1. 業務概要 - maff.go.jp · Lambe-whitman 式...

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1 1. 業務概要 1. 1 業務の目的 大規模かつ複雑なすべり面を有する地すべり,地震によって発生した地すべり,融雪によって発生 する地すべりなど,通常の治山対策では対応が難しい現象に対する新たな治山・地すべり対策計画手 法について検討する。 1. 2 業務概要 各種条件の異なる地すべりにおいて三次元安定解析式の適正,パラメータの設定方法,従来の二次 元安定解析を用いた場合と三次元安定解析を用いた場合の対策工効果の違い等について検証を行い, 純粋な三次元安定解析を地すべり事業に採用する際の条件について検討することを目的としている。 以下に全体的な業務フローを示す。 1.1 全体的な業務フロー H23 H24 H25 H26 第1回 委員会 三次元安定解析を用いた対策工の計画手法の適用条件検討 三次元安定解析を用いた地すべり対策工の計画・設計手法検討 三次元安定解析式の適正検証 各種パラメータに対する三次元安定解析の有効性の検証 地すべり土塊の形状変化を考慮した抑止工の設計手法の検討 第2回 委員会

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1. 業務概要

1. 1 業務の目的 大規模かつ複雑なすべり面を有する地すべり,地震によって発生した地すべり,融雪によって発生

する地すべりなど,通常の治山対策では対応が難しい現象に対する新たな治山・地すべり対策計画手

法について検討する。

1. 2 業務概要 各種条件の異なる地すべりにおいて三次元安定解析式の適正,パラメータの設定方法,従来の二次

元安定解析を用いた場合と三次元安定解析を用いた場合の対策工効果の違い等について検証を行い,

純粋な三次元安定解析を地すべり事業に採用する際の条件について検討することを目的としている。

以下に全体的な業務フローを示す。

図 1.1 全体的な業務フロー

H23

H24

H25

H26

第1回 委員会

三次元安定解析を用いた対策工の計画手法の適用条件検討

三次元安定解析を用いた地すべり対策工の計画・設計手法検討

三次元安定解析式の適正検証

各種パラメータに対する三次元安定解析の有効性の検証

地すべり土塊の形状変化を考慮した抑止工の設計手法の検討

第2回 委員会

2

2. 三次元安定解析式の適正検証(H23)

