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1 2017 年度 図書館総合演習 TEXT 担当 熊谷紀男

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2017 年度

図書館総合演習 TEXT

担当 熊谷紀男

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目次 第 1 章 はじめに ..................................................................................................................... 3

1. 現代社会 .......................................................................................................................... 3 2. 現代社会を生き抜く力 ........................................................................................................ 3

3. 新たな価値を見つけること ............................................................................................. 4

4. この教科書の使い方 ........................................................................................................ 4 5. 教科書について ............................................................................................................... 5 6. 参考文献 .......................................................................................................................... 5

第 2 章 正確な知識 .................................................................................................................. 6 1. 知識・技術の構造 ........................................................................................................... 6 2. 知識・技術の記述 ........................................................................................................... 6 3. 知識・技術の獲得 ........................................................................................................... 7

第 3 章 分析する能力と技術 ................................................................................................... 8 1. 分析するということ ........................................................................................................ 8 2. 分析する技術 ................................................................................................................... 9 3. 分析する能力を身につけること ..................................................................................... 9

第 4 章 さまざまな要素を結びつける能力と技術 ................................................................ 10 1. 立論の目的をはっきりと意識すること ......................................................................... 10 2. テーマに応じて要素を取捨選択すること ..................................................................... 12 3. 情報を扱う順序と機会を考えること ............................................................................ 13 4. 情報の効果的利用を考えること ................................................................................... 14

第 5 章 さまざまな事項を関連付けることができる能力と技術 ........................................... 15 1. テーマの探し方 ............................................................................................................. 15

第 6 章 ある対象を別の視点から見直すことができる能力と技術 ....................................... 17 1. テーマの見つけ方 ......................................................................................................... 17 2. 再定義について ............................................................................................................. 18

第 7 章 必要に応じて情報を獲得することができる能力と技術 ........................................... 19 1. 情報を探すこと ............................................................................................................. 19 2. 多様なメディアを使用する ........................................................................................... 19

第 8 章 獲得した情報を記録し引き出すことができる技術 .................................................. 21 1. 情報管理の原則........................................................................................................... 21 2. 情報管理の提案........................................................................................................... 22

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第 1 章 はじめに

1. 現代社会

われわれが現代社会を生き抜いていくには,社会で通用する「知識・技術」を身につける

必要があります.現代社会は知識基盤社会といわれています.この社会の特徴は知識があら

ゆる価値を規定するとまではいえませんが,知識がわれわれの人生の大きな部分を規定す

ることは間違いありません.社会で通用する「知識・技術」は時代の要請によって目まぐる

しく変化しています.戦前の義務教育は初等教員レベルで終了しました.これは当時の社会

がそこまでの「知識・技術」で十分活躍できる程度の社会であったためです.2016 年現在

の義務教育は, 9 年間で初等教育,前期中等教育で終了しますが,到底この程度の教育レ

ベルでは現代社会で求められている「知識・技術」の水準には達していません.現代社会で

はさまざまな公的資格の取得要件が後期中等教育終了,高校を卒業することを前提として

いることで,義務教育で身につける「知識・技術」では全く足りないことを示しています. 現代社会が求める「知識・技術」は,既に高等教育終了レベルのものが求められています.

産業は確実に原材料を輸入し,その原材料を加工し,製品として輸出するという「もの作り」

から脱し,価値の創造など知的活動に進んでいます.「もの作り」が不要であると言ってい

るのではなく,もはやそれだけでは他との競争には勝てないということをいっています.こ

れからの社会は,知的活動が基礎になるこれまでに経験のない新しい社会なのです.この競

争に勝つ主たる要因が高度な「知識・技術」なのです.その高度な「知識・技術」を身につ

ける場が大学なのです.

2. 現代社会を生き抜く力 「1. 現代社会』で述べたように,これまでの 12 年間の初等教育と中等教育で学んだ「知

識・技術」だけではこの社会を生き抜いていくには休みのない相当ハードな努力が求められ

ます.現代社会では高等教育の必要性がますます重要な役割を果たすようになっています.

初等教育はつぎの段階である中等教育を受けるために必須の知識・技術を獲得する課程で

あり,中等教育はつぎの段階である高等教育を学ぶために必須の課程です.したがって勉強

は高校までで大学教育は就職活動のためだけにあると考えは,大きな誤りです. 今日本は大きな岐路に立っています.それは 1960 年代には重要な役割を果たしていた原

材料を海外から輸入し,それを加工することによって付加価値を付けて海外に輸出すると

いう製造業にいまだに依存していることにより,国力を大きく減じていることによります.

例えば現代産業をリードしている Apple は米国の企業であるにもかかわらず自社の製品

を製造していません.Apple は世界戦略を考え,それに基づいて製品を設計し,それを構成

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する部品を中国をはじめとして日本,台湾などの国々に低価格で発注しており,自社ではほ

とんど何も作っていません. これからの社会は「知識・技術」が制します.Apple をはじめとして現代社会をリードし

ている情報通信関係の企業は次々に新しい製品を社会に投入し,消費者の購買意欲を煽っ

ています.このような戦略は Apple が始めたのではなく,古くからある経営戦略です.次々

に新しい方針,企画,発想などが求められ,提案・計画・実行・評価・再計画のサイクルが

行われています.このようなサイクルを支えるのが「知識・技術」なのです. それではこのような「知識・技術」を身につけるにはどうすればよいのでしょうか.一番

身近な方法としては「生涯学習特別研究」を通していままで身につけてきた「知識・技術」

を再確認し,ブラッシュアップすることです.

