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シンポジウム 1 抄録

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シンポジウム 1 抄録

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虚血耐性現象−最近の話題−大阪大学大学院 医学系研究科 神経内科学 脳卒中センター

北川 一夫

脳神経細胞は虚血に対して脆弱であるが内在性防御機構を備えており、その事を実験モデルで可視化したのが虚血耐性現象と考えられる。致死的な虚血負荷が加わる 1 日以上前に軽度の虚血負荷を加えておくことにより、本来致死的な虚血侵襲に対する抵抗性を獲得する現象であり、各種脳虚血モデルおよび神経細胞培養モデルでも証明されてきている。しかしより短期間の間隔により耐性が誘導されることや重度虚血侵襲後の軽度虚血負荷による post-conditioning の存在も知られるようになってきた。また虚血以外のストレスによる耐性の誘導、脳以外の他の臓器の虚血負荷による remote ischemic preconditioning の誘導も明らかとなり、臨床応用に適した耐性獲得条件が次第に示されつつある。虚血耐性の分子機構を明らかにする研究はこれまでに精力的に行われ、ストレスタンパク質、アポトーシス抑制因子 各種転写因子 細胞内情報伝達系の関与などが明らかにされてきた。我々はストレスタンパク質、転写因子 CREB 活性化を主に検討してきた。しかし発現遺伝子の解析からは 代謝抑制 (metabolic down-regulation) の関与、microRNA の発現変動なども示されてきている。耐性獲得の誘因は加わるストレスの種類により異なっている。たとえば虚血ではグルタミン酸受容体とくにシナプスNMDA受容体活性化が重要と考えられるが、炎症刺激では Toll-like 受容体を介した刺激、酸化ストレス負荷ではフリーラジカル刺激による転写活性化、低酸素負荷では Hypoxia-inducible factor の活性化が耐性獲得の主な経路と考えられる。虚血耐性は当初予想したより複雑な細胞内経路が関わっている事が明らかになってきたが、低体温と並んで最も強力な虚血脳保護作用を有している事象であり、その分子機構の更なる解明と共に臨床現場に如何に活用できるかについての研究の進展が期待される。

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S1-2

脳梗塞に対する脳低温療法の作用機序と臨床応用新潟大学 脳研究所 神経内科

○下畑 享良、西澤 正豊

1987 年,動物モデルにおいて脳虚血に対する脳低温療法の有効性が初めて確認され,その強力な神経保護効果から臨床への応用が期待された.その後,脳低温療法は心肺停止後脳症,新生児低酸素性脳症といった全脳虚血や重症頭部外傷に対して有効性が検討され,さらに局所脳虚血(脳梗塞)に対しても臨床試験が行われている.局所脳虚血に関する脳低温療法の基礎研究はその作用機序を明らかにすることに主眼が置かれてきた.この結果,脳血流,酸化的ストレス,興奮性アミノ酸毒性,アポトーシス,炎症,血液脳関門,神経再生など多面的作用を持つことが報告された.我々も脳低温療法が PI3K/Akt 経路(J Neurosci 2005)やδ PKC 活性(Stroke 2007),ε PKC 活性(JCBFM 2007)を介しアポトーシス抑制に作用することを示した.しかし脳低温療法は万能ではなく,動物モデルにおいてさえプロトコールによっては効果が消失することを認識する必要がある.まず脳低温療法は再灌流障害にのみ有効性を示すため,動物モデルの選択が必要である.冷却温度や開始時間も重要で,血流再開後に開始する脳低温療法の報告は少ない.さらに脳低温療法の持続時間も効果に影響を与える.これまでの検討の結果からは,脳低温療法の臨床応用への展望について楽観的な見方はしにくい.脳低温療法の臨床応用の実現のためには,目的や対象症例を限定し,それらに基づき臨床に近い形で動物モデルにおける脳虚血後脳低温療法の効果について検討を進め,理想的な治療可能時間域,至適温度,至適持続時間,復温の条件を決め,その上でヒトでの臨床試験を計画すべきである.さらに低体温による合併症や,tPA による線溶や血小板機能に与える影響も検討が必要である.本講演では脳梗塞に対する脳低温療法の可能性について議論したい.

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虚血脳における CRTC1-CREB 制御機構とその役割1 大阪大学大学院医学系研究科神経内科学、

2 医薬基盤研究所代謝疾患関連タンパク探索プロジェクト○佐々木 勉 1、竹森 洋 2、八木田佳樹 1、望月 秀樹 1、北川 一夫 1

近 年 CREB 特 異 的 coactivator で あ る coactivators named transducer of regulated CREB activity (TORC, 又は CREB Regulated Transcriptional Co-activator (CRTC), with TORC1- 3 isoforms) が同定され、CREB 活性化において CRTC family の重要性が示唆されている。CREB-CBP が KID-KIX ドメインを介して調節されるのに対して、CRTC family は CREB bZIP ドメインを介して行われる (Conkright MD et.al. Mol Cell. 2003)。CRTC は非刺激下において主に細胞質にあるが、Ca2+、cAMP 刺激が入ると、脱リン酸化がおこり、核内移行し CRE 転写活性化する。CRTC 活性化に繋がる経路として、NMDA受容体(特に NR1/NR2A subtype)(Sasaki T et al. Neuron.2011),VGCC 受容体 (Espa J et.al. J Neurosci 2010) が報告されている。またシナプス部における CRTC1 の重要性すなわち、活動依存的に CRTC1 がシナプスから核内に移行することが、記憶 LTP においても重要であることが示された(Chng TH et.al. Cell. 2012)。他方神経病態においても、脳虚血、アルツハイマー型認知症、ハンチントン病(Chaturvedi RK et.al. Hum Mol Genet. 2012)などにおいて、CRTC1 活性化が治療に繋がりうることが示唆されてきている。我々は、CRTC1 をリン酸化するキナーゼとして、AMPK family に属する salt-inducible kinase (SIK) について検討するとともに、CRTC-CREB 活性化によりPGC-1 family の活性化を引き起こし、mitochondorial biogenesis に寄与しうること、TNF-alpha 抑制、IL-10 亢進などの抗炎症作用を介しても治療に寄与しうる可能性があることが考えられる。これらの制御機構をもとに、CRTC1-CREB 経路活性化に繋がりうる治療薬の開発を探索している。

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S1-4

虚血脳におけるシャペロン介在性オートファジーの役割1 広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 神経薬理学、

2 広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 脳神経内科学○田中 茂 1、土肥 栄祐 2、関 貴弘 1、秀 和泉 1、

松本 昌泰 2、酒井 規雄 1

脳虚血環境下における神経細胞死のメカニズムとして、アポトーシスやネクローシスの関与が示唆されているが、近年オートファジーが関与した神経細胞死が報告され注目を集めている。オートファジーはリソソームによる細胞質蛋白分解機構であり、基質のリソソームへの運搬法によりマクロオートファジー

(macroautophagy:MA)、ミクロオートファジー、シャペロン介在性オートファジー(chaperone-mediated autophagy : CMA)の 3 つに分類される。中でもCMA は、特定の配列モチーフを有する基質蛋白質が Hsc70 複合体に認識され、Hsp40 などのシャペロン蛋白と複合体を形成し、LAMP-2A 陽性リソソームへと運搬される、基質特異性を有するタンパク分解機構である。さらに、CMAは長期の飢餓ストレスや酸化ストレスなどで活性化され、異常蛋白の分解を行う点から細胞保護的に働くことが示唆されている。最近では、変異αシヌクレインによる CMA 活性の低下とパーキンソン病の病態との関連も報告されている。一方で、脳虚血下でのオートファジー機構には不明な点も多く、MA の過剰な活性化が神経細胞死に関わるとの報告があるが、CMA との関連については未だ明らかではない。我々の研究室では最近、CMA 活性化を一細胞レベルで評価する新規インジケータを開発し、Neuro2A(マウス神経芽細胞腫)細胞の低酸素負荷モデルを用いて、CMA 活性化を評価すると共に、細胞生存への関連を評価してきた。その結果、Neuro2A 細胞では低酸素負荷により CMAは活性化され、低酸素による細胞死に対し CMA が細胞保護的に作用する事が明らかとなった。CMA は神経細胞においても内在的な細胞保護作用を有する可能性があり、MA と共にオートファジー機構の調節が虚性神経細胞障害の新たな治療ターゲットとなる可能性が示唆される。

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S1-5

脳虚血における小胞体ストレス応答の役割広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 分子細胞情報学

今泉 和則

細胞内外からの様々な刺激により小胞体内に折り畳み不全の不良タンパク質がたまる状態を小胞体ストレスという。小胞体ストレスが加わると細胞は直ちにストレスから回避するための防御システムを活性化させる(小胞体ストレス応答)。脳虚血時には梗塞巣周辺部に小胞体ストレスマーカーが強く誘導されることから、虚血後の神経細胞の生死に小胞体ストレスが深く関わることが示唆されている。一方、小胞体分子シャペロン BiP を細胞内に強制発現させると、小胞体ストレスによる細胞死から保護できる。我々は虚血後の神経細胞保護を目的に、BiP を誘導する低分子化合物の開発を試みた。約 2 万種類のケミカルライブラリーから BiP プロモーター活性を上昇させる化合物をスクリーニングした。その結果、5つの候補化合物を見出すことに成功し、そのうちレポーター活性を最も上昇させる化合物 BIX(BiP Inducer X)について詳細に検討した。BIX を培養細胞に投与すると、BIX の濃度依存的に BiP mRNA は有意に発現上昇した。BiP 以外には、上流域に ER stress response element を有する遺伝子、すなわち GRP94 や CHOP 遺伝子が軽度に発現誘導した。しかし他の小胞体ストレス関連遺伝子については全く発現変動がみられなかった。このことから、BIX は小胞体ストレスを誘発することなく、小胞体分子シャペロン BiP を選択的に発現誘導する化合物であることがわかった。次に中大脳動脈永久閉塞モデルを作成し、マウスに BIX を投与することで脳梗塞が軽減できるか否かについて調べた。BIX を投与しなかったマウスと比べ、BIX 投与群では明らかに脳梗塞巣の領域が減少した。以上から BIX は小胞体ストレスを軽減することで脳虚血後の神経細胞死から保護する働きがあることが明らかになった。本シンポジウムでは、グリア細胞で起こる小胞体ストレスから保護する働きのある遺伝子 OASIS の解析についても併せて紹介する。

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シンポジウム 2 抄録

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S2-1

脳修復過程における内在性神経前駆細胞の移動名古屋市立大学 医学研究科 再生医学分野

澤本 和延

脳梗塞によって傷害を受けた脳組織を幹細胞治療によって修復する研究は、細胞を移植する方法と内在性の神経幹細胞を用いる方法に大別される。後者のアプローチには、細胞移植に伴う危険性や倫理的な問題が少ないという利点があるが、内在性の幹細胞から再生される細胞だけでは量的・質的に不十分な場合がある。これを解決するためには、内在性の再生メカニズムや問題点を明らかにして、それを克服するための技術を開発する必要がある。我々は、これまで主にマウスの脳梗塞モデルを用いて、脳室周囲の内在性神経幹細胞からニューロンが再生するメカニズムを解析してきた。脳室周囲に存在するアストロサイト様の神経幹細胞は通常は嗅球ニューロンのみを産生するが、脳組織が傷害を受けると、移動方向を変えて線条体へ向かって移動し、傷害部付近で成熟してシナプスを形成する。脳室壁で産生されるニューロンが脳組織中を移動する様子を詳細に解析したところ、血管を足場として移動することが明らかになった。また、これらの新生ニューロンは、アストロサイトに自ら働きかけて、トンネル状の構造物を形成させ、その経路を通って移動することもわかった。さらに、レーザーを用いてニューロンを除去した後の再生過程を二光子顕微鏡を用いて一ヵ月間に渡って観察したところ、ニューロンが失われた場所に同じ種類のニューロンが効率良く組み込まれること、その効率が感覚刺激によって促進されることが明らかになった。現在我々は、ゼブラフィッシュ・マウス・コモンマーモセットの様々な病態モデルを用いて、脳に内在する神経幹細胞によって脳細胞が再生される過程をイメージングし、その分子・細胞機構を解明するとともに、再生を促進する技術を開発するための実験を進めているので、その経過を紹介したい。