三次元安定解析について,既往文献や調査・研究事例を収集・分析し,一般的に用いられている複

数の安定解析手法を選定し検証対象とした。選定した安定解析式は以下の通り。

<適性検証に用いた三次元安定解析式>

①Hovland 式(土研式,吉松式),②Lambe-whitman の近似三次元安定解析,③三次元簡易ヤンブ

式(鵜飼の式),④剛体バネモデル(RBSM)を用いた三次元安定解析式

これらの三次元安定解析式について,仮想の解析モデルを用いた感度分析と地すべり事例への適用

による検証を行った。

2. 1 三次元安定解析式の概要

図 2.1 実用的に用いられている安定解析式の体系

表 2.1 主な三次元安定解析式の概要

すべり面形 安定解析式 概要

円弧 Hovland 式

1977 年に発表された安定解析式で,三次元安定解析の中で最も

古い。Fellenius 式の最終型の式をそのまま三次元に拡張した式

であるため,Fellenius 式の大きな計算誤差や有効土圧が負とな

る問題などをそのまま継承している。日本では吉松式と土研式が

使われており,吉松式は元々の Hovland 式のカラム形状を三角形

に変え,最小安全率の方向を自動算出するようにした式で,土研

式は Hovland 式の分子項及び分母項の加算においてベクトルの

加算法則を採用した式である。 ただし,通常のスプーン型のすべり面を有する円弧すべりに適用

しても力の加算法則に違反する。円筒状すべりに適用した時のみ

力の加算法則が守られる。

非円弧

Lambe-whitman式

複数の縦断面の二次元安全率と断面積から断面積で重み付けした

安全率を算出し,近似的な三次元安全率を算出する方法。通常は

二次元の簡易 Janbu 式と組み合わせて利用される。平成に入って

から地すべり事業で利用されるようになり,採用実績は多い。

三次元簡易

Janbu 式

鵜飼が 1987 年に提案した安定解析式。現在提案されている極限

平衡法の三次元安定解析の中で最も実用的で理論面の整合性がと

れた安定解析式である。

RBSM

土塊を剛体の集合体と見なしてコラム間の力の釣り合いを3軸方

向のバネの力の釣り合いで解析する方法。本来の極限平衡法では

ないが,微少変形を考慮する極限平衡法的な安全率を算出するこ

とが可能である。コラム間の力の釣り合い条件を完全に満足する

という意味ではより厳密な三次元安全率が算出可能である。

三次元安定解析 円弧すべり対応

非円弧すべり対応

三次元簡易 Janbu 式

Hovland 式

RBSM

Lambe-whitman 式

3

2. 2 三次元安定解析式の適性検証に用いた仮想モデル 3 次元形状を有する地すべりに適用する安定解析式の適正に影響を与える主な要因として以下の3

つが考えられる。

表 2.2 安定解析式の適正に影響を与える主な要因

要因 概要

すべり面の縦断面形

・すべり面の縦断面形が円弧であるか非円弧であるかによって適用可能な

2 次元安定解析式が変わるように,すべり面の縦断面形は安定解析上重

要。 ・非円弧すべりの中でも典型的な椅子形や舟底型のすべり面を有する岩盤

すべりと滑らかな曲線状のすべり面形を有する崩積土すべりを想定して

仮想モデルを作成。

すべり面の横断面形

・左右非対称のすべり面形の地すべりは2次元安定解析式での評価が困難

な地すべりの代表例としてあげられることが多い。 ・そこで,近似三次元安定解析も含めて,左右非対称の影響を調べるため

の仮想モデルを作成。

移動体の幅W/深さD比

・幅 W/深さ D 比が小さくなると 3 次元のすべり面全体の中で側壁部分

の占める割合が大きくなり,2 次元安定解析の結果と3次元安定解析結果

の差がより大きくなるということが一般的に言われている。 ・理論的には中央断面での縦断形状は同じでも幅 W/深さ D 比が小さく

なると 3 次元安全率は徐々に大きくなる。 ・その影響を調べるための仮想モデルを作成。

これらの形状の違いの影響を調べるため,以下のような仮想の解析モデルを作成した。

また,地すべり規模と安定解析式の適正を評価するための仮想の解析モデルとした大規模モデルと

小規模モデルを作成した。

表 2.3 仮想モデルの種類と大きさ(長さ L,幅 D,深 D)の関係

区分

(横断面形状)

W/D=10

(L,W,D)(m)

W/D=5

(L,W,D)(m)

W/D=2.5

(L,W,D)(m)

W/D=1.25

(L,W,D)(m)

崩積土すべり (左右対称)

モデル 100 (300,400,40)

モデル 101 (300,200,40)

モデル 102 (300,100,40)

モデル 103 (300,50,40)

岩盤すべり (左右対称)

モデル 200 (300,400,40)

モデル 201 (300,200,40)

モデル 202 (300,100,40)

モデル 203 (300,50,40)

崩積土すべり (左右非対称)

モデル 300 (300,400,40)

モデル 301 (300,200,40)

モデル 302 (300,100,40)

モデル 303 (300,50,40)

表 2.4 規模に関する適正検証用の仮想モデルの種類と大きさ(長さ L,幅 D,深 D)

区分

(横断面形状)

大規模モデル

(L,W,D)(m)

小規模モデル

(L,W,D)(m)

崩積土すべり (左右対称)

モデル 401 (800,500,50)

モデル 701 (100,80,16)

岩盤すべり (左右対称)

モデル 501 (800,500,50)

モデル 801 (100,80,16)

崩積土すべり (左右非対称)

モデル 601 (800,500,50)

モデル 901 (100,80,16)

4

2. 3 三次元安定解析式の適性検証に用いた地すべり事例 地下水位の変化に伴う安全率の変化と動態観測結果との整合性などを評価し,安定解析式の適性を

評価するために,すべり面形状や幅 W/深さ D 比が異なる地すべり事例を3地区選定した。

表 2.5 地すべり事例概要

地すべり事例 場所 地すべり

タイプ L W D W/D 比

小北川地すべり 高知 破砕帯 地すべり

360m 260m 18m 14.4 大規模で,幅広の地すべり

中の町地すべり 山形 第三紀層 地すべり

220m 100m 35m 2.8 中規模で,幅の狭い地すべり

藤沼地すべり 山形 第三紀層 地すべり

120m 40m 10m 4.0 小規模な地すべり

5

2. 4 地すべりの三次元形状に応じた三次元安定解析式の適性検証 (1)仮想の解析モデルによる検証

<仮想の解析モデルによる三次元形状の影響に関するまとめ>

・W/D 比が小さくなると安全率が上昇するのは三次元効果の一つである側壁効果の影響である。

・W/D 比が小さくなると二次元安定解析や近似三次元安定解析と三次元安定解析の安全率差が大きい。

・左右非対称のモデルでも二次元安定解析や近似三次元安定解析と三次元安定解析の安全率差が大きい。

・崩積土すべりモデル,岩盤すべりモデル,崩積土すべり(非対称)モデルにおける三次元形状の影響は,崩積

土すべり系のモデルでは Hovland 土研式と三次元簡易 Janbu の側壁効果,RBSM で大きい。Hovland 吉松式

は側壁効果が比較的小さい。RBSM は崩積土モデルと岩盤すべりモデルで側壁効果が大きくなったが,崩積土す

べり(非対称)モデルでは側壁効果があまり大きく現れない。三次元簡易 Janbu 式は他の安定解析式に比べて

相対的に側壁効果が大きい傾向がある。

・Hovland 系の側壁効果が大きくなったのは,純粋に三次元形状の影響を調べるために,地下水位をゼロとして

与えた影響が大きいと考えられる。また,粘着力cの大きさが Hovland 系の側壁効果に影響している可能性が

ある。RBSM は側壁効果が大きくでる傾向である。

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0 2 4 6 8 10 12

幅W/深さD比

安全

率変

化 ⊿

F

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

1.6

1.7

0 2 4 6 8 10 12

幅W/深さD比

安全

率変

化⊿

F

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 2 4 6 8 10 12

幅W/深さD比

安全

率変

化⊿

F

図 2.2 崩積土すべり(左右対称)モデル (100~103)での安全率変化

図 2.3 岩盤すべり(左右対称)モデル (200~203)での安全率の変化

図 2.4 崩積土すべり(左右非対称)モデル (300~303)の安全率の変化

γ=18.0(kN/m3),c’=20.0(kN/m2),φ’=15.0(°)

γ=18.0(kN/m3),c’=20.0(kN/m2),φ’=15.0(°)

γ=18.0(kN/m3),c’=20.0(kN/m2),φ’=15.0(°)

6

(2)地すべり事例による検証

(i)小北川地すべり

土質定数の設定(小北川,H11 臨界水位)

(ii)中の町地すべり

土質定数の設定(中の町,H16 融雪時水位)

(iii)藤沼地すべり

土質定数の設定(藤沼,H12 臨界水位)

図 2.5 安全率の経年変化

0.95

1

1.05

1.1

1.15

H11 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22

安全

率F

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

年間

移動

量 (

mm

)

