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1 2017 情財第 301 先進的 IoT プロジェクト支援事業 「おむつ交換業務の負担軽減を目指した 業務スケジューリング技術の開発」 成果報告書 委託先: 株式会社 aba 担当メンター: 牧野 成将 2017 1 31

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2017 情財第 301 号

先進的 IoT プロジェクト支援事業

「おむつ交換業務の負担軽減を目指した

業務スケジューリング技術の開発」

成果報告書

委託先: 株式会社 aba

担当メンター: 牧野 成将

2017 年 1 月 31 日

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目次

1. 要約 ........................................................................................................................................... 3

2. 背景および目的 ......................................................................................................................... 4

3. プロジェクト概要 ................................................................................................................... 12

4. 実施内容 .................................................................................................................................. 17

5. プロジェクトの成果 ................................................................................................................ 31

6. 事業化に向けた課題と展望 ..................................................................................................... 35

7. 付録 ......................................................................................................................................... 36

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1. 要約

2017 年現在、日本は「超高齢社会」が問題となり、高齢者の増加から介護負

担は年々増大し、介護職に従事する職種の負担軽減が求められている。その中で

もオムツ交換業務は、不定期となり交換業務に多大な時間を費やさざるを得ない

介護者だけでなく、オムツ内が汚染されたまま過ごす可能性のある要介護者も含

めて急を要する課題の 1 つとなっている。

本プロジェクトでは、介護に従事する職種の「オムツ交換業務の負担軽減を目

指した業務スケジューリング技術の開発」を行った。上記の問題点を通じて、我々

は介護職のスケジュールに焦点を当て、オムツ交換という業務が変則的なスケジ

ュールや割込み業務を発生させていることに注目した。そして、我々は要介護者

の排泄を種類ごとに予測することで介護職のスケジュールのサポートをするた

めの「尿便排泄予測システムの開発」、それらを実現するための「尿便識別セン

サのプロトタイプ開発」を行った。また、それらに対するビジネスモデル検証(購

買意欲)についても行った。

尿便排泄予測システムの開発では、排泄をにおいで検出するセンサを搭載した

非装着型の介護施設向け製品『Helppad』から取得した排泄情報を用いて、取得

したデータから自動で排泄リズムを予測し、予測排泄スケジュールの生成を行う

機能の開発を行った。検証実験では、自動生成した排泄予測スケジュールと実際

の排泄時刻を比較した際の予測のヒット率が 70%以上となることを検証し、予測

ヒット率が約 72%となることを確認した。

尿便識別センサのプロトタイプ開発では、尿便識別が可能となるセンサの理論

構築および開発を行った。検証実験では、尿便識別センサからのデータを元に自

動排泄スケジューリング機能により排泄予測スケジュールを1件生成することを

目標としたが、識別が正常に行えず、スケジュールの作成まで行うことができな

かった。今後の事業化に向けて本プロジェクト終了後もオムツ内の排泄物に対す

る識別を行い、スケジュール生成を行えるように開発を進めていく。

ビジネスモデル検証では、既存のシステムを含め、購入者の意欲がどの程度存

在するかアンケート調査を実施した。結果として、回答者の約 70%が購入を希望

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していることがわかった。事業化に向け今後は、病院や大型の入居施設だけでな

く、在宅や小規模多機能ホームなども視野に入れた製品展開を行う予定である。

そして、今回の開発システムを改善していき、Helppad と併用することでより精

度良く排泄介助を行えるサービス提供を行う。

2. 背景および目的

2017 年現在、日本の「超高齢社会」は深刻な問題となっている。総務省による

と日本の総人口に占める 65 歳以上の高齢者の割合が過去最高の 26.7%となり、国内

における 80 歳以上の高齢者の人口が 1 千万人を超えたことを発表した [総務省,

2013]。こうした超高齢社会がもたらす課題として、総務省では働き手の主力とされ

る 15 歳以上 65 歳未満の「生産年齢人口」の減少や介護負担の増大などをあげてい

る(図 1)。特に、介護負担の増大は年を追うごとに深刻な問題であり、介護職に従

事する職種の負担軽減が求められている。

図 1 高齢化の推移と将来推計

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ここで日本国内の介護施設の現状について説明する。介護施設で働く介護者の