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S2-2

大脳皮質梗塞巣由来、傷害誘導性神経幹細胞兵庫医科大学 先端医学研究所

○中込 隆之、松山 知弘

近年、脳梗塞部およびその周縁部に内在性神経幹細胞が誘導され、神経再生機構に関与することが明らかとなりつつある。従って、脳梗塞後の神経再生機構を理解する上で、虚血病態下に誘導される神経幹細胞の起源・特性を知ることは重要である。従来より、神経幹細胞の起源として側脳室(SVZ)由来神経幹細胞をはじめとしたグリア細胞等がその候補として考えられてきたが、虚血病態下において誘導され、神経再生機構に関与し得る神経幹細胞の起源に関しては、よく知られていない。我々は、これまでに、中大脳動脈閉塞により作成したマウス脳梗塞モデルを用い、大脳皮質梗塞巣から神経幹細胞(傷害誘導性神経幹細胞:injury-induced neural stem cell; iNSPC)を発見し、この細胞が既報の神経幹細胞とは異なった特性を有すること、その起源として SVZ 由来神経幹細胞ではなく、元々、大脳皮質に存在する細胞に由来することを報告してきた(Eur J Neurosci, 2009;Stem Cells, 2009, 2010)。さらに最近、我々はこの iNSPC が、脳表を覆っている脳軟膜から脳実質にかけて存在している血管周細胞(pericyte)を起源とする neural crest 系の細胞であることを示唆する所見を得た(Stem Cells Dev, 2011)。本シンポジウムでは、このiNSPCに関して、我々がこれまでに得た知見を中心に、脳梗塞病態下における神経再生機構に関して議論するとともに、その展望に関して紹介したい。

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ヒト iPS 細胞由来神経幹細胞の応用とその問題点1 慶應義塾大学 医学部 生理学教室 / 咸臨丸プロジェクト、

2 慶應義塾大学 医学部 生理学教室○岡田 洋平 1、岡野 栄之 2

 ヒト iPS 細胞は、ヒト ES 細胞と同様に、無限に増殖し、様々な神経系細胞を生み出すことができるため、神経再生医療や神経系細胞の in vitro モデルとして様々な研究への応用が期待されている。実際に、我々はヒト iPS 細胞から神経幹細胞を誘導し、脊髄損傷モデルにおける神経再生や、神経変性疾患の病態解析への応用を行ってきた。しかし、ヒト iPS 細胞は、株ごとに「リプログラミングの完全さ」が異なり、多様な分化能を示すため、必ずしも全ての iPS細胞株から正常で安全な分化細胞を誘導できるとは限らない。また、ヒト iPS細胞の品質を厳密に評価する基準は未だ定まっていない。我々は、従来の品質評価基準により良質であると判定された複数のヒト iPS 細胞株の神経分化能と造腫瘍性を検討し、各ヒト iPS 細胞株間の違いを生み出す要因を検討した。その結果、一部のヒト iPS 細胞株は in vitro で神経系細胞へと分化できず、また別のヒト iPS 細胞株から誘導した神経幹細胞は、in vivo で神経系腫瘍であるグリオーマ様腫瘍を形成した。次に、正常の神経分化能を持ち、造腫瘍性を示さないヒト iPS 細胞株と、神経分化不全や造腫瘍性を示したヒト iPS 細胞株の相違を、遺伝子発現プロファイルとゲノム安定性の観点から比較解析を行ったところ、神経分化不全や造腫瘍性を示すヒト iPS 細胞株は不完全にリプログラミングされており、神経分化誘導と共にゲノム不安定化を示すことが明らかになった。さらに、未分化状態における特定の DNA 修復関連遺伝子群の発現プロファイルにより、ヒト iPS 細胞のリプログラミングの完全さをある程度予測できることを見出した。 これらの結果から、今後の応用研究や臨床応用のためには、完全にリプログラミングされた「真に良質なヒト iPS 細胞」を見出す必要があり、分化誘導後のゲノム不安定性の評価が必要不可欠であると考えられた。

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S2-4

脳卒中患者に対する自己骨髄単核球を用いた細胞治療とその発展

先端医療振興財団 先端医療センター 再生医療研究部田口 明彦

【背景】我々は脳卒中により障害された神経組織の再生には脳微小血管網の再生が必要不可欠であることを世界に先駆けて明らかにするとともに、脳梗塞後の骨髄単核球移植が血管再生を介して神経再生・神経機能回復をもたらすこと、脳梗塞患者においても動物モデルと同様に脳梗塞亜急性期には神経幹細胞が誘導されていることを示し、霊長類における前臨床試験を経て、脳卒中患者に対する自己骨髄幹細胞を用いた臨床試験を開始している。【方法】本臨床試験での対象患者は脳梗塞 1 週間後においても神経機能回復が十分でない重症の心原性脳塞栓症症例で、1. 脳梗塞発症約 1 週間後に骨髄細胞の採取、2. 比重遠心法を用いて単核球分画の分離、3. 静脈内に 10 分間で全量投与、を行いその安全性および有効性に関する検討を行っている。【成績】現在予定している 12 症例中 10 症例でエントリー患者の登録が終了しているが、細胞治療に伴う有害事象は観察されておらず、また多くの症例で順調な機能回復が観察されている。

【結論】本細胞治療はその機序からも脳梗塞がより軽度の患者群において、さらに強い治療効果が期待できると考えており、治療対象群を拡大した多施設共同臨床試験に向けたプロトコールを現在作成中である。また操作が安全で簡単な細胞治療用骨髄単核球精製デバイスの開発と併せて、細胞治療をより普遍的な治療法として普及させていくための研究開発を行っている。

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S2-5

骨髄間質細胞移植による中枢神経再生医療のトランスレーショナルリサーチ1 北海道大学 医学研究科 脳神経外科、

2 富山大学 医学薬学研究部 脳神経外科○七戸 秀夫 1、黒田 敏 2、山内 朋裕 1、齋藤 久泰 1、

新保 大輔 1、寳金 清博 1

【目的】中枢神経疾患に対し、骨髄間質細胞 (bone marrow stromal cell: BMSC) 移植治療が臨床試験として開始されつつあるが、本格的な臨床応用には依然問題が残されている。安全で効率的な細胞培養法を確立すること、移植された細胞の挙動を捕捉すること、神経症状以外で客観的に治療効果を判定することなどは、臨床試験の成否を左右する重要なファクターでもある。われわれは、ヒト platelet lysate (PL) を用いて培養した BMSC が移植ソースとして有効か、鉄製剤 (superparamagntic iron oxide; SPIO) をもちいて MRI で長期間細胞追跡が可能か、移植の治療効果評価法として 18F-FDG PET が有用か検討した。

【方法】5%PL を加えヒト BMSC を継代培養し (PL-BMSC)、ウシ胎仔血清を使用したもの (FCS-BMSC) と比較した。この細胞を SPIO で標識し、ラット脳梗塞モデルに定位移植した。小動物用 7T-MRI で経時的に撮像し、神経学的評価や組織学的評価も同時に行った。またファントムに SPIO-BMSC を移植し、臨床用 3T-MRI における BMSC の可視化を確認した。さらにラット脳梗塞 / BMSC 移植モデルに対し 18F-FDG PET をおこなった。

【結果】PL-BMSC は培養速度、細胞表面抗原、培養液上清中の栄養因子、神経系細胞分化のいずれにおいても FCS-BMSC と同等以上の結果を得た。またラット脳梗塞モデルに移植後は、細胞生着や遊走、ホストの運動機能回復においても FCS-BMSC と同等以上であった。移植された SPIO-BMSC は、小動物 MRIで経時的に 8 週間捕らえられた。臨床用 3T-MRI では SPIO-BMSC が 1000 個もあれば十分描出され、特に SWI や T2*WI が有用であった。18F-FDG PETでは脳梗塞周辺部の大脳新皮質で脳局所糖代謝の低下が見られたが、BMSC 移植 4 週後には vehicle 群に比べ有意に改善が見られた。

【結語】PL を用いた BMSC の培養法、MRI と SPIO 標識による cell tracking、18F-FDG PET による移植治療効果の評価法は、臨床につながる高いポテンシャルを持つと考えられた。

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シンポジウム 3 抄録

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S3-1

血液脳関門 in vitro 再構成モデル(BBB キット)と機能解明への活用

1 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 神経薬理学、2 ファーマコセル株式会社、

3 ハンガリーサイエンスアカデミー○中川 慎介 1、デリ マリア 3、ディン ティ 2、相良真由美 2、

田中 邦彦 1、丹羽 正美 1

血液から中枢神経系への物質の侵入の遮断(関門)と取り込み(輸送)を担う血液脳関門 (Blood-Brain Barrier、BBB) は、脳毛細血管内皮細胞、アストロサイト(星状膠細胞)およびペリサイト(周皮細胞)の 3 種類の細胞が機能的に一体となって構築している。また、BBB は、単なる脳内と血液の間で物質の移動を調節するだけではなく、機能的な neurovascular unit を形成し、今まで考えられていた以上に、ニューロン機能と一体化されていることが理解され始めている。BBB 機能解析に有用なツールである BBB in vitro 再構成モデルの構築には、これらの細胞間クロストークを可能にする微小環境を再現することが重要となる。そこで我々は、初代培養の脳毛細血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトの 3 種類の細胞を立体的に共培養することで、生体に近似したBBB in vitro 再構成モデルを構築し、BBB キットTM と名付けた。BBB キットは、薬物の細胞間隙輸送を調節するタイトジャンクションを機能的に発現しており、排出系トランスポーターである P-glycoprotein および BCRP の輸送担体の発現も確認された。既存薬物の脳内移行性については、in vivo のデータと良く相関し、機能的な in vitro モデルである事が判明した。BBB キットは、薬物候補の脳内移行性を開発の早期段階で予測する創薬支援ツールとして有用であると考えられる。また、我々は BBB キットの培養条件を変化させることで実験的 BBB 病態モデルの再現を試みており、その保護薬(BBB 保護薬)の探索も進めている。

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S3-2

NVU における BBB の役割とcellular metabolic compartment

1 慶應義塾大学 医学部 神経内科、2 東京歯科大学 市川総合病院 内科、

3Departments of Medicine and Neurology, University of Washington, USA○髙橋 愼一 1、安部 貴人 2、伊澤 良兼 3、飯泉 琢矢 1、鈴木 則宏 1

Neurovascular unit(NVU) とは、脳循環を基盤にニューロンの機能を統合的に捉え、脳虚血病態を理解するための conceptual framework である。主要な構造要素としてニューロン、脳微小血管のほか、両者を橋渡しするアストロサイトが含まれる。血液脳関門(BBB)は脳循環から脳実質内への物質移動の制御機構を担い、NVU の血管側の解剖学的構造に由来するバリア機能を構築する。そこには、微小血管として毛細血管および細動脈が存在するが、物質移送制御という面からは毛細血管レベルでの NVU が重要である。ここで血管内皮細胞、基底膜、ペリサイト、その外周を取り囲むアストロサイトの足突起は NVU の“ 微小血管モジュール ” を構成する。BBB 機能は血管内皮細胞間の接着とともに、アストロサイトの足突起による裏打ちにも依存する。“ 微小血管モジュール ” の対極に存在するニューロンは、毛細血管から運搬される酸素とグルコースに依存して機能するため、BBB はバリア機能のみならず選択的物質移送を担う必要がある。ガス体である酸素透過は BBB の影響を受けないが、グルコースは、BBB の通過に特異的な内皮細胞トランスポーター(GLUT1)を必要とする。さらに脳のエネルギー代謝には直接関与しない脂肪酸に対する移送系

(FATPs)も存在する。BBB の透過性に制限を設けることは、脳への保護機構として重要な生体戦略であるが、safety system としてエネルギー代替物質となりうるモノカルボン酸(乳酸、ケトン体)のトラスポーター(MCTs)が存在し、さらに脳実質内にも cellular compartment による合成系と消費系が存在する。本シンポジウムでは NVU 構成要素のうちニューロンとアストロサイトを取り上げ、その metabolic compartment における 1) グルコース代謝、2)脂肪酸代謝を BBB との関連から考察し、さらに双方をリンクする 3) 乳酸、ケトン体の cellular trafficking に関する自験データをもとに、脳虚血病態における NVU 維持機構を論じる。

