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162 株式会社小松製作所 株式会社小松製作所(以下、同社)は林業機械の生産・販売事業を行っている。近年では、林業 のスマート化を進めるべく、ドローンや IoT 技術を用いた各種システム・サービスの提供を開始、 林業サプライチェーンの見える化を実現し始めた。現在、ドローン空撮による森林情報や林業機 械の造材報告の集積を進めている。植林、育成、伐採、搬出、運送、加工、販売といった林業のサ プライチェーン全般の情報をつなぎ合わせることで、林業事業を拡大しながら、林業の生産性向 上や持続可能な林業の実現に貢献することを目指す。 File 19 持続可能な 農林水産業 ドローン・IoT 技術を活用し 生産性を向上、持続可能な 一次産業へ

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株式会社小松製作所

株式会社小松製作所(以下、同社)は林業機械の生産・販売事業を行っている。近年では、林業

のスマート化を進めるべく、ドローンや IoT 技術を用いた各種システム・サービスの提供を開始、

林業サプライチェーンの見える化を実現し始めた。現在、ドローン空撮による森林情報や林業機

械の造材報告の集積を進めている。植林、育成、伐採、搬出、運送、加工、販売といった林業のサ

プライチェーン全般の情報をつなぎ合わせることで、林業事業を拡大しながら、林業の生産性向

上や持続可能な林業の実現に貢献することを目指す。

File 19 持続可能な 農林水産業

ドローン・IoT技術を活用し

生産性を向上、持続可能な

一次産業へ

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ドローンや IoT 林業機械等の導入により、林業サプライチェーン(造林から伐採・搬出・

運搬・搬入・利用など)の見える化を実現

建設業界で培った ICT システムや情報プラットフォームを林業分野で活用することで、

質の高いサービスの提供の水平展開を実現

サプライチェーンの川上情報(林業事業に必要な森林データ)のシェアを握ることにより、

既存事業である川下領域(林業機械販売)の売上拡大を目指す

株式会社小松製作所

所在地 東京都港区赤坂二丁目 3 番 6 号 コマツビル

従業員数 59,632 人(2018/03 期 連結)

設立年 1921 年

資本金(百万円) 70,120

売上高(百万円)

※連結ベース

2016 年 3 月 1,854,964

2017 年 3 月 1,802,989

2018 年 3 月 2,501,107

① 事業概要

国・地域に合わせた建設機械を提供

同社は、建設機械の販売を主としていたが、2004 年、スウェーデンの Partek Forest 社を買収し、

コマツフォレスト AB 社設立を契機として、林業機械の生産・販売事業に本格的に乗り出した。

林業機械は、木材の伐採や搬出に用いる機械であり、欧州で主流の CTL 工法向けと北米で主流の

FTL 工法向けの 2 タイプに分類される。同社は、買収先企業が得意としていた CTL 工法向けだけ

でなく、FTL 工法向けの機械ラインナップも充実させ、双方の林業機械を国や地域のニーズに即

した形で提供している。

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図 72 林業機械の概要

出所)コマツ

林業分野で様々な ICT関連サービス事業を提供

同社は、機械を販売するだけでなく、林業向けに様々なシステム・サービス事業を展開してい

る。林業従事者の高齢化や労働災害問題が危惧されている林業に、ICT を導入することでスマー

ト化を図ろうとしており、具体的には、林業機械のコントロールや作業状況をデータ化する「マ

キシエクスプローラ」やそれらのデータをクラウド環境で管理する「マキシフリート」、さらにメ

ンテナンス等の商品サポートを行う「プロアクト 2.0」等のシステム・サービスがある。また、2018

年には、林業機械のシミュレーション機器事業を展開するスウェーデンのオリックス・シミュレ

ーションズを買収するなど、同分野を強化している。

図 73 小松製作所が提供するスマート林業向け ICT システム

出所)コマツ

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林業のサプライチェーン全般をカバーする IoT プラットフォームを構築