作業内容で多くの時間がとられているのが、排泄介護となっており、この排泄介

護は負荷が高いととらえられている。このため、排泄介護の改善が必要と考えら

れる。

次に排泄介護に焦点を当て現状を説明する。

介護施設では、おむつを使用する寝たきりの要介護者が約 122 万人にのぼる。

在宅介護は、夜間帯のみおむつを使用するものも含めると約 150 万人にのぼる。

よって、国内だけで 270 万人以上の方が、日常的におむつを使用し、排泄介護を

受けている。また、介護施設では、1 フロア 30 人のおむつ定時交換を行う際、

全体の 2 割空振りしているため、月 50 時間以上の時間損失をしている(一度の

おむつ交換で 2~3 分かかるとした場合)。さらに、便失禁によりおむつの外に便

が出てしまった場合、排泄ケアに対する業務時間は増加していく。業務時間の増

加は残業時間にもつながり、人件費がかさむ原因にもなっている。

図 2 は介護関連の事業所ごとの業務の時間内訳についてアンケートを行った

際の結果である。結果としては、入浴介護と同じくらい業務時間を費やしている

ことがわかる。この排泄介護についての印象をヒアリングしたところ平均して 7

割の介護職が排泄介護を大変だと思い、負担に感じていることがわかった。

ここで、橙枠は入居型の多人数施設を表している。グループホームについては

除外し、「(Na)」は他の事業所と比べてデータ数が少なかったため考慮から外し

た。

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図 2 介護現場ごとの業務内訳

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図 3 介護現場ごとの排泄介助へのヒアリング結果

株式会社 aba では、介護職の排泄介護の負荷軽減を目指して、業界で初めて排

泄をにおいで検出するセンサを搭載した非装着型の介護施設向け製品

『Helppad』を開発した。2018 年 4 月に販社(パラマウントベッド株式会社)

経由で市場投入する予定である(図 4)。

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図 4 非装着型の介護施設向け製品『Helppad』

Helppad は、シート型の排泄検知器であり、排泄臭によって排泄の有無を検知

する。また、これまでに市販されていた装着型の製品とは異なり、利用者の肌へ

の影響(床ずれ)などこれまでの市販品で懸念視されていた部分も解決が見込め

る製品となっている。Helppad を利用することで、排泄を検出したタイミングで

おむつを交換することが可能となり、要介護者の QOL 向上に寄与することが出

来る。

介護職の排泄介護の観点から考えると、既存の Helppad では排泄後の検出と

なってしまうため、特に便失禁への対応(以下「排便処理」という。)において

課題が存在する。介護施設での排泄介護において、排便処理は尿失禁への対応と

比べて負荷が高く、おむつ交換以外に、陰部洗浄用のお湯の用意、便がおむつ外

に漏れた場合は要介護者の衣服・ベッドシーツの交換、ベッドに付着した便の拭

き取り作業なども必要となる。また、1 日のうちでいつ排泄が行われるかは不明

確であるため、排泄タイミングにかかわらず定期的な準備が必要となり、これら

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のことが介護職の負担をより大きなものへと引き上げる原因となっている。

今後の急成長が予測される在宅介護市場(図 5)にも範囲を広げていきたい考え

ではあるが、在宅介護においては介護職が非常駐のため、排泄を検出したとして

も、介護職が次回訪問するまでおむつが交換されない問題点が存在する。さらに、

要介護者の家族が排便処理を行う場合は、不明確な排泄タイミングへの対応が生

活の負担になっていることが現状である。また採用が困難であるという理由から、

平成21年から平成25年にかけて人手不足感が増加していることもデータとして

垣間見える(図 6)。

図 5 国内介護市場規模予測 [厚生労働省, 2016]

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図 6 介護職種の過不足状況 [厚労省, 2014]

ここで Helppad の通知システムに対する課題について考察する。

現行の Helppad の通知システムは、あくまでも排泄後の臭気を入力として排

泄検知アルゴリズムを用いて排泄の有無を判定し通知するものである。前提条

件として、通知される時点は排泄された後の時点でなければならず、この前提

条件からもわかるように事後検知となる。この前提条件は、通知システムとし

ての制約条件であり同時に課題でもある。

従来、オムツ交換は寝たきりの要介護者などを対象に行われるが、頻繁に行

われるものではなく(各施設による)、各施設で決められた定時刻での交換や時

間的な猶予がある場合での交換に限られてしまうのが現状である。また、定時

によるオムツ交換についても 1,2 時間といった短い間隔であることは非常に少

なく、平均でも 4~6 時間おきの交換となってしまう。これにより、定時のオム

ツ交換の 30 分後に再度排泄をした場合、次回の定時のオムツ交換まで 5.5 時間

も の 間 、 放 置 さ れ る こ と と な る

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図 7)。結果的に、高齢の要介護者は肌や免疫力が非常に弱くなっているため、

排泄物を原因とした床ずれ(褥瘡)や感染症のリスクをあげてしまうこととな

る。

図 7 排泄ケアの現状

現行のシステムでは、排泄センサが排泄を検知することで回避可能である。

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しかしながら、これには前述したように課題が存在する。オムツ交換では排泄

