ASEAN における CCSの戦略的検討書...ASEAN におけるCCSの戦略的検討書...

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ASEAN における CCS の戦略的検討書 この翻訳は、同刊行物の概要を訳したものである。

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ASEANにおける CCSの戦略的検討書

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2014年 6月

ASEANにおける CCSの戦略的検討書

グローバル CCSインスティテュート ASEAN

エネルギーセンター

ASEAN

石炭フォーラム

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目次

はじめに 2

ASEANの長期的なエネルギーに関する道筋 4

エネルギーと持続可能な開発 4

ASEANの長期的なエネルギーの傾向 4

現在および長期的な CO2排出の傾向 5

気候変動に関する検討事項 6

ASEAN における排出量削減に対する CCSの寄与 7

ASEANにおける CCSの活動 8

カンボジア 8

インドネシア 8

ラオス 9

マレーシア 10

ミャンマー 10

フィリピン 11

タイ 11

ベトナム 12

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はじめに

エネルギーと成長を実現しながら世界の温室効果ガス排出量を削減することは、クリーンエネルギー技術の

ポートフォリオが満たすべき課題である。CCSは、再生可能エネルギーやエネルギー効率と共に、炭素排出

削減に重要な役割を果たすことができる。CCS を除外した場合、炭素排出量を削減し、気候変動に対処す

るコストがかなり膨らむ可能性は大きい。

この「CCS の戦略的検討書」は、ASEAN の政策決定者たちが CCS について議論しやすくするために、グ

ローバル CCS インスティテュートと ASEAN エネルギーセンターにより作成されたものである。ASEAN フォ

ーラムは、地域の検討事項について議論するのに特に適している。

本書は、CCS の世界的な状況、コスト、回収技術、貯留、法的や規制的発展および市民参加など、CCS に

関連する重要な幾つかの事項に関するレベルの高い内容となっている。特定のトピックに関する詳細をお探

しの方には、有益な参考資料となる。

本書はまた、ASEAN 地域における CCS の概要を説明しており、また今後、同地域の CCS 展開に向けた

適切な条件設計を支援するための次のステップを提案している。

グローバル CCS インスティテュートは ASEAN エネルギーセンターとの連携を継続し、CCS に関する知識

の共有を促進できることを期待している。

Clare Penrose

グローバル CCSインスティテュート、アジア太平洋地域ゼネラルマネージャー

東南アジアに適した持続可能な発展を達成するために、地域の経済成長を支える持続可能なエネルギーの

開発が必要とされている。2015 年に ASEAN 経済共同体(AEC)が発足したことにより、同地域におけるエ

ネルギーの必要量は、景気拡大と統合を伴って増加すると予想される。第 3 回 ASEAN エネルギー展望

(ASEAN Energy Outlook)によると、特段の対策を設けない通常通りの(Business-as Usual)シナリオの下

では、同地域の一次エネルギー消費量は 2007 年から 2030 年までの間に年率 4.5%で増加し、それに関

連してCO2の排出量は 5.7%増加する。これは、石油や天然ガスの消費量だけでなく、石炭などの炭素集約

型化石燃料の段階的消費量拡大によるところが大きい。

この一次エネルギーの消費量の増加と、それに関連する CO2排出量の増加は抑制しなければならない。そ

れには、長期的な国家エネルギー計画の中で低炭素やゼロ炭素エネルギー技術の役割を拡大させることが

必要である。ASEAN 地域における CCS の展開は、石炭火力発電所、石炭ガス化・液化プラント、石油・ガ

ス処理プラントなど、大規模排気源からの CO2排出量を削減するための大きな可能性を秘めており、これに

より ASEANエネルギー部門における低炭素発展の道を達成できる。

本報告書「ASEANにおける CCSの戦略的検討書」は、エネルギーに関する高級事務レベル会合(SOME)