2014 年、石川県と林業に関する包括連携協定を締結し、日本国内での林業のサプライチェーン

を効率化する仕組みを構築し始めている。ドローンによる空撮を活用することで樹木の種類や本

数、長さを一度に計測し、クラウド上にデータを保管する。この時の情報システムは建設業界向

けと同じ枠組みを活用する。さらに、伐採した木の太さや長さ、体積などのデータを離れた事務

所や木材センター、製材工場などにリアルタイムで送り、販売に活用することを考えている。将

来は、木材価格や需要量といった情報に合わせて最適な施業計画作成や収材指示等を行う仕組み

や自動化技術を活用して作業を行う仕組みを構築しようとしている。

これにより、従来のように林業従事者が山林に入り、木を 1 本ずつ測り、経験と勘で伐採作業

を実施するようなことがなくなる。需要に合わせて木々を伐採・加工し、最も高い価格で販売で

きるようになることで、生産性・収益性が向上する。また、必要な分だけ伐採しかつ最適な植林

計画も策定できるようになることから、森林資源の持続可能性向上にも貢献する。

図 74 北欧におけるスマート林業の仕組み

出所)コマツ

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図 75 スマート林業 イメージ

出所)コマツ

② 事業参入の経緯

林業の課題に着眼、スウェーデン企業を買収して林業機械市場に本格参入

日本において林業従事者は長期的に減少しており、平成 27 年には 4 万 5 千人となっている。ま

た、林業従事者の高齢化率(65 歳以上の割合)は平成 27 年には 25%となり、全産業平均の 13%

に比べて高い水準にある。後継者や労働力不足に悩む事業者も多い。また、同社の創業の地であ

る石川県は林業が盛んであり、林業雇用の維持・拡大は県の課題となっていた。

同社はこうした林業の課題に着眼し、解決策を提供することを目指した。主力事業の一つであ

る建設機械と林業機械は共通する要素が多いので、従前から、建機をベースにした林業仕様車を

開発、販売してきたが、2004 年にスウェーデン Partek Forest 社を買収して、コマツフォレスト AB

社を設立し、本格的に林業機械市場に参入した。買収後、主に北欧、北米において林業機械事業

を開始した。2012 年にスウェーデンに本社を置く林業機械のアタッチメントメーカーのログマッ

クス AB 社を買収、2018 年にカナダに本社を置く林業機械アタッチメントメーカーのクワドコ社

を買収する等、積極的に他社との提携・買収を進めている。

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図 76 小松製作所の林業機械事業の沿革

出所)コマツ

建設事業で培った技術を活用した ICT システム・サービスに横展開

同社は、建設業界向けに「スマートコンストラクション」サービスを提供している。これは、

地形の 3 次元データをドローンで計測し、半自動制御の油圧ショベルやブルドーザーを使って設

計図どおりに施工する技術を活用したサービスである。また、ドローンを活用した測量サービス

を実施するスカイキャッチ社(米)に資本参加し、ドローンやエッジコンピューティング技術を

利用したサービス「EverydayDrone(エブリデイドローン)」を 2018 年よりスマートコンストラク

ションサービス利用者向けに提供している。本サービスは、建設現場における日々の進捗管理の

ために毎日簡単にドローン測量ができるサービスである。また、建設機械の遠隔監視システム

「KOMTRAX(コムトラックス)」をいち早く提供するなど、同社は IoT の先進企業として知られ

る。2017 年 7 月には、IoT プラットフォーム「LANDLOG(ランドログ)」の提供を開始しており、

IoT、スマート化を率先して推進している。

同社は、建設業界向けサービスのために構築した ICT システム/プラットフォームを、林業サ

ービス向けに水平展開している。例えば林業サービス向けに活用するドローンは、建設業界向け

に開発したものと同じ機体を活用する。また、LANDLOG を林業分野でも活用する。このように

して、林業のスマート化を積極的に進めている。

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③ 成功・差別化要因

建設業界向けに構築したシステム・サービスリソースを水平展開することで投資負担を抑制

IoT プラットフォームの構築やドローンの機体開発などは、大きな投資を必要とする。同社は、

建設業界向けに構築したシステムやサービスリソースを林業サービス向けに水平展開し、初期投