の状態で交換時に必要な準備が異なる。例えば、オムツを開いた時に排泄がな

かった場合、オムツを閉じるもしくは新しいものと交換すれば良い。排尿が確

認された場合、簡易的な清拭を行い、オムツを交換することとなる。排便を確

認した場合、排尿の場合とは異なり陰部洗浄のお湯の用意をしなければならな

い。さらに便がオムツ外に漏れていた場合には、要介護者の衣服やベッドシー

ツの交換、ベッドに付着した便の拭き取り作業なども必要となる。これはオム

ツ交換時間の間隔が開いてしまう要因の 1 つでもある。1,2 名でもある程度の準

備時間を必要とするのに対し、入居者が多い施設などでは数十人単位の入居者

に行う必要が出てくるため多大な時間を必要とすることになる。さらに、入居

者個々の排泄時間は不定期であるため、排泄タイミングにかかわらず定期的な

準備が必要となり、介護職の負担がより大きなものになっている。

上記の課題を解決するため、排泄実績を学習し、尿便排泄を予測する尿便排泄

予測システムを開発し、介護施設及び在宅介護市場に展開する。

この尿便排泄予測システムは、実際の排泄状況を集計・学習することで排泄予

測スケジュールを出力する。これを利用して排便が予測可能となることで、その

時刻に排便処理の準備が可能となるため、介護職の負荷軽減につながると考えら

れる。在宅介護においては、介護施設と比較して生活リズムに変化があるため、

尿便排泄予測システムを用いることで、排泄リズムを軸としながら、その家庭に

最適な介護スケジュールを組むことも可能となる。将来的には、在宅介護サービ

ス内の訪問時間についても排泄予測スケジュールをベースに決定することがで

きる可能性がある。

さらに、排泄時刻の予測がある程度可能となるため、歩行可能な要介護度の低

い利用者に対しては、トイレ誘導を行うことが可能となり、自立排泄に向けたト

レーニングも実施することが可能となる。

3. プロジェクト概要

このような背景から本プロジェクトでは、介護施設及び在宅介護市場向けに排

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泄実績を学習し、尿便排泄を予測する尿便排泄予測システムを開発・検証する。

この尿便排泄予測システムは、実際の排泄状況を学習し排泄予測スケジュー

ルを出力する。これを利用し排便が予測可能となることで、その時刻に排便処

理の準備ができるため、介護職の負荷軽減につながる。

また、在宅介護においては、介護施設に比べ生活リズムに変化があるため、

尿便排泄予測システムを用いることで、排泄リズムを軸としながら、その家庭

ごとの介護スケジューリングが可能となる。将来的には、在宅介護サービスも、

訪問時間を、排泄予測スケジュールをベースに決めることができる可能性があ

る。さらに、排泄前の予測ができるため、歩行可能な要介護度の低い方に対し

ては、トイレに誘導することができ、自立排泄に向けたトレーニングも可能と

なる。

3.1 尿便排泄予測システム

本プロジェクトでは、尿便排泄予測システムの開発・検証を行う(図 3)。本

システムは、大別して自動排泄スケジューリング機能と尿便識別センサからな

る。

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図 8 尿便排泄予測システム構成

「尿便排泄予測システム」は、既に存在している「排泄検知および通知システム」

に増強する形で開発される。「排泄検知および通知システム」(図 9)は、主に排

泄臭のセンサデータ蓄積および排泄の有無判定を行うシステムである。においセ

ンサから取得したデータを排泄検知アルゴリズムに入力することによってセン

サデータの変化から排泄の有無を判断し通知を行う。

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図 9 排泄検知および通知システムの概要図

本プロジェクトでは排泄記録から排泄タイミングを予測し、見える化するこ

とで排泄リズムを軸としながら、施設や在宅に最適な介護スケジュールを組む

ことが可能になると考えられる。便排泄予測システム(図 10)では、側近の排

泄記録データを用いて学習し、対象の排泄予測スケジュールを自動生成する。

また、尿便識別センサと組み合わせることで排泄種類を考慮した排泄予測スケ

ジュールの生成が可能となる。

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図 10 尿便排泄予測システムの概要図

本プロジェクトにおける「尿便排泄予測システム」の開発範囲は以下のとお

りである。

自動排泄スケジューリング機能

➢ ユーザインタフェース部(以降、UI 部と呼ぶ)

➢ スケジュール生成部(以降、エンジン部と呼ぶ)

➢ 尿便識別センサデータとの連携(データ接続)

尿便識別センサ(プロトタイプの作成)

(1)自動排泄スケジューリング機能

自動排泄スケジューリング機能では、側近の排泄記録データを用いて

学習し、対象の排泄予測スケジュールを自動生成および表示を行う。

本機能では、排泄後のアクションではなく、排泄前に向けたアクショ

ンを可能にするために、排泄記録データという観測データを元に今後の

データ発生傾向の予測を行う。本機能を用いることで事後処理ではなく、

事前準備や事前対応といった予測を基にした行動決定が可能となる。

また、最大 4 施設で実証実験を行う。被験者に関してもデータ数が多

ければ、より精度良く最大 40 人に対して、各施設約 50 日間の実証実

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験を行う。開発した自動排泄スケジューリング機能を用いてスケジュー