と ASEAN閣僚エネルギー会議(AMEM)による ASEANエネルギーセンター(ACE)への指令で作成された

ものである。この会議において、ACE が、石炭に関する ASEAN フォーラム(AFOC)と連携しながら、

「ASEAN における CCS の戦略的検討書」に関する戦略的論文の作成に向けてグローバル CCS インステ

ィテュートと共同作業することが合意された。

グローバル CCS インスティテュートと ACE は本文書を共同作成し、その目的は、ASEAN 地域の CCS の

開発・展開のため、SOME と AMEM のレベルで政策レベルの高度な対話や議論を容易にすることである。

重要なことは、本文書は ASEAN地域における CCSの必要性を合理化し、ASEANの長期的なエネルギー

経路に言及し、ASEAN における排出削減に対する CCS の寄与度を定量化している。また、ASEAN 加盟

国における CCS の活動状況に関する識見を提供している。本書は、法的パブリックエンゲージメントと世界

的な CCS の状況を含む支持メカニズムのほか、CCS のコスト、回収技術、CO2の輸送、リスクや環境に及

ぼす影響、CO2 の利用、貯留問題、規制の枠組みなど、上流から下流に至る主要問題のいくつかに対し高

レベルに俯瞰したものである。。戦略的課題と次のステップについて、本報告書では明確に説明され、詳述

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されている。

ACE は、この戦略的論文が新しい識見をもたらし、有用かつ生産的な議論に刺激を与えること、そして持続

可能なエネルギーシステムを実現するための低炭素開発経路に向け、ASEAN 地域における CCS の開発

と展開を目指す統一活動への道を拓くことを期待している。

Hardiv Harris Situmeang博士

ASEANエネルギーセンター (ACE) エグゼクティブディレクター

ASEANの長期的なエネルギーに関する道筋

エネルギーと持続可能な開発

ASEAN のエネルギー需要を満たしながら持続可能な開発を支えるためには、ASEAN におけるエネルギー

部門の規模と構成に関して慎重に計画されたエネルギーに関する道筋が必要である。持続可能な開発を確

保しつつ、エネルギーシステムを管理することが政府の重要な役割の一つである。エネルギー部門は、安定

した国内のエネルギー供給を維持することで、一国の社会的・経済的発展を支える中心的な役割を果たして

いる。その他の優先事項には、エネルギー安全保障とエネルギーの自給が含まれ、これは国内のエネルギ

ー源を利用し、国の外貨準備を管理することで行われる。エネルギー部門の低炭素開発経路を実現するた

めに、ASEAN諸国は以下のことを追求している。つまり、信頼性のあるエネルギーインフラの拡大、(いまだ

に同地域におけるエネルギーの主要な供給源である)化石燃料に対する依存度の軽減、エネルギー効率の

促進、再生可能エネルギーの利用促進、そして低炭素やゼロ炭素エネルギー技術の普及強化である。

好ましい長期的な国家エネルギー計画とは、持続可能な開発を達成する上でエネルギー部門が直面する主

な課題に対処できなければならない。国内の経済成長を支えながら、持続可能なエネルギーに関する道筋

に向けて国内のエネルギーシステムを誘導する活動が必要とされている。国家のエネルギー安全保障と

CO2 排出量の削減という二重の目的を満たす必要がある。統合された最適なエネルギーミックスは、環境に

優しい技術を用いて実現することができる。CO2排出が制約されているため、化石燃料はASEANの将来の

エネルギー需要のすべてを満たすためには使用できない。このため、エネルギー部門における技術の向上

と知識移転が非常に重要になってくる。

エネルギー技術の開発および展開プログラムは、地理的な位置、人口増加、経済成長、生活水準や生活様

式、技術が環境に及ぼす影響、それにエネルギー資源の賦存に関する考察に基づく必要がある。これらの

重要な要素は、国家の長期的エネルギー計画の導入に影響を与えるものとなる。需要側では、「社会的準

備(social readiness)」が消費者行動に影響を与え、気候変動に対処するために必要な CO2排出量の多い

エネルギーの消費量を削減できる。この「社会的準備」によりエネルギー消費に対する消費行動を変えるよ

う促すことをエネルギーの政策設計の各段階において考慮する必要がある。

ASEANの長期的なエネルギーの傾向

ASEAN は、中産階級の増加、都市化と工業化、それに加盟 10 カ国の経済統合によって牽引され、世界で

最も急速に成長している経済地域の一つである。この成長は、一次エネルギー消費量の必然的な増加をも

たらし、算出された増加率は 1995年から 2007年の間では年率 3.6%である。一次エネルギーの総消費量

は、1995年の 339 MTOE(石油換算 100万トン)から 2007年には 511 MTOE となり、化石燃料(石油、石

炭、ガス)の割合は 1995年の 64.6%から 2007年には 72.4%に増加した。

同地域における消費化石燃料は、主に同地域内の石炭火力発電所の設置に起因し、石炭が年率で 13.0%

増加し、最も高い増加率を示した。天然ガスの割合は、1995年の 16.4%から 2007年には 21.4%に増え、

増加率は年率 6.5%で、2番目の伸びを示した。石油は、ASEAN経済における主要なエネルギー源の地位

を維持しているが、その増加率は他のエネルギー源よりも比較的少なく、年率 2.2%だった。その結果、一次

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エネルギーミックスに占める割合は、1995年の 43.6%から 2007年には 36.2%に減少した。地熱や水力な

