想的な個 体と考 えら

れ てい る。Weizsackerら が"乱 子"と 呼ぶ理 由であ り,

これを乱子の運動エ ネルギー といっている。乱子の もつ

エネルギーの時間的変化は

(1.19)

上式を評価す るためには,時 間[dt]の オーダーを推

定せねばな らないが,前 述の ごとく大 ぎな うずか ら小 さ

な うず へ,エ ネルギ ーが逸散され るこ となく手渡 され る

領域では,1点 におけ る速度 の時間相関,す なわちLa.

grange相 関は次式の ごと く与 えられ る。

(1.20)

後に改めて示すが,上 式 か ら,大 きさ'な る乱子は,

時間 τをへて個性 を失 うことに なる。 よって,乱 子の寿

命は τ=l/vl程 度 と考 えられ る。

上2式 か ら

(1.21)

εは,単 位質量 当 りに消費 され るエネルギーである。

この量 は,比 較的大きな うず,す なわ ち比較的小さな波

数の領域 にお いて手渡 されて大 きな波数領域に伝達する

エ ネルギーの流れを,単 位質量 についてあ らわ した もの

であ る。

次に,別 の見方 で この問題を とり扱 う。

平均 流Uがy方 向に変化す る層流場のなかでは

(1.22)

なるエ ネルギー消費がある。vは(分 子)運 動粘度であ

って,平 均流に対 して分子が ランダムな運動をお こすた

めに,運 動量 を輸送す る拡散係数であ る。

乱 流場におい ても上式 と対比 してエネルギーの移動を

考 えてみ よ う。

(1.23)

現 象のス ヶールをlと すれば,そ こに働 く運動量の拡

散 は,平 均流の スケールであ るlよ りも小 さな乱子がこ

れ に対 してランダムに運動す るために生ず る。 したがっ

て,こ の ときの運動量 拡散 係数vlは ,気 体運動論の類

推 よ り

(1.24)

こ こに添 字iはlよ りも小 さな 乱 子 を あ らわ して い る。

(1.23)式 に お い て(dU/dy)l2~(vl/l)2と お け ば ,上 式

よ り

(1.25)

この よ うに して,エ ネルギー消費に関 して(1.21)式 と

同じ結果が えられた。

上式 より

(1.26)とな る。 これが大 きさlな る乱子 の固有速度 である

うず あるいは乱子 の明確 なモデルを画 くことはむずか

しいが,振 動数をvl/lと し,波 長lな る周期運動を行

な うものと仮想す ることもで きよ う。

3)  うずから うず へのエ ネルギ ーの伝達

乱流は,大 きな うずか ら小 さな うず に至 るあ らゆる大

498(72) 化 学 工 学

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きさの うずが重ね合わせ られ てで きている。大 きな うず

は,平 均流から剪断力を うけてで きるが,こ の大 きな う

ずは,こ れ よりも小 さな うずに対 しては平均流 として働

くので,小 さな うずに再び剪断力を与 えて自身は小 さな

うずに変ってゆ き,こ の過程が く りか えされて,大 きな

うずから小さな うずに至 るあ らゆる大 きさの うずについ

て動的平衡状態をつ くりだ している。 これをエネルギー

の流れとして見れば,あ る大 きさの うずは,こ れ よりも

大きい同程度の うずか らエネルギーを受けて発生 し,こ

れよりも小さい同程度の うずにエネルギーを伝 えて消滅

してゆ く。ある程度以上大きな うずでは,分 子粘性に よ

って熱 としてエネルギーを失 うことな く,ほ とんどのエ

ネルギーを,そ れ よ りも小 さな うず に伝 えてゆ く。上述

の式では,ε≒νl3/1がこの量に相当す るわ けであ る。

うずの大きさが著 しく小 さくなる と,こ れに ともなっ

て,波 数kも また大 きくなるために,(1・13)式 で明ら

かなように,分 子粘性に よって逸散す るエネルギー量は

急激に増加する。 もちろん,ε の値を与え る以上,ε は

v∫∞0 k2F* (k) dkに 比例 す る ので,全 逸 散 量 の うち,kの

大きい領域で占める割合が比較 として大 きい とい うこと

である。

4) 乱子モデルによるエ ネルギースペ ク トル

ある限 られた波数領域 内では,ε≒ νl3/lなるエネルギ

ーが,そ のまま,階 級の より大 きい乱子に手渡 されてゆ

く。すなわち

保存量 (1・27)

添字nは,lの 大きさの階級 をあらわ し,nが 大 きい

ほど乱子の 大 きさは小 さい。 εは,上 述の 条件の下で

は,nに 関係な く一定である。

したがって,こ の条件内に含 まれるある特定の乱子 の

大きさをl0と すれ ば

(1・28)

とい う結果が得 られ る。 これが乱子速度のスペ クトルで

ある。エネルギースペ ク トルの形に書 き改めてみ る。

乱子の諸性質で述べた よ うに,lnは 波長に,l/lnは 波

数knに 相当する。 また,波 数kaに おけるエネルギー

は νla2に比例するので,上 式 より,こ のエネルギーは

kn-2/3に 比例することになる。

すなわち

(1・29)

ゆえに

(1・30)

とな る。

この式の適用限界を検討 してみ よう。

5)  最大乱子と最小乱子

著 しく小 さい うず は,分 子粘性 に よって一かた ま りと

な り,固 体的回転 を行 なっている と考 えられ る。その代

表寸法をld,代 表速度 を νdとすれば,Reynolds数 は

(1・31)

(1・30)式 の適用で きる範 囲で,分 子粘性 の支配が著

しくな るのは,乱 子速度が νdに,そ の大きさがldに ほ

ぼ等 しく,慣 性力 と粘性力の比をあらわ してい るRey-

nolds数 が1程 度の ときである。

すなわ ち

(1・32)

したが って

最小乱子の大きさ:

最小乱子の速度:(1・33)

となる。

一方,(1・23)式 および(1・24)式 か らは,最 小乱子

については,分 子に よる運動量拡散 と,乱 子に よる運動

量 拡散 とが同程度 とな らねばならない。

(1・34)

(1・32)式 と同一の条件を示している。

(1・30)式 が適用で きる最大の大 きさ の乱子を最大乱

子 とい う。 この大 きさは,乱 流場 の非等方性 と接 してい

るので,最 小乱子のご とく簡単に導 くことはで きない。

上 記のごとく,う ずに よるエネルギーの伝達は,乱 子

概念に よって一応説 明で きる ようにな った。 このモデル

は,思 考 の経済の上で有効ではあ るが,モ デルがあま り

に具体的であ りす ぎると感じ,そ のため設定の基礎が任

意的であ るように考える人がい るか もしれない。結果的

には,乱 子 モデルと同一 の内容を与 えるが,比 較的精密

な,HeisenbergとKolmogorovの 理論を代表例 として

あげてお こう。

I・3 HeisenbergとKolmogorovの 理論

1) Heisenbergの 理論

最小乱子に相当す る波数 よ りも十 分小 さい 波数領域

(0~k)か ら,波 数の大 きな領域につたえられ るエネル

ギーを計算する とき,と るべ き運動粘度を νkとする。

波数が(0~k)の 範囲が うけ もっているエ ネルギー消費

量 εなは

(1・35)

である。

νkに関与す る波数は,前 述 のご とくkよ りも大 きい波

数領域にあ るものであ って,そ の関数形を

(1・36)

第28巻  第6号  (1964) (73) 499

Page 6: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

とす る。

拡散係数 と同じ次元を もつ ためには

(1・37)

γは比例常数であ る。

す なわ ち(1・35)式 は

(1・38)

(1・27)式 に 示 した よ うに,εkはkの 大,小 に よ らず

保 存 され る と考 えれ ば,上 式 はkに 無 関 係 に一 定 の 値 を

とらね ば な らない 。

F*(k)∞kα とお け ば,(1・38)式 よ り

(1・39)

とおけば この条件が満た され ることが分 る。乱子モデル

で導いた(1・30)式 と同型である。

精度をあげるためには,分 子運動粘度の項 を入れて

(1・40)

とする。

上式は解けて,次 の関係が導かれ る。

(1・41)

F*(k)は,kdを さかい として,k-5/3に 比例す る領域

と,k-7に 比例 する領域に2分 される ことにな る。 分子

粘性の作用が強 く働 く領域は,kdよ りも大 きな波数の部

分であって,kdが 最小乱子の大きさに相当す る波数であ

る。

それぞれのF* (k)は,ど の波数領域で 成立す る ので

あろ うか。単位質量 当 りのエ ネルギーをEと すれば

(1・42)

であ る。F* (k)= Ak-5/3と す れ ば

(1・43)

Eはk=0で 発散 し,ε はk=∞ で発散 する。 εの方は

5/3乗 則がkdま で しか成立せ ぬ こ とで発散が防がれ て

いるが,k=0で の発散を防 ぐためには,5/3乗 則は波数

が あるk0以 上で成立す るとしな けれ ば な らない。k=

0~k0ま では,ス ケールの大 きな平均流 の歪みか らエネ

ルギーを伝 え られ る部分であ って,解析が 困難であるが,

kが 著 しく小 さい ところではk4に 比例 し,次 にkに 比

例 する傾 向をた どって,k0に 接す ると考え られている。

波数 の全範囲をあ らわす ことがで きる単一の関数形を

見 出す ことが,今 後の研究 課題であるが,既 往 の研究で

はF*は 解析的 に とい うよりも,む しろ物理的なモデル

を設定 する ことに よって,そ の関数形が見 出されてきた

のである。

2) Kolmogorovの 理論

i) 局所等方 性 と相 関 Kolmogorovは 等方性乱流

理論を,で きるだけ実現 され る乱 流に適用できるように

局所等方性 の概 念をまず導入 した。局所等方性 とは,乱

れのス ケールをある程度以上小 さ くとった とき,大 きな

ス ケールの流れが非等方であ って も,そ の ス ケールに

関する乱流 の性 格 が 等 方 と仮 定で きる とい うものであ

る。

(1・5)式 のKaman-Howarthの 式にあ らわれる相関

fは,2点 に おけ る絶対速度 の相関であ るが,Kolmo.

gorovは,こ れに対 して2点 の相対速度を と りあげた。

この ことは,I・2章 で,拡 散を考 えるのには絶対速度で

はな くて,相 対速度を問題にすべ きであ るといった意味

と同じであ り,乱 れのス ケールを考えに入れ てい る。

添字dは2点 を結ぶ 方向を,nは その線 に直交する方

向を表わす もの とし,rを2点 間の距離 とす る。

(1・44)

これ に対 して,Karman-Howarthの 相 関f, gは

(1・45)

であ るので,上2式 の間の関係は

(1・46)

(1・47)

となる。Bdd, Bnnの 関数形 を 求 め る ことは,乱 流 の基

礎式を解 くの と同等である。Kolmogorovは,こ れをき

め るために,乱 流場 の相似 則に関す る仮定 を提 出した。

ii) 相似則に よるBddの 決定 仮定I:局 所的等

方性乱流では,乱 れ の状態は εと νのみに よ っ て き ま

る。ただ し,ε は単位質量あた りのエ ネルギ ー消費率,

νは分子運動粘度。

この仮定 よ り,う ず を規定する代表長 さl*と,代 表

速度 ν*は εと νのみか らきまる ことにな り,次 元解析

に よって

(1・48)

500 (74) 化 学 工 学

Page 7: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

すなわち,前 述の(1・33)式 と全 く一致 し,そ れぞれ最

小 うず の大きさ,お よびその速度 と呼ばれ る。

l*,ν*を用いれば,Bdd (r)の とるべ き関数形は

(1・49)