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S3-3

血液脳関門障害とその分子マーカー大阪大学大学院医学系研究科神経内科学(脳卒中センター)

○八木田佳樹、望月 秀樹、北川 一夫

血液脳関門(blood-brain barrier: BBB)の役割は血液と脳脊髄液間の自由な物質の移動を制限し、中枢神経系内の恒常性を保つことである。このための機能として、中枢神経系にとって有害な血漿中の物質の通過を遮断すること、中枢神経系から不要な物質を血液中に排出すること、中枢神経系に必要な物質を血液中から取り込むことなどがあげられる。BBB 機能の中心となるバリアー機能については、その構造と密接に関連するため脳微小血管内皮細胞における細胞接着関連分子の動態をマーカーとすることができる。脳微小血管内皮細胞間には tight junction が形成されており、細胞間隙における物質移動を極めて厳密にコントロールしている。このため tight junction を構成する接着分子である claudin や occludin などが指標として用いられる。中でも BBB のバリアー機能においては claudin-5 が中心的役割を演じていると考えられる。またadherence junction の構成分子である VE-cadherin も血管内皮細胞に特異的なcadherin であることから内皮細胞の接着機能を評価する上で有用である。また VE-cadherin による接着が tight junction の形成にも関わっていることから、バリアー機能を評価する上でも tight junction 関連分子とともに検証することが重要である。内在化による接着機能減弱は接着分子の局在や関連分子群の動態を合わせて観察することで評価可能である。近年、バリアー機能は血管内皮細胞とペリサイトやアストロサイトなどとの相互作用を通して様々な制御を受けていることが明らかになってきている。またその制御機構の障害による慢性的なバリアー機能の低下が認知機能障害などにつながるという可能性も報告されている。脳虚血や脳外傷などのような急性かつ重度のバリアー機能の破綻ばかりでなく、軽度ではあっても慢性に持続するようなバリアー機能を評価していくことで様々な病態の分子メカニズムが明らかにされていく可能性がある。

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S3-4

血液脳関門機能のイメージング放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター

分子神経イメージングプログラム須原 哲也

薬物の脳移行性は分子量や脂溶性が重要な規定因子であることが知られているが、最近の研究により、血液脳関門に存在する種々の薬物輸送トランスポーターも脳移行性に大きく関与していることが明らかになってきている。なかでも P 糖タンパク(P-glycoprotein)は異物排泄トランスポーターとして向精神薬、抗ウィルス薬、抗ガン剤、免疫抑制薬、降圧薬、麻薬性鎮痛薬など多岐にわたる薬物を基質とし、これらを脳から血液内に能動的に汲み出している。このようなトランスポーターの基質となる薬物の中枢移行性は著しく変化する。P 糖タンパクの基質であるカルシウム拮抗薬 verapamil の標識体 [11C]verapamil とPET を用いることにより、P 糖タンパクの機能を in vivo で評価することができる。通常、 [11C]verapamil は P 糖タンパクの機能により脳内に移行せずに排泄されるため、脳内への取り込みは低い。サルにおいても、[11C]verapamil は通常は P 糖タンパクの機能により脳内に移行せずに排泄され、脳内取り込みは低いが、同じサルに対して特異的 な P 糖タンパク阻害薬を処置すると、[11C]verapamil の脳への取り込み量が平均 4 倍以上に増加した。また P 糖タンパクは薬物相互作用を考える上でも重要であり、多剤併用時の薬物の脳移行性にはP 糖タンパクとの相互作用の考慮が重要である。

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イブニングセミナースポンサードイブニングセミナー

抄録

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ES1

膜貫通タンパク質 Linx による神経回路形成の分子機構神戸大学大学院医学研究科

生化学・分子生物学講座 分子細胞生物学分野萬代 研二

発生過程の神経回路形成は、ガイダンス分子、細胞接着分子や神経栄養因子などの分子群によって制御されている。近年、ネトリン、セマフォリンなど多くのガイダンス分子が発見されているが、依然としてその分子機構の詳細には不明な点が多い。そこで、私どもは発生期の神経の軸索伸長、ガイダンス、標的神経支配に関わる分子の探索を網羅的に行い、膜貫通タンパク質 Linx を見出した(Mandai et al., Neuron. 2009; Guo et al., Nat Neurosci. 2011)。Linx は 18 のメンバーから構成される LIG (leucine-rich repeat and immunoglobulin) 遺伝子ファミリーの遺伝子で、胎生後期のマウスの神経系に高度に発現している。Linx は後根神経節神経細胞と脊髄運動神経細胞において、それぞれの細胞群に発現している受容体型チロシンキナーゼ TrkA、Ret と結合し、そのシグナルを調節することにより軸索の伸長と分枝を制御する。他の LIG ファミリーの分子も、同様の機作により各々の分子が発現している神経細胞群特異的に軸索伸長を調整することが示唆される。したがって、LIG 遺伝子は多様な神経回路形成の微調節を行うと考えられる。一方、Linx は脳においては発生期の内包に高度に発現しており、そのノックアウト動物では内包が完全に欠損する。内包は主として、大脳皮質第五層の神経細胞に由来する皮質投射線維と視床の神経細胞由来の視床皮質線維によって構成されるが、Linx は前者にのみ発現しているが、後者には発現していない。したがって、Linx はこれらの内包を構成する神経束の相互作用を仲介して、互いの神経束をガイドすることにより内包を形成すると考えられる。Linx による神経回路形成の分子機構の最新について紹介する。

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ご略歴

氏名  萬まん

  代だい

  研けん

  二じ

連絡先 神戸大学大学院医学研究科生化学・分子生物学講座     分子細胞生物学分野    〒 650-0017 神戸市中央区楠町 7-5-1    電話 : 078-382-5826    ファックス : 078-382-5419    Email: [email protected]現職  神戸大学大学院・特命講師

略歴

平成 2 年 大阪大学医学部卒業平成 2 年~ 5 年 臨床研修(大阪大学医学部附属病院、大阪労災病院) (内科、脳卒中内科)平成 5 年~ 7 年 大阪大学医学部第1内科にて脳虚血の病態生理についての研究に携わる。平成 7 年~ 11 年 科学技術振興事業団 ERATO 高井生体時系プロジェクトにて細胞の運動

と接着の分子機構についての研究に携わる(技術員、研究員、グループリーダー)。

平成 11 年 医学博士(大阪大学)平成 11 年~ 14 年 大阪大学大学院医学系研究科(生化学・分子生物学講座)にて細胞接着

の分子機構についての研究に携わる(文部教官助手)。平成 14 年~ 23 年 ジョンズホプキンス大学医学部ハワードヒューズ医学研究所(神経科学

講座)にて神経回路形成の分子機構についての研究に携わる(visiting scientist, research associate)。

平成 23 年5月~ 現職 神経回路とシナプスの形成の分子機構についての研究に携わる。

賞    第 17 回井上研究奨励賞 平成 12 年

専攻領域 神経発生学、分子生物学、細胞生物学、生化学

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ES2

中枢神経系における小胞体ストレス応答の重要性金沢大学 医薬保健研究域 医学系

堀  修

 概要:小胞体は、カルシウム恒常性の維持、脂質の代謝、そして分泌系蛋白質の生合成を行う小器官であると共に、重要な細胞内ストレス応答の場でもある。種々の原因で小胞体環境が悪化すると分泌系蛋白質が小胞体内に蓄積し、細胞は小胞体ストレス ( ER stress) と呼ばれる状態に陥る。しかしこの時、小胞体ストレス応答(UPR: unfolded protein response)と呼ばれる細胞内シグナル経路が活性化され、小胞体救済反応が始まる。これまでの研究から、小胞体ストレス/小胞体ストレス応答は、脳虚血、神経変性疾患、糖尿病、炎症、癌、などの病態形成の他、正常の発生段階でも極めて重要な働きをしていることが明らかになってきた。我々は、低酸素暴露したアストロサイトから UPR 標的遺伝子である小胞体内分子シャペロン ORP150 を単離し、同分子が脳虚血、パーキンソン病モデルなど神経変性疾患、更には発生の過程で起こる神経細胞死をも制御することを報告してきた。すなわち、ORP150 を強制発現させた神経細胞は、脳虚血(中大脳動脈閉塞、両側総頸動脈閉塞)やパーキンソン病関連神経毒 (Pael-R, MPTP) に対して抵抗性を示した。更に、ORP150 の上流に位置する UPR の主幹(マスター)転写因子 ATF6 αの神経保護作用について検討した結果、ATF6 αノックアウトマウスでは野生型マウスに比べて、脳虚血あるいは MPTP 誘導性の神経変性が増大する一方、アストロサイトの活性化が抑制されていることが明らかになった。つまり脳内における UPR の活性化は、神経直接、あるいはアストロサイトを介して間接的に神経保護に働いている可能性が示唆された。本セミナーでは、神経細胞保護という観点から UPR の重要性について報告する。

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ご略歴

氏  名 堀ほり

     修おさむ

生年月日 昭和37年11月2日生現  職 金沢大学 医薬保健研究域 医学系 教授   TEL 076-265-2162学  歴 昭和58年4月 大阪大学医学部入学 平成 元年3月 大阪大学医学部卒業

医師免許 平成 元年5月26日 医籍登録 第322705号

学  位 学位名:医学博士  授与大学名:大阪大学 取得年月日:平成10年3月25日

職  歴 平成 元年 7月 大阪大学医学部附属病院 医員(研修医) 平成 2年 7月 神戸掖済会病院 内科医師 平成 4年 7月 大阪大学医学部(第1内科)研究生 平成 5年 7月 米国コロンビア大学生理学教室研究員 平成 8年12月 大阪大学医学部研究生(第1内科)研究生 平成10年 4月 大阪大学助手・医学部(第2解剖) 平成11年 5月 金沢大学助手・医学部(第3解剖) 平成13年 4月 金沢大学助手・大学院医学系研究科(神経分子標的学) 平成14年 6月 金沢大学助教授・大学院医学系研究科(神経分子標的学) 平成17年 4月 金沢大学准教授・大学院医学系研究科(神経分子標的学) 平成21年 4月 金沢大学教授・医薬保健研究域医学系(神経分子標的学)

加入学会 日本解剖学会(平成11年より現在まで、平成 21 年 4 月より学術評議委員) 日本生化学会(平成14年より現在まで) 日本分子生物学会(平成15年より現在まで) 日本神経科学会(平成18年より現在まで) 日本神経化学会(平成21年より現在まで)

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スポンサードイブニングセミナー

日本人にとって最も有用な抗血小板療法を考える富山大学附属病院 神経内科

田中耕太郎

 我が国では、脳卒中による死亡における各病型(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の割合の経年的変化を見ると、1980 年以降脳梗塞による死亡が脳出血のそれを上回って多くなってきているが、最近、脳出血による死亡が再び増加傾向にあることが懸念されている。これは、脳梗塞や心疾患患者における抗血小板薬や抗凝固薬の使用が増えていることが一因と考えられている。すなわち、我が国の「脳卒中データバンク 2009」によれば、抗血小板薬や抗凝固薬を服用していた人が脳出血を起こした場合、そのまま死亡退院する割合がこれらの薬剤を服用していなかった人に比し、明らかに多いことが明らかにされており、一方で、脳梗塞や心疾患の既往患者に対する抗血小板薬や抗凝固薬の処方が増えていることが原因となっている。 抗凝固薬については、50 年の長きにわたって使用されてきたワルファリンは脳出血を含め重篤な出血合併症が多く、安全性と薬効のバランスを取ることに我々は大変苦労してきた。しかし、2011 年以降、重篤な出血合併症が有意に少なく、かつ塞栓症イベントも有効に抑制する新規抗凝固薬(ダビガトラン、リバーロキサバン)が処方可能となり、一気に改革が進んでいる。 一方で、抗血小板薬は、この 30 年間、アスピリンが国際的標準薬として、常に欧米のガイドラインや教科書で、抗血小板薬のリストでトップの位置を占めてきた。しかし、脳出血を含め出血合併症や症候性消化管障害などのリスクと、抗血栓作用という治療効果のバランスは、決して良くないことは周知の事実である。特に、現在でも我々日本人では、アスピリンの臨床効果エビデンスの発信地である欧米に比し、脳出血の発症が 2 倍以上であることは念頭に置くべき事実である。 現在、我が国で使用されている抗血小板薬で、脳梗塞再発予防に関する偽薬との間での多施設大規模二重盲検試験による客観的エビデンスは、我が国では、アスピリンにもクロピドグレルにも無く、シロスタゾールの臨床試験(CSPS)しかないことを再認識するべきであろう。CPSP では、シロスタゾールは偽薬に対して 42%の脳梗塞再発抑制効果があり、欧米で施行された臨床試験メタ解析でのアスピリンの 22%の脳梗塞再発抑制効果より明らかに優れていた。また最近の CSPS2 では、シロスタゾールがアスピリンに比し、有意に脳卒中発症ならびに重篤な出血合併症を抑制したことが明らかにされた。以上のシロスタゾールの有効性と安全性を明らかにした結果は、2011 年以降の新規抗凝固薬の登場と同様、今後の我が国における抗血小板療法でも改革が必要であることを示している。