どの再生可能燃料も同期間に増加したが、その割合は低いままであった。一次エネルギーミックスの構成は、

Figure 2に示した通りである。

Figure 2: 1995年と 2007年の ASEANの一次エネルギーミックス

同様のパターンは、発電ミックスにも見られる。ASEAN における石炭、石油、天然ガスの割合はそれぞれ、

1995 年から 2007 年まで実質的に変化している。天然ガスが 36.7%から 45.9%に、石炭は 13.4%から

27.3%に増加した反面、石油は 31.4%から 10.6%に減少した。石油燃料の総割合は、1995年の 81.4%か

ら 2007年には 83.8%に増加した。

この化石燃料の増加は今後も続くと予想される。「第 3回 ASEANエネルギー展望(the 3rd ASEAN Energy

Outlook(ACE、2011 年))」で説明されたように、化石燃料がエネルギーの主要源でありつづけ、同地域の

エネルギーミックスの最大割合を占めつづけると予想される場合、エネルギー経路の現在の傾向は持続す

るだろう。2030 年までは、地域内のエネルギー需要の増加を満たす上で化石燃料が主要なエネルギー推

進力でありつづけると予想される。

GDP成長率を 5.2%と想定した 2007年から 2030年までの通常どおりの(Business-as-Usual;BaU)シナ

リオの下では、一次エネルギー消費量は、平均年率 4.5%で増加し、2030年には 1,414 MTOEに達すると

予想される。水力は、大メコン川地域の国々が近隣諸国と電力取引をするために膨大な水力発電を開発す

るため、年率 7.1%で増加すると予想され、また原子力の導入が予想され、地域は再生可能エネルギーの

推進を継続する。それにもかかわらず、化石燃料の割合はさらに増加しつづけ、2030年には 80.4%に達す

ると予想される。

代替シナリオ(Alternative Policy Scenario;APS)では、一次エネルギー消費量の伸びは年率 3.6%と緩や

かで、2030年には 1,152 MTOE となる。これは、エネルギー効率の導入、保全行動計画、加盟国の節約目

標の結果によるものである。しかし、APS の下でも、化石燃料の割合は、2030 年には 77.3%となり、2007

年当時のレベルよりも依然として高いままである。両シナリオにおけるのエネルギーミックスは、下の Figure

3に示してある。

1995年

石炭

石油

天然ガス

水力

地熱

その他

2007年

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Figure 3:BaU と APS下の、2030年 ASEANの一次エネルギーミックス

現在および長期的な CO2排出の傾向

低炭素技術を利用しなければ、ASEAN が化石燃料(石炭、石油、ガス)に大きく依存して経済的および発展

目標を追求し続けるにつれて、CO2の排出量は結果として増加し続ける。Figure 4に示したように、2007年

のエネルギー部門からの CO2 排出量は 283 Mt-CO2e(二酸化炭素換算 100 万トン)だった。「展望(The

Outlook (ACE、2011年)」では、BaUシナリオ下での一次エネルギー消費量の年間増加率は 4.5%であり、

対応するCO2排出量の増加は 5.7%と予測した。これは、石油や天然ガスの消費だけではなく、主に炭素排

出が最も高い化石燃料である石炭消費の段階的増加によるものである。このエネルギー消費の増加は、

CO2 排出量の増加を伴い、この事が地球温暖化に寄与する。この傾向に対抗するには、大規模な低炭素エ

ネルギー技術を長期の国内エネルギー計画に取り入れることが求められる。

関連温室効果ガス排出量削減に向けた APS シナリオの推進により、CO2排出量の年間増加率を 4.4%に

抑えることが期待される。これは、エネルギー効率と省エネ(EE&C)行動計画の導入、最終消費者による燃

料消費量および発電に伴う燃料消費量の削減、ならびに低炭素やゼロ炭素エネルギー技術の展開を実施

した結果によるものである。

APSシナリオにおける CO2の総排出量約 679 Mt-CO2eは、BaUシナリオ(895 Mt-CO2e)よりも 24%少な

いと推定される。

石油

石炭

天然ガス

原子力

水力

地熱

その他

2030年 BaU 2030年 APS

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Figure 4:参考シナリオおよび代替シナリオにおける CO2排出量(Mt-C)

BaU シナリオにおける成長率に基づき、排出量はエネルギー需要の推進要素である人口増加や生活水準

の上昇に伴って増加し続けると予想される。エネルギー消費量の単位あたりの CO2排出量は、したがって、

BaUシナリオの下では、2007年の 0.49 t-CO2e(二酸化炭素換算トン)から 2030年には 0.63 t-CO2eに、

APSシナリオ下では 0.59 t-CO2eに増加するだろう。GDP単位当たりのCO2排出量(炭素排出原単位)も、

BaUシナリオでは 2007年の 283 t-CO2e/100万米ドルから平均年率 0.5%で増加し、2030年には 317 t-

CO2e/100 万米ドルに増加するだろう。一方、APS シナリオでは、炭素排出原単位は毎年 0.7%ずつ減少し

て、240 t-CO2e/100万米ドルになると予想される。

上記の傾向を踏まえ、ASEAN の長期的な CO2 排出経路の抑制が必要であるとされている。これには、

ASEANエネルギー部門における低炭素開発経路を実現するために、低炭素やゼロ炭素エネルギー技術の

役割の拡大を長期的な国内エネルギー計画に取り入れることが必要である。CCS は、石炭火力発電所、石

炭ガス化プラント、石油・ガス処理プラントなど、大規模排出源からの排出を 90%まで削減する能力を持つ

重要な低炭素技術である。

気候変動に関する検討事項

気候変動に対する ASEANの地域としての反応

化石燃料の支配が継続すると予想されるため、ASEAN は地球温暖化に大きく関わる地域の一つになりか

ねない。同時に、ASEAN は他の地域に比べて気候変動の影響に対処する能力と許容力が少ないため、リ

スクにさらされている。すでに財政的制約に直面している数カ国の政府は、今後、気候変動の緩和と適応に

関連した追加費用に直面することになるだろう。

この状況を認め、第 25回および第 26回 ASEANエネルギー大臣会合(AMEM)がそれぞれ 2007年 11月

にシンガポールで、2008 年 8 月にタイのバンコクで開催され、とりわけエネルギーに関する地域協力の強

化、エネルギー効率と省エネ分野における協力のさらなる強化、かつ温室ガス排出量の削減に向けた指針

と指令を定めた。

2009年 7月 29日にミャンマーのマンダレーで開催された第 27回 AMEMで採択したエネルギー協力のた

めの ASEAN 行動計画(APAEC)2010-2015 を通じて、ASEAN はエネルギーと気候変動に関する世界と

地域の問題や課題を認識した。さらに、エネルギーと気候変動は、2010 年 7 月 22 日にベトナムのダラット

で開催された第 28回 AMEMのテーマになった。各国大臣は、「気候変動に対する共同対応に関する 2009

年の ASEAN首脳声明(2009 ASEAN Leaders’ Statement on Joint Response to Climate Change)」に