図 2.6 安全率の経年変化

0.9

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

CWL H16HWL H19HWL H20HWL H21HWL H22HWL

年度

安全

図 2.7 安全率の経年変化

0.95

1

1.05

1.1

H12CWL H13HWL H14HWL H15HWL H16HWL

年度

安全

<地すべり事例における安全率の経年変化と安定解析式の適性まとめ>

・安全率と年間の変動状況の関係はどの事例においても安定解析式の種類に関係なく調和的である。

・安全率は安定解析式によって大きく異なる。

・ただし,この結果のみでどの安定解析式による値が適切かの判断はできない。

平成 17 年に最も活発な地すべり変動が観測されている

が,その後,地すべり活動としては収束

※平成 20 年度以降は変動なし

※平成 14 年度以降は変動なし

Hovland 土研式

Hovland 吉松式

三次元簡易Janbu

RBSM

二次元(主断面)(簡易Janbu)

近似三次元(簡易Janbu)

Fellenius式

Hovland 土研式

Hovland吉松式

三次元 簡易Janbu

RBSM

二次元簡易Janbu

近似三次元(簡易Janbu)

二次元Fellenius

S-3年間移動量(mm)

Hovland 土研式

Hovland 吉松式

三次元簡易Janbu

RBSM

二次元(簡易Janbu)

近似三次元(簡易Janbu)

二次元(Fellenius)

7

2. 5 カラムサイズの影響評価 右に示すようなカラムサイズによる安全率への影響を調べた結果を示す。

(1)仮想の解析モデルによる検証

崩積土すべり(左右対称) 岩盤すべり(左右対称) 崩積土すべり(左右非対称)

小 規 模 地 す べ り

γ=18.0(kN/m3),c’=36.0(kN/m2),φ’= 15.0(°)

γ=18.0(kN/m3),c’=8.0(kN/m2),φ’ =6.0(°)

γ=18.0(kN/m3),c’=36.0(kN/m2),φ’ = 15.0(°)

中 規 模 地 す べ り

γ = 18.0(kN/m3) c’ = 57.87(kN/m2) φ’ = 10.0(°)

γ = 18.0(kN/m3) c’ = 20.0(kN/m2) φ’ = 5.0(°)

γ = 18.0(kN/m3) c’ = 34.0(kN/m2) φ’ = 10.0(°)

大 規 模 地 す べ り

γ=18.0(kN/m3),c’=51.0(kN/m2),φ’ = 15.0(°)

γ=18.0(kN/m3),c’=15.0(kN/m2),φ’ = 3.0(°)

γ=18.0(kN/m3),c’=51.0(kN/m2),φ’= 15.0(°)

表 2.6 モデル毎の最適カラムサイズの境界値

-0.37-0.36-0.35-0.34-0.33-0.32-0.31-0.3

-0.29-0.28-0.27-0.26-0.25-0.24-0.23-0.22-0.21-0.2

-0.19-0.18-0.17-0.16-0.15-0.14-0.13-0.12-0.11-0.1

-0.09-0.08-0.07-0.06-0.05-0.04-0.03-0.02-0.01

00.010.020.030.040.05

0 5 10 15 20 25

カラムサイズ(m)

安全

率変

化⊿

F

<仮想の解析モデルによるカラムサイズの影響評価に関するまとめ>

・各種解析モデルを用いたカラムサイズの影響ではどのモデルにおいても三次元簡易 Janbu 式を用いた場合の

安全率変化が小さくなる傾向になり,RBSM や Hovland 系のような特異な安全率変化は全く示さない。この意

味では三次元簡易 Janbu 式がカラムサイズに関して最も安定的で,カラムサイズによる安全率誤差が最も少な

いといえる。

・逆に,RBSM はカラムサイズの違いによる安全率誤差が大きい。

・また,Hovland 系はカラムサイズの変化に対して単調変化を示さないケースがありカラムサイズによる安全率

変化が不安定である。

以下に各モデルの最適なカラムサイズの閾値を一覧表でしめす。中規模以上のモデルではカラムサイズは地す

べり幅の 20 分の 1 以下であれば良いという結果となり,小規模すべりでは 32 分の 1~64 分の 1 以下が適する

という結果となった。

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0 6.25 12.5 18.75 25 31.25 37.5 43.75 50 56.25

カラムサイズ

安全

率変

化⊿

F

-0.4

-0.35

-0.3

-0.25

-0.2

-0.15

-0.1

-0.05

0

0.05

0 6.25 12.5 18.75 25 31.25 37.5 43.75 50 56.25

カラムサイズ

安全

率変

化⊿

F

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0 6.25 12.5 18.75 25 31.25 37.5 43.75 50 56.25

カラムサイズ

安全

率変

化⊿

F

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0.08

0.09

0.1

0 5 10 15 20 25

カラムサイズ(m)

安全

率変

化⊿

F

-0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0.08

0.09

0.1

0 5 10 15 20 25

カラムサイズ(m)

安全

率変

化⊿

F

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

RBSM

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0 0.625 1.25 1.875 2.5 3.125 3.75 4.375 5 5.625