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Young Investigator's Award(YIA)抄録

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YIA-1

シロスタゾールは高血圧自然発症ラットにおける内皮機能保護を介して虚血性脳障害を減弱する

大阪大学 大学院 医学系研究科 神経内科学○大山 直紀

【目的】シロスタゾールは脳梗塞二次予防に使用されるが、抗血小板薬としての効果に加え血管内皮機能改善効果も報告されている。我々はこれまで内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)を指標にした血管内皮機能の検討で、正常血圧ラットに比し血圧上昇後の高血圧自然発症ラット(SHR)脳において、eNOS 機能が低下し虚血性脳障害が増悪することを報告した (Oyama N et al., J Neurosci

Res. 2010; 88: 2889-2898)。本研究では、高血圧による脳血管内皮機能障害モデルを用いて、シロスタゾールによる血管内皮機能保護効果の有無を検討した。

【方法】SHR に対して 5 週齢から 10 週齢までアスピリンおよびシロスタゾール混餌投与を行い、対照として薬物不含餌投与を行った。tail cuff 法を用いて薬物投与前後の血圧、脈拍を計測した。薬剤投与 5 週間後に大脳皮質におけるeNOS 発現量を Western blot 法を用いて半定量評価した。eNOS の生理機能評価のため、レーザードプラを用いて eNOS 阻害薬前後の脳皮質血流を測定し、eNOS 依存性脳血流反応性を評価した。さらに 80 分間中大脳動脈閉塞を行い、レーザードプラを用いて閉塞中の脳血流を計測し、虚血再灌流 48 時間後の梗塞体積を TTC 染色を用いて測定した。また、再灌流直前の残存微小脳循環状態を蛍光標識したラット血清を用いて評価した。【結果】5 − 9 週齢 SHR の各週齢における血圧・脈拍は、各群間で有意差を認めなかった。シロスタゾールを投与したラット脳皮質におけるリン酸化 eNOS-Ser1177 蛋白量は、無投薬のラットに比べて有意に増加しており、eNOS 依存性の脳血流反応性も改善していた。またシロスタゾール群では、虚血中の残存脳血流や微小脳循環状態が改善し、虚血後の脳梗塞サイズも縮小していた。これらの効果はアスピリンでは認められなかった。【結論】SHR におけるシロスタゾール慢性投与は、リン酸化 eNOS 保持を介し虚血時の脳血流を改善し虚血性脳障害を抑制する可能性が示唆された。

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YIA-2

Glucocorticoid-induced TNF receptor- 刺激 T 細胞の虚血傷害誘導性神経幹細胞に及ぼす影響

1 兵庫医科大学 先端医学研究所 神経再生部門、2 兵庫医科大学 眼科学、

3 兵庫医科大学 先端医学研究所 神経再生部門○田片 将士 1、2、三村 治 2、松山 知弘 3

【目的】近年、免疫反応と傷害脳の修復に関する報告が多くみられるが、リンパ球自身の役割については不明な点が多い。我々は脳梗塞後神経再生が CD4+T 細胞の除去により亢進することを既に報告している。本研究では、T 細 胞 の 活 性 化 に 関 与 す る TNF receptor superfamily で あ る GITR (Glucocorticoid-induced TNF receptor) に着目し、GITR 陽性 T 細胞が傷害誘導性神経幹細胞 (induced-Neural Stem/Progenitor Cell: iNSPC) にいかなる影響を及ぼすかを検討した。

【方法】C.B-17 系統のマウス大脳皮質梗塞モデルを用い、梗塞巣内 T 細胞をFACS にて解析した。次にマウスに抗 GITR 抗体投与と GITR-Fc 蛋白を投与することで GITR 刺激あるいは抑制を行い、また GITR 刺激 T 細胞を SCID マウスに投与して、神経再生機転と細胞死に対する影響を免疫組織化学とPCR で検討した。さらに iNSPC と T 細胞に発現する FasL の関係を明らかにするために FasL 欠損 Gld マウスの T 細胞投与の影響を検討した。

【結果】脳梗塞巣には GITR 陽性 T 細胞が浸潤していた。iNSPC は GITR 刺激後アポトーシスにより減少した。一方 GITR 抑制では増加したことより、GITR 抑制が iNSPC 産生を亢進することが示唆された。また、iNSPC 数はGITR 刺激 T 細胞投与で減少したものの、GITR 非刺激 T 細胞投与や FasL を欠損した GITR 刺激 T 細胞を投与しても変化が認められなかったことより、iNSPC は GITR 刺激により活性化された T 細胞上の FasL と iNSPC に発現する Fas との相互作用より傷害されることが示唆された。

【結論】GITR 陽性 / 活性化 T 細胞の機能抑制が脳梗塞の神経再生治療に応用できると考えられた。

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YIA-3

慢性脳主幹動脈閉塞性疾患における iomazenil /脳血流 SPECT による脳酸素摂取率画像

1 岩手医科大学 医学部 脳神経外科、2 岩手医科大学 サイクロトロンセンター

○千田 光平 1、小笠原邦昭 1、麻生 謙太 1、黒田 博紀 1、小林 正和 1、吉田 研二 1、寺崎 一典 2、小川 彰 1

【背景】脳主幹動脈閉塞性病変において、脳酸素摂取率 (OEF) は、脳梗塞の再発を予測する重要な指標とされている。

【目的】脳主幹動脈閉塞性疾患において iomazenil(IMZ)-SPECT 画像を IMP-SPECT による CBF 画像で除した画像が、PET による OEF 画像と相関し、代用できるかを検討した。

【対象と方法】片側脳主幹動脈閉塞性疾患患者 34 名を対象とした。PET を用いて OEF 画像を作成した。IMP-SPECT による CBF の測定及び IMZ-SPECTの後期画像を行い、IMZ/CBF 画像を作成した。これらの画像を 3D-SRT を用いて解析、各解剖学的部位別に患側 / 健側比を算出した。

【結果】ACA 領域、MCA 領域、PCA 領域の大脳皮質では、PET による OEF比と SPECT による BRBP/CBF 比は高い相関がみられた。健常者より算出した平均+ 2SD 以上の OEF 比を異常上昇と定義した時、IMZ/CBF 比の OEF異常上昇を検出する精度は、ACA 領域大脳皮質では感度 100%、特異度 96%、MCA 領域大脳皮質では感度 100%、特異度 89%、PCA 領域大脳皮質では感度100%、特異度 93%であった。

【結論】片側脳主幹動脈閉塞性疾患の大脳皮質領域においては、SPECT によるIMZ/CBF 画像は PET による OEF 画像の代用として用いることが可能である。

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YIA-4

白質病変を有するラクナ梗塞患者の脳循環代謝と脳血管反応性− PET を用いた検討−1 広島大学病院 脳神経内科、

2 国立循環器病研究センター 脳血管内科、3 国立循環器病研究センター 研究所画像診断医学部、

4 国立循環器病研究センター 放射線部○祢津 智久 1、横田 千晶 2、上原 敏志 2、山内 美穂 3、福島 和人 4、

豊田 一則 2、松本 昌泰 1、飯田 秀博 3、峰松 一夫 2

【目的】大脳白質病変は加齢、高血圧、糖尿病などの心血管リスク因子に関連し小血管病(small vessel disease: SVD)の一つである。ラクナ梗塞も SVD であり、しばしば大脳白質病変を合併するが、白質病変の脳循環代謝病態は不明である。ラクナ梗塞の既往がある患者を対象に大脳白質病変を有する患者と有さない患者の脳循環代謝諸量、脳血管反応性を比較検討した。【方法】対象は頭蓋内外主幹脳動脈に 50% 以上の狭窄性病変を有さない発症 3 カ月以上経過したラクナ梗塞 18 例(男 14 例、平均 74 歳)である。頭部 MRI での白質病変を Fazekas 分類で評価し、Fazekas 0,1 を軽症群(9 例:白質体積 3.0 ± 1.9cm3)、Fazekas 2,3 を重症群(9 例:52.6 ± 43.2cm3)とした。15O-gas-PET での前頭葉、頭頂葉、後頭葉の皮質、基底核、半卵円中心(白質)の脳血流量(CBF)、脳血液量(CBV)、酸素摂取率(OEF)、酸素代謝量(CMRO2)、H215O-PET での安静時 CBF、acetazolamide(ACZ) 負荷 CBF を両群間で比較した。15O-gas-PETは迅速PET法を用い(Kudomi N, et al. J Cereb Blood Flow Metab. 2005 )、H215O-PET と同一日に連続して施行した。【結果】前頭葉、頭頂葉、後頭葉の皮質、基底核の CBF、CBV、OEF、CMRO2 は両群間に有意差はなく、半卵円中心では重症群で CBF(20.6 ± 4.4 vs. 29.9 ± 8.2ml/100g/min, p=0.008)、CMRO2(1.95 ± 0.41 vs. 2.44 ± 0.42ml/100g/min, p=0.025) が 低 く、OEFが高かった(55.2 ± 7.4 vs. 46.7 ± 5.3%, p=0.013)。一方、いずれの部位でもACZ 負荷脳血管反応性に有意差はなかった。【結論】大脳白質病変を有するラクナ梗塞患者では半卵円中心の CBF, CMRO2 が低下し OEF が上昇していたが、ACZ 反応性は保たれていた。SVD が背景にある白質病変の進展には ACZ反応性とは異なる慢性虚血病態が関連している可能性がある。*本研究は第22 回日本脳循環代謝学会総会で発表し、JCBFM 2012; 32:844-850 に報告した。

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YIA-5

フッ素 MRI を用いたアルツハイマー病モデルマウスにおける脳内アミロイド斑の検出

1 滋賀医科大学 分子神経科学研究センター 神経難病診断学分野、2 滋賀医科大学 MR 医学総合研究センター、

3 滋賀医科大学 基礎看護学講座○柳沢大治郎 1、椎野 顯彦 2、田口 弘康 1、森川 茂廣 3、

犬伏 俊郎 2、遠山 育夫 1

 我々はアミロイド検出用 MRI プローブとして FMeC1 を新規合成した。FMeC1 はクルクミンを基本骨格とした化合物で、6 個のフッ素原子を持つ。アルツハイマー病遺伝子改変モデルマウスに投与すると血液脳関門を通過して脳内アミロイド斑に結合する。本研究では FMeC1 を投与したアルツハイマー病遺伝子改変モデルマウスにおけるフッ素 MRI による脳内アミロイド斑の検出を検討した。動物は 20-22 月齢の Tg2576 マウスおよび野生型マウスを使用した。マウスをペントバルビタールにて麻酔後、FMeC1 を 200 mg/kgの投与量で尾静脈より 40 分かけて投与した。投与終了後、マウスを動物実験用 7 テスラ MR 装置に移し、10 分間のシングルパルス測定と 50 分間のフッ素 chemical shift imaging(CSI)による画像化測定を投与後 6 時間まで繰り返した。シングルパルス測定において Tg2576 マウスおよび野生型マウスともに FMeC1 投与直後に強いシグナルが認められた。野生型マウスでは時間経過により速やかに減衰したが、Tg2576 マウスではシグナルの減衰に遅延が認められた。フッ素 CSI による画像化測定では、FMeC1 投与 4 時間後においてTg2576 マウスの脳領域に強い信号が認められた。一方、野生型マウスでは脳領域に信号は認められなかった。組織化学的解析の結果、FMeC1 を投与したTg2576 マウスの脳内アミロイド斑において FMeC1 の蛍光が観察され、その領域はフッ素 MR 画像において信号が認められた領域にほぼ一致していた。 以上の結果から、高磁場 MR 装置を用いたフッ素 MRI により、FMeC1 投与マウスにおける脳内アミロイドの検出に成功した。今後、感度の向上やプローブ試薬の最適化が必要であるが、高磁場 MR 装置を用いたフッ素 MRI は次世代のアミロイドイメージング法として有用と考えられる。