定められたように、ASEAN 共同体に対する首脳らのビジョンが気候変動にレジリエント(弾性的)であること

に注目した。このため、各国大臣は気候変動に対処するための取組みを強化し、低炭素、グリーン経済を目

CO

2換算

100万トン

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指す ASEAN エネルギー協力の強化に向けたコミットメントを再確認した。これは、行動計画の加速的実施

を通じて健康、安全、環境を含めた ASEAN 地域のエネルギー安全保障と持続可能性を高める、全体的な

APAEC 2010-2015年の目標と合致している。

排出量の目標

今のところ CO2 排出量削減のための具体的な目標を設定していないにも関わらず、ASEAN ではエネルギ

ー効率の向上が地域のエネルギー安全保障を強化し、気候変動に対処するための対費用効果が最も高い

方法の一つと見られている。ASEAN諸国のエネルギー大臣たちは、ASEANエネルギー協力アクションプラ

ン(ASEAN Plan of Action for Energy Cooperation (APAEC) 2010-2015)のプログラム領域第 4号「エネ

ルギー効率と省エネ(Program Area No. 4 Energy Efficiency and Conservation)」に定められたように、

2005年の水準を基準に、2015年までに同地域のエネルギー効率を少なくとも 8%削減する(効率を高める)

野心的目標の達成に努めることで合意した。

より技術的なレベルでは、ASEANは APAEC 2010-2015を通じて、加盟国間の石炭とクリーン石炭技術の

促進と活用のための協力的なパートナーシップを強化する共同活動を設定した。この計画を支えたのは、

ASEANの長期的な CO2排出経路を抑制しなければならず、それには低炭素とゼロ炭素エネルギー技術の

役割を拡大する必要があるという考え方だった。ASEAN エネルギー部門における低炭素開発経路を達成

するには、これらの低炭素技術の実行を長期的な国内エネルギー計画に取り入れる必要がある。

既存のエネルギー効率の良い技術の普及と新たな低炭素やゼロ炭素エネルギー技術の開発と展開は、温

室効果ガス(greenhouse gas;GHG)の大気中濃度を安全なレベルで安定化させるために世界的に GHG

の排出量を削減し、首尾一貫した世界的緩和努力に寄与する上で必要である。これは、経済発展を犠牲に

することなく目標を達成し、GHG 排出量の緩和とそれを支える政策コストのバランスを取るために非常に重

要である。

全ての技術的なオプションが気候変動を和らげる上で適格であることが重要である。政策や規制を一まとめ

にすることで、適切なエネルギー技術のための環境基準などの性能基準が確立し、さらなる研究と革新も奨

励できるはずである。

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ASEANにおける排出量削減に対する CCSの寄与

Figure 5:ASEANにおいて排出量の削減目標を達成するために要求されている技術ポートフォリオ

国際エネルギー機関(IEA)は、産業革命前と比較して 2℃の温度上昇に留めるために要求される CO2排出

量の削減を達成するために最も低コストの方法をモデル化している。IEAは、世界、地域、場合によっては国

レベルにおいてこのモデリングを実施した。

IEAは、2050年までに CCSが世界の CO2排出量の 14%削減に貢献できると推定している。CCSが電力

部門において低排出技術として導入されない場合、IEA は、同じ CO2削減量に達するための 2050 年まで

の投資コストは 40%増加、または約 2 兆米ドルかかると推定している。CCS が除外された場合、排出量を

削減し、気候変動に対処するコストはかなり高額になる可能性がある。

上図は、ASEAN において必要な排出量削減を達成するために必要な技術のポートフォリオを示している。

この図から、CCS が ASEAN 固有のポートフォリオの重要な要素であり、2009 年から 2050 年まで累積値

で推定で 14%寄与することがわかる。

ASEANにおける CCSの活動

本章では、ASEAN加盟国の CCS活動を簡単に紹介する。

カンボジア

カンボジアは、東・東南アジア沿岸地球科学計画調整委員会(CCOP)地域貯留計画に参加している。グロ

ーバル CCS インスティテュートとノルウェー外務省の支援を得て、CCOP は東南アジア地域内の貯留層を

特性付けるための国境を越えたマッピングプログラムを開発している。同プロジェクトは、既存のCO2地中貯

留活動を支援し、既存計画を持たない加盟国内の貯留マッピングの導入を促進するために設計されている。

マッピング計画は、参加国間が知識を共有するための場を提供することと、CCOP CO2 貯留地図帳に沿っ

て国内の CO2貯留マッピングを作成することを目的としている。

有益な参考資料

ASEAN のエネルギー技術の気候変動ポートフォリ

オにおける CCS

予想 CO2排出量

現在の CO2排出量

目標 CO2排出量

発電効率および燃料の変更

原子力 再生可能

エンドユーズ燃料の変更 エンドユーズ燃料と電力効率

IEAモデリングに基づきグローバル CCS インスティテュート提供

CCS

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CCOP貯留計画の詳細については、CCOPのウェブサイトで見ることができる。