3. 新たな価値を見つけること

このような戦略を理解することは難しいことではありません.しかし,このような戦略を

0 から考え出すことは大変な努力・知的操作・幸運を必要とします.このようにあらたな価

値を生み出さない限り現代社会を生き抜くことはますます難しくなっています. それでは具体的にどのような知識・技術が必要なのでしょうか.以下に列挙してみましょ

う. 1. 正確な知識 2. 分析する能力と技術 3. さまざまな要素を結びつける能力と技術 4. さまざまなな事項を関連付けることができる能力と技術 5. ある対象を別の視点から見直すことができる能力と技術 6. 必要に応じて情報を獲得することができる能力と技術 が必要と考えています.現代日本の教育ではこのような「能力・技術」についてようやく認

識され,まずは高等教育で,次いで初等・中等教育におよんできました.しかし,このよう

な認識は世間一般ではあまりありません.そのため多くの人々が教育に求めているのは,学

歴と資格が主なもので現代社会を生き抜く能力・技術についてはほとんど関心がないと言

っても過言ではないと考えられます.学生のなかにはこのような教育環境の中で「生涯学習

特別研究」に価値を見いだせないものも多いのではないかと思います.しかし,これまで述

べてきたように現代社会を生き抜くための能力・技術を確認し,実践するための重要な課程

です.

4. この教科書の使い方

この教科書は epub で作成してあります.ホームページに up してありますので受講生

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は各自データと reader をダウンロードして使用してください.媒体は PC,iPhone などの

スマホ類,および iPad などの情報端末などを想定しています. この教科書を読む場合には以下のリーダーが必要です. (1) パソコン(ブラウザーの拡張機能) ① Readium: Google Chrome アプリ (2) スマホ ① epub reader をダウンロードして使用してください

5. 教科書について

(1) この教科書の性格 ① この教科書の内容は現在固定していません ② この教科書は受講生に Web 上に UP してあり,逐次内容を変更します (2) 教科書の使用方法 ① 第1回目の授業で受講生を班に分けます ② 第2回目以降の授業ではこの教科書は事前に内容を把握し,「講義予習レポート」

にその要点をまとめ授業に出席します ③ 第1回めの授業で説明するように,各自が要点をまとめた「講義予習レポート」に

従って話し合います ④ 話し合いによって「講義予習レポート」を完成させます ⑤ 残りの時間で教員が該当箇所の説明をします ⑥ 授業終了後「講義のまとめ」を作成し,次回授業に提出します

6. 参考文献

(1) 中教審答申「我が国の高等教育の将来像(答申)平成 17 年 1 月 28 日 (2) 安永悟,須藤文[著]『LTD 話し合い学習法』ナカニシヤ出版, 2014. 978-4-7795-0883-7 (3) 安永悟[著]『実践・LTD 話し合い学習法』ナカニシヤ出版, 2006. 978-4-7795-0105-0 (4) 安永悟『活動性を高める授業づくり』医学書院, 2012. 978-4-260-01486-1

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第 2 章 正確な知識 教育の大きな役割の一つはこれまでに多大な努力を払って獲得した知識・技術を正確に学

び取ることです.そこでこの章では知識・技術がどのような構造を持っているか考えます.

1. 知識・技術の構造

学生諸君には「知識・技術」に構造があるというと,何だそれはと思うひとが多いと思いま

す.学校教育ではさまざまな知識・技術を事実として教えます.そのような方法は最も効率

のよい方法といえます.ただし大学教育の場ではそれだけでは不十分です. 知識・技術は 0 の状態から一挙に現在の状況になった訳ではなく,紆余曲折を経て現在の

状況になっているのです.知識・技術はその発端から現在の状況になる過程があり,それを

理解することはその知識・技術を理解するために必要なことです.すなわちある知識・技術

を理解するにはそれがたどった道筋を理解すること,このことが重要です. また,ある領域の知識・技術の現在の状況を知ろうとする時には現在の広がりを余すところ

なく知る必要があります.これはその知識・技術が現在に至るまでにたどって道筋を知るの

に対して同一の空間での広がりを理解することに他なりません. すなわち知識・技術は時間的観点からと空間的観点からの二つの観点から把握する必要が

あるのです.