カラムサイズ

安全

率変

化⊿

F

-0.25

-0.2

-0.15

-0.1

-0.05

0

0.05

0 0.625 1.25 1.875 2.5 3.125 3.75 4.375 5 5.625

カラムサイズ

安全

率変

化⊿

F

-0.05

-0.04

-0.03

-0.02

-0.01

0

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0.08

0.09

0.1

0 0.625 1.25 1.875 2.5 3.125 3.75 4.375 5 5.625

カラムサイズ

安全

率変

化⊿

F

8

モデル 地すべり幅

適する最大の

カラムサイズ 比率

小規模

701(崩積土すべり) 80 2.5 32

801(岩盤すべり) 80 2.5 32

901(左右非対称) 80 1.25 64

中規模

101(崩積土すべり) 200 10 20

201 岩盤すべり 200 10 20

301(左右非対称) 200 10 20

大規模

401(崩積土すべり) 500 25 20

501 岩盤すべり 500 25 20

601(左右非対称) 500 25 20

(2)地すべり事例による検証

<地すべり事例によるカラムサイズの影響評価に関するまとめ>

・三次元簡易 Janbu 式が最もカラムサイズの影響を受けにくい。

・RBSM はカラムサイズの影響を大きく受けて,安全率の算出誤

差が大きくなる。

図 2.8 カラムサイズによる安全率変化

(小北川,平成 11 年度)

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0 2 4 6 8 10 12

カラムサイズ (m)

安全

率変

化⊿

F

図 2.9 カラムサイズによる安全率変化

(中の町,CWL)

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0 1 2 3 4 5 6

カラムサイズ (m)

安全

率変

化⊿

F

図 2.10 カラムサイズによる安全率変化

(藤沼,H12CWL)

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

0.16

0.18

0.2

0 5 10 15 20 25

カラムサイズ (m)

安全

率変

化⊿

F

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

RBSM

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

RBSM

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

RBSM

γ=18.0(kN/m3), c’=12.8(kN/m2), φ’=25.6(°)

9

2. 6 カラム形状の影響評価 右に示すようなカラムの形状による安全率への影響

を調べた結果を示す。

(1)仮想の解析モデルによる検証

(i)崩積土すべり(左右対称)モデル:γ=18.0(kN/m3),c’=20.0(kN/m2),φ’=15.0(°)

(ii)岩盤すべり(左右対称)モデル:γ=18.0(kN/m3),c’=20.0(kN/m2),φ’=5.0(°)

(iii)崩積土すべり(左右非対称)モデル:γ=18.0(kN/m3),c’=20.0(kN/m2),φ’=15.0(°)

(a)A タイプ (b)B タイプ (c)C タイプ

(d)D タイプ (e)E タイプ (f)F タイプ :移動体中心

(a) モデル 100(W/D=10) (b)モデル 101(W/D=5) (c)モデル 102(W/D=2.5) (d)モデル 103(W/D=1.25)

図 2.11 カラム形状による安全率変化

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1.45

1.5

1.55

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1.45

1.5

1.55

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1.45

1.5

1.55

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1.45

1.5

1.55

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

(a) モデル 200(W/D=10) (b)モデル 201(W/D=5) (c)モデル 202(W/D=2.5) (d)モデル 203(W/D=1.25)

図 2.12 カラム形状による安全率変化(岩盤すべり)

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1.45

1.5

1.55

1.6

1.65

1.7

1.75

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1.45

1.5

1.55

1.6

1.65

1.7

1.75

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1.45

1.5

1.55

1.6

1.65

1.7

1.75

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

0.95

1

1.05

1.1

1.15

1.2

1.25

1.3

1.35

1.4

1.45

1.5

1.55

1.6

1.65

1.7

1.75

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式Hovland吉松式三次元簡易Janbu式

(a) モデル 300(W/D=10) (b)モデル 301(W/D=5) (c)モデル 302(W/D=2.5) (d)モデル 303(W/D=1.25)

図 2.13 カラム形状による安全率変化(崩積土すべり(非対称))

11.051.1

1.151.2

1.251.3

1.351.4

1.451.5

1.551.6

1.651.7

1.751.8

1.851.9

1.952

A B C D E

モデル形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

11.051.1

1.151.2

1.251.3

1.351.4

1.451.5

1.551.6

1.651.7

1.751.8

1.851.9

1.952

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式Hovland吉松式三次元簡易Janbu式

11.051.1

1.151.2

1.251.3

1.351.4

1.451.5

1.551.6

1.651.7

1.751.8

1.851.9

1.952

A B C D E

カラム形状

安全

Hovland土研式Hovland吉松式三次元簡易Janbu式

11.051.1

1.151.2

1.251.3

1.351.4

1.451.5

1.551.6

1.651.7

1.751.8

1.851.9

1.952

A B C D E

モデル形状

安全

Hovland土研式

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu式

10

(2)地すべり事例による検証

<仮想の解析モデルによるカラム形状の影響評価に関するまとめ>

いずれのモデルにおいてもカラム形状の違いによる安全率変化は少ないことが分かった。その意味では,実際

に解析に用いるカラム形状については大きく意識する必要はないことがわかった。

カラム形状とは無関係であるが,W/D 比の変化に伴う側壁効果については三次元簡易 Janbu 式が最も大きく

現れていた。

<地すべり事例によるカラム形状の影響評価に関するまとめ>

・どの事例でもカラム形状による安全率変化は小さい。

・カラム形状 C(四角形)の場合でもカラムサイズを小さくす

ることで安全率変化を小さくできる。

図 2.15 カラム形状による安全率変化

(小北川,H11)

0.95

0.96

0.97

0.98

0.99

1

1.01

1.02

1.03

1.04

1.05

1.06

1.07

1.08

1.09

1.1

A/ B\ C□ D× E

カラム形状

安全

図 2.16 カラム形状による安全率変化

(中の町,⊿W=5m)

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.1

1.2

A/ B\ C□ D× E

カラム形状

安全

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.1

1.2

A/ B\ C□ D× E

カラム形状

安全

図 2.17 カラム形状による安全率変化

(中の町,⊿W=1.25m)

0.95

0.96

0.97

0.98

0.99

1

1.01

1.02

1.03

1.04

1.05

1.06

1.07

1.08

1.09

1.1

A/ B\ C□ D× E

カラム形状

安全

図 2.19 カラム形状による安全率変化

(藤沼,⊿W=2.5m)