http://www.ccop.or.th/ccsm/

インドネシア

ASEAN 加盟国の中で、インドネシアは CCS のポテンシャル調査を総合的に始めた最初の国であり、間違

いなく一番先行している。インドネシアの CCS ワーキンググループは、2009 年に報告書「インドネシアにお

ける炭素回収・貯留ポテンシャルの把握(Understanding Carbon Capture and Storage Potential in

Indonesia)」を作成した。このワーキンググループは LEMIGAS、駐インドネシア英国大使館、インドネシア

環境省、シェル・インターナショナル(Shell International)、PT PLN(PERSERO)、インドネシア国家委員会

で構成されている。同調査により、東カリマンタンと南スマトラの二カ所が、最もポテンシャルの高い、石油増

進回収に関連した CCSのための地域であることが判明した。

南スマトラにおける CCSの展望

アジア開発銀行(ADB)は、さらに最近、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムでCCSの展望を探る報告書

「東南アジアにおける炭素回収・貯留の展望(Prospects for Carbon Capture and Storage in Southeast

Asia)」を(グローバル CCS インスティテュートの支援により)出版した。同調査で、これらの国内の主要な

CO2の排出源(ソース)と吸収源(シンク)が特定されている。この調査では、インドネシアでは南スマトラ地域

の大規模排出源が重点的に取り上げられている。また、この地域における天然ガス処理工場、発電所、セメ

ント工場、肥料工場、石油精製所など、大規模 CO2排出源 5カ所が特定されている。

報告書では、大規模 CO2 排出源である天然ガス処理施設が同地域内に他に数カ所発見されているが、そ

れらのプラントに関するデータが入手できなかったため、調査の一環としては、さらに踏み込んだ調査はされ

ていない。天然ガス処理プラントは特定された他の排出源よりも CO2の排出量は少ないものの、すでに実施

されている分離処理から生じる高純度の CO2 流により、潜在的に天然ガスは CCS 実現に向けてより経済

的に利用可能である。評価された 5 カ所の排出源は、合計で年間約 800 万トンを排出し、最大の単独排出

源は肥料工場だった。

同調査は、2 段階のプロセスを使用して排出源をランク付けした。第1段階では条件として「(i)少なくとも 20

年以上の寿命が残っていること、そして(ii)安定した CO2 流を生み出せるように、プラントの操業変動率が限

定的でなければならないこと(すなわち、80%を超える作動率)」(ADB、2013 年、19 ページ)を有する排出

源を特定した。第 2段階では、11件の優先基準に照らして排出源をランク付けした。このランク付けプロセス

に基づいて、南スマトラでパイロットまたはデモンストレーション・プロジェクトとしてリストに挙がった排出源は

次の通りである。(ADB、2013年、19ページ)