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Recommended Papers Session(RPS)RPS1 抄録

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RPS1-1

卵巣摘出ラットにおけるピオグリタゾンの STAT 3を介した脳虚血境界領域での神経保護作用のメカニズム

徳島大学 医学部 脳神経外科学○木内 智也、北里 慶子、島田 健司、松下 展久、住吉 学、

里見淳一郎、永廣 信治

【目的】エストロゲンによる STAT3 のリン酸化(p-STAT3)の上昇は脳虚血後の神経細胞保護に寄与すると考えられている。しかし、PPAR γ agonist であるピオグリタゾン(PGZ)は pSTAT3 発現を抑制することで脳梗塞抑制に働くとされており、PPAR γ、pSTAT3 および ER αの関与は不明な点が多い。そこでエストロゲン欠乏状態の脳虚血に対する PGZ の抑制効果とその分子機構を検討した。【方法】卵巣摘出群 (OVX)と非摘出群(non-OVX)の雌性 Wistar ラットを用いた。OVX 群ではさらに PGZ を予防投与した群 (1.0 または 2.5mg/kg/day、3 日間 ) と溶媒対照群に分類した。脳虚血モデルを作成し脳虚血境界領域で効果に寄与する分子機構を解析した。【結果】OVX 群ではnon-OVX 群に較べて、有意に皮質脳梗塞サイズが拡大したが、PGZ 投与ではこれを濃度依存性に縮小した。PGZ による皮質梗塞抑制効果と関連して虚血境界領域において PPAR γ、pSTAT3 発現が増加したが、ER αへの影響は見られなかった。PPAR γあるいは pSTAT3 の抑制剤は PGZ による抑制効果を消失し、抗アポトーシス分子および修復関連分子の転写活性を低下し、apoptosis誘導を増加させた。興味あることに、PGZ によって活性化された pSTAT3 とPPAR γとの結合が増加され、核内に移行後、DNA の反応領域への結合が亢進されていた。以上の結果から PGZ による PPAR γ活性化は pSTAT3 による神経保護に関連した分子の転写活性を上昇させ、脳保護的に作用すると考えられた。【結論】PGZ による脳虚血境界領域における pSTAT3 活性化作用がエストロゲン欠乏下の脳虚血による梗塞拡大抑制に寄与することを初めて明らかにした。

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RPS1-2

エストロゲン受容体αと ACE2 の活性化は卵巣摘出ラットにおける虚血性脳損傷を抑制する

1 徳島大学 医学部 脳神経外科、2 徳島赤十字病院 脳神経外科

○島田 健司 1、北里 慶子 1、多田 恵曜 1、木内 智也 2、八木 謙次 1、兼松 康久 1、里見淳一郎 1、影治 照喜 1、永廣 信治 1

【目的】エストロゲン欠乏は高齢女性における脳卒中発症率増加と関連する。エストロゲンは estrogen receptor (ER) を介した神経保護作用が示唆されており、Angiotensin II type 1 receptor blocker (ARB) も 組 織 renin-angiotensin system (RAS) 抑制を介した脳保護作用が報告されいるが、エストロゲン欠乏状態での脳虚血に対する ER や ARB の詳細な役割についての検討は少ない。本研究で虚血脳損傷におけるこれらの役割を調べた。【方法】13 週齢雌性ラットに両側卵巣摘出 (OVX) 2 週間後から 0.3 あるいは 3.0mg/kg/day オルメサルタンを 2 週間投薬し、90 分間中大脳動脈を閉塞した。再灌流 24 時間後に脳を摘出し、溶媒投与の対照 (OVX) 群および非卵巣摘出 (non-OVX) 群と比較を行った。【結果】non-OVX 群より OVX 溶媒対照群では脳梗塞が拡大し、虚血境界領域での angiotensin II (Ang II) やアポトーシス関連分子の発現増加がみられた。オルメサルタン投与により脳梗塞サイズの縮小効果と関連してこれらの分子の発現も抑制され、興味あることに、虚血境界領域での ER αや ACE2 m RNA の発現上昇がみられた。そこで ER αの役割を明らかにするために、ER 阻害剤をオルメサルタン群に投与すると、脳梗塞抑制効果は消失し、Ang II 発現やアポトーシスが増加したが、ACE2 の発現は低下した。一方、ER αアゴニスト単独投与では脳梗塞縮小と関連してアポトーシスが抑制され、逆にACE2 の発現増加がみられた。これらの結果からオルメサルタンの梗塞抑制効果の一部に ER αを介した作用が示唆された。【結論】エストロゲン欠乏状態において ER αの転写活性化は、抗アポトーシス作用や ACE2 活性化を介した脳内 RAS の抑制により、脳梗塞縮小に寄与すると考えられた。

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RPS1-3

IMS Evaluation of the Effect of Various Irrigation Fluids in Rat Postoperative Cerebral Edema Model

1 聖隷三方原病院 脳神経外科、2 浜松医科大学 脳神経外科、

3 浜松医科大学 解剖学講座 細胞生物学分野、4 大塚製薬工場 研究開発センター

○小泉慎一郎 1、早坂 孝宏 3、土居 和久 4、佐藤 晴彦 1、瀬藤 光利 3、難波 宏樹 2

BACKGROUND: Using imaging mass spectrometry (IMS), we investigated thecerebral protective effect of an artificial cerebrospinal fluid (CSF), ARTCEREB(Artcereb, Otsuka Pharmaceutical Factory, Inc., Tokushima, Japan), as an irrigationand perfusion solution for neurosurgical procedures in a rat craniotomy model.METHODS: Wounds created in the rat cerebral cortex were continuouslyirrigated with Artcereb, normal saline, or lactated Ringer’s solution at a steadyrate for 4 hours, after which brain tissue was collected. Brain slices wereprepared and analyzed using IMS.RESULTS: In tissue surrounding the injury, the signal intensity for Na adductions to phosphatidylcholine was high and that for K adduct ions to phosphatidylcholinewas low. This is thought to reflect the level of water retention in braincells and to be a change accompanying edema. The signal intensity with Naadduct ions to phosphatidylcholine was significantly lower in the Artcereb groupthan in the physiological saline or lactated Ringer’s solution groups.CONCLUSIONS: IMS analysis in a rat craniotomy model indicated that the levelof water retention in brain cells, calculated from the signal intensity of Na-adductedphosphatidylcholine around the wound area, was lowest in the Artcereb group,suggesting that artificial CSF that has similar composition and properties to humanCSF can minimize edema in the brain surrounding the surgical wound.

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RPS1-4

ALS 脊髄では発症前から血流と代謝のuncoupling が起きている

1 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経内科学、2 放射線医学総合研究所 分子イメージングセンター、

3 電気通信大学 先端領域教育研究センター○宮崎 一徳、正本 和人 3、森本 展年 1、太田 康之 1、倉田 智子 1、

池田 佳生 1、小畠 隆行 2、菅野 巌 2、阿部 康二 1

【目的】近年、脊髄血管の構造的、機能的異常が筋萎縮性側索硬化症(ALS)病態に関与することが示唆されている。そこで ALS モデルマウスを用いて in vivo イメージングを行い、運動機能障害の進行に伴う微小循環の変化を調べた。また、オートラジオグラフィー法を用いて脊髄の血流及びグルコース代謝量の測定を行い、循環と代謝の coupling 機能について検討した。【方法】実験には ALS のモデル動物である G93A トランスジェニック (Tg) マウスを用いた。12 週を運動障害発症前、16 週を発症初期、19 週を発症末期のモデルとし、コントロールとして野生型 (WT) マウスを用いた。各個体についてイソフルラン麻酔下で脊髄前角 (L4-5) の椎弓切除を行い、蛍光色素を注入後に二光子励起蛍光顕微鏡を用いたイメージングを行った。また、放射性アイソトープで標識した iodoantipyrine、2-deoxy-D-glucose を用いてオートラジオグラフィーを行い、脊髄の局所血流及びグルコース代謝量の測定を行った。【結果】ALS モデルマウスの脊髄では運動障害が見られる前から微小血管径の縮小が見られ、運動障害の進行に伴い微小血管の径、密度は進行性に減少していった。また、赤血球速度も運動障害発症前から有意に低下し、その後もさらに進行性に低下していった。血流量に関しては特に脊髄前角で進行性の減少が見られた。一方、グルコース代謝量は発症前に一時的に増加し、その後病気の進行に伴って減少していき、血流と代謝が coupling していないことが確認できた。【結論】ALS モデルマウスの脊髄では血流、代謝の coupling が早期から進行性に障害されており、この uncoupling は ALS で障害が強い部位ほど顕著だったため、血管径の異常が ALS 病態に深く関与していることが示唆された。

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RPS1-5

パーキンソン病患者における振戦関連代謝ネットワークパターンの同定と検証

1 徳島大学 医学部 脳神経外科、2The Feinstein Institute for Medical Research, North Shore-LIJ Health System、

3 千葉大学 医学部 神経内科○牟礼 英生 1、平野 成樹 3、Eidelberg David2、永廣 信治 1

【背景】パーキンソン病(PD)において振戦が起こるメカニズムは未だ不明な点が多い。今回我々は PD 患者の FDG PET 画像を用いて振戦特異的な脳代謝ネットワークを同定し検証することを目的として研究を行った。【方法】視床腹中間核刺激術 (Vim DBS) を施行された 9 例の PD 患者を対象とし、Vim DBS OFF 時と ON 時において FDG PET を撮影した。多変量的画像解析方法を用いて Vim DBS による振戦抑制に関連した脳代謝の変化を現した代謝ネットワークパターンを同定した。次いで別の PD 患者群におけるパターン発現の再現性を検証した。さらに視床下核刺激術 (STN DBS) を施行された PD 患者と Vim DBS -PD 患者の間でパターン発現度を比較し治療効果の違いも検討した。【結果】小脳歯状核、被殻、一次運動野の糖代謝上昇によって表されるパーキンソン病振戦関連代謝パターンを同定した。Vim DBS PD 患者群におけるパターン発現度は振戦振幅度と有意な相関を認めた。また異なる PD 患者群(41例)においてもパターン発現度と UPDRS 振戦スコアとの間に有意な相関を認めた。またSTN DBSに比してVim DBSの方が有意にパターン発現を抑制した。

【結論】我々はパーキンソン病患者の振戦に関連した脳代謝ネットワークを発見した。PDTP はパーキンソン病の振戦に対する治療効果の客観的評価に有効なツールとなる可能性がある。

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RPS2-1

Laser-induced thrombus formation in mouse brain microvasculature: effect of clopidogrel