βddはr/l*の 関 数 であ る。

まずrが 小 さい場 合 のBdd(r)の 形 を し らべ よ う。Bdd

はr→0と ともに,零 に 近づ く偶 関 数 で あ る。 したが っ

て,第1近 似 と して

(1・50)

rが 比較的大 きい ときには,次 の仮定 によらねばな ら

ない。

仮定II:2点 の距離がl*に くらべ て十分大 きい とき

は,Bddな どは分子粘性 の影響を うけない。

これを(1・49)式 に適用すれば

(1・51)

とならねばならない。 このとき

(1・52)

(1・46), (1・47)式 におけ るfお よびgは,連 続 の方程

式で互いに関係づ け られ てい るので,Ban(r)に ついて

同様な計算を行なえば

(1・53)

とな り,Kolmogorovの 計 算 に よればBddとBnnと は

ほ ぼ等 しい こ とが 示 され る。

したが って,下 記 の ご と き2乗 相対 速 度 を 定 義 すれ ば

(1・54)

(1・55)

(1・56)

上式のrを うず の大 きさと呼 ぶ な らば,νrは うず の

代表速度であって,(1・56)式 は,前 に述べた乱子 の速

度(1・26)式 と一致 してい る。 いいかえれば,Kolmo-

gorovの 第II仮定が成立す る波数範囲では,ス ペ ク トル

関数は5/3乗 則であ らわ され ることを示 してい る。

Kolmogorovの 仮定に よる結果は,そ れが次元 解析に

よって得 られた ものであ るために,他 の多 くのスペ クト

ルよ りも強固な根拠を もっている とい うことができるで

あろ う。 しか し,理 論の両端 をきめ る最大,最 小乱子の

項をふ くむ,エ ネルギー伝達量 εの分布を考 えて,理 論

をさらに精密に しよ うとす る試みが最近行な わ れ てい

る5)。

II.  乱 流 中 の 輪 送 現 象

乱流 の理論的研究については,多 くの研究者の興 味を

ひい てい るが,そ の本質は よ うや く手がか りをつかんで

きた とい う段階であ る。 しか し,理 論的には難点があ っ

ても,工 学 では混合距離理論をそれな りに使い こな して

きた ように,一 方では,乱 流理論の成果 を工学に応用せ

ん とす る試みが最近 ことに さかんになってきてい る。分

ってきた と思われる研究分野,す なわち上に述べ た最大

乱子 よ りも うず の小 さい波数領域を対象 として,正 当に

評価す るな らば,工 学の有力 な解析手段 とな りうるもの

であ る。 ここでは,化 学工学への適用に比重をおいて,

乱流中の輸送現象を扱 う代表的手法 をあげ,あ わせ て前

章 で述べた理論の補 い としたい。ただ し,筆 者 らが さき

に とりあげた問題6)および,日 野7)が展望 した乱流理論の

工学への応用例 については,こ こでは と りあげない。

II・1 拡散と現象のスケール

乱流中にあ る粒子 ・流体系 のエネルギーお よび運動量

のバ ランスについては,Van Deeterら8)お よび,Hinze

の研究9)な どがあ り,レ イノルズ応力の働き方に関する

式 を導いている。

比較的粒子が 小さく,最 小 うずの大 きさよ りも小さい

場合の運動は,Tchenの 研究を乱流場に適用 したCorr.

sinら10)の 研究があるが,詳 細はHinzeの 著書11)に述べ

られてい る。

乱 流中に粒子が あるときには,粒 子 と流体 との動 きの

お くれは,主 として粒子の大きさよ りも小 さい うず に よ

って起 こされ,比 較的粒子が小 さい ときには,波 数の大

きい範囲に よって,相 互作用が行なわれ る。 したが って,

エ ネルギースペ ク トルの形状は,粒 子が混在す るときに

は,波 数 の大 きい側で影響を うけ ることになる。最近の

研究では,粒 子の存在その ものに よって流体自身の乱流

特性がいかに変るか とい うことに対象が向け られて,日

野12)は粒子浮 游流の乱れ について,実 験結果を説明す る

す ぐれた報告 を行な っている。

ここでは微小粒子の混在に よって,流 体の乱れ の性質

が影響を うけぬ場合を考え よ う。

流体中の二つの微粒子の距離lが,時 間 とともに変化

する状態に よって拡散の性状が きまる。微粒子が移動を

始め てか らの距離を τとすれば,τ が十 分大 きい場合に

は,時 間初期 の 影響を 無視で きる であろ う。 この とき

に,2粒 子間の距離が,最 大乱子の大きさと最小乱子の

大 きさの中間領域にあるとす るならば,距 離をきめ る量

は εのみ と考え られ る。

すなわち,次 元解析か ら

(2・1)

拡散係数は

(2・2)

第28巻  第6号  (1964)(75) 501

Page 8: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

拡散係数は2点 間の距離の4/3乗 に比例 して大き くな

ることになる。Kolmogorovの 理論において,う ずの大

きさ とその代表速度 とをかけ合わせて も同じ関数関係が

え られ る。Richardson 13)はすでに,こ の結果を見出 し

ているが,詳 しい理 論的計算に よって(2・2)式 を導 き出

したのはBatchelor 14)であ る。

上記の関係は小さなスケールか ら,非 常に大 きなスケ

ールまで成立す る。 井上15)はlが108cmに 及ぶ,海 洋

の乱流拡散係数について も(2・2)式 が適 用で きること

を,実 測値の相関か ら示 してい る。

同様な取扱いに よって,乱 流中の2点 の温度差を もと

め ることがで きる。Oboukhovは 次の計算 を行な ってい

る1)。

熱移動 による,単位時間,単 位体積当 りのエ ン トロピー

変化 ∂5/∂tは

(2・3)