2. 知識・技術の記述

知識・技術はそれに関係するもの全てが同じように理解できるため記述する方法が定めら

れ ています.その領域で使用する用語は専門用語として内容が定義され,その語法も定められ

ています.その領域の専門家として認められるには,ある一定数の専門用語を口頭・文書で

適切に使用することが求められます.諸君らが作成する「論文」にもそのようなことが求め

られます. それでは知識・技術がどのように表現されているか検討してみましょう.ただし,このこと

は一般論として述べるのであり,例外は常に存在することを前提としていますので注意し

てください. ある特定領域の知識・技術を記述する時には少なくとも三つの方法で内容を記述する必要

があります.すなわち ① 表 ② 系統図 ③ 相関図

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の三つです. (1) 表 表は概念を網羅的に書き出す方法です.一般的には概念を網羅的に書き出す時には「文章」

を用います.それを判りやすく表現する時には「箇条書き」を用います.さらに概念をもれ

なく確実に書き出す方法として「表」を使用します.「表」とひとくちに言いますが,この

場合の「表」は,表計算の「表」を意味します. (2) 系統図 これは専門用語で表現された個々の概念がどこに収まるかを視覚的に表したものです.特

定の分野の概念は全てが個々バラバラに存在するのではなく,いくつかの集合にまとめら

れます.その関係を表したものです.簡単にいうと分類とか区分といわれるものにあたりま

す. 例えば「生涯学習」を考えてみると「場」という観点からみると「家庭」「学校」「社会」な

どという用語が抽出されます.同じように「年齢階級」からみると「幼児教育」「児童教育」

「青少年教育」「成人教育」「老人教育」などの用語が抽出されます.このように分類・区分

という観点からから用語を整理し,まとめ表示したものが系統図と呼ばれるものです. 系統図が提示する情報は,用語間の包含関係,用語の体系上の位置です. (3) 相関図 これは用語と用語との関係を表したものです.卑近な例としては,PowerPoint の SmartArt が挙げられます.PowerPoint はすでに授業でおなじみと思います.PowerPoint を教員が

使用する目的は板書の労を厭うためばかりでなく,用語間の関係を視覚情報として的確に

示すためです. 相関図が提示する情報は,用語間の軽重関係,上下関係,並列関係,時間の経過,用語の列

挙,中心課題の提出など多岐にわたっています.

3. 知識・技術の獲得

正確な知識・技術は「ボー」していては獲得することができません. ① 覚えようと意識する ② 黙読する ③ 音読する ④ 書く などの動作を必要とします.人によっては見ただけで覚えられるという人もいるでしょう

が,われわれ凡人にはそうもいきません.知識・技術を自分に定着させるには同じ動作を繰

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り返す必要があります.こうしてわれわれははじめて知識・技術を身につけることができる

のです.この過程を抜いてわれわれは正確な知識・技術を獲得することができません.

第 3 章 分析する能力と技術

1. 分析するということ

分析する能力とはある対象をどれだけ詳細に分けることができる能力をここではいうこと

にします.さて,われわれの前に現れるさまざまな情報は多数の情報源から特定の情報を抽

出し,特定のメッセージを伝達するためにまとめた情報です.その情報には無視された情報,

故意に強調された情報,改変された情報などオリジナルの情報とは異なる情報が提示され

る場合があります.それを見抜く能力がこの「分析する能力」と大きくかかわっています. 一口でいうと「分析する能力」とは,ある対象をどれだけ詳細に分解することができるかと

いう能力です.ただし,いくら分解するといっても音素レベルにまで単純に分けることでは

ありません.意味のある要素単位に分けることができる能力をいいます. 例えば「生涯学習」というテーマが与えられた場合,学生諸君はこのテーマをどのように分

析するだろうか?諸君は「生涯学習学科」ですでに 2 年半「生涯学習」に関する講義を受

け,ある程度の概念を学んでいます.初めて「生涯学習」という用語を目にし,基礎概念を

持ち合わせていない学生はおそらく「生涯」と「学習」という二つの概念に分解することか

ら思考過程を開始すると思います. 「生涯学習学科」の学生諸君は「生涯学習」がさまざまな概念で構成されていることを理解

しています.「生涯学習」は「基礎概念」「法体系」「政策」「施設」「要員」「教育」その他の

概念によって構成されていることを知っています.諸君はこのように「生涯学習」という概

念が提示された場合,第1段階としてこのような概念を思い浮かべることができるはずで

す.

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2. 分析する技術

分析を支援する技術がいくつか開発されています.多くの支援システムは中心にメイン・カ

テゴリーを置き,その周囲にサブ・カテゴリーを置いていくというプロセスをふみます.こ

の作業も独りで行なうよりもチームで行なう方が効率的でしょう. 代表的なシステムで無料で使えるものとして'xmind'というものがあります.このシステム

は有料版になるとより多くの機能が使えますが「生涯学習特別研究」には無料版で十分です.

なお,このシステムには「魚の骨」「PERT」などという機能もついています.

3. 分析する能力を身につけること

この能力を身につけるための近道は授業を受け身に受けるのではなく,積極的に受けるこ

とです.それは必ずしも提示された情報を提示されたまま受け取ることを意味しません.ど

うすればよいかそのステップを示しましょう. ① 提示された情報をそのまま受け取ります ② 情報を分析し,要素に分解します ③ これまでに蓄積した情報と比較します ④ 相違があった場合には他の情報源の情報と照合します ⑤ 照合したことによってえられた知見を自分の知識に組み入れます このようにして新たな知識を増やすと同時にものごとを分析する習慣を身につけていきま

す.

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第 4 章 さまざまな要素を結びつける能力と技術

ここで検討する能力はものごとを統合する能力です.この能力は立論する能力と言い

換えることができます.この能力に先立つ能力が分析する能力です.この過程で必要なこ

とは ① 立論の目的をはっきりと意識すること ② テーマに応じて情報を取捨選択すること ③ 情報を扱う順序と機会を考えること ④ 情報の効果的利用を考えること です.