資コストを抑えることで、顧客から十分なフィーを得られない市場黎明期から様々なデータ収集・

サービス開発を行える体制を構築している。

オペレーション先進国の企業を買収することで、ICT化の核になる業界ノウハウを獲得

スウェーデン企業を買収することで、林業機械といった商品だけでなく、林業の効率的なオペ

レーションに関するノウハウを手に入れた。同社によると、スウェーデンでは政府が「森林研究

所」を運営して林業 ICT 化向け技術の規格を策定するなど、先進的な林業についてのノウハウが

蓄積されていた。企業買収によって林業の幅広いサプライチェーンに関するノウハウを獲得、前

述の建設業界で培った ICT 技術と組み合わせることで、独自の林業スマート化に向けた技術や事

業開発を行っている。

足りない ICT技術は積極的に外部から取り込む

ドローンサービスを実施するスカイキャッチ社の他にも、様々な企業との提携や買収を進め、

自社に足りない機能を積極的に外部企業から取り入れている。建設現場で先行的にサービス化が

進む IoT プラットフォーム「LANDLOG」のサービス化に際し、株式会社 NTT ドコモ、SAP ジャ

パン株式会社、株式会社オプティムと提携を実施した。また、林業機械領域においては、サービ

スラインナップ拡充のため、2012 年にスウェーデンに本社を置く林業機械のアタッチメントメー

カーのログマックス AB 社を買収する等、積極的に他社との提携・買収を進めている。

自治体に営業し、共同でサービス立ち上げ

2014 年、石川県と林業に関する包括連携協定を締結し、林業のサプライチェーンを効率化する

仕組みの構築を進めている。これにより現在は、森林に関連するデータがどれほどの価値を持っ

ているかを検証しているという。こういった自治体との連携を重視しており、自治体と共同でサ

ービスを立ち上げ、スマート林業サービス拡大に向けての試験を実施し、林業データの可能性を

検証していくという。

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④ 事業ビジョン・展望

サプライチェーンの川上情報を握ることにより、川下の既存事業の売上拡大を目指す

同社はドローンを活用し、森林を空撮してデータ化することで森林測量の省力化を進めている。

また、植林データ取得等にも努めている。こうしたデータを活用できる林業機械を提供できれば、

林業事業者に対する提供価値が拡大し、同社の林業機械のシェア向上につながる。川上の情報を

握って、その情報を活用することができる林業機械を提供することで、シェアを高めることがで

きると考えている。

サービス、プラットフォーム事業での収益化を模索

現行のスマート林業サービスは既存の林業機械事業の強化という位置付けであるが、林業の IoT

化には様々な可能性があると考えており、建設現場で展開し始めた IoT プラットフォーム

「LANDLOG」の新たな事業領域の柱として林業を位置付け、将来的にはサービス、プラットフォ

ーム事業で収益化する可能性を模索していく方針である。

⑤ 政府への要望

高度なサービス提供を可能にする公的情報の公開

現在、樹高測定の実施には、国土地理院が提供する数値標高モデル DEM(Digital Elevation Model)

を使用しているが、基本的には 5m メッシュ(標高)のデータである。そのため同社は、北欧諸国

のように、1m メッシュ(標高)のデータが整備され、林業領域における IoT 化の可能性が広がる

ことを期待している。

山林における通信ネットワーク環境の充実

同社によると、欧州では山林でも 4G 水準の通信ネットワーク環境整備が進んでいる。林業の

スマート化には通信環境の整備が必須である。現在、人工衛星を用いた通信システムの構築も試

行しているが、政府に対しては、日本の山林地域における通信ネットワークの充実を期待してい

る。

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ICT技術を用いた工法に合致した林業規格の改革

同社は、ICT 技術を用いた新しい林業のオペレーションに合わせて、計測の仕方や製品の規格

など新たな業界の規格を提案したいと考えている。ICT 技術を活用してオペレーションを効率化

しても、旧来の規格に合わせて二度手間・二重投資が生じてしまっては意味がない。同社として

は、各種規格が技術革新に柔軟に変化することを期待している。

株式会社小松製作所

建機マーケティング本部

林業機械事業部 部長

坂井 睦哉さん

1988 年に入社。インドネシアで熱帯

林の植林技術の研究に関わり、2004

年に理学博士を取得。現在、林業サプ

ライチェーン全体にわたるグローバル

な林業機械のマーケティングに関わ

る。