代表長 さlな る容積 の表面では,熱 の出入が無視で き

るとして,右 辺 の第1項 を無 視す る。 温度差Tlに 対 し

てTが 十分大 きく,T2は 一定 とおける とし,熱 伝導率

kを 乱れに よる熱の拡散係数 χ1でお きかえれば

(2・4)

単位体積当 りのエ ン トロピーの時間的変化をある一定

値 とお き

(2・5)

とおけば,上2式 か ら

(2・6)

す なわち,中 間乱子領域では 温度差は 現象 の 大 きさの

1/3乗 に比例 するこ とになる。

分子スケールの大 きさに よって,伝 熱が行なわれ る,

lが 小さい場合には,Tlはlに 比例 した値を とる こ と

が期待 され る。

II.2  拡散 と相関係数

い ま,座 標軸原点か ら多 くの粒子が放出された とし,

x軸 を平均流の方向,y,2軸 を これ に直交す る方 向と

し,y軸 方 向の粒子の拡散 を考 える。

ある粒子が原点を離れてか ら,t時 間を経た後の粒子

のy座 標をYと おけば

(2・7)

ν (t-ξ)は(t-ξ)時 におけ る粒子の速度であ り,粒 子 は

著 しく小 さい もの として,乱 れ の速度でお きかえ られ る

もの とす る。

粒子群の位置の2乗 平均の変化,す なわち拡散係数は

(2・8)

こ こにR(ξ)はLagrange相 関

(2・9)

であ り,粒 子の(こ こでは流体の) (t-ξ)とt時 刻に

おけ る速度の相関係数であ る。

上の2式 よ り

(2・10)

R(ξ)が わかれば拡散に よる粒 子群 の ひ ろが りがわかる

ことになる。

ここで,前 章 の結果を用い てR (ξ)を 導 い て み よ う。

Kolmogorovの 仮定Iに よれば,ν2 [1-R (ξ)]は,ν お

よび εに よって決定 され る。

す なわ ち,次 元解析に よって

(2・11)

gは 関数をあ らわ してい る。 中間乱 子領域 では,上 式は

εのみの関数であ るべ きであるので

(2・12)

とな る。

乱 子 モ デ ル に よる ス ペ ク トルで 述 べ た(1・27)式 の関

係 を 用 い,ν2∞ ν02と す れ ば

(2・13)

となる。 αは常数であ る。

τ0は大 きさl0な る乱子の寿命時間 と定義 されている。

簡単のためR(ξ)を

(2・14)

とす る。

(2・10)式 よ り

(I)

(II)(2・15)

とな る。 あるいは,平 均 流の速度 をUと して,t=x/U

な る変換を行 なえば

(I)

(II)

(2・16)

502 (76) 化 学 工 学

Page 9: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

領域Iで は,点 源か らでた粒子群,た とえば煙は直線

的に拡がってゆき,IIで は放物線状に拡が ってゆ く。

拡散係数 χの通常の定義

(2・17)

と,(2・15)式 とを比べて みれ ば,t>>τ0な るときに,

χ〓ν2・τ0となることがわかる。 乱 れの強 さ ν2は,最 大

乱子のもつ速度の2乗 ν02とほぼ同等の大 きさを もつ と

考えられるので,χ 〓ν02・τ0〓ν0l0とな る。 す なわ ち,充

分時間がたって,粒 子 と発生源か らの距離が最 大乱子の

大きさよりも充分大きくなった とき,あ らゆ る階級の乱

子が拡散に寄与 してくる。そ して,拡 散能力は最大乱子

がもっとも著 しいので,最 大乱子に よって代表 される拡

散係数をもって拡散が起 こるのである。 発生源か らの距

離が小さいIの 領域においては,時 間がたつにつれ て大

きな乱子 も拡散に関与 して くるのであ る。

(2・16)において,xを 乱子の大 きさlで お きか えて

(2・18)

なる時間を定義すれば,領 域I, IIを区分す る量は τ0/

T≧1と な る。

Tは,平 均流Uを 以て大 きさlの うずが1点 を通過 し

きるに要する時間であって,通 過 時間 と呼ばれている。

平均流速が十分大 きい ときに,1点 におけ る変動速度を

フー リエ分解 してスペ ク トルを得た とす るな らば,そ れ

は通過時間についての乱れのスベ クトルを与えるわけで

ある。また,平 均流 と同 じ速度で動 く風速計で,変 動速

度をとりだ した ときには,変 動は乱子の通過に よって起

こるのではなく,乱 子が 次々とこわれては また新 らしく

生成され るために起 こるのであ る。 この意味では,(2・

13)式 の相関は乱子の崩壊生成に もとつ くものである。

なお,相 関係数を得 るための観測時間3)は,最 大乱子の

寿命時間 よりも十分大 きい ことが必要であるのはい うま

で もない。

II. 3分 子拡散と乱流拡散との関係

乱流拡散係数 と分子拡散係数 とは,し ば しば加算 した

形で用いられる。 この内容を検討す ることは,ま た,乱

流拡散の測定技術の問題で もあって,乱 流の流れに対 し

て トレーサーガスの分子拡散がいか なる影響を及ぼすか

を評価することでもあ る。

(2・8)式で述べた方法に したが って,拡 散に よる移動

距離は計算 できるが,こ こでは,速 度 ν(t)を,流 体の

速度 ひと,分 子拡散の原因 とな るブ ラウ ン運動の速度

q(t)と に分解 して考 える。

(2・19)

(2・20)

静止流体については

(2・21)

とおけば,分 子拡散係数 χは定義に よって

(2・22)