ル表(以降、パターン表とする)を作成、それに基づいてオムツ交換を行

った際のヒット率を検証する。検証する際に尿便識別センサデータとの

連携として

(2)尿便識別センサ

本来、排泄の有無はオムツ内の状態を観測すること以外で確定するこ

とは困難である。また、オムツ内の状態観測は、一定の間隔で行うこと

が理想的であるが、オムツ装着者のオムツ開閉における負担および一定

間隔での状態確認の現実的負荷を考慮すると非常に困難である。

しかし、本センサではオムツ装着者のオムツ開閉における負担を解消

し、センサ化することで機械的な一定間隔での状態確認が可能となる。

3.2 ビジネスモデル

尿便排泄予測システムは、自動排泄スケジューリング機能と尿便識別センサ

をセットにして商品化し、直販形式で提供する方向とする。

直販形式で提供するメリットとして、Helppad の販社経由の販売形式と比較し

て、お客様の声がきこえやすくシステムへの円滑なフィードバックが可能とな

る点が挙げられる。

また、尿便排泄予測システムが利用者にとって有用であることを確認するた

め、自動排泄スケジュール機能の部分に関して、利用者の購入意欲についてア

ンケート調査を行う。なお、本プロジェクトでは尿便識別センサは開発段階で

あるため、今回のアンケートの評価対象からは除外することとする。

また、直販形式に必要な保守運用体制についても、本プロジェクトでの実証

実験の際に発生した問い合わせ等に対するサポートに必要な人員を確認し、体

制規模に関する情報を得る。

3.3 成果目標

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(1)自動排泄スケジューリング機能の精度検証

排泄センサからの排泄検出情報を収集し、自動生成した排泄予測スケジ

ュールと実際の排泄時刻を比較した際の予測のヒット率が 70%以上となる

ことを検証する。

(2)尿便を識別した排泄予測スケジュールの生成

尿便識別センサからのデータを元に自動排泄スケジューリング機能によ

り排泄予測スケジュールを 1 件生成する。

(3)尿便排泄予測システムの購入意欲の検証

実証実験後のアンケートにて、購入意欲ありの対象者が 70%以上となる

ことを検証する。

4. 実施内容

4.1. 実施項目の概要

4.1.1. 開発項目

(1) 自動排泄スケジューリング機能

本プロジェクトでは、側近の排泄記録データから排泄予測スケジュー

ルを自動生成と自動生成したスケジュールを既存の Web アプリケーシ

ョンで表示できるようにする。

開発では、排泄記録データから排泄予測スケジュールを自動生成する

「エンジン部」と自動生成したスケジュールを既存の Web アプリケー

ションで表示する「UI 部」の 2 つを開発する。

(2) 尿便識別センサ(プロトタイプの作成)

本プロジェクトでは、オムツ装着者のオムツ開閉を行うことなくオム

ツ内の状態を確認するための基本理論の構築とそれを実現するための

センサシステムを作成する。

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4.2. 自動排泄スケジューリング機能

本項目では、自動排泄スケジューリング機能を構成する「エンジン部」および

「UI 部」の開発内容についての説明をする。

4.2.1. エンジン部(スケジュール生成部)

エンジン部では、利用者ごとの排泄予測スケジュールを作成する。

本来、予測とは、対象となる事象の将来の起こり得る事態について、データ

分析により事前の推測を行うことである。今回は側近の排泄記録データを用い

て予測を行うこととした。

また、予測自体にもいくつか種類がある。例えば、期間の長短によって、長

期予測と短期予測、予測値の指定の仕方によって点予測と地域予測、条件の有

無によって単純予測と条件予測などに区分される。本項目で開発する機能の予

測では、使用するデータの特徴からある一点の時刻を予測するのではなく、「予

測した時刻の周辺何分間の間に排泄の可能性あり」という指標を示す時間帯で

の予測となるように開発を行った。

まず、本機能の使用設計について説明する。次に、実装した内容について説

明を行う。

(1) 仕様設計

本機能を実装するにあたり、我々は以下の 6 つの要求仕様を選定した。

1. 予測は、前日から規定日数分のデータを利用する。

2. 規定日数は 15 日とする。

3. 排泄記録は、1時間を 15分間隔の 15分切り捨てでカウントする。

4. 予測グラフにおいて最大値を 1 とした場合、0.5 以上のピーク値

を予測時間帯とする。

これらの要求仕様は実際の現場状況や知見などから選定を行った。

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2 において規定日数を 15 日と設定した理由は、予測グラフ生成に最

低限のデータが取得可能であることや排泄リズムが日々の体調によっ

て変化することを考慮したためである。統計学的にも予測するためのデ

ータは多い方が有効であるが、長期間のデータ取得では、反映までに時

間を要するため今回の開発では上記の理由とした。

3 において 15 分間隔とした理由は、実際の現場を考慮したものであ

る。予測精度を上げるためには、予測に利用するデータが正確である必

要があるが、実際の現場では仮に通知を受けたとしても通知直後に対応

できない場合も多く存在する。その場合、通知と実際のオムツ交換との

間に時間が生じてしまうこととなる。予測は、オムツ交換による排泄記

録データを基に予測を行うため、時間差が生じたデータ使用することで

予測した時間帯にも必ず時間差が生じてしまう。実際の介護現場での事

前調査によると、排泄していることに気づいてからオムツ交換までに平

均 15 分~30 分の時間差が生じることがわかった。時間差が生まれてし

まう理由としては、交換作業をするための準備や優先度の高い割込み作

業が続いてしまい、後回しになってしまうという理由が多かった。そこ

で、本機能では 15 分間隔の予測を行い、予測時刻の前後 15 分の時間

帯に排泄する可能性が高いという表示が可能となるようにした。

(2) 実装

今回作成するプログラムの流れは以下の通りである。

1. 対象者の排泄記録データを取得

2. 排泄記録データを集計

3. 集計結果から予測グラフを生成

4. 予測グラフ中の排泄確率が高い部分を探索

5. 条件を満たす部分の時刻を返す。

まず、対象者の排泄記録データを取得する。データには、機械学習に

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よる通知による排泄記録データと手動記録による排泄記録データがあ