1. CO2を年間 0.15 Mt排出する天然ガス処理プラント

2. CO2を年間 1.8 Mt排出する亜臨界微粉炭発電所

3. CO2を年間 2.7 Mt排出する肥料(尿素)プラント。現在、この CO2はすべて、尿素生産のために消費さ

れている。しかし、燃料源として天然ガスから石炭への変更が可能な場合、より多くの CO2 を隔離のた

めに生産することができる。

貯留容量

同調査では、異なる地質貯留「槽(containers)」の潜在的な貯留容量を調べた。調査では、南スマトラ地域

の CO2貯留容量は以下のように推定されている。

塩水層 - 理論容量 77億トン

油田 - 有効容量 1億トン

ガス田 - 有効容量 8億トン

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炭層メタン - 理論容量 27億トン

これは、特定された地域内の大規模排出源から排出された CO2を貯留するのに十分な貯留容量があること

を少なくとも理論上は示している。インドネシアの他の地域には、さらなる貯留機会がある可能性がある。ま

た、情報が限られていたため、南スマトラ流域内の全既存油田のわずかに 59%、および全ガス資源の 47%

しか評価されなかったことに注意することも重要である。つまり、油田とガス田における貯留の有効容量が上

記の統計よりも高くなる可能性がある。

上記数字から、塩水層が最大の貯留容量を有していることがわかる。しかし、枯渇油田やガス田内の貯留

および石油増進回収に関連する貯留の方が、短期的には対費用効果が高い選択肢となる。枯渇油田やガ

ス田に関しても、評価に利用可能な貯留データがほとんど揃っている。

南スマトラ地域で評価された油田やガス田 85カ所のうち 44カ所が、貯留適性「中程度」と判断された。最上

位 3位まで、または 4位までを占めたのは油田で、28 Mtの CO2を貯留できる。

先発プロジェクトのオプション

調査書の著者たちは CO2 排出源と、「吸収源(シンク)」として知られる貯留オプションの分析を使用して、将

来的に商業規模プロジェクトに拡大するのに適したパイロット規模のプロジェクトを特定した。

著者たちは、ガス処理プラントはパイロット規模プロジェクトなら貯留に良い場所にあるが、商業規模プロジェ

クトには別の CO2排出源と組み合わせなければならないと判断した。幸いなことに、このオプションを可能に

する他の CO2排出源が半径 150キロ内にある。

石炭火力発電所は、南スマトラ盆地の南部および中部の石油貯留層近くに位置し、商業規模プロジェクトに

最適な CO2 発生源として浮上した。インドネシアには、パイロットまたは商業規模プロジェクトに利用可能な

魅力的な CO2-EORの機会がある。

法制度と規制

法制度と規制の分析は、インドネシアの既存の枠組みのどのような面がCCSを規制するのに適切かを特定

するために調査の一環として実施された。高レベルの概要は概略報告書で入手可能であり、インドネシア政

府当局者はより詳細な国レベルの報告書を入手可能である。

南スマトラのテスト注入プラントで、ADB、国際協力機構(JICA)とプルタミナ(Pertamina)が CCS 実現可能

性調査を共同実施している。このプロジェクトは、「インドネシアにおける CCS パイロットのためのロードマッ

プ(Roadmap for CCS Pilot in Indonesia, 2012 – 2018)」に適している。さらに、このプロジェクトでは、イン

ドネシアで CCSパイロットプロジェクトを実施するために必要な法制度と規制面をより詳細に検討することに

なるだろう。

インドネシアは、また CCOP地域の貯留計画に参加し、実際に「ケーススタディ」国の一カ国である。

有益な参考資料

›› Asia Development Bank, Prospects Carbon Capture and Storage in Southeast-Asia,http://www.adb.org/publications/prospects-carbon-capture-and-storage-southeast-asia

›› Indonesia CCS Study Working Group, Understanding Carbon Capture and Storage Potential in Indonesia, http://www.ukccsrc.ac.uk/system/files/ccspotentialindonesia.pdf

ラオス

ラオスも、CCOP地域の貯留計画に参加している。

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マレーシア

マレーシアの CCS調査終了後、グローバル CCSインスティテュートは、マレーシアのエネルギー省、グリー

ンテクノロジー・アンド・ウォーター(KeTTHA)や他のマレーシアの利害関係者と協力して、同国に適した

CCS能力開発計画を導入した。この計画には、主要なマレーシアの大学および予備法制度と規制の分析へ

の CCS コースの導入が含まれている。法制度と規制の分析は、「発展する APEC 経済における石炭火力

発電所プロジェクトの炭素回収・貯留に関連する許可問題 (Permitting Issues Related to Carbon Capture

and Storage for Coal-Based Power Plant Projects in Developing APEC Economies)」に関する APEC

の調査の一環として実施されたマレーシアの法制度と規制枠組みの分析に基づいて構築されている。

ペトロナス大学(UTP)は、大学の 9つの使命指向の研究分野の一部として CO2の管理に焦点を当て、CO2

回収研究センターを設立した。この研究はUTPの親会社であるペトロナスのCO2軽減計画を補完しており、

将来の CCSが含まれている。

マレーシアの CCSスコーピングスタディ

マレーシアの CCSスコーピングスタディは、2011年 1月に完成し、「マレーシアは将来のエネルギー供給や

インフラに CCS を組み入れる戦略を展開する立場にあり、そうするための強力な根拠が存在する」(CCI、

2011年)と結論づけた。マレーシアの活発な石油・ガス産業、それにCO2を多く含むガス田を前提にすると、

適切な貯留が特に海底(オフショア)で利用できる可能性がある。陸上(オンショア)貯留も可能性はあるが、

地質学的な貯留分析が行われていない。

スコーピングスタディで、マレーシア内で可能性の高い複数の「シンク・ソース(吸収源・発生源)」群

(Clusters)を特定している。これらの「シンク・ソース(吸収源・発生源)」群は次の通りである。

ケルテ近くのマレー半島東部の発生源。マレーとペニュー盆地沖合の潜在的貯留地域を利用でき、ガ

ス幹線(Peninsular Gas Utilization)を介して接続されている。

ビントゥル近くのサラワク州内の発生源。大サラワク(greater sarawak)沖合の潜在的貯留地域を利用

でき、ペトロナスが建設中のサバ・サラワク・ガスパイプラインを介して接続される。

ケダ近くのマレー半島北部の発生源。タイ・マレーシア共同開発地域沖合の潜在的貯留地域を利用で

き、トランス・タイ・マレーシア・パイプラインを介して接続されている。

クアラルンプールとポートディクソン近くのマレー半島西岸にある発生源。ペニュー盆地の潜在的貯留

地域、または国境を越えた輸送や貯留問題の解決を前提に、近隣諸国に位置する盆地を利用できる。

ジョホール近くのマレー半島南部にある発生源。ペニュー盆地の潜在的貯留地域、または国境を越えた

輸送や貯留問題の解決を前提として、近隣諸国に位置する盆地を利用できる。(CCI、2011年、25ペー

ジ)

ケルテ地域には大規模 CO2排出施設を入れて 21 カ所の施設があり、合計で年間約 40 MT を排出してい

る。ビントゥル地域には大規模 CO2排出施設が 9 カ所あり、合計で年間 15.1 MT以上を排出している。近く

に高いポテンシャルを持つ貯留地域があるこれら 2 つの「シンク・ソース(吸収源・発生源)」群は特に有望と

考えられる。(CCI、2011年)

有益な参考資料

›› Clinton Climate Initiative, Ministry of Energy, Green Technology and Water, Global CCS Institute, Malaysia CCS Scoping Study, January 2011 - available to Malaysian Government officials

›› Hart, C., Tomski, P., Coddington, K., Permitting Issues Related to Carbon Capture and Storage for Coal-Based Power Plant Projects in Developing APEC Economies http://publications.apec.org/publication-detail.php?pub_id=1322

›› Global CCS Institute, Malaysian CCS Legal and Regulatory workshop report, http://www.globalccsInstitute.com/publications/Malaysian-ccs-legal-and-regulatory-workshop-report