1. 立論の目的をはっきりと意識すること

諸君が情報分析を行なう目的は ① 積極的に授業を受ける場合 ② レポートなどの課題を与えられた場合 ③ 「生涯学習特別研究」を進める場合 ④ その他 などの場面で必要になります.

(1) 積極的に授業を受ける場合 授業を受ける場合,何を学んでいるのかを意識するかいないかでは学習効果が全く違

います.講義を受けるには「予習」が重要な役割を果たします.大学での講義は事前に受

講生に対しシラバスが公開されています.シラバスは講義内容の全体像,教員が受講生に

提示する情報の範囲と順序を示したものです.教員はシラバスにしたがい講義を進めま

すので次の講義内容がどのようなものであるのか十分予測可能です. 教科書がある場合には事前に該当箇所を読んでおき,関連する用語について知識を得

ておきます.この場合予習のキーポイントは,用語を確実に理解することです.用語を理

解するという行為は ① 記号列として正しく書けること ② 正しく読めること(発音できること) ③ 定義を正しく覚えること(書ける・言える) ④ 正しく使えること の少なくとも 4 つが確実にできることが含まれます.

教科書を使用しない講義ではシラバスが予習の手がかりになります.この場合は教科

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書がある場合と異なり十分な情報が得られないことがほとんどなので他の情報源を使用

することが必要となります.手がかりはシラバスに載っている参考文献です.私が学生時

代のシラバスに載っていた参考文献の中には既に絶版になっていて手に入れられないも

のがありました.現在提供されているシラバスはそういうことはないはずです. シラバスを使用して予習する場合にもキーポイントはやはり用語理解です.その方法

は教科書を使用する場合と同じです. こうして予習をしっかりすることによって講義のテーマをはっきり意識し,問題点がど

こにあるのかを理解して講義に臨みます.

(2) レポートなどの課題を与えられた場合 大学ばかりでなく社会に出てもさまざまなレポート(課題)が課せられます.大学で課題

として受講生に与えられるものの目的は ① 既習の課題の習熟の確認 ② 既習の課題であっても講義で触れることができなかった部分の自習 ③ 自由テーマ ④ 学術情報の処理能力の確認 ⑤ その他 などがあります.以上の中で出題頻度が高いのは①と②です.

大学のレポートの課題としては①と②が主たるものと述べましたが,この場合十分な

ことは ① 問題(課題)規定 ② 課題の分析 の2つです.

問題(課題)規定とは課題をどのように理解し,どのように解決するかを述べることです.

レポートのなかではこの箇所が最も重要な部分です.ここの部分ができあがればレポー

トの約 70%はできあがったといえるでしょう.採点するものにとってもこの部分がしっ

かり書けていれば,このレポートがどの程度のものであるのか推測することが可能です. 課題の分析とは問題(課題)規定に先立つ作業です.この作業は課題をどれだけ詳細に分

析することができるかにかかっています.また,分析結果を他の要素と関連付けする作業

が重要な役割を担っています.この作業もチームで行なうと一人で行なうのとは結果が

全く違います.

(3) 「生涯学習特別研究」を進める場合 「生涯学習特別研究」はレポートとは異なり諸君がこれまでに大学で学んだ知識・技術を

総動員し自ら定めたテーマについてまとめるものです.これを進めるには以下のことが

前提となります.

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① テーマの範囲が「生涯学習」に関することであること ② 指導教員の指導を受けながらテーマを自分で決めること ③ テーマをまとめるのに必要な情報を集め,評価すること ④ 集めた情報の中から必要な情報を取捨選択すること ⑤ テーマについて論文をまとめる の5つの前提が存在します.これらのことについては改めて説明します.ここで強調した

いのは,5つの前提は学生個人が指導教員の指導を受けながらも全てのことを個人とし

て行わなければならないということです.ただし最初から最後まで一人で行なうのでは

なく,指導教員と密接にコミュニケーションをとりながら研究活動を進めていきます.ま

た研究活動を進めるうえで重要な役割を果たすのが友人です.最も問題になるのは,孤立

することです.他人に相談すること,他人の指導を受けることは非常に気が重いことです

が,研究に行き詰まったり,何をしてよいかわからなくなった場合には他人からのひと言

が大きな力になることがあります.「生涯学習特別研究」を進めていくことは知識・技術

を身につけることですが,それよりも困難に陥ったとき,どうすればよいかという「生き

る力」を自覚することができます. (4) その他

レポート・研究は学生時代の専売特許ではありません.本学の多くは学部を卒業すると

社会に出ます.大学院に進学し研究職・教育職に就く学生の割合は多くありません.多く

の学生は即戦力として社会に投入されます. 1カ月,3カ月,6カ月,採用された組織によって異なりますが,初期研修を受け実戦

に投入されます.実戦に投入されるということは数値で評価できる結果を生み出すこと

を求められることです.その時に求められる力がテーマを見つけだす力です.