となる。τ0を分子の衝突に関す るタイムス ケール とす る

ならば,分 子スケールの拡散ではQ (τ)は τ>>τ0なる時

間では無視で きることになって,上 式の積分 の上限は τ0

よ りも大きければ よい ことにな る。

ここで(2・20)式 のRが(t'-t")の みの関数である

としよう。あ るいは,平 均流に流され てい るとして,平

均流を さし引いた乱れが等方的 であ ると考えてもよい。

ωを流体の渦度 とす るならば,流 体を連続体 として扱

えるための条件は,τ0よ りも流れのタイムス ケール ω-1

が著 しく大きい ことにあって

(2・23)

乱流拡散に もとつ く移動量 の積分は,ω-1よ りも充分

大 きい時間について行なわれる。τ0, ω-1の オ ー ダーが

著 しく異な るとすれば,タ イムス ケール τcに関する運

動 と,ω-1に 関する運動 とは,全 く無 関係相関を もた な

い と考え ることがで きよう。

すなわち

(2・24)

と近似できて,こ の とき分子拡散係数 と乱流拡散係数 と

は加算できることにな る。

しか し,分 子スケールの運動を ともなって拡散する拡

散 時間tが,流 体運動のタイムスケール ω-1よ りも小 さ

い ことが,加 算の精度を よくす る条件で もあって

(2・25)

も う少 し精密な条件は

(2・26)

とな る。 こ こで渦 度 は ω の 平 均 か ら も とめ た と し て

(ω2)1/2に 代 え てい る。

Townsendは,拡 散 に よ る移 動距 離Y0に つ い て

(2・27)

を与えてい る16)。Y2は 乱流拡散に も とつ くものであっ

て,上式はtが 比較的小 さい ときに成立する。Saffman 17)

らは上式の内容に つ い て,Mickelson 18)は実験 によっ

て,分 子拡散 の影響を検討 している。

II・4  濃度のスペク トルと一次反応

最小 うずの大 きさは,運 動量 の拡散係数 としての運動

粘度が乱れの性質に影響を与え始め る大 きさ として定義

され てい る。乱流中の濃度分布を考える とき,こ の大 き

さに相当する ものは,分 子 スケールの物質 の拡散係数の

第28巻  第6号  (1964) (77) 503

Page 10: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

影響を無 視 しえないス ケールである,こ の量 をl0*と す

れ ば,流 体 と物質の輸送方程式の アナ ロジーか ら

(2・28)

が えられ る19)。壁 の近 くの輸送現象では,速 度分布に関

す る鏡 膜の厚み と,温 度,濃 度分布に関する境膜 の厚み

との比をPrandtl数,Schmidt数 の関数 としておきか

え るが,上 式 でも,こ の ような関係があ らわれ てい る。

θを濃度 とす る。濃度変化の基礎式は

(2・29)

乱流場について上式を といたのは,Oboukhovら であ

って,前 章で述べた方法 と同様に,フ ー リエ分解 した θ

の各成分間の物質 交換を考 えて,u ∂θ/∂χ な どが新 たな波

数を生む原因 となる項 と考えている。 ここで もθの分布

を きめ る仮定 としてKolmogorovの 理論を用 いてい る。

同一の結果を与 えるが,こ こではCorrsin 20)の計算をあ

げてお こ う。

θ2のスペ ク トル閥 数をG(k)と お く。 このスペ クトル

分 布は階段的であ って,各 段 の波数範囲の幅 △kは,波

数 に比例す ると仮定す る。 この仮定は,濃 度変動が うず

の運動に よるもの として,(1・17)式 で示 した波数の増

幅 作用か ら類推 した もの と考 え て よい。Onsagerが 用

いた手法 である。

(2・30)

この ような"ジ ャンプ"を 行な うため のまち時間 τは,

ス ペ ク トル関数F*(k)と 波数kに よってきまる とすれ

ば,次 元解析に よって

(2・31)

とな る。

濃度 θ2が小さな波数か ら大 きな波数 に つ た え られる

量 は,各 ジ ャソプに対 して,G(k)△kに 比例 す る。上2

式 を用いれば,単 位時間の輸送量はG(k)k/τ に比例 し,

それが波数kに よらず輸送 され る条件は

(2・32)

す なわ ち(2・31)式 よ り

GF*1/2k 5/2=一 定

一方,前 章 で述べた よ うに,こ の範 囲ではF*はkの

-5/3乗 に比例す る と考え られ るので,τ(k)を 計算すれ

ば,波 数kな る乱子の寿命時間 と一致 し,G(k)は 次の

よ うになる。

(2・33)

こ こで,(1・35)式 に お け る エ ネル ギ ー 運 動量 εに 対

応 す る量 εθを

(2・34)

と定 義 す る。 上 式 の 上 限 を(ε/χ3)1/4と す る な らば,ν/χ

く1な る場 合 に つ い て は(2・33)式 よ り

(2・35)

すなわち

(2・36)

濃度 に関 しても-5/3乗 則が成立す ることになる.

上記の関係を用いて,稀 薄物質が一次反応 を行な う場

合 に適用 しよ う。

基礎式は

(2・37)

Cは 常数,添 字iはx, y, z方 向の総和を あ らわす。

中間の波数領域 では,分 子拡散 の項は無視で きるため

(2・38)

上式 では,θ を θnに代えて,ス ペ ク トルのあ る狭い範

囲についての濃度をあ らわ してい る。 上式 に θnをかけ

て,等 方性乱れ として,多 項 の平均 値を評価すれば

(2・39)

すなわち

(2・40)

一 方,う ず が こわ れ てゆ くこ とに よ る波 数 の 時 間的変

化 は(2・30), (2・31)式 よ り

(2・41)

ま た,(2・32), (2・40)式 よ り

(2・42)

上式が輸送方程式である。

これを とけば

(2・43)