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ミャンマー

環境管理の一環として、日本の CCS技術を利用して、出力 600 MWの発電所がミャンマーのダワイ特別経

済区に計画されていると報じられている(SNL、2013年)。この計画が進めば、ミャンマーはASEAN CCSの

前駆者として浮上する可能性がある。

フィリピン

フィリピンにおける CCS のポテンシャルは、「東南アジアにおける炭素回収貯留の展望」に基づく ADB によ

る調査の一環として検討された。フィリピンも、CCOP地域の貯留計画参加国である。

カラバルソンにおける CCSの展望

ADB の調査では、フィリピンのカラバルソン(CALABARZON)地域に焦点を当てている。カラバルソンはマ

ニラ首都圏直近の 5 省(カビテ、ラグナ、バタンガス、リサール、ケソン;CAvite, LAguna, BAtangas, Rizal

and QueZON)の名前を組み合わせたものである。

2009年、フィリピンの総排出量は 69 MtCO2e と推定されている。フィリピンのカラバルソン地域は CO2を年

間約 18 MT 排出している。これには石炭火力発電所 3 カ所、ガス火力発電所 3 カ所、セメントプラント 3 カ

所と石油精製所 1 カ所が含まれている。調査の一環として特定された CO2の最大排出源は次の通りである。

ケソンのマウバンにある亜臨界微粉炭発電所、CO2を年間 3.1 Mt排出

バタンガスの天然ガス複合サイクル発電プラント、CO2を年間 3.1Mt排出

同じくバタンガスの天然ガス複合サイクル発電プラント、CO2を年間 2.8 Mt排出

しかし、上記「インドネシア」セクションで概説した ADBによる CO2排出源の 2段階ランク付けプロセスも、フ

ィリピンの石炭・ガス火力発電所からの将来の回収排出源の検討に使用され、その結果、2020 年までに回

収候補条件に見合うのは、CO2推定排出量年間 1.5 MTの、将来の天然ガスプラント 1 カ所だけであること

が判明した。

貯留容量

フィリピンの貯留推定値は、同国に存在する機会の 8 分の1である堆積盆地 2 カ所(カガヤンと中部ルソン

盆地)のみに基づいている。調査では、これらの盆地の貯留容量を次のように推定している。

塩水層 - 理論容量 227億トン。理論的にはカラバルソンから 100年以上にわたって排出されるCO2

の全量を貯留できる。

ガス田 – 有効容量 3億トン

先発プロジェクトのオプション

フィリピンのパイロット/デモンストレーション・プラントにとって最善の発生源・吸収源(ソース・シンク)の組み

合わせは、カラバルソン地域のCO2発生源と現在生産中の沖合ガス田内の貯留の可能性を結びつけること

であることが調査によって判明した。このシナリオは、ガス田の生産停止後、CO2 の輸送に 504 km にわた

る天然ガスのパイプラインを利用することを前提にしている。しかし、ガスの生産が 2030 年以前に停止する

可能性は低い。

中部ルソン盆地(塩水層)は、カラバルソンの大規模 CO2排出源から利用可能な距離内に位置している。中

部ルソン盆地は CO2 排出源からさらに離れた北西パラワン盆地よりも地震活動が活発だが、それにもかか

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わらず可能性の高い貯留オプションである(また、調査の一部として分析されていない)。