2. テーマに応じて要素を取捨選択すること

テーマの重要性を述べましたが,ここではテーマに応じた情報(要素)を取捨選択するこ

との重要性を説明します. テーマを決め,テーマに沿った情報を集め始めます.最初はなかなか情報が集まりませ

ん.指導教員と相談しながら,キーワードを決めデータベースを検索しますが,なかなか

思うようになりません.適切な文献は集まらないにもかかわらず時間ばかり経っていく

という状態が続きます.ここで焦ってはいけません.文献検索にも慣れが必要です.思う

ような文献が簡単に手に入るということは幸運なことです.ここではじっくりと腰を据

えて文献を探します.ここで必要なことは, ① 焦らないこと ② 定期的に文献検索を実施すること ③ 絶対に諦めないこと

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④ あまりにも検索結果が思わしくない時は,検索メディアを変える ⑤ キーワードを変える などを試みましょう.

そうこうしているうちに文献が集まり始めます.おそらくその時には執筆がある程度

進みはじめているはずです.この時に生じるのが次の問題です. ① 得られた情報を全て論文に盛り込もうとすること ② ここまで書き進めてきた内容と矛盾する情報が検索されてしまうこと の2つです.

「得られた情報を全て論文に盛り込もうとすること」は字数を稼ぐことはできますが,

論文の質を損なう恐れがあります.この際不要な情報はキッパリと諦めて残念ですが捨

て去りましょう.ただ後にその情報を使うこともありますから,書誌事項はしっかり記録

しておきましょう.ここでの要不要の見極めは,執筆の過程で得る経験によります. 「矛盾する情報が検索されてしまう」こともたびたびあることでしょう.時間に余裕が

ない時かぎってこのような状況に陥ることが多いと感じられます.しかし,ここで焦るこ

とは禁物です.どちらの情報が正しいのか可能なかぎり正確に判断します.判断基準は ① どちらの情報が最新の知見であるか判断する a 出版年(時期)を確認する b 出版年が遅くても事実の確認が古い場合もあるので注意すること ② 権威の裏付けがあるか(公表メディアは) a 単なる個人的な意見に過ぎないのではないのか b 権威ある学術雑誌に掲載されている論文か c 辞書に記載されている記事か d 専門書に記載されている記事・論文か です.以上に示した判断基準によって情報の取捨選択をします.

3. 情報を扱う順序と機会を考えること

ここでは論文をどのように構成していけばよいか,あるいは論文にどのように情報を

記載していけばよいかについて説明します.論文は普通 ① 序論 ② 本論 ③ 結論 の 3 部構成をとります.論文の多くがこのような構成をとるのは,このような構成をと

ることが他人を説得できる可能性が最も高くなることが経験的に知られていることにほ

かなりません. 序論の役割は,この研究が何を明らかにするのかということをこの論文を読む人に伝

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えます.論文を読んでもらえるか否かを判断してもらう,この論文で最も重要な部分です.

論文で最も重要な部分は結論と思っている者が多いとおもいますが,実はこの序論が最

も重要な部分なのです.ただし,序論の構成は定型的であり,それ程難しいものではあり

ません.序論を構成する内容は ① テーマ ② テーマの意義 ③ 先行研究の概要 ④ 研究方法 ⑤ 結果の予想 です.これらの内容を魅力的に提示することが序論の役割になります. 本論は序論の記述に従って粛々と事実を提示しつつ論理的に理論を構築していきます.

最も情報量の多い部分ですが,事実と意見を混同せず,理論構築さえ誤らなければ論文全

体が破綻することはありません. 結論で重要なことは序論で提示したテーマが証明されたか吟味することです.またこ

の研究で得られた結論は現在という時間な限定の下で得られた結論ですので,さらに研

究をどのように進めていくかという今後の展開についても言及します. 論文を構成する場合,上述のように 3 部構成を前提とします.全体を通して重要なこと

は,手持ちの情報をどのような順序で提示していくかということです.具体的には後述す

る予定にしていますが,ここでは情報を提示する場合にも情報の提示順序があるという

ことを覚えておいてください.

4. 情報の効果的利用を考えること

「3」では情報を提示する場合には,適切な順序があると述べました.ここでは情報そ

のものが特定の価値を有しており,それを提示するには最も効果的に使用するにこした

ことないことを示します. 情報を提示する方法としては

① 最も細分された情報から提示し,包括的な情報を提示していく方法 ② 包括的な情報から提示し,細分された情報を提示していく方法 の2つの方法があります.実際にはこの2つの方法が無意識に使われています.読み手が

全体像を把握しやすい方法として「② 包括的な情報から提示し,細分された情報を提示

していく方法」を個人的には進めます. 先に「情報そのものが特定の価値を有している」と述べましだ.読み手の関心を引きつ

けるため情報を提示する場面を十分考慮する必要があります.この技術はなかなか得ら

れるものではないのでひたすら書く,読む,再考するを繰り返す必要があります.