がえ られる。

kc〓C3/2ε-1/2以上 の波数では,ス ペ クトルの形状は反

応の影響をほ とんど うけない。 この範囲では,波 数の時

間変化 に,反 応す る物質の減少度が追いつけぬ ことを示

している。Corrsin 20)は,上 記の ごとき解析 を進めて,

粘性の無視 しえぬ領域 について も問題 を扱 ってい る。濃

度,温 度のス ペ ク トル についてはBatchelorら19)の 報

告を見 ることができるが,反 応 に影響 を及 ぼす波数を評

価す る際 に,koの 取扱いは参考 となるか も しれない。

II.5  燃焼速度 に及 ほす乱流 の影響21, 22)

未燃 混合気 中を 火炎が伝播す る速度 を燃焼 速 度 と よ

ぶ。流れが層流な らば,火 炎は厚 さ1mm以 下の きわめ

504 (78) 化 学 工 学

Page 11: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

て薄い層であって,燃 焼速度SLも 小 さい。 層流燃焼速

度SLは

(2・44)

aは 温度伝導度,tRは 反応時間である。

ここで流れに乱れが加わ る と,火炎帯 の厚みが まして,

数cm程 度にな り,燃 焼速度STは 増加す る。その原因

となる乱れの影響を,ス ケールの大小,強 弱に分 けて考

えてみよう。

1) 乱れの ス ケールlが 層流火炎帯の幅 δlより小さ

い とき。 す なわちl<<δlな る条件では,乱 流運動粘度 χ

は,分 子温度伝導度aに 加わ って働 くので

(2・45)

2)  スケー ルの 大 きい 弱 い 乱 れ 。 す なわ ち,l>>δl,

u'<<SLで は,乱 れ は 炎 を 不 規 則 に 変 形 して 表面 積 を 増

加 させ ると考 え られ る。Schelkin 23)に よれ ば 表 面 積 の

増加率 は

(2・46)

3) スケールの大きい,強 い乱れ。 す なわちl>>δl,

u'>>SLで あ り,実 現され る状態に最 も近 い,重 要な条

件がこれであるが.こ の ときの乱流の構造が ど うなって

いるかはまだ よく分っていない。 どんなに乱れを強 くし

ても層流炎の しわが増す だ け だ とい う考 え``し わ火炎

説"24),強 い乱れに よって火炎がひ きちぎ られ てしま う

とい う"微 小火炎説"が ある。微小火炎説 の うちに も,

ひきちぎられた火炎は表面でのみ燃 える とい う説"表 面

燃焼説"23)と,均 相的に反応が進 む とい う"体積燃焼説"

25, 26)があって,多 くの実験が行 なわれ,討 論27, 28)がく り

かえされているが,問 題を解 明す る実験 ,理 論は ともに

現状では不十分であ る。

II・6 速度勾配のある流れの うちの乱流

前章で述べたのは,主 流 と乱れ の性質 との相互作用が

ある特定な関係をもつ場合,す なわち,ス ケールの概念

によって平均流であ る主流 の解釈が行なわれ る場合であ

った。工学的な解析に とっては,む しう,物 体の影響を

うけて,速 度勾配のある主流中の乱流を明 らかにす るこ

とが重要であろ う。その詳細を示すのは本稿 の範囲外で

あって,稿 を改めねばな らぬが,Townsendの 理論は

示しておかねばならない。

1) 流れの2重 構造説

ジエット,ウ ェークな どの自由乱流中の乱れを測定 し

てい ると乱流が息をつ くように間歇的に観測 される。す

なわち,速 度記録の上 では,乱 れの強い期間 と乱れのほ

とん どない期間とが不規則に交代 してい る。全時間中,

強い乱れが観測 され る時間の割合を乱れの間歇度 と呼ぶ

な らば,こ れは場所 によって変わ るが,ジ ェ ットでは中

心に近い ところで1で あ り,ジ ェ ットの影響のお よば な

い外部静止流 体中で0で あ り,そ の間なだ らか に変化 し

てい る。 このことを説明す るには,流 れがある境界面に

よって,乱 れの強い部分 と,乱 れのご く小 さな部分の二

つに分れていて,そ の境界面は大 きい うずの作用 で比較

的ゆ っく りと不規則な変形運 動を行な っている とすれば

よいであろ う。一点に固定 された観測者は,不 規則に乱

れ本体のなかに入 った り出た りするために,乱 れが間歇

的に観測 され ることに なる。 これがTownsendの2重

構造説で,彼 は実験結果に もとついて,そ の性格を さら

に具体的に規定 してい る。

i)  流れが下流にむかってひろが るのは,ゆ るやかに

変化するきわめて大きい うずが,境 界面の変形 を通 じて,

この流れの混合を促進す るか らであ る。

ii) この大 きい うずはゆ っく り変化す るので,エ ネル

ギーをほ とん どもっていない。その大 きさは流れの幅 と

同程度である。その形 は,流 れの方 向にひ きのばされた

円筒状 に類す るものであ ろ う。

iii) 乱れ本体の内部では,そ の乱れの強 さqt2は ,境

界面の ごく近傍をのぞけば各場所につい てほぼ一様であ

る。 この ことは,エ ネルギーを保有す る うず は,ス ケー

ルが小さ く,寿 命が比較的長い ことに関係 してい る。観

測 され る乱れの強 さq2は,周 辺にむかって減小するが,

これは乱れの時 間的平均 が測定 されているか らである。

す なわち,間 歇度を γとすれば

(2・47)