埼玉医科大学国際医療センター 神経内科○福岡 卓也、服部 公彦、棚橋 紀夫

【目的】 抗血小板薬の評価は ex vivo の血小板凝集能測定により行われておりin vivo での評価された報告は少ない。今回、我々は瞬時に血管内皮損傷を誘発できるレーザー照射装置を開発し、それを用いてクロピドグレルのマウス脳微小血管での血栓形成に及ぼす影響を生体用蛍光顕微鏡を用いて検討した。【方法】 雄性 C57BL/6J マウスを 19 匹を用い、各 2 ~ 4 血管を使用した。クロピドグレルを 1mg/kg、10mg/kg を各 6 匹に前日と当日 6 時間前の 2 回経口投与したマウスをそれぞれクロピドグレル 1mg/kg 群、クロピドグレル 10mg/kg 群 と し、7 匹 を コ ン ト ロ ー ル 群 と し た。Carboxy fluorescein diacetate succinimidyl ester (CFSE) を直接静脈内投与 (10 μ g) し血小板を標識。頭窓を作成し生体用蛍光顕微鏡にて脳軟膜動脈を観察しながらレーザーを照射し完全閉塞率、30 分後の血栓面積を記録した。【成績】脳軟膜動脈へのレーザー照射後の完全閉塞率はコントロール群 (60%, 12/20 血管 )、クロピドルレル 1mg/kg投与群 (55%, 11/20 血管 ) と比べてクロピドグレル 10mg/kg 投与群 (16%, 4/25血管 ) で有意に小さかった。またレーザー照射 30 分後の血栓面積もコントロール群 (358 ± 256 μ m2)、クロピドルレル 1mg/kg 投与群 (355 ± 57 μ m2) と比べてクロピドグレル 10mg/kg 投与群 (209 ± 128 μ m2) で有意に小さかった。

【結論】我々の開発した本レーザー照射装置は血管外組織に損傷を起こすことなく、血管内皮細胞を障害することにより脳軟膜動脈への微小血栓形成を作成する有用な方法である。クロピドグレルは用量依存性にマウス脳軟膜動脈への血栓形成を抑制することがわかった。

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RPS2-2

脳卒中易発症高血圧ラット (SHR-SP) におけるシロスタゾールの多面的効果の検討

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経内科学○表 芳夫、出口健太郎、田 豊豊、河相 裕美、倉田 智子、山下 徹、

太田 康之、阿部 康二

背景:本研究は脳梗塞に対して一般的に使用されている抗血小板薬の効果を運動機能と認知機能を評価項目とし、酸化ストレスマーカーとインスリン様成長因子 -1 受容体 (IGF-1R) に注目して検討した。方法:8 週齢の脳卒中易発症高血圧ラット (SHR-SP) に対しアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールの投与を 10 週齢まで行い、生理学的データ、局所脳血流、血清脂質を測定した。運動機能と認知機能に関しては rotarod と Morris 水迷路試験を毎週行い評価した。脳切片において免疫組織学的染色による自然発症の脳梗塞体積、虚血巣周囲における脂質および蛋白、DNA に対する酸化ストレスマーカー、海馬における IGF-1R 陽性細胞比を検討し、海馬における IGF-1R の発現に関してはWesternblot により評価した。結果:これらの抗血小板薬の中でシロスタゾールとクロピドグレルはアスピリンと比較して自然発症の梗塞巣体積を有意に減少させた。そしてシロスタゾールのみが血圧や局所脳血流、血清脂質によらず運動機能、認知機能を改善させた。その要因としては海馬の IGF-1R 発現亢進と各種酸化ストレスマーカーの減少が関与していると考えられた。結論:本研究においてシロスタゾールの多面的効果によって自然発症の脳梗塞巣体積が減少し、運動機能や認知機能が保持されていると考えられた。また、空間認知機能が保持されていた要因としては海馬において IGF-1R の発現が亢進していたことの関与が考えられた。

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RPS2-3

GLP-1 受容体作動薬 Exendin-4 の脳保護効果の検討1 順天堂大学医学部付属順天堂医院 脳神経外科、2 順天堂大学医学部付属順天堂医院 脳神経内科、

3 順天堂大学医学部付属浦安病院 脳神経内科○寺本紳一郎 1、宮元 伸和 2、矢富 謙治 1、田中 康貴 3、大石 英則 1、

新井 一 1、服部 信孝 2、卜部 貴夫 3

【背景】インクレチンは食事の摂取により消化管で産生・分泌され、膵β細胞に作用し血糖依存性にインスリン分泌を促進するペプチドホルモンである。Glucagon-like peptide-1(GLP-1)はインクレチンの1つであり、GLP-1 受容体作動薬である Exendin-4 は現在糖尿病治療薬として臨床応用されている。Exendin-4 はインスリン分泌作用以外にも膵β細胞のアポトーシス抑制作用、心筋梗塞巣の縮小効果、神経変性障害に対する脳保護作用を有するとの報告がある。しかし、Exendin-4 が脳虚血性神経障害に対して、どのように作用するのかについての報告は非常に少ない。そこで本研究では局所脳虚血・再灌流モデルを使用し、Exendin-4 の急性期脳虚血障害に対する脳保護効果について検討した。【方法】8 週齢 C57BL/6 マウスを用い、60 分間中大脳動脈閉塞 / 再灌流モデルを作成、再灌流後に Exendin-4 を尾静脈より投与した。再灌流から 24 時間・72 時間・7 日間後の時点で動物の神経学的所見の評価を行い、その後動物脳を摘出し脳梗塞体積の測定および免疫組織化学的解析を行った。対照群には、生理食塩水投与動物を用いた。【結果】Exendin-4 投与群では、明らかな脳梗塞体積の縮小と神経学的障害の軽減を認め、同時に酸化ストレス障害と炎症反応発現の抑制さらに虚血性細胞死発生の抑制効果を認めた。また、Exendin-4 投与群での cyclic AMP は、対照群と比較し高値を示した。尚、Exendin-4 投与群と対照群の、血中インスリン値と血糖値の推移に有意な差は認めなかった。【結論】Exendin-4 は脳虚血・再灌流障害に対し抗酸化作用および抗炎症作用を介して脳保護効果を示すことが証明され、その効果の発現には cyclic AMP が介在するシグナル伝達系の活性化の関与が示唆された。

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RPS2-4

広域スペクトラムMMP阻害剤はtPAによる出血性脳梗塞を抑制する

1 岐阜薬科大学 薬効解析学研究室、2 岐阜大学 医学部 脳神経外科

○三代 圭祐 1、石黒 光紀 2、鈴木悠起也 1、鶴間 一寛 1、嶋澤 雅光 1、原 英彰 1

目的:tissue plasminogen activator (tPA) の治療上の問題点に出血性脳梗塞がある。この原因として、血管内皮細胞障害を含む血液 - 脳関門の破綻が考えられているが一定のコンセンサスは得られていない。本研究において我々は、血管内皮細胞の正常維持に重要な役割を果たす tight junction proteins (TJPs) に着目し、広域スペクトラム matrix metalloproteinase (MMP) 阻害剤 GM6001を併用することで出血性脳梗塞を抑制する可能性を検討した。方法:ナイロンフィラメント栓子によるマウス中大脳動脈 6 時間虚血再灌流モデルを用いて出血性脳梗塞モデルを作製した。再灌流直後に tPA (10 mg/kg) を持続静注し、GM6001 (100 mg/kg) を腹腔内投与した。再灌流 42 時間後において出血量を Hemoglobin assay 法により、MMP-9、TJPs (claudin-5,occludin およびZO-1) の発現量を Western blot 法により評価した。また長期評価として再灌流7 日後に生存率と行動量の評価を行った。さらにヒト脳血管内皮細胞を用いてTJPs の発現量、膜抵抗値、lactate dehydrogenase (LDH) 放出量を評価した。結果:GM6001 は、tPA による出血の増悪を抑制し、活性型 MMP-9 の増加とTJPs (Occludin および ZO-1) の減少を抑制した。また生存率および行動量の低下も抑制し、長期的な予後改善効果も認められた。さらに GM6001 は、tPAによる膜透過性の亢進と LDH 放出量の増大を抑制し、内皮細胞に対する細胞毒性も低下させた。結論:tPA 静注療法による出血性脳梗塞の原因の一つとして TJPs の破綻が関与しており、GM6001 はこの破綻を保護することによって出血性脳梗塞を抑制できる可能性が示唆された。

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RPS2-5

Therapeutic effects of intra-arterial delivery ofbone marrow stromal cells

1 北海道大学 医学研究科 脳神経外科、2 富山大学 大学院医学薬学研究科 脳神経外科、

3 北海道大学 医学研究科 核医学分野○長内 俊也 1、黒田 敏 2、七戸 秀夫 1、久下 裕司 3、

玉木 長良 3、宝金 清博 1

【目的】骨髄間質細胞 (bone marrow stromal cell; BMSC) の移植は、さまざまな中枢神経疾患において有効であることが確認されているが、いまだに最適な移植方法が確立していないのが現状である。今回、われわれはラット脳凍結損傷モデルに BMSC を頚動脈から移植して、経時的に生体蛍光イメージング法により移植細胞の動態を観察するとともに、神経症状や組織学的所見を検討したので報告する。

【方法】6 週齢の雄 SD ラットの右頭頂部の脳表を露出したのち、液体窒素で冷却したデバイスを 5 分間脳表に圧着することで脳凍結損傷モデルを作成した。凍結損傷7日後に QD800 で標識した BMSC を右総頚動脈に挿入したカテーテルから 2 × 106 個、移植した。Rotarod treadmill を用いて 1 週間ごとに神経学的に評価し、移植4週間後に病理組織学的評価を行った(n=6)。また、IVIS SPECTRUM を用いて、移植前、移植後 3 時間、1週間、3週間、4週間の時点で移植細胞を頭皮上から可視化して脳内での動態を解析した。

【結果】BMSC の経動脈的移植は運動機能を有意に改善した。移植後 4 週間の時点で損傷周辺に BMSC の集積が確認された。また、蛍光イメージングにより QD800 で標識された BMSC を移植直後からイメージングすることが可能で、組織学的所見ともよく一致した。

【結語】脳凍結損傷モデルにおいて頚動脈から選択的に BMSC を移植することで神経機能の改善を得ることが可能であった。また、生体蛍光イメージングは体外から移植細胞を追跡する上で有用である。

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RPS2-6

ラット脳静脈閉塞モデルにおける脳由来神経栄養因子脳室内投与の脳保護作用

奈良県立医科大学 脳神経外科○竹島 靖浩、中川 一郎、中瀬 裕之

【目的】脳静脈虚血はその病態の複雑さゆえに脳動脈虚血に比べて研究が進んでいない。我々が注目した脳由来神経栄養因子 (Brain-Derived Neurotrophic Factor: BDNF) は脳動脈虚血における神経保護効果や、神経の可塑性への関与などが報告されており、脳虚血治療において理想的な物質である。本研究ではラット静脈虚血モデルを用いて BDNF の脳静脈虚血における神経保護作用を調べるべく、apoptosis 抑制効果と局所脳血流への影響について検討した。

【方法】33 匹の雄 Wister ラットをランダムに 2 つの群 (BDNF 投与群とcontrol 群 ) に分類した。両群を静脈閉塞から還流固定までの期間でさらに 2 つの群 (2day と 7day) にランダムに分類した。BDNF(2.1 μ g/day) または、溶媒を脳室内持続投与し、2 つの隣接脳皮質静脈を光化学的手法で閉塞させた。静脈閉塞後 2 日または 7 日で還流固定を行い、脳梗塞の大きさ ( 対側半球比 ) を計測し、また、2 日後のペナンブラ領域における terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated deoxyuridine triphosphate nick-end labeling (TUNEL)陽性細胞の数を計測した。局所脳血流は full-field laser perfusion imaging を用いて計測した。

【結果】BDNF 投与群における静脈閉塞 2 日後の脳梗塞巣の大きさは、control群と比して有意に縮小し (1.49 ± 1.44% v.s. 3.66 ± 1.51%; P < 0.05)、7 日後においても同様に有意な縮小を認めた (0.93 ± 0.47% v.s. 1.69 ± 0.58%; P < 0.05)。静脈閉塞 2 日後の TUNEL 陽性細胞数は control 群と比して BDNF 治療群で有意に少なかった (17.0 ± 15.1 v.s. 39.0 ± 19.6%; P < 0.05)。局所脳血流については両群間で有意差を認めなかった。

【結論】BDNF 脳室内持続投与は apoptosis を抑制することで脳静脈梗塞を縮小させ、局所脳虚血は関与しないことが示唆された。

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Recommended Papers Session(RPS)RPS3 抄録

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RPS3-1

Interendothelial claudin5 expression depends on endothelial cell-matrix adhesion by β 1 integrins

国家公務員共済組合連合会 立川病院○長田 高志

The hypothesis tested by these studies states that in addition to interendothelial cell tight junction proteins, matrix adhesion by β 1-integrin receptors expressed by endothelial cells have an important role in maintaining the cerebral microvessel permeability barrier. Primary brain endothelial cells from C57 BL/6 mice were incubated with β 1-integrin function-blocking antibody (Ha2/5) or isotype control and the impacts on claudin5 expression and microvessel permeability were quantified. Both flow cytometry and immunofluorescence studies demonstrated that the interendothelial claudin5 expression by confluent endothelial cells was significantly decreased in a time-dependent manner by Ha2/5 exposure relative to isotype. Furthermore, to assess the barrier properties, transendothelial electrical resistance and permeability measurements of the monolayer, and stereotaxic injection into the striatum of mice were performed. Ha2/5 incubation reduced the resistance of endothelial cell monolayers significantly, and significantly increased permeability to 40 and 150 kDa dextrans. Ha2/5 injection into mouse striatum produced significantly greater IgG extravasation than the isotype or the control injections. This study demonstrates that blockade of β 1-integrin function changes interendothelial claudin5 expression and increases microvessel permeability. Hence, endothelial cellmatrix interactions via β 1-integrin directly affect interendothelial cell tight junction claudin5 expression and brain microvascular permeability.