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第 5 章 さまざまな事項を関連付けることができる能力と技術

1. テーマの探し方

日本文化にはさまざまな「言葉遊び」の伝統があります.その 1 つに「謎掛け問答」と

いうものがあります.この形式は「○○○と掛けて△△△と解く.そのこころは□□□」

という形をとります.ここで肝要なのは,「○○○」と「△△△」の関係が一般的には無

関係と考えられているもので,□□□でその関係性が正当であることを説明する言葉遊

びです. 例えば「グウタラ亭主」と掛けて「なんと解く」,答えは「焼けた稲荷と解く」.こころ

は「お稲荷さんには鳥居がある」「お稲荷さんが焼けると鳥居も焼ける」「鳥居がない」「取

り柄がない」とくる訳です.内容は駄洒落の連続ですが,ここに研究のヒントが隠されて

いると思いませんか?この「謎掛け問答」は言葉遊びとして認識されており,学術研究で

はあまり重要視されていませんが,テーマを考える時に重要なヒントがここに隠されて

いると思います. 学術研究には

① 独創性 ② 新奇性 が求められます.しかし,独創性も新奇性も簡単には見つかりません.科学の世界で新た

な発見が連日のように報告されることはありません. ノーベル賞の科学,生物・医学分野での受賞内容を見ても,突然の大発見で受賞すると

いうことは余りないように思えます.多くの受賞は既に明らかになっている問題の解決

などが多いのではないでしょうか.このように今まで誰も気づかなかったことを研究テ

ーマとして得られることは我々にはほとんどあり得ないと考えてよいでしょう. それでは我々には何の希望もないのかというとそうではなく,現在よく知られている

テーマを ① 細分化する ② 既知の情報を組み合わせる ③ その他 の方法で無限のテーマを見いだすことが可能です.

2. 生涯学習特別研究のテーマ

生涯学習はどのような分野によって成立しているか検討してみましょう.大雑把に分

類すると ① 基本概念

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② 生涯学習の歴史 ③ 各国の教育施策 ④ 各国の教育関係法体系 ⑤ 各国の生涯学習施設 ⑥ 各国の生涯学習関係要員 ⑦ 地域 ⑧ 生涯学習のジャンル ⑨ その他 などの項目があがります.これから先の分類は研究者によって異なりますが,試みに再分

類してみましょう. 基本概念をさらに分類すると

a 教育,家庭教育,学校教育,社会教育 b 社会,原始社会,古代社会,中世社会,近世社会,近代社会,現代社会 c 知識基盤社会,消費社会,高度情報化社会,... d 生涯学習,生涯教育,... e ... などより細かい概念にわけることが可能です.テーマはこれらの概念を結びつけること

によって得られます.生涯学習特別研究のテーマの範囲は生涯学習の取り扱う範囲に限

定されていますので,複数の概念を組み合わせてテーマを設定する場合,そのなかの概念

の1つは生涯学習に関係する概念であることが必須条件になります. 生涯学習特別研究のテーマは生涯学習の範囲内との限定はありますが,1つの概念が

生涯学習に関係するものであれば他の概念はどのような分野であってもテーマとして成

立するはずです.

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第 6 章 ある対象を別の視点から見直すことができる能力と技術

1. テーマの見つけ方

日本文化のなかに「見立て」と「やつし」という2つの対象の取り扱う方法があります.

これらは日本文芸に取り入れられ大きなジャンルを形成しています.ここで2つのジ

ャンルを紹介する目的は誰も第 5 章と同じようにどうすれはテーマを見いだすことが

できるのかのヒントを提供することです. (1) 「見立て」の機能

日本文化のなかでこの「見立て」の機能はさまざまな芸術・芸能に取り入れられていま

す.「見立て」の基本的な機能は「真似る」ことです.日本舞踊では「見立て」という言

葉は使用していませんが,こうような所作は○○○を表現するという約束事があります.

この機能は日本の言語芸術,視覚芸術,身体芸術の表現上の重要な役割を担っています. 「見立て」は「真似る」ことが基本ですが単に真似るだけではなく,多くの約束事によ

って成立していることが大きな特徴となっています.いくつかの約束事を 上げると ① 日常において○○○ = △△△という関係をもっているもの同士は対象としない ② 意外性を求める ③ 洒落を求める などの特徴があります.例としては ① 「徳利」を「お地蔵さん」に見立てる ② 「定規」を「大名行列」に見立てる などがあります.

(2) 「やつし」の機能

落語などで大店の若旦那が悪い仲間に廓通いを教えられ,親から勘当されたあげくの

果てに乞食に身を「やつし」などの話があります.この場合の「やつし」は零落するなど

の意味がありますが,ここでは「やつし」を「置き換える」という意味で説明します. 多くは時間的制約を超え,現代的にある人物を表現する手段として「やつし」を使用し

ます.例えば平安時代の人物である在原業平と小野小町を江戸時代の人物として視覚芸

術(絵画)で表現しようとすると,背景を江戸の町並とし二人の人物を江戸時代の風俗を身

にまとった人物として絵描くいう方法です.在原業平と小野小町を知っていることが前

提になって初めてこの「やつし」という機能が成立します.