0.95

0.96

0.97

0.98

0.99

1

1.01

1.02

1.03

1.04

1.05

1.06

1.07

1.08

1.09

1.1

A/ B\ C□ D× E

カラム形状

安全

図 2.18 カラム形状による安全率変化

(藤沼,⊿W=0.625m)

Hovland 土研式

Hovland 吉松式

三次元簡易Janbu

Hovland 土研式

Hovland 吉松式

三次元簡易Janbu

Hovland 土研式

Hovland 吉松式

三次元簡易Janbu

Hovland 土研式

Hovland 吉松式

三次元簡易Janbu

Hovland 土研式

Hovland 吉松式

三次元簡易Janbu

γ=18.0(kN/m3),c’=13(kN/m2),φ’=25.6(°)

γ=18.0(kN/m3) c’=7.0(kN/m2) φ’= 4.955(゜)

11

2. 7 地層毎の土質パラメータの設定方法による検証 三次元安定解析式を導入するメリットの1つとして側面(側壁)と底面,滑落崖位置など箇所によ

る強度の違いを反映させることができることが上げられる。土質パラメータの設定方法によって安全

率がどのように変化するかを地すべり事例に適用して検証する。すべり面形状や幅 W/深さ D 比が

異なる地すべり事例を3地区選定し,地下水位の変化に伴う安全率の変化と動態観測結果との整合性

などを評価し,土質パラメータの設定方法の適性を評価する。

(1)小北川地すべり

<検討した土質パラメータ設定ケース>

ケース1:主すべり面のせん断強度パラメータを全面に与えた場合

(2)藤沼地すべり

<検討した土質パラメータ設定ケース>

ケース1:主すべり面のせん断強度パラメータを全面に与えた場合

ケース2:主すべり面と左側側壁部のせん断強度パラメータを与えた場合

ケース3:主すべり面と左側側壁部と右側壁のせん断強度パラメータを与えた場合

移動

状況 臨界 移動

移動 なし

移動 なし

移動 なし

図 2.21 地層別土質パラメータ設定での安全率変

0.94

0.95

0.96

0.97

0.98

0.99

1

1.01

1.02

1.03

1.04

1.05

1.06

1.07

1.08

1.09

1.1

1.11

1.12

1.13

1.14

1.15

1.16

1.17

1.18

1.19

1.2

H11 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22

安全

率F

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

年間

変動

量m

m S-1年間移動量(mm)

Hovland土研式

RBSM

Hovland吉松式

三次元簡易Janbu

図 2.20 地層別土質パラメータ設定での安全率変化

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.1

1.2

H12CWL H13HWL H14HWL H15HWL H16HWL

安全

率 F

(1)Hovland土研式

(1)Hovland吉松式

(1)三次元簡易Janbu

(1)RBSM

(2)Hovland土研式

(2)Hovland吉松式

(2)三次元簡易Janbu

(2)RBSM

(3)Hovland土研式

(3)Hovland吉松式

(3)三次元簡易Janbu

(3)RBSM

※安定解析式名の前

の数字がケース番号

12

(3)中の町地すべり

<検討した土質パラメータ設定ケース>

ケース 1:主すべり面のせん断強度パラメータを全面に与えた場合(CWL で c’を逆算)

ケース 2:主すべり面と側壁部のせん断強度パラメータを与えた場合(c’≠0)

ケース 3:主すべり面と側壁部のせん断強度パラメータを与えた場合(c’=0)

ケース 4:主すべり面と側壁部,頭部のせん断強度パラメータを与えた場合(c’≠0)

ケース 5:主すべり面と側壁部,頭部のせん断強度パラメータを与えた場合(c’=0)

ケース 6:主すべり面と側壁部,頭部,末端部のせん断強度パラメータを与えた場合(c’≠0)

ケース 7:主すべり面と側壁部,頭部,末端部のせん断強度パラメータを与えた場合(c’=0)

移動 状況

臨界 移動 移動 移動 なし

移動

なし

移動 なし

移動 状況

臨界 移動 移動 移動 なし

移動

なし

移動 なし

<土質パラメータの設定方法に関するまとめ>

地層別の土質試験値をそのまま採用する場合

は,三次元簡易 Janbu 式の場合が最も地すべり

の活動状況との調和が良い結果となった。小北川

地すべりのようにすべてのすべり面位置でほぼ

同様の地質であると考えられる場合は,同一の土

質パラメータを土質試験値から採用しても良い

結果が得られている。土質強度の異なる地すべり

値では地質毎の土質試験値を採用することで,三

次元安全率と地すべり活動状況が調和的となる

ことが確認された。

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.1

1.2

CWL H16HWL H19HWL H20HWL H21HWL H22HWL

安全

率 F

図 2.22 地層別土質パラメータ設定での安全率変化(中

の町地すべり)(1)

図 2.23 地層別土質パラメータ設定での安全率変化

(中の町地すべり)(2)