る。

次に、排泄記録データの集計を行うが、集計は前述しているとおり規

定日数(15 日)分のデータで行うこととした。また、要求仕様より 1

時間を 4 等分し、15 分ごとの区間に分割した。

1 日は 24 時間であることから、1 日の区間数は

24(時間)x 4(区間数/時間)= 96(区間)

となる。

さらに、今回我々は集計方法として 2 種類の評価方法を考案した。1

つ目は、排泄記録により排泄があったと考えられる区間を 1 として集計

を行う評価方法(以降、方法①とする)である。2 つ目は、排泄記録に

より排泄があったと考えられる区間を 2、その前後区間を 1 として重み

付き集計を行う評価方法(以降、方法②とする)である。

図 11は、方法①を用いてある利用者(A さん)の 6 月における 1 日

単位での排泄記録をまとめたものである。図 12からも読み取れるよう

に利用者の排泄記録には規則性はなく、排泄タイミングはその日の体調

や投薬の副作用などによって日によってバラバラとなる。しかしながら、

排泄の集中する時刻が少なからず発生する。これは、施設によって食事

や水分の摂取がある程度決まっているため、これらが施設での生活リズ

ムとなっているためである。図 11 では、明け方(4~5 時)や昼過ぎ(14

~15 時)、夜(22~23 時)に集中している傾向にあることが読み取れる。

一方、図 13 は、方法②を用い場合の 1 日単位での排泄記録をまとめ

たものである。この場合の評価では、前述しているように重みを付与し

て前後の時間帯についても評価対象としている。今回の開発では、単純

な評価方法である方法①で実装を行った。

次に、予測グラフの生成および排泄確率が高い部分の探索については、

通常はサーバ内の数値としてのみ扱っているが、本報告書では可視化の

ためグラフを用いて説明する。

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図 12 は、方法①を用いて集計して作成した予測グラフをヒストグラ

ムとして表示したものである。左上のグラフは 6 月 21 日における排泄

予測グラフであり、6 月 6 日~20 日のデータを用いて生成されている。

また、右上のグラフは 6 月 22 日における排泄予測グラフであり、6

月 7 日~21 日のデータを用いて生成されている。下のグラフは、6 月

全体を通してのグラフである。図 14 では、図 12 と同様に方法②を用

いて集計して作成した予測グラフをヒストグラムとして表示したもの

である。

排泄確率が高い部分の探索では、作成された予測グラフからグラフ上

においてデータの山となる部分を探索する。今回の実装では、集計した

データ中の最大値を探し、その値の半分の値をしきい値として設定し、

その値より大きな値となっている区間を排泄確率が高い部分とした。

図 15 は、探索過程をグラフィカルにしたものである。図中の Total

はその区間の集計値、Filter は集計値からしきい値を引いた値、Peak

はこのグラフ中において山と判断される区間を示したものである。

今回の例では、図 12 および図 14 の丸で示された部分の区間に対応

する時刻が予測時刻となる。

最後に探索した部分の区間に該当する時刻情報を表示機能側に送る。

図 12 の 21 日目のグラフの場合、89 区間目となり対応する時刻は 22

時 00 分~15 分となる。

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図 11 方法①を用いたひと月の排泄記録と 15 日予測集計

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図 12 方法①での 21 日の予測グラフ(左上)、22 日の予測グラフ(左上)、月間の

予測グラフ(下)

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図 13 方法②を用いたひと月の排泄記録と 15 日予測集計

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図 14 方法②での 21 日の予測グラフ(左上)、28 日の予測グラフ(左上)、月間の

予測グラフ(下)

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図 15 排泄確率が高い部分の探索

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28

4.2.2. UI 部

UI 部では、エンジン部から送られてきた情報を基にその日 1 日の排泄予測

スケジュールを表示する。

まず、本機能の使用設計についてついて説明する。次に、実装した内容につ

いて説明を行う。

(1) 仕様設計

UI部を実装するにあたり、我々は以下の6つの要求仕様を選定した。

1. 1 時間を 15 分区切りとし、1 日分のスケジュールを表示する。

2. エンジン部からの情報を受け取り、該当する箇所にアイコンを表

示する。

3. データが規定日数に満たない場合は、表示されない。

4. スケジュール上の現在時刻に対応する部分にバーを表示する。

5. 現在時刻バーは 15 分毎に更新を行う。

6. 未来の排泄予測情報と過去の排泄予測情報が区別可能であるよ

うにする。

(2) 実装

今回実装を行う UI 部分は、既存の Web アプリケーションのホーム

画面に実装することとした。図 16 は、実装以前のアプリ画面であり、

赤枠で示した部分に実装を行った。

デザインとしては既存の画面デザインに統一し、直感的な UI となる

ように考慮した。特に、1 日分のスケジュールを表示すると見づらくな

ってしまうため、スケジュール部分をスクロール可能なデザインにし、

現在時刻と連動する形を取ることで限られた表示範囲でも見やすく使

いやすい表示を心がけた。

また、排泄予測時刻区間に予測情報が存在する場合、その情報に該当

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する利用者の氏名をアイコン(以降、予測アイコンとする。)で表示こ