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2. 再定義について

「1. テーマの見つけ方」で「見立て」と「やつし」について説明しました.日本文化論

の講義目的で2つの日本における伝統的な文化機能を説明したのではありません.ここ

ではテーマの再定義について説明し,生涯学習特別研究のテーマをどのように探りだす

かのヒント受講生に与えるのが目的です. ここではテーマの再定義,再評価,再考察について検討します.既に確定したテーマ,

既に論証が終っているテーマなど決着がついているテーマがあります.しかし,決着がつ

いてから時間が経過するにつれ社会は変化していきます.そうすると決着がついたテー

マであってもその判断基準が変化してきます.すなわち,決着がついているテーマであっ

ても判断基準を変更することによって新たなテーマとしてよみがえることがあります. 学術論文には「独創性」や「新奇性」が求められると述べましたが,既に決着がついてい

るテーマであっても判断基準を変えることによって新たなテーマとして「独創性」,「新奇

性」が得られます.ここでは時間的観点からテーマを考えましたが,空間的観点からも判

断基準の変更が可能です.同一テーマであってもそのテーマを捉える視点を変えること

によって新たな「独創性」や「新奇性」が得られることを確認してください.

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第 7 章 必要に応じて情報を獲得することができる能力と技術

ここのテーマは情報検索です.必要な情報の探し方のヒントを提供します.

1. 情報を探すこと

どのような時に情報を探す必要があるのかを先ず考えます.司書養成課程の科目では

情報検索が必要な場面を前提として情報検索の方法を講義します.しかし日常生活の中

では明確な目的を持って情報検索を行うことは余りありません.我々にとって一番好ま

しいのは何の努力もぜずに情報が飛び込んで来ることです.そのような機会として公共

放送,新聞,雑誌,会話などがあります.

公共放送,新聞,雑誌,会話などで目にする,耳にする情報の多くは直ぐに意識の外に

出てしまい忘れてしまいます.ところが,ある程度の意識を持っていると多量の情報を得

る機会となります.常日頃あるテーマについて考えていると突然それに関する情報が飛

び込んで来るようになります.テーマの獲得も同じようなことがあります.このことを科

学の世界ではセレンディピティといっています.先ず必要なことは目的を持ってそのこ

とについて考えることが必要です.

2. 多様なメディアを使用する

情報を探すにはメディアが必要です.「情報検索 = データベース」の関係が情報検索の

王道ではありません.既に述べましたが公共放送,新聞,雑誌,会話などもメディアです.

ここではそれぞれのメディアの使い方を紹介します.

(1) メディアの種類

メディアは大きく分類してアナログ・メディアとデジタル・メディアの2つに分かれ

ます.現在ディジタル・メディアの存在が大きく情報検索というと「情報検索 = デー

タベース」と思われています.しかしアナログ・メディアの存在は大きくけっして無視

できません.

アナログ・メディアには以下のようなものがあります.

① 教科書

② 専門書

③ 参考図書

④ 学術雑誌

などが代表的なものです.

(2) 教科書の使い方

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通常教科書は初学者のために編集されています.内容としては

① 範囲の規定

② 分野の概要

③ 研究の現状

④ 用語の定義

⑤ 参考文献

を提供しています.

一部の受講生は教科書を買うことに意義を見いだしているものもいますが,ほとん

どの受講生は教科書を少なくとも一度は通読しているはずです.一度通読すれば教科

書が提供する情報は理解できるはずとよくいわれます.本当でしょうか.わたしなどは

何度も読み直しても全体を理解することはかなり難しく感じることが多いです.ただ,

教科書の構造がわかると理解する速度が格段に上がります.

教科書のなかで受講生の注意を最も引かない部分が「参考文献」と思います.ところ

が知識の広がりを考えると最も重要な部分がこの「参考文献」なのです.参考文献は教

科書を成立させている情報源であり,少なくとも教科書よりもオリジナルの情報を提

供しているはずです.ただし時間的観点から見ると情報を過去に遡ってみることにな

ります.研究上かならず検討する必要のある情報が参考文献です.

(3) 専門書の使い方

一般的に「専門書」とは学会,その分野の第一人者などの権威による最新の研究成果

をまとめたもので,非常に権威のある著述とされています.その内容は専門的著述に引

用されたりします.専門書で最も重要な情報源は「参考文献」です.専門書で引用され

る文献はその時点で評価が定まったものです.内容は過去のものですが今後さまざま

な文献に引用されていく可能性が高い文献です.

(4) 参考図書

近代になり学術情報の生産量が激増してくると自分の研究領域における文献の全て

に目を通すことが不可能になってしまいました.そのために自分の研究に必要な文献

を探すための手段として参考図書が作られるようになりました.もっとも参考図書は

近代になってから生まれたものでなく,既に西欧中世にその萌芽がみられます.

ただし西欧中世の参考図書の役割は多量の文献を読みこなすものではなく,原典参

照の手間を省くのがその主たる目的といわれています.現在の参考図書の役割は西欧

中世の参考図書と同じ面もありますが,多量の文献を読むことが目的です.

参考図書が提供する機能は

① 分類

② 索引

の2つです.

分類が提供する情報は,その概念がその分野のどこに位置するかという空間情報とそ

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の概念の上位下位概念,包含関係,原因・結果関係などの情報が与えられます.このよ

うな概念をたどってそれに関する文献を知ることができます.

索引が提供する機能は「記号列 : 記号列」の関係です.必要とする文献を記号列で表

現し,それと一致する記号列を持っている文献を探す機能を提供しています.現在

Web 上で最も使われている検索エンジンである Google が提供している機能はこの

機能です.

(5) 学術雑誌

おそらく学部段階の受講生にとり馴染みのないメディアの1つが学術雑誌と思いま

す.生涯学習関係でも多数の学術雑誌が刊行されています.受講生一人一人が興味のあ

る分野の学術雑誌を定期的に読むならばその分野に関わる最新の情報を蓄積すること

ができます.