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

1.1

1.2

CWL H16HWL H19HWL H20HWL H21HWL H22HWL

安全

率 F

(4)Hovland土研式

(4)Hovland吉松式

(4)三次元簡易Janbu

(4)RBSM

(5)Hovland土研式

(5)Hovland吉松式

(5)三次元簡易Janbu

(5)RBSM

(6)Hovland土研式

(6)Hovland吉松式

(6)三次元簡易Janbu

(6)RBSM

(7)Hovland土研式

(7)Hovland吉松式

(7)三次元簡易Janbu

(7)RBSM

(1)Hovland土研式

(1)Hovland吉松式

(1)三次元簡易Janbu

(1)RBSM

(2)Hovland土研式

(2)Hovland吉松式

(2)三次元簡易Janbu

(2)RBSM

(3)Hovland土研式

(3)Hovland吉松式

(3)三次元簡易Janbu

(3)RBSM

※安定解析式名の前

の数字がケース番号

13

2. 8 各種三次元安定解析式の適正のまとめ 仮想の解析モデルと地すべり事例を用いて各種三次元安定解析の適正について検証した結果を以下

にまとめる。

表 2.7 三次元安定解析式の検証結果のまとめ

検証方法 検証方法の 検証結果

三次元形状に応じた適

正評価 仮想モデルでの検証

・安定解析式による特に悪い点はないが,三次元

簡易 Janbu 式や RBSM は側壁効果が大きく表現

される傾向にある。 ・崩積土すべりモデルでは W/D≧5 で近似三次元

解析と三次元解析の安全率が近い値となるが左右

非対称モデルではその差が大きくなる。二次元と

三次元も同様の傾向であるが差が更に大きい。 地すべり事例による

検証 どの三次元安定解析式も各年の変動状況と安全率

の関係は良好。二次元安定解析式は三次元安定解

析式より効果を大きく算定する傾向があった。 カラムサイズの影響評

価 仮想モデルでの検証

RBSM はカラムサイズによる安全率誤差が大きい

ことが分かった。Hovland 式はカラムサイズによ

って不規則な安全率変化を示すことがあり,三次

元簡易 Janbu 式が最も安定していた。 地すべり事例による

検証 RBSM はカラムサイズによる安全率誤差が大きい

ことが分かった。Hovland 式もカラムサイズによ

る安全率変化は比較的小さいが,三次元簡易

Janbu 式が最も安定していた。 カラム形状の影響評価 仮想モデルでの検証 カラム形状の違いによる安全率の変化は,どの三

次元安定解析式も小さかった。 地すべり事例による

検証 カラム形状の違いによる安全率の変化は,どの三

次元安定解析式も小さかった。 地層毎の土質パラメー

タの設定方法による検

地すべり事例による

検証 Hovland 式の結果は全般に小さい安全率を与える

傾向にあり,三次元簡易 Janbu 式による安全率が

毎年の地すべり変動状況との調和が良かった。

特に大きな違いが出たのはカラムサイズの影響である。RBSM はカラムサイズの影響を特に大きく

受け,同じ地すべりでもカラムサイズによって大きく異なる安全率を算出することが分かった。最も

安定していたのは三次元簡易 Janbu 式であった。地層別の土質パラメータの設定でも三次元簡易

Janbu 式で算出する安全率が,毎年の地すべりの活動状況をより適正に表現できていた。

これらの結果をふまえて,地すべりの解析に用いる三次元安定解析式としては三次元簡易 Janbu

式が最も適していると判断できる。ただし,RBSM はバネの力で移動土塊全体の力の釣り合いを考慮

できるモデルであることから,1つの移動ブロックが複数の小さなブロックに分割し,それぞれのブ

ロック間で力のやりとりがあるような特殊な地すべり地や途中で移動方向が大きく屈曲するような地

すべり地で有効な安定解析手法である。初期安全率 F0 を 0.95~1.0 で設定して土質パラメータを設

定する方法(上記表の検証 A2)では,RBSM で算出される各年の安全率と地すべりの活動状況は調

和的であった。特殊用途の三次元安定解析としては RBSM も有効であると判断できる。

14

2. 9 安定解析式の特徴と適用範囲 これまでの検証結果を基に各安定解析式の特徴と評価をまとめると以下のようになる。

表 2.8 地すべりの安定性評価手法としての各種安定解析手法の評価

安定解析式 長所 短所

二次元安定解析式 (簡易 Janbu 式)

W/D 比が大きくなると三次元安定解

析結果と同等の安全率を算出する。 ・側壁効果を考慮できないので W/D 比

が小さくなると三次元安定解析結果と

の誤差が大きくなる。 ・左右非対称の場合も三次元との安全

率差が多きくなる傾向にある。 近似三次元安定解析式 (簡易 Janbu 式)

・一般的には二次元解析よりも三次元

解析に近い安全率を算出する。 ・W/D 比が大きくなると更に三次元

安定解析結果と同等の安全率を算出

する。

・側壁効果を考慮できないので W/D 比

が小さくなると三次元安定解析結果と

の誤差が大きくなる。 ・左右非対称の場合も三次元との安全

率差が多きくなる傾向にある。 Hovland 式 ・地下水位が低いが無い場合は側壁効

果を評価できる。 ・カラムサイズの影響はモデルによっ

て異なるが小さい場合もある。

・地すべりの形状等によってはカラム

サイズの影響を強く受ける。 ・各種モデル解析では安全率にばらつ

きがあり,最も小さい安全率を与える

ことがあるので,適用にあたっては慎

重を要する。 三次元簡易 Janbu 式 ・側壁効果を評価でき,カラムサイズ

による影響も少ない。 ・土質試験値を用いた解析でも地すべ

り活動状況と調和的な安全率を算出

する。

今回の解析では大きな短所は見つから

なかった。

RBSM カラム間の力の釣り合いをより厳密

に解析するため,移動方向が途中で大

きく屈曲する地すべりや複数のブロ

ックが関連する特殊な地すべりの解

析が可能である。

カラムサイズの影響を大きく受け,カ

ラムサイズが大きくなると安全率の誤

差も大きくなる。

経済比較における各安定解析の特徴は以下の通りである。特徴としては規模が大きくなるほど,総

費用は近似三次元安定解析又は三次元安定解析の方が安価となり,二次元安定解析を用いた時の総費

用の差額も地すべりの規模に応じて大きくなる。よって,規模の大きな地すべりでは近似三次元安定

解析又は三次元安定解析が経済比較上有利である。

表 2.9 総費用の経済比較における各種安定解析手法の評価

安定解析式 長所 短所

二次元安定解析式 (簡易 Janbu 式)