ととした。また、スケジュールには現在時刻バーを表示させている。こ

の時刻バーは 15 分毎に更新するように実装を行い、そのバーを境に上

部を未来の予測情報、下部では予測時刻を経過した予測情報となるよう

に実装を行った。さらに、直感的に未来の予測情報か過去の予測情報で

あるかが判断可能となるように予測アイコンの色分けを行った。今回の

実装では、未来の予測アイコンをオレンジ、過去の予測アイコンをグレ

ーで表示させることとした(図 17)。

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図 16 実装前時点での Web アプリケーション対象画面と実装範囲

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図 17 現在時刻バーと予測アイコンの動作イメージ

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4.3. 実証評価

本プロジェクトで開発した自動排泄スケジューリング機能は、1 施設の最大 4

フロアの 18 名に対して通算 26 日の実証実験を行った(利用者の事情により、

期間を分けて実施した)。今回、モデル施設として千葉県船橋市の社会福祉法人

聖進會さわやか苑さま(特別養護老人ホーム)に協力を依頼した。

実証期間は、2017 年 10 月末から 2018 年 1 月まで実施した。また、日中は

利用者がベッド上にいない離床状態のことが多いため、今回の実験では施設の

東館 2 階、3 階および本館 2 階、3 階を対象に 18 時から翌日の 5 時で実験を実

施した。

最初の 2 週間で排泄記録を蓄積し、開発した自動排泄スケジューリング機能

を用いてパターン表を生成、残りの 3 週間でオムツ交換を行った際のヒット率

を検証した。

4.4. ビジネスモデル検証

本項目では、ビジネスモデル検証のために行った実施内容について説明を行

う。本プロジェクトでは、実証実験後、施設の排泄介護担当者に対して購入意

欲に関するアンケート調査を行った。

5. プロジェクトの成果

本項目では、本プロジェクト期間で行った開発および実証実験成果について記

述する。

5.1. 自動排泄スケジューリング機能

(1) プロジェクトの成果目標

最大 4 施設で実証実験を行う。被験者に関してもデータ数が多ければ、

より精度良く最大 40 人に対して、各施設約 50 日間の実証実験を行う。

排泄センサからの排泄検出情報を収集し、自動生成した排泄予測スケ

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ジュールと実際の排泄時刻を比較した際の予測のヒット率が 70%以上

となることを検証する。

(2) プロジェクトの成果実績

排泄予測スケジュールを作成するためのエンジン部および作成した

パターン表を表示するための UI 部を実装することができた(参考資料

1)。

実証実験は、最大 4 施設の最大 40 名に対して通算 50 日で行う予定

であったが、1 施設の最大 4 フロアの 18 名に対して通算 26 日の実証実

験を行った。

ここまで施設数と被験者数、期間が計画時と異なった主な理由として

は次の点があげられる。

1. 施設への協力依頼が承諾まで進まなかった。

2. 被験者となる利用者の家族から実験への同意が得られなかった。

3. 実験期間中における被験者の体調が悪く、試験の一時中断をせ

ざるを得なかった。

本プロジェクトの中で最も難航した事項は、実験施設および被験者の

確保であった。4 施設の確保に向け 7 施設ほどの施設へ協力依頼を行っ

たが、3 施設は協力の承諾を得ることが叶わなかった。残りの 4 施設は

承諾を得ることができたが、被験者の確保という点で被験者となる利用

者の家族から実験への同意を得ることが叶わず、得られたとしても少な

くなってしまい実験実施に対するコストの方が上回ってしまったため

施設側と協議のうえ断念した。当初、実証期間は最大 4 施設を計画して

いたこともあり 9 月~12 月を予定していたが、施設の確保問題の影響

で 10 月下旬からの開始となってしまった。

本プロジェクトでの検証実験は対人実験をせざるを得なく、実験の内

容としても通常のオムツ確認回数よりも増加してしまうため、被験者で

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ある利用者への負担が増加してしまう傾向にある。それも考慮した上で