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RPS3-2

マウス中大脳動脈閉塞モデルにおける梗塞領域再現性向上の工夫と 2 次元的脳血流リアルタイムモニタリング

1 東北大学大学院医学系研究科神経外科学分野、2 広南病院 脳神経外科、

3 青森県立中央病院 脳神経外科、4 独立行政法人国立病院機構仙台医療センター 脳神経外科

○赤松 洋祐 1、清水 宏明 2、斉藤 敦志 3、藤村 幹 3、冨永 悌二 1

【目的】塞栓糸によるマウス中大脳動脈閉塞モデルで塞栓糸は内頚動脈から分枝する後大脳動脈の起始部を横切り中大脳動脈起始部を閉塞する . そのため前方循環と後方循環をつなぐ後交通動脈の発達の程度によっては , 後大脳動脈領域の血流が低下し同領域にも梗塞巣が出現する。本研究の目的は塞栓糸を被覆する長さの違いによる後大脳動脈領域を含む梗塞巣出現頻度を調べ , 選択的中大脳動脈閉塞モデルを作成することである .【方法】32 匹の C57BL/6 マウスを ,塞栓糸をシリコンラバーで被覆する長さによって 4 群(1,2,3,4 mm)に分けた . 虚血導入 2 時間後に再灌流して 24 時間後に梗塞体積、梗塞巣の血管支配領域 ,神経所見を比較した . 術中の脳血流評価には Laser speckle flowmetry(LSF) を使用した .【結果】梗塞体積は 1,2 mm 群で 3,4 mm 群よりも各々 , 有意に小さかった (P < 0.05 ~ 0.001). 梗塞巣は 1,2 mm 群(各 n=8)では全例で中大脳動脈領域にのみに梗塞巣を認めた .3,4 mm 群(各 n=8)では各々が 62.5%,75% に後大脳動脈領域を含む梗塞を認め , それ以外は中大脳動脈領域のみに梗塞巣を認めた . 神経所見は 4 群間で有意差がなかったが , 中大脳動脈領域のみに梗塞巣を認めた群(n=21)では後大脳動脈領域を含む梗塞巣を認めた群(n=11)より有意に軽度であった (P=0.002).LSF を用いることで頭蓋骨越しに 2 次元的脳表血流分布をリアルタイムに観察することができた . 梗塞に至った中大脳動脈領域または後大脳動脈領域の脳表血流は平均で対側の約 60%以下に低下し , 梗塞に至らない後大脳動脈領域の脳表血流は約 80%以上であった .【結論】塞栓糸を被覆する長さを 1 から 2 mm にすることで再現性のある選択的中大脳動脈閉塞モデルを作成することができた .LSF は脳表血流分布をリアルタイムに観察でき , 対側との比をとることで梗塞になる部位をある程度予測できた . 本法を用いることで再現性をもって選択的中大脳動脈閉塞モデルを作成できる .

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RPS3-3

マウス大脳皮質虚血辺縁部におけるNeuro-glio-vascular unit の in vivo 形態解析

1 電気通信大学 先端領域教育研究センター、2 放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター、

3 慶應義塾大学 医学部 神経内科○正本 和人 1、冨田 裕 3、鳥海 春樹 3、青木伊知男 2、畝川美悠紀 3、

田桑 弘之 2、伊藤 浩 2、伊藤 義彰 3、鈴木 則宏 3、菅野 巖 2

【目的】マウス大脳虚血辺縁部における神経 - アストログリア - 微小血管の相互作用を調べるため二光子顕微鏡を用いた in vivo 長期反復イメージングを行い、脳虚血後の各細胞群の形態変化について解析した。【方法】左側頭頂部に頭窓を施した C57BL/6J マウス (6-21 週齢 ) 及び血管内皮細胞の Tie2 受容体に緑色蛍光タンパクを発現させた Tie2-GFP マウス (6-12 週齢 ) を用いた。イソフルラン麻酔下で田村の変法により中大脳動脈起始部を永久閉塞した虚血群 (MCAO)と閉塞を伴わない sham 群を用意した。虚血前、虚血 3、7、14 日後にアストログリアのマーカーである sulforhodamine 101(SR101) を腹腔に投与し二光子顕微鏡による微小血管及び細胞形態の反復イメージングを行った。【結果及び考察】MCAO 群では虚血 1 日後に血管内腔が閉塞した微小血管が認められ、虚血辺縁部において血管ネットワークの変形が認められた。さらに虚血 3-7 日後において微小血管の退縮及び細動脈・細静脈の拡張による血管ネットワークのリモデリングが認められた。一方、アストログリアは虚血障害領域において脱落、また辺縁部においては細胞体の肥大、さらに虚血 7-14 日後において虚血障害領域に向かう細胞体の伸展が認められた。また虚血辺縁部においてSR101 陽性細胞数が虚血前 1.4 ± 0.1 x 104 cells/mm3 から虚血後 1.9 ± 0.9 x 104 cells/mm3 に有意に増加した。免疫染色の結果から、虚血後に認められたSR101 陽性細胞の増加は神経細胞による取り込みである事がわかった。sham群では微小血管及びアストログリアに顕著な形態変化は認められなかった。【結語】虚血辺縁部において微小血管トポロジーの崩壊とリモデリング、さらにアストログリアの肥大と虚血障害領域に向かう細胞体の伸展などの形態変化を評価した。また虚血領域における神経細胞による SR101 の取り込みは脳虚血病態の in vivo イメージングにおいて神経細胞個々の障害を判別するのに有用である事が示された。

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RPS3-4

マウス全脳虚血モデルにおける線条体中型有棘神経細胞傷害および白質傷害

1 山梨大学 医学部 脳神経外科、2 スタンフォード大学 脳神経外科

○吉岡 秀幸 1、八木 貴 1、若井 卓馬 1、橋本 幸治 1、福元雄一郎 1、堀越 徹 1、Chan Pak2、木内 博之 1

【目的】安定した細胞死を生じるマウス全脳虚血モデルはいまだ確立されていない。一方、線条体は最大の大脳基底核であり、運動の調節や高次機能に関与する。解剖学的には神経細胞の 95%を中型有棘神経細胞、残り 5%を内在性神経細胞が構成し、神経線維束が線条体内を貫通することを特徴とする。線条体神経細胞と白質は虚血に脆弱であることが知られているが、全脳虚血後線条体での傷害は十分に検討されていない。本研究の目的はこれらを解析し、安定した神経細胞死および白質傷害が生じるマウス全脳虚血モデルを確立することである。【方法】C57BL/6 マウスを使用した。全脳虚血は両側総頚動脈を 10、15、22、もしくは 30 分閉塞し作成した。総頚動脈遮断後の脳皮質血流が前値の 13%以下に低下したマウスを用いた。神経細胞傷害は薄切切片の TUNEL染色により評価した。各タイムポイントでの各種線条体神経細胞マーカーの発現を、免疫染色および western blot 法で解析した。白質傷害は免疫染色により評価し、オリゴデンドロサイトを RIP 染色、傷害 axon を SMI-32 染色で解析した。【結果】22 分および 30 分虚血群の神経細胞傷害は 10 分、15 分群に比べ重度であり、また線条体の傷害は他の部位に比べ重度だった。30 分群では手術 3 日後の死亡率が 51.9% と他の群に比べ高値であり、虚血モデルとして不適切だった。中型有棘神経細胞マーカーの発現は 22 分虚血 72 時間後に減少したが、他の神経細胞マーカーは減少しなかった。RIP 陽性の細胞突起は 22 分虚血 24-72 時間後に不整となり、168 時間後に消失した。白質の SMI-32 発現は22 分虚血 72 時間後に亢進した。【結論】C57BL/6 マウスの 22 分間両側総頚動脈遮断により線条体の神経細胞と白質に安定した傷害が生じる。本方法は虚血性神経傷害の分子生物学的メカニズムの解明に有用である。

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RPS3-5

慢性脳低灌流モデルマウスにおけるアドレノメデュリンの血管新生および血管保護作用と認知機能改善効果1 京都大学 医学部 神経内科、2 三重大学 神経内科 医学部

○眞木 崇州 1、猪原 匡史 1、冨本 秀和 2

脳血管障害、脳血流低下に基づく虚血性白質病変は、認知機能障害に密接に関わることから、脳血管機能を保持し脳血流低下を改善するような治療法が虚血性白質病変および認知機能障害を軽減することが期待される。しかし、現時点でそのような治療法は存在しない。アドレノメデュリン(adrenomedullin, AM)は多彩な生理活性をもち、血管に対しても、血管拡張、脳血管関門機能維持、血管内皮のアポトーシス・酸化ストレス制御、血管平滑筋増殖調節、血管新生など多くの作用を示すことが報告されている。そのため本研究では、皮質下血管性認知症モデルである慢性脳低灌流モデルマウスにおいて、AM が血管新生および血管保護作用により白質病変および認知機能障害を軽減するかを検討した。同マウスは、両側総頚動脈に 0.18 mm の微小コイルを装着することにより作成した。循環血漿中の AM が過剰に発現している AM 過剰発現マウスにおいて虚血手術後 7 日目の時点から野生型マウスと比較して脳血流の改善がみられ、その効果は 7 日目以降も持続した。また、AM 過剰発現マウスにおいて、虚血手術後 3 日目の時点で血管内皮における酸化ストレスの軽減がみられ、7 日目の時点で、ウィリス動脈輪、軟髄膜血管吻合の血管径の増加と、大脳皮質、脳梁、基底核の領域における毛細血管密度の増加がみられた。さらに、虚血手術後 28 日目の AM 過剰発現マウスにおいて、白質病変と作業記憶障害の軽減がみられた。以上の結果より、慢性脳低灌流モデルマウスにおいて、AM が脳血流を回復させ、動脈新生と血管新生を促進させるともに、血管内皮の酸化ストレスを抑制して、白質病変および認知機能障害を軽減することが示された。AM は、皮質下血管性認知症の治療法となり得る。

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Recommended Papers Session(RPS)RPS4 抄録

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RPS4-1

Compromise of Brain Tissue Caused by Cortical Venous Reflux of Intracranial DAVFs

1 東北大学医学系研究科 神経病態制御学分野、2 広南病院脳神経外科、

3 国立病院機構 仙台医療センター 脳神経外科、4 東北大学医学系研究科 神経外科学分野

○佐藤 健一 1、清水 宏明 2、藤村 幹 3、井上 敬 2、冨永 悌二 4

Background and Purpose: Cortical venous reflux (CVR) is a high risk factor for aggressive behavior of intracranial dural arteriovenous fistulas (DAVF). The pathological conditions in brain tissue affected by CVR were investigated by diffusion-weighted magnetic resonance imaging.Methods: A retrospective review identified 56 patients with DAVFs who underwent diffusion-weighted imaging before treatment. Twenty patients had neurological symptoms corresponding to the brain area affected by CVR (Group I), 21 patients with CVR had no focal brain dysfunctions (Group II), and 15 patients had no CVR (Group III). Apparent diffusion coefficient (ADC) was measured for 11 brain areas predefined based on normal venous drainage patterns in the 56 patients and in 21 normal volunteers. The mean ADC ratio was calculated for each area by dividing the ADC value of patients by that of normal volunteers.Results: Areas affected by CVR in Group I showed a mean ADC-to-control ratio of 0.72, which was significantly lower than that of Group II (0.96, P < 0.01). Follow-up studies demonstrated significantly increased ADC ratios in brain areas affected by CVR after the DAVFs were treated successfully. The mean ADC ratio of an affected area remained low, with persistent symptoms in 1 patients who underwent palliative treatment.Conclusions: Decreased ADC was observed in the brain parenchyma affected by CVR and was associated with regional brain dysfunction. Successful treatment of the DAVF increased the ADC toward normal levels. The ADC may be a useful indicator of the severity of CVR.