少ない調査費用で解析が可能である。 同じ目標安全率を達成するための対

策工数量が増加する傾向にある。 近似三次元安定解析式 (簡易 Janbu)

同じ目標安全率を達成するための対

策工数量と総費用が少なくなる傾向

にある。

調査費用が多くなる。

三次元簡易 Janbu 式 同じ目標安全率を達成するための対

策工数量と総費用が少なくなる傾向

にある。

調査費用が多くなる。

15

3. 三次元安定解析を用いた地すべり対策工の計画・設計手法検討(H24)

3. 1 三次元安定解析対応の抑止工設計の考え方 現在,三次元安定解析に基づく抑止工の設計方法は確立していない。現状の考え方を整理した

表 3.1 アンカーの設計荷重算定の主な考え方の違い

No. 内 容 特 徴

1

三次元目標安全率と現状安全率の違いから全体の必要抑止力

P を求め,アンカーとすべり面のなす角は主断面上での施工位置

における値または全アンカー位置の平均値などを用いて,必要な

アンカー本数または1本当たりの引き力を算定する方法。

二次元解析的にアンカー設計荷重を定

め,配置のみを三次元的に行う方法。

2

各アンカーの引き力は等しいとして,1本ずつのアンカー方向

やすべり面とのなす角を考慮して,すべり面に対する接線力(引

き止め効果)と法線力(締め付け効果)を求め,それによる全体

の三次元安全率が計画安全率と一致するように引き力を決定す

る方法。

二次元解析における締め付け効果と引き

止め効果の考え方を3次元に拡張した方

法。

3

各アンカーの引き力は等しいとして,1本ずつのアンカーの打

設方向やすべり面とのなす角を考慮して,x,y,z 方向のそれぞれ

のアンカー力をアンカー位置のコラムへ抑止力として与え,それ

による全体の三次元安全率が計画安全率と一致するように引き

力を決定する方法。 この中にも,アンカー位置を,すべり面と交差するコラムとす

るか受圧板位置のコラムとするかの2つの考え方がある。

三次元簡易 Janbu 法などのようにコラ

ム間力を取り扱う三次元安定解析対応の

考え方。

表 3.2 杭工の水平負担力算定の主な考え方の違い

No. 内 容 特 徴

1 各杭の水平負担力は等しいとして,杭一本ずつの抑止力を合算

し,それによる三次元安全率が,計画安全率に一致するように水

平負担力を設定する方法。

水平負担力 H=一本の抑止力 p×cosα。

(α:杭位置での解析方向のすべり面傾

斜角)。この中の H を統一する考え方。

2

三次元安定解析による現状安全率と計画安全率の違いから三

次元での全体の必要抑止力を求め,それを杭本数で割って1本当

たりの必要抑止力とし,杭位置でのすべり面傾斜角により水平負

担力を算定する方法。

上記 No.1 の抑止力pを統一する考え方。

杭位置のすべり面傾斜角の大きさによっ

て水平負担力が大きく異なるため,杭位

置毎に鋼材の規格を変えるか,最も大き

な鋼材規格を採用する等の処理が必要。

3 杭位置毎の杭の水平耐力(許容値)を各杭位置での水平負担力

とし,達成する三次元安全率を算出する方法。 計画安全率に一致する配置間隔または鋼

材を検索する必要がある。

4

三次元安定解析による現状安全率と計画安全率の違いから三

次元での全体の必要抑止力を求め,それを杭位置での滑動力の大

きさの割合で分配する方法。

杭位置による一本あたりの抑止力の違い

が大きいため,杭位置毎に鋼材の規格を

変えるか,最も大きな鋼材規格を採用す

るかなどの処理が必要。

5

三次元安定解析による現状安全率と計画安全率の違いから三

次元での全体の必要抑止力を求め,それを杭本数で割って1本当

たりの必要抑止力とし,それを主断面位置でのすべり面傾斜角ま

たは杭位置全体の平均のすべり面傾斜角を元に,水平負担力を算

定する方法。

二次元解析的に水平負担力を定め,配置

のみを三次元的に行う方法。

6

杭位置毎にそこでの縦断方向のセルにより,二次元解析的に必

要抑止力を定め,杭位置のすべり面傾斜角により水平負担力を算

出する方法。

二次元解析の考え方を元にしているが,

杭位置による一本あたりの抑止力の違い

が大きいため,杭位置毎に鋼材の規格を

変えるか,最も大きな鋼材規格を採用す

るかなどの処理が必要。

16

3. 2 三次元安定解析式における抑止機構の考え方 以下の式は2次元安定解析における抑止工の抑止効果(Ps, Pm)と目標安全率 Fp の関係を示した

一般式である。

ここに,∑S,∑T:安定解析式の分子項と分母項

ここで注意が必要なことは抑止効果の中の Pm は単位幅当たりの力(kN/m)であるが,Ps は力では

なく単位幅当たりのせん断強さ(kN/m)である。アンカー工の場合は締め付け効果(緊張力の法線方

向成分×tanφ)に相当する。杭工の場合はせん断検定の時のせん断強さが Ps の項目となり,曲げモ

ーメントやたわみに関する検定で用いる抑止力が Pm に相当する。

ただし,アンカー工と杭工に抑止工の抑止機構に大きな相違点がある。

アンカー工はアンカー材を人為的に緊張させたことによる緊張力が抑止機構の全ての源で,その緊

張力の一部が力として直接に地すべりを抑止する効果を引き留め効果といい,その緊張力の一部がす

べり面の有効土圧の増加に寄与して,すべり面のせん断強さを増加させる締め付け効果に分かれる。