利用者への負担を抑えるように実験の実施方法について施設側と調整

などを行っているが、非実験時と同等の環境にするまでに至らなかった。

実際に、実証実験期間中において幾度も被験者の体調が悪くなり一時

的な中断、再開できるまでに時間を要したことで実験期間が計画より伸

びる事態となった。

最終的に今回行った実証実験において自動生成した排泄予測スケジ

ュールと実際の排泄時刻を比較した際の予測のヒット率は約 72%であ

った。参考資料 2~7 までは今回行った実証実験被験者らのある日の排

泄予測データを可視化したものである。また、参考資料 8 は実際の排泄

記録の一部分である。ただし、個人情報保護のため一部モザイク処理な

どを行っている。

5.2. 尿便識別センサ(プロトタイプの作成)

(1) プロジェクトの成果目標

尿便識別センサからのデータを基に自動排泄スケジューリング機能に

より排泄予測スケジュールを 1 件生成する。

(2) プロジェクトの成果実績

基本理論の構築およびプロトタイプの作成を行うことができた。仕様

設計のうち、暗闇でのデータ取得は確認することができたが、オムツを

透過しての情報取得には至らなかった。

そのため、目標としていた識別センサからのデータ情報を用いた排泄

予測スケジュールの生成を行うことができなかった。

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5.3. ビジネスモデル検証

(1) プロジェクトの成果目標

購入意欲を示す排泄介護担当者が 70%以上であることを検証する。

(2) プロジェクトの成果実績

アンケート(参考資料 14~17)を実施した結果、購入意欲を示す排

泄介護担当者が約 73%存在することがわかった。また、今回のアンケ

ート結果(参考資料 18~22)から、排泄の種類を限定したパターン表

はあまり求められておらず、種類を限定しない排泄予測スケジュールの

方が需要的であることがわかった。

今回、排泄の種類を限定したパターン表があまり求められなかった要

因として、従来のパターン表の使用方法と必要性が考えられる。実際に

パターン表を作成している施設では、日常的に作成しているわけではな

く、その利用者自身の排泄パターンを把握し、施設側の定時交換時間帯

を決定するために比較的初期段階に行われることが多い。期間や頻度も

施設ごとに異なるが入所直後2~3週間を対象に0.5~2時間の短いスパ

ンでオムツを確認し、排泄があるかどうかを記録していき、個人の排泄

リズムを把握していく。

パターン表作成後は、一定期間で更新することもあるようだが、作成

したパターン表を用いて排泄介助を行うことが多いようである。それゆ

え、必要な情報としてはあくまでも「いつ排泄することが多いか」とい

う部分であり、「どの種類の排泄であったか」までは重要視していない

傾向があることがアンケートの回答結果から考察できる。

本プロジェクトでは、実際に排泄の種類を限定したパターン表の作成

が叶わなかったため、アンケートの回答結果についても 100%必要ない

とは言い切れない。しかし、現時点での声として上がっていることは事

実であるため、尿便識別による特徴を活かしたサービス提供をいかに現

場のニーズに寄せていけるかが事業化への鍵であり、ニーズの変動を招

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く十分な可能性があると考える。

6. 事業化に向けた課題と展望

本プロジェクトでの課題としてスケジューリング機能に関しては、排泄種類別

スケジュール表の自動生成および UI の改善があげられる。今回の実証実験では

特定の排泄種類に特化したスケジュール生成は行うことができなかったが、アン

ケートの際に必要だと感じるか否かについての設問に対しては、約 59%の回答者

が「必要ない」と回答する結果となった。この結果から現時点で必要性のニーズ

は低い傾向であるが、実際に作成されたスケジュール表を使用しての回答ではな

いため、ニーズの変動は十分に考えられる。UI についても「見づらい」や「難

しい」などの声が上がっており、コンピュータリテラシーの十分でない介護職に

も利用しやすい設計が必要である。

尿便識別センサのプロトタイプ開発としては、開発目標としていた要求を満た

したセンサ開発が最重要であり、引き続き改善や開発を進めて事業化を目指して

いきたい。特に、オムツの開閉を行わずに中の状態把握がこのセンサの肝である

ため、この特徴を前面に押し出した事業展開を考えていく必要がある。

事業化に向け今後は、病院や大型の入居施設だけでなく、在宅や小規模多機能

ホームなども視野に入れた製品展開を行っていきたい。そして、今回の開発シス

テムを改善していき、Helppad と併用することでより精度良く排泄介助を行える

サービス提供を行っていきたい。

超高齢社会における介護職の業務負担軽減は深刻な問題であり、国家をあげ

て解決策を見出していく必要がある。その中でも AI やビッグデータ、ロボティ

クス技術は、介護職の業務負担軽減や介護そのものの向上に大きく貢献できる可

能性を秘めており、今後の更なる進化が期待される。本プロジェクトで開発した

尿便排泄予測システムは、現場への導入を進め、介護職や介護施設のニーズに沿

った製品・サービスを提供しつづけることで、社会的および技術的貢献を果たし

ていきたい。

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7. 付録

(1) 用語定義および説明

用語 説明

超高齢社会

65 歳以上の高齢者の人口が 28%を越えた社会を「超高

齢社会」という。7%を越えた社会を「高齢化社会」、

14%を越えた社会を「高齢社会」という。日本は 1970

年に高齢化社会になり、1994 年に高齢社会、2007 年

に超高齢社会になった。

要介護者 高齢者、障碍者等の介護を受ける人を示す。

介護職 介護を提供する者。在宅介護においては在宅介護サー

ビス提供者を示す。

QOL Quality Of Life の略。社会的に見た生活の質を示す。

Helppad 排泄をにおいで検出するセンサを搭載した非装着型の

介護施設向け製品。排泄後検出システム。

排泄センサ Helppad に搭載される排泄をにおいで検出するセン

サ。尿便識別は不可。

赤外線

可視光線の赤色より波長が長く(周波数が低い)、電波

より波長の短い電磁波のことである。ヒトの目では見

ることができない光である。

予測 対象となる事象の将来の起こり得る事態について、

データ分析により事前の推測を行うこと。

尿便識別 尿と便のそれぞれを識別することを示す。

尿便排泄予測システム 尿便を識別しその排泄リズムを予測するシステム。

UI User Interface の略。使用者向けの画面などを示す。

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(2) 図表一覧

図 1 高齢化の推移と将来推計 ............................................................................................... 4

図 2 介護現場ごとの業務内訳 ............................................................................................... 6

図 3 介護現場ごとの排泄介助へのヒアリング結果............................................................... 7

図 4 非装着型の介護施設向け製品『Helppad』 .................................................................. 8

図 5 国内介護市場規模予測 ................................................................................................... 9