フィリピンでは、「短期的な」視点で見ると油田やガス田を利用した貯留の可能性は限られていることから、

他の潜在的貯留オプションとして地熱、オフィオライト、炭層が挙げられる。例えば、「潜在的な貯留サイトと

してはさらに検討が必要となるが、カラバルソンの 150 km 以内に 3 カ所の地熱地帯が存在する」(ADB、

2013年、39ページ)。

法制度と規制

フィリピン政府当局者は、法制度と規制の見直しを含む、より詳細な国家レベルの研究を入手できる。インド

ネシアと同じく、フィリピンの法制度と規制の枠組みには CCS に適用可能な面(例えば、環境保護要件、労

働安全衛生の基準など)があるが、CCSプロジェクトには法的責任や CO2パイプライン輸送など CCS固有

の問題の検討が必要となる。

タイ

タイも、「東南アジアにおける炭素回収・貯留の展望(Prospects for Carbon Capture and Storage in

Southeast Asia)」に関する ADBの調査の一環で検討され、CCOP地域貯留計画に参加している国である。

タイのエネルギー省は、CCS タスクフォースを設立し、CCSの開発に向けて取り組んでいる。

タイにおける CCSの展望

ADBの調査では、タイの総温室効果ガス(GHG)排出量は 2000年時点で 230 MTの CO2相当量であると

特定した。同調査によると、「最適な回収源となる電力、セメント、天然ガス処理および石油とガス生産の 4

部門にわたるCO2の潜在的排出源 50カ所以上」を調査した。「全体としてこれら排出源は年間約 108 Mtを

排出している」(ADB、2013 年、19 ページ)。2 段階のスクリーニングプロセスを使用して、調査書の著者ら

はこれらタイの排出源のうち、上位 3つの CO2回収候補を特定した。

タイ中部で年間 2.0 Mtの CO2を排出する天然ガス処理プラント

タイ南部で年間 0.9 Mtを排出する天然ガス処理プラント

タイ中部で年間 3.1 Mtを排出する超臨界石炭(瀝青炭)発電所

貯留容量

調査ではタイの CO2 貯留容量を次のように推定した。

塩水層 - 理論容量 89億トン

油田 - 有効容量 1億トン

ガス田 - 有効容量 13億トン

「タイの上位 3つの油田およびガス田は CO2を 350 Mt貯留できるため、CO2貯留に最適なサイトである。こ

れら 3 カ所のうち 2 カ所は、主にガスを産出している。…最上位の貯留サイトも、タイの油田およびガス田の

中で、最大の単一容量貯留オプションである。同サイトは、推定 CO2を 240 Mt保持でき…2017年までには

貯留に利用できるようになる可能性がある」(ADB、2013年、33ページ)。

先発プロジェクトのオプション

タイには商業規模のプロジェクトに移行できるパイロット規模のプロジェクトに適した機会がいくつもある。例

えば、タイ中部にある年間 2.0 Mt の天然ガス処理プラントからの CO2は、隣接したガス田に CO2を貯留で

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きる。ガス田のうちの一つは貯留容量が 22 Mt であり、もう一つの貯留容量は 41 Mt である。海岸近くにあ

る排出源については、タイ湾にいくつものオフショア貯留層がある。バンコク近郊の発電所クラスタは、CO2

を大量に排出するが、それら CO2は 200 km 沖合に貯留される。この距離がサイトを商業規模プロジェクト

により適したものにしている。同調査では、費用対効果が最も高いオプションとして、オンショアとオフショアフ

ィールドの両方が利用可能な、石油増進回収(EOR)に関連した実証プロジェクトを推奨している。

ベトナム

ベトナムも ADB 調査の一部として調査され、CCOP 貯留計画の参加国でもある。また、ペトロベトナム

(PetroVietnam)が EOR のために CO2圧入サイトに関する社内調査の第1段階を実施している。興味深い

ことに、CCS の議論は、2005 年のクリーン開発メカニズム(CDM)内で、ベトナムの CCS プロジェクト案で

あるホワイトタイガーによって始まった。2011 年に CCS は CDM の下、緩和技術(eligible mitigation

technology)として認められた。

CCSの将来の展望

ベトナムでは、ADBが石炭発電所 35カ所、ガス発電所 4カ所、それにいくつかの小型鉄鋼およびセメントプ

ラントなど、2012 年から 2016 年までに出現すると予想される将来の CO2回収源を調査した。これは、「既

存の CO2源がどこも、パイロットおよび商業規模の CCS プロジェクトに寄与する好ましい特性を有していな

かった」(ADB、2013年、22ページ)ためである。これらの将来の回収源からの潜在的な排出量は、2025年

には 325 Mt となることが予想される。同調査による 2段階の選択プロセスで、これらの将来のプラントの中

で上位 3位にランクされる回収候補を特定した。

ドンナイ省の天然ガス複合サイクルプラント、年間 2.2 Mtの CO2を排出すると予想される。

ビントゥアン省の亜臨界国内石炭発電所、年間 15.2 Mtの CO2を排出すると予想される。

ハティン省の亜臨界国内石炭発電所、年間 4.0 Mtの CO2を排出すると予想される。

亜臨界発電所は、大規模な CO2 流とその他の特性を持ち、良好な回収候補としてランク付けられる。しかし、

効率が悪いため、CCSに適していない。将来のガス処理施設は、より高い CO2含有ガスを処理する可能性

が高く、ガス仕様を満たすために通常操業の一環として CO2 を除去することが期待される。これは、(インド

ネシアやタイの状況と同様)コスト効率が高く回収・貯留に適した高容量、高純度の CO2流を生成するだろう。

貯留容量

同調査の貯留評価は、石油系の一部としてデータが利用可能だった塩水層にのみ焦点を当てた。しかし、

ベトナムには評価されなかった他の利用可能な塩水層の貯留オプションが存在する可能性がある。このた

め、塩水層の貯留推定値は、実際に利用可能な値よりも低くなる可能性が高い。とはいえ、実施された評価

によると、調査では次のように推定されている。

塩水層 - 理論容量 104億トン

油田 - 有効容量 6億トン

ガス田 - 有効容量 7億トン

炭層メタン - 理論容量 5億トン

ベトナムには貯留に適した最高ランクの油田やガス田が複数あり、それらの貯留サイトはベトナム国内の良

好な EOR のポテンシャルとなっている。「最大の単一容量サイトは、生産井 200 基で推定 357 Mt の CO2

の貯留容量を持ち、すぐに EORに利用できる可能性がある」(ADB、2013年、xxiii)

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先発プロジェクトのオプション

ベトナム北部の貯留サイトは、商業規模のプロジェクト用に拡大するには小さすぎる。南部には、クーロン盆

地内にオフショア含油田 8 カ所からなる主な CO2「貯留ハブ」があり、良い貯留サイトとなる可能性がある。

この「貯留ハブ」は、3 カ所の「排出ハブ」から実行可能な輸送範囲内(150 km 以内)にある。これらの排出

ハブには、NGCC プラントや提案された超臨界および亜臨界石炭発電所が含まれている。上述したように、

将来的に利用可能になる大型ガス処理プラントが回収にさらに適した機会となるかもしれない。

炭層メタンの生産がベトナムで商業ベースに乗れば、これも良い貯留の機会となるかもしれない。