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RPS4-2

Clinical Application of Arterial Spin-Labeling MR Imaging in Patients with Carotid Stenosis

神戸大学医学部附属病院 脳神経外科○内橋 義人、細田 弘吉、甲村 英二

Arterial Spin Labeling は MRI を用いた新しい脳灌流画像撮像法で、造影剤や放射線同位元素を用いず全く無侵襲に脳灌流画像を得られる。本論文ではASL の一種で、健常者における脳血流測定の再現性が示されていた QUASARシークエンスが、脳血管障害患者に使用可能かを検討した。SPECT 画像も撮像し ASL で得られた画像と比較した。画像の比較には 3D-T1W 画像を用いて、SPECT を MRI に 3 次元的に重ね合わせて相同な関心領域を定めて脳血流の定量精度を検討した。さらに頚動脈狭窄症患者では術前後の脳灌流画像をASL,SPECT を用いて撮像し、低灌流や脳血管反応性低下、過灌流などの病態を検出できるかを検討した。その結果、ASL(QUASAR) は安静時・負荷時の脳血流を無侵襲・簡便に定量可能であり、かつ SPECT によって得た定量値とよく一致することを示した。さらに、ASL の一種である局所灌流画像法を用いて、脳血管障害患者における主幹動脈灌流領域の変化を画像化する研究を継続している。

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RPS4-3

脳梗塞超急性期における MRA-diffusion mismatch の意義埼玉医科大学国際医療センター 神経内科・脳卒中内科

○出口 一郎、林 健、加藤 裕司、名古屋春満、大江 康子、福岡 卓也、丸山 元、堀内 陽介、棚橋 紀夫

【目的】脳梗塞超急性期における病変の大きさと MRA による主幹動脈病変の有無および t-PA 静注療法による治療成績について検討した。【方法】2007 年4 月~ 2009 年 9 月までに発症 3 時間以内に来院した脳梗塞患者のうち、頭部MRI < DWI >・MRA を施行した前方循環領域の脳梗塞患者 127 例を対象とした。主幹動脈病変<+>を内頸動脈閉塞、中大脳動脈< M1・M2 >閉塞および 50%以上の狭窄と定義した。主幹動脈病変の有無と DWI 病変の大きさにより、MRA-DWI mismatch < MDM >陽性群<主幹動脈病変+、DWI-ASPECTS ≧ 6 >、陰性群<主幹動脈病変+、DWI-ASPECTS < 6 >、主幹動脈病変<−>群に分類した。MDM 陽性群 64 例中 21 例、MDM 陰性群 24例中 1 例、主幹動脈病変<−>群 39 例中 9 例に t-PA 静注療法を施行した。

【成績】MDM 陽性群では、t-PA 施行例は t-PA 未施行に比し来院時の NIHSS score <中央値>が高値< t-PA 施行 15、t-PA 未施行 11 >であった。発症90 日後の modified Rankin Scale < mRS >は t-PA 施行例は t-PA 未施行例に比し良好< t-PA 施行 :0-2 48% 3-6 52%、t-PA 未施行 :0-2 28% 3-6 72%>であった.また両群間の来院時 NIHSS score を調整すると mRS < t-PA 施行 :0-2 48% 3-6 52%、t-PA 未施行 :0-2 9% 3-6 91%>と転帰に有意差< p=0.002 >を認めた.MDM 陰性群では t-PA 施行例、t-PA 未施行例ともに発症 90 日後の mRS < t-PA 施行 :3-6 100%、t-PA 未施行 :0-2 4% 3-6 96%>は不良であった。主幹動脈病変<−>群では t-PA 施行例、t-PA 未施行例ともに発症 90 日後の mRS < t-PA 施行 :0-2 100%、t-PA 未施行 :0-2 93% 3-6 7%>は良好であった。また MDM 陽性群の主幹動脈病変別の比較では、中大脳動脈病変で t-PA施行例は t-PA 未施行例に比し良好な転帰が得られた。【結論】MDM 陽性群では t-PA 施行例は t-PA 未施行例に比し予後は有意に良好であり、MDM 陽性患者は t-PA 静注療法の良い適応になると思われた。

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RPS4-4

造影剤の dynamics に着目した頸動脈プラーク質的診断1 長崎大学 医学部 脳神経外科、

2 長崎大学 医学部 放射線科、3 長崎大学 脳卒中センター

○堀江 信貴 1、森川 実 2、立石 洋平 3、出雲 剛 1、林 健太郎 1、辻野 彰 3、陶山 一彦 1、永田 泉 1

【目的】プラーク質的診断は頸動脈狭窄症の治療方針を決定する上で必須であり、周術期合併症の予測因子として重要である。我々は MRI をはじめとした種々の modality を用いてプラークの vulnerability を報告しているが、現時点ではいずれの modality も一長一短があり、総合的に評価することが望ましい。その中で各コンポーネントにおける造影剤の dynamics に着目し CT angiography (CTA) を用いて検討を行った。【対象・方法】頸動脈狭窄症連続51 例(NASCET ≧ 50%)を対象とした。CTA では造影早期及び後期の撮像を行い、プラークにおける Hounsfield Unites の差分 ( Δ HU) を計測した。すなわち、造影剤の ” しみこみ効果 “ を測定し、臨床症候、プラーク MRI 所見、CEA での病理組織所見と比較検討した。【結果・考察】症候性と比較して無症候性は有意にΔ HU が高値であった (p=0.02) が、早期の HU は両者に有意差がみられなかった。さらにΔ HU はプラークの T1WI/muscle ratio と負の相関を示し (p < 0.0001) 、また TOF で定義されるプラーク内出血とも負の相関であった。組織学的検討ではΔ HU は fibrous tissue と正の相関 (p=0.001)、lipid rich necrotic core と負の相関 (p=0.0006) を呈していた。さらに新生血管、炎症細胞の程度とΔ HU は負の相関を示す傾向であった。【結語】プラークのコンポーネントにおける造影剤の dynamics に注目した報告はほとんどない。CTA での Δ HU を用いたプラークの評価は石灰化による blooming effect、各コンポーネントの overlapping を克服する。CTA でのΔ HU 増加は fibrous tissue の割合が高く、さらに新生血管、炎症変化が乏しいことが明らかとなった。Δ HU はプラークの安定性を示す指標として有用である。

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RPS4-5

前頭葉言語野における fMRI の信頼度の検証−皮質電気刺激マッピングとの比較

1 東京大学 医学部 脳神経外科、2 旭川医科大学 脳神経外科、

3 多摩総合医療センター 脳神経外科○國井 尚人 1、鎌田 恭輔 2、太田 貴裕 3、川合 謙介 1、斉藤 延人 1

【目的】言語機能マッピングの gold standard である皮質電気刺激はてんかん発作誘発の危険性や長い検査時間など患者の負担が大きい。近年、functional MRI (fMRI) を用いた低侵襲な言語機能マッピング法の活用が進んでいるが、過去に fMRI の信頼度を検証した報告はすべて覚醒下手術における検討であり一定の結論が得られていない。我々は、fMRI の信頼度を検証するために慢性硬膜下電極を用いた皮質電気刺激を行い、fMRI の感度・特異度を算出した。【方法】2006 年 12 月以降に、難治性てんかんの焦点同定を目的として硬膜下電極留置を行った患者 8 名を対象とした。電極留置前に、3T MRI 装置を用いて文字読み課題による fMRI を行い、z 値による 3D 機能マップを作成した。電極留置後 1-2 週間で、硬膜下電極を用いた皮質電気刺激マッピングを行った。皮質電気刺激では自発言語、物品呼称、文字読み、図形理解を行い、複数回の刺激で言語障害が出現した場合を陽性とした。言語優位側前頭葉の各電極について、fMRI と皮質電気刺激のそれぞれについて陽性・陰性を判定し、fMRI の感度・特異度を算出した。fMRI の z 値および電極との一致基準を変化させて最適な条件を検討した。更にこの条件下での脳回ごとの感度・特異度を算出した。【結果】z=2.24 (p=0.025)、電極との一致基準を「電極中心から 3mm」とした場合に best trade off が得られた(感度 83%、特異度 61%)。脳回ごとの検討では運動野で信頼度が低く(感度 50%、特異度 50%)、下前頭回後部で高い信頼度が得られた(感度 91%、得度 59%)。【考察】言語 fMRI の信頼度は従来の報告より低く算出された。3T MRI の使用、慢性硬膜下電極を用いた電気刺激との比較という点で本研究の結果は真の fMRI の信頼度に近いと考えられる。【結論】依然として fMRI は皮質電気刺激マッピングの代替とはなり得ない。しかし、脳回による信頼度の違いを加味して利用することにより電気刺激の効率化に寄与し得る。

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RPS4-6

内頚動脈−後交通動脈分岐部破裂脳動脈瘤におけるコイル塞栓術後の視床穿通枝梗塞

1 広南病院 脳神経外科、2 東北大学脳血管内治療科、

3 広南病院血管内脳神経外科、4 東北大学脳神経外科

○遠藤 英徳 1、佐藤 健一 2、松本 康史 3、近藤 竜史 3、井上 敬 1、清水 宏明 1、藤原 悟 1、高橋 明 2、冨永 悌二 4

【はじめに】内頚動脈 - 後交通動脈分岐部(IC-Pcom)の脳動脈瘤では,後交通動脈(PcomA)が動脈瘤の dome に起始していることがあり,そのような場合に PcomA 起始部を含めて瘤内塞栓した場合の虚血性合併症の出現頻度は明らかでない.今回,当院で血管内治療を施行した IC-Pcom 破裂脳動脈瘤について後方視的に検討した.

【方法】2007 年 1 月から 2010 年 10 月までにコイル塞栓術を施行した IC-Pcom動脈瘤 94 例(破裂 55/ 未破裂 39)のうち,PcomA 起始部を動脈瘤と共に閉塞した 14 例を対象とした(男 4/ 女 10,46-87 歳,平均 73 歳).14 例全てが破裂脳動脈瘤だった.破裂動脈瘤と同側の総頚動脈を用手遮断した時の椎骨動脈撮影(Allcock test)で同側 P1 及び PcomA が描出されることを確認した上で塞栓術を施行した.術翌日の拡散強調画像 (DWI) で梗塞の有無を確認し,神経学的所見と modified Rankin scale(mRS)で転帰を評価した.

【結果】術翌日の DWI では,7/14 例で PcomA に起始する tuberothalamic artery の領域に視床梗塞を認めた.後大脳動脈の皮質領域に脳梗塞を認めた症例はなかった.視床梗塞を認めた 7 例では術前の椎骨動脈撮影において動脈瘤と同側の P1 が造影されず,視床梗塞を認めなかった 7 例では同側 P1 が明瞭に造影された(p = 0.00058).視床梗塞を認めた 7 例は一過性の記憶障害と片麻痺を呈し,視床梗塞を認めなかった症例と比較して治療 6 ヶ月後の mRS は悪化していた.

【結語】IC-Pcom 破裂動脈瘤において,PcomA 起始部を含めて脳動脈瘤をコイル閉塞した場合に術後視床梗塞を合併する可能性がある.Allcock test を含めた術前の血管撮影所見から視床梗塞の発生を予測できる.