図 6 介護職種の過不足状況 [厚労省, 2014] ........................................................................ 10

図 7 排泄ケアの現状 ............................................................................................................. 11

図 8 尿便排泄予測システム構成 .......................................................................................... 13

図 9 排泄検知および通知システムの概要図 ....................................................................... 14

図 10 尿便排泄予測システムの概要図 ................................................................................ 15

図 11 方法①を用いたひと月の排泄記録と 15 日予測集計 ................................................. 22

図 12 方法①での 21 日の予測グラフ(左上)、22 日の予測グラフ(左上)、月間の予測グ

ラフ(下) ....................................................................................................................... 23

図 13 方法②を用いたひと月の排泄記録と 15 日予測集計 ................................................. 24

図 14 方法②での 21 日の予測グラフ(左上)、28 日の予測グラフ(左上)、月間の予測グ

ラフ(下) ....................................................................................................................... 25

図 15 排泄確率が高い部分の探索 ........................................................................................ 26

図 16 実装前時点での Web アプリケーション対象画面と実装範囲 ................................... 29

図 17 現在時刻バーと予測アイコンの動作イメージ .......................................................... 30

図 18 尿便識別センサ(左側正面) ............ エラー! ブックマークが定義されていません。

図 19 尿便識別センサ(右側背面) ............ エラー! ブックマークが定義されていません。

図 20 識別センサの使用イメージ図 ............ エラー! ブックマークが定義されていません。

図 21 就寝時の床ずれを予防する姿勢の工夫 (上) 仰向けの場合 (下) 横向きの場合エラー! ブックマークが定義されていません。

図 22 尿便識別の仕組みイメージ ................ エラー! ブックマークが定義されていません。

(3) 参考資料・出典

[総務省, 2013] 第 1 部 特集 「スマート ICT」の戦略的活用でいかに日本に元気

と成長をもたらすか [オンライン] / 著者 総務省 // 総務省|平成 25

年版 情報通信白書|高齢化の進展. - 2013 年. - 2018 年 1 月 16 日. -

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/html/nc

123110.html.

[厚労省, 2014] 介護人材の確保について - 厚生労働省 [オンライン] / 著者 厚生労

働省. - 福祉人材確保専門委員会, 2014 年 10 月 27 日. - 2018 年 1 月

16 日. -

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukats

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ukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000062879.pdf.

[厚労省, 2016] 公的介護保険制度の現状と今後の役割 [オンライン] / 著者 厚生労

働省. - 2016 年 2 月. - 2018 年 1 月 31 日. -

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenky

oku/201602kaigohokenntoha_2.pdf.

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参考資料 1 実施に排泄予測スケジュールが生成され、表示されている画面

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参考資料 2 ある利用者の排泄予測データを可視化したもの(1)

参考資料 3 ある利用者の排泄予測データを可視化したもの(2)

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参考資料 4 ある利用者の排泄予測データを可視化したもの(3)

参考資料 5 ある利用者の排泄予測データを可視化したもの(4)

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参考資料 6 ある利用者の排泄予測データを可視化したもの(5)

参考資料 7 ある利用者の排泄予測データを可視化したもの(6)

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参考資料 8 実際の排泄記録データの一部

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参考資料 14 尿便識別センサアンケート 1

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参考資料 15 尿便識別センサアンケート 2

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参考資料 16 尿便識別センサアンケート 3

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参考資料 17 尿便識別センサアンケート 4

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参考資料 18 尿便識別センサアンケート結果 1

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参考資料 19 尿便識別センサアンケート結果 2

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参考資料 20 尿便識別センサアンケート結果 3

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参考資料 21 尿便識別センサアンケート結果 4

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参考資料 22 尿便識別センサアンケート結果 5