とおけるであろ う。

2)  大きいうずの形とエネルギー平衡の仮説

このよ うに,Townsendは エ ネ ル ギ ーを もたない非

等方性の大 きい うず と,エ ネルギーを保有する局所等方

性の小さい うずに分 けてい る。 この局所等方性の うずに

っいては,Kolmogorovの 仮定が成立する ことが実験的

に証 明されている。Townsendの 研究の主体は この大

きな うずの挙動にあ り,彼 の理論のす ぐれた点は,乱 流

運動粘度が,実 験値 によらず理論的に予測できることに

ある。 ここで も局所等方に関 して,前 に述べた方法 と同

様に,あ る大 きさの うずに関す るエネルギー平衡 とい う

考 えを用いる。

まず,う ず の構造につい て述べ よ う。 この よ うな大 き

な うずは,小 さな うずの うちに含まれ るじょう乱が不安

定なものであって,平 均流か らエネルギーをもらって選

択的に成長 した もの と考え られ る。層流 の安定論か らゆ

けば,波 動型の じょ う乱が もっとも不安定な ことになる

が,す でに乱れの存在す る場のなか では,必 ず しもそ う

はな らないであろ う。大 きい うずの形を,速 度 相関の実

第28巻  第6号  (1964)(79) 505

Page 12: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

験を もとに して推測 してみる。

2次 元流 について,流 れの方 向をx,速 度 変化のあ る

方向をy,両 者に直交 してz軸 を選ぶ。x方 向の速度u

の2点 に おけ る相関を しらべ ると,2点 がx軸 上 または

y軸 上にあ るときは,相 関は常に正であ り,z軸 上にあ

る ときには,あ る距 離以上では負になる。 こ の こ とか

ら,う ずに必要 である逆流はz方 向で起 こることがわか

る。 この よ うな条件を満す,も っ とも単純な うず として

(2・48)

ここに,u', v', w'は うずのx, y, z方 向の速度成分であ

り,う ず の中心の高さはy=yoで あ って,x方 向に無 限

に長い うずをあ らわ してい る。 この ような うず は,恒 常

的 なものではな く,つ ぎつ ぎに発達 しては消滅 してゆ く

が,時 間平均 としてこ う考えるのであ る。

つぎに,こ の うずに関す るエネル ギー収 支を考 える。

大 きい うずは,平 均流か らエネルギーを得 るが,同 時に,

それ は乱流の粘度が働 く場のなかで運動 してい るので,

エネルギーを失な う。 この2量 がバ ランス してい るわけ

で あ る。

平 均流Uか ら うけ るエ ネル ギ ーは,(u'v')∂U

/∂yに等し

い の で,u', v'と して(2・48)式 を,ま た 平均 流Uと して

(2・49)

なる関数形を仮定すれば,エ ネルギーの収入は

(2・50)

一方,う ず の運動に よるエ ネ ル ギーの損失はvTを 場

所に よらず一定 とす るな らば

(2・51)

となる。エネルギー平衡 の条件か ら,上 の2式 を等値す

る と乱流の運動粘度vTの 満たすべ き条件は

(2・52)

とな る。

ここで,e-α2ν02はうずの中心速度に関係 し,そ の量が

あ る有限 な大 きさを もつべ きである とす る条件か ら

(2・53)

RTは14~21に な る。 こ こにl0は 流 れ の 幅 ,Umは 中心

流速であって,RTの 予測値は実験値 とよ く合 っている。

νTが解析的に導かれて,実 験値 とよ く一致することが

Townseadの 理論の重要性 を裏 づけ,さ らには,こ のよ

うな仮説を有効な もの としてい る。一つの指導方針 とな

りうるものであ る。

3)  壁の近 くの流れ と拡散

最後に,壁 の近 くの流れに 多少ふれ ておこ う。

壁 に沿 う平均流の方 向に χ軸,こ れに直交す る方向を

y軸,両 者に直交す る方 向をz軸 に とって,各 方 向に対

す る変動速度がyの みの関数であ るとす る。

レイノルズ応力に関す る方程式を,こ の条 件の下でと

き,壁 に沿 う方向の 平板境 界層 内で 圧 力勾配を 無視 し

て,y→ ∞ ではu'v'→0, dU/dy→0な る条 件を用いる

な らば

(2・54)

が え られ る。

境 界層 内の乱れを評価す る一つの方法は,上 式に した

が って.u'v'とdU/dyと の比例 関係を検討す ることで

あ るが,実 測に よれば壁 に ごく接 した ところまで上式は

良好な近似で成立 し,境 界層 は壁 に接 した ところを除い

て,ほ とん ど完全 な乱流 として扱 える ことがわかる。変

動速度を,平 均流速 でわ った乱れの強 さも,壁 に近づく

に したが って,壁 から離れた領域 よりもむ しろ増大 し,

壁 に ごく接 した ところで極大値を とり,以 後壁 に向って

急激に減 少す る。すなわち,平 均流が壁の影響に よって

減 少 していっても,乱 れの速度は,そ の減少の度合 とは

あま り関係せず 壁の ごく 近 くまで 保 たれ て い るのであ

る。減少を始め る壁か らの距離は,各 方 向の乱れの強さ

の うち,境 界条件の影響を直接 うける方 向の量が,そ の

他の2方 向に比べ て大 きい とい う差 異を 示 している。

この よ うな実測値 か ら,壁 のあるため の条件を もっと

もゆ るめ るな らば,境 界層 の厚み とは,最 大乱子の大き

さに相当 し,壁 に ごく接 したいわゆ る層流底層の厚みが

最小乱子に相当す る とい えるで あろ う29)。も う少 し,精

密ないい方をす るならば,壁 か ら多少離 れ た ところで

は,粘 性 の作用は無視で きて,流 れは単にそれ より上の

流れにひきづ られて,運 動量は,乱 れが発達 したその上

部 か らこのなかに移動す る。運動量が,境 界層内に移動

す るためには,壁 面に沿 う方向の平均速度が 速度分布を

もたねばな らないが,こ の領域が乱流の境 界層 と呼ばれ

る部分であ る。

流体の密度お よび,剪 断力 σが与 え られ た場合に,速

度分布の とるべ き形は,次 元的 考察 か ら対 数速度分布と

な るが,う ず の言葉 を用 いるならば,こ の乱流境界層の

内部では

506 (80) 化 学 工 学

Page 13: II. 乱流 と混 合拡 散 - J-STAGE

領 域I:う ずの大 きさ ∞y

うずの速度

拡散係数

(2・55)