逆に現在どのようなことが話題になっているかを知りたいならば,その分野の学術

雑誌を数年にわたり遡ってみることもできます.生涯学習特別研究のテーマを探す時

の重要な手段の1つです.

第 8 章 獲得した情報を記録し引き出すことができる技術

ここで扱うことは一般的な情報管理,個人・協働学習における情報管理についてのヒントで

す.

1. 情報管理の原則 情報の管理方法は 1 人で情報を使う場合と複数の関係者が1つの情報源を使う場合と

では取り扱いが全く異なります.1 人で情報源を使う場合は特別なルールありません.自

分が最も使いやすい方法をとればよいのです.ある方法を身につけていればそれはそれ

で結構です.しかし,なにかをする度に異なった方法をとっていると情報の再利用ができ

なくなってしまいます.

個人的な経験ですが,文献を管理する時 NDC の分類体系に不満があり,独自に分類

表を再区分したことがありました.それを記録し運用すると,それだけに時間を取られ本

来の目的が果たせない状況に陥ってしまい,結局 NDC に戻らざるを得なかったことが

ありました.受講生諸君の中には NDC に習熟していない者もいるでしょうから NDC

を使うという選択肢は一概にはお勧めできませんが,なんらかの典拠を利用することを

お勧めします.

複数の関係者が1つの情報源を使う協働学習・研究の場合は状況が全く異なります.事

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項の分類方法,用語の文字列,情報の記述方法などについて最低限のルールを決める必要

があります.日本ではこのようなリテラシーについて統一された技術教育が行われてい

ないため,情報を記録し,利用することについて多大な努力が必要とされているのは本当

に残念なことです.

2. 情報管理の提案 事前に情報管理をしっかりしておくと論文執筆は非常に楽になります.しかし事前に

情報管理をしっかり行うことは精神的に難しいことと思います.論文執筆の方が重要で,

情報管理は 2 次的な作業と思いがちです.しかし論文執筆中に同一の情報を使おうとし

た時,その情報源を探すことを幾度も繰り返した経験があります.その時の状況は今でも

はっきりと覚えています.

(1) 情報管理の時期のヒント

事前に全ての必要情報を記録することは不可能とはいえないものの,かなり難しいこ

とと思います.そこで論文執筆中に必要になり引用した文献について最低限の情報を記

録することをお勧めします.

記録する方法は改めて提案しますが,文献を利用した時にその記録をつけることを提

案します.そうすれば後でその情報を使用する時に迅速にその情報にアクセスすること

ができるはずです.

論文執筆に使用した情報は引用・参考文献として所定の場所に所定の形式で記述する

必要があります.引用文献を使用する都度記録をとっておけば引用・参考文献のリストを

作成する際非常に手間が省けます.

(2) 情報管理の方法のヒント

「(1) 情報管理の時期のヒント」で情報管理を実施するタイミングのヒントを提案しまし

たが,ここでは記録の形式のヒントを提案します.記録の形式は

① 入力情報量が少ないこと

② 入力項目でソートできること

③ 分類が簡単にできること

④ さまざまな表示形式を選択できること

⑤ 重複した入力情報を検出しやすいこと

⑥ フォーマットを比較的自由に変更できること

などの機能を持っているメディアが好ましく思います.

そこでヒントとして提案できるメディアの1つが Microsoft Office の Excel です.

これでなければならないという訳ではなく,手に入れやすいメディアの中で情報管理を

するための必要機能をもつメディアでは Excel に代表される表計算ソフトが使いやす

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いと思います.

表計算ソフトを使う原則は,1行を1つの情報の単位として取り扱い,列を情報を構成

する項目として取り扱うことです.この原則を守れば自分にとって使いこごちのよい形

式のフォーマットを設計することができます.項目の例は改めて提案しますが,なるべく

簡単にした方が継続して使うことができます.

それでは以下にフォーマットを提案します.

№ 件名 説明 01 説明 02 出典 注記 1 2 3 4 5 6 7 8

図 1: レコード・フォーマット 1. フォーマットの説明

列(横)に項目を設定し,行(縦)1行を1レコードとします. 項目数は,集める情報によって異なって来ますが,最低限必要な項目は, ① 項目№

② 件名(名称)

③ 説明

④ 出典

最も重要なのは,「④ 出典」です.ただし,データを入力する際は出典を入力す

ることが大変煩わしく感じられ,手を抜きがちです.しかし,いざ執筆が始まると文

章中の引用文献を一つ一つ探すのは大変な手間で,その時に初めて「出典」を明記し

てあることに感謝することになります. このフォーマットでは,「説明」は2項目設けてありますが,1つでも大丈夫でし

ょう.データベースを作る時,初めから完璧なフォーマットを設計しても使っていく

うちに変形していきます.まず,なによりも重要なことはデータを入力し始めること

です. excel で作成したデータベースは,項目の値によってソートできます.また,記号

列による検索も可能です.一旦できあがったデータベースは,データを更新すること

によって常に使える状態を保つことができます.しかし,継続して作業を続けること

は大変な労力を必要とすることを付言します.