とな る.こ れに接する領域II,す なわち粘性底層では,粘

性の作用があ らわれて,新 たに うず の発生はな く,N・S

表の慣性項は無視できて,層 上部か ら入って くる各 うず

の相互作用は ここではな くなってくる1,30)。

領域II:う ずの大 きさ

うずの速度 (2・56)

拡散係数

y=δ0で,う ずの速度に関 してI,II領 域が接するこ と

にな る。

この下部 にあるのが,分 子スケールの拡散が支配す る

層流底層であ って,σ=ρ ν・dU/dy: U=σy/ρ ν=ν*yんな

る速度分布を もっている。各領域 の拡散係数を上記 のご

とき形 とし,移動す る諸量の拡散係数の大,小 関係を評価

して,移 動速度お よび分布を推定す ることができる30)。

引 用 文 献1)* Landau, L. D., Lifschitz, E. M.: "Fluid Mechanics" (英

訳), Pergamon Press (1959)2)* バチェラー(巽 友正訳):"乱 流理論", 吉岡書店 (1960)

3)* 小倉義光: 予報研究 ノー ト, 4, 139, 169 (1953)

4)* Townsend, A. A.: "The Structure of Tubulent ShearFlow," Cambridge University Press (1956)

5) Kolmogorov, A. N.: J. Fluid Mech., 13, 82 (1962)bboukhov, A. M.: J. Fluid Mech., 13, 77 (1962)

6) 遠藤一夫, 西村肇:化 学工学, 22, 533 (1958)

7) 日野幹雄: 日本機械学会誌, 66, 1627 (1963)

8) Van Deeter, J. J., Van der Laan, E. T.: Appl. Sci. Res.,A, 10, 102 (1961)

9) Hinze, J. O.: Appl. Sci. Res., A, 11, 33 (1962)10) Corrsin, S., Lumley, J.: Appl. Sci. Res ., A, 6,114 (1957)11)* Hinze, J. O.: "Turbulence," 352, McGraw Hill (1959)12) Hino, M.: Proceedings of American Society of Civil

Engineers, Hydraulic Division, HY 4, 161 (1963)

13) Richardson, L. F.: Pro. Roy. Soc. London A, 110, 709

(1926)14) Batchelor, G. K.: Quart. J. Roy. Met. Soc ., 73, 133 (1950)15) 井上栄一: 科学, 20, 515 (1950)

16) Townsend. A. A.: Proc. Roy. Soc . A, 224, 487 (1954)

17) Saffman, P. G.: J. Fluid Mech., 8, 273 (1960)

18) Mickelsen, W. R.: J. Fluid Mech., 7, 397 (1960)

19) Batchelor, G. K.: J. Fluid Mech., 5, 113 (1959)Batchelor. G. K., Howells, I. D., Townsend. A . A.:J. Fluid Mech., 5, 134 (1959)

20) Corrsin, S.: J. Fluid Mech., 11, 407 (1961)21) 西村肇: 日本機械学会37期 講演会前刷

22) 西村肇: 燃料協会誌, 39, 636 (1960)

23) Щ елкин, К.И.: Ж.Т.Ф, 13, 520 (1943)

24) Richmond, J. K., Grumer, J: Jet Prop, 28, 393 (1958)25) Щ етинков, Е.С.: Горениe в Трубупeнтном Потоке.

p.5~50(1959)

26) Sunimerfield, M., Reiter, S. H.: Jet Prop., 24, 254(1954)27) Panel Discussion on Turbulent Combustion at John

Hopkins University: Jet Prop., 26, 481 (1956)28) Горениeв Трубупентном Потокe, А .Н. (1956)

29) 井上栄一: 応用力学, 4, 53 (1956)

30) Levich, V. G.: 'Physicochemical Hydrodynamics ."p.144, (M), Prentice-Hall. Inc. (1962)

上記中*印 を付したものは,乱 流全般にわたる参考文献のうち,特 長あ

る代表例をあげたものであって,I章 の細目に関する多くの原論文の所在

はこの うちに見出すことができる。

混 合 拡 散*

宮 内 照 勝**

は じ め に

ガス吸収塔 とか蒸留塔,抽 出塔 とい った単位操作装置

あるいは化学反応装置には定常流系 で操作 され てい るも

のが多い。 このよ うな装置 内を流れ る均相流体や分散粒

子群(固 体粒子や流体泡)は 周知の よ うに装置内で種々

の程度に混合作用を受けつつ流れている。

この混合作用が平均流 と直角な方 向に起 これば器壁 に

むか う拡散流束 と濃度分布 とが影響 を受け るわけで,充

填層内での半径方向の熱 とか物質の拡散は この現象に密

接に関係 してい る。一方,こ の混合作用が 平均流の方向

に起これば,い わゆ るLongitudinal Dispersion(以 下,

軸方 向の混合拡散,あ るいは,単 に混合拡散 と呼ぶ)と

呼ばれ る現象 とな る。

実際の化学装置内では どの よ うな機構に よって流れ方

向の混合拡散が起 こるのか とい うことにな ると,必 ず し

も単純なモデルで表現 できない場合 も多い。 しか し実際

に この ような現象が起 こると,装 置か ら排出され る流体

や粒 子群の滞留時 間分布の幅を広 くし,ま た,装 置内で

の濃度分布を平坦化 させ る作用を もっているので,装 置

能力の点か ら見ると好ま しくない場合 も少 なくない。 し

たが って,装 置内での流体混合を希望す る レベルに保持

す るための工学的な基礎 と体系化が必要 とな り,最 近急

激に研究が進展 しつつある。

1961年 中頃 までの進展につ い ては す で に解説や紹介

*昭 和39年5月1日 受理

**東 京大学工学部化学工学科

第28巻  第6号  (1964) (81) 507