よって,抑止効果の元はすべて緊張力という力であって,その力の作用が結果的に安定解析式の分子

項のせん断強さの項目と分母項の力の項目に分かれて作用するという抑止機構である。

一方,杭工は杭が地すべり移動に伴って変形することによる鋼材の反発力が抑止効果の一つである

が,鋼材そのもののもつせん断強さそのものが抑止効果として存在する。後者は力というベクトル量

ではなくせん断強さというスカラー量である。よって,杭工の場合は力とせん断強さが最初から分か

れており,アンカー工のように根源が同一の力から派生するものとは抑止機構が異なる。

三次元安定解析式を用いた抑止工の設計も基本的には二次元解析の場合と同様である。よって,そ

の抑止効果が“せん断強さ(=スカラー量)”の項目なのか,“力(=ベクトル量)”の項目であるかを

明確にして,安定解析式に与える必要がある。

前述のようにアンカー工の締め付け効果(せん断強さの項目)は緊張力が源の効果であり,緊張力

のみを考慮することで,締め付け効果と引き留め効果のどちらも考慮することができる。一方,杭工

は杭材のせん断強さ(せん断強さの項目)と曲げ強さ(力の項目)で最初から分かれており,それを

区別して安定解析式に与える必要がある。これは地すべり鋼管杭の設計式に関係なく,本来共通の事

項であるが,二次元安定解析での杭工設計式は歴史的な慣例によりこの概念が無視されている。

三次元安定解析を用いた抑止工の設計は今後主流となりうる新しい技術であることから,過去の間

違った習慣にとらわれず,力学的に正しい方法を採用する必要がある。

PmT

PsSFp

+=

17

3. 3 抑制工設計方法の検討 代表的な抑制工として地下水排除工と排土工を取り上げる。

(1)地下水排除工の三次元効果検証方法

(i)地下水排除工の三次元効果検証の狙い <地下水排除工の三次元効果検証の狙い> 集水井工などの地下水排除工は地すべり地内での地下水の賦存状況を調べた上で,地下水が豊富な場所に配置す

ることが重要である。しかし,その結果,平面的な地下水排除工の配置は移動方向に対して左右対称な配置となら

ないことも多い。 三次元安定解析は地すべり地内の全ての位置での地下水排除工の効果を評価することが可能であるが,主断面を

用いた二次元安定解析では主断面付近以外の地下水排除工の効果を評価することは難しい。複数断面を用いた近似

三次元安定解析では,三次元安定解析と二次元安定解析の中間的な効果評価が期待できる。 三次元安定解析を用いて適切な集水井工配置を検証するとともに,それぞれの地下水排除効果を二次元安定解析

で評価した場合と近似三次元安定解析で評価した場合の違いを検証し,二次元安定解析及び近似三次元安定解析の

適用性を評価した。

(ii)地下水排除工の三次元効果検証の手順

手順1:地下水位低下分布の計算

以下の5つの集水井配置パターンについて,群井理論を用いた地下水簡易シミュレーションで地下

水位低下分布を調べる。

主断面上に集水井が配置

主断面上に集水井が配置

されない場合

集水井が片側(地下水位

が高い場所)に集中

地下水位 A パターン1(A1) パターン2(A2) パターン3(A3) 地下水位 B パターン4(B4) パターン5(B5)

○地下水位 A:各地すべり地での観測水位データ

○地下水位 B:人為的に左右非対称として片方の地下水位が高く,もう一方を低く設定した地下水位

手順2:安定解析の実施

比較する安定解析の種類は以下の通りである。

①主測線のみを用いた2次元安定解析(簡易ヤンブ式,被圧地下水)

②副測線も含めたラム・フィットマンの近似三次元安定解析(簡易ヤンブ式)

③鵜飼の三次元安定解析(η=0)

④鵜飼の三次元安定解析(η≠0)

末端

頭部

末端

頭部

末端

頭部

18

(2)排土工の三次元効果検証方法

(i)排土工の三次元効果検証の狙い <排土工の三次元効果検証の狙い> 排土工は現地の地形に合わせた排土が実施される。地すべり地の地形が移動方向に対して左右対称である場合は

結果として,左右対称の排土となることが多いが,地形が移動方向に対して左右対称でない場合,排土工も左右非

対称となる。 三次元安定解析は地すべり地内の全ての位置での排土工の効果を評価することが可能であるが,主断面を用いた

二次元安定解析では主断面付近以外の排土工の効果を評価することは難しい。複数断面を用いた近似三次元安定解

析では,三次元安定解析と二次元安定解析の中間的な効果評価が期待できる。 三次元安定解析を用いて適切排土工の配置を検証するとともに,それぞれの排土効果を二次元安定解析で評価し

た場合と近似三次元安定解析で評価した場合の違いを検証し,二次元安定解析及び近似三次元安定解析の適用性を

評価した。

(ii)排土工の三次元効果検証の手順

手順1:以下の5つの排土パターンの三次元モデル作成

パターン1(P1):

頭部を左右対称に排土した場合(主

測線部分と副測線部分の排土量は

同じ)

パターン2(P2):

頭部を左右非対称に排土した場合

1(主測線位置は排土。主測線部分

と副測線部分の排土量は同じ)

パターン3(P3):

頭部を左右非対称に排土した場合

2(主測線位置は非排土)

パターン4(P4):

頭部の主測線部分を主に排土した

場合1(左右対称,主測線位置での

排土量は多く,副測線位置での排土

量が小さい)

パターン5(P5):

頭部の主測線部分のみを排土した

場合

手順2:安定解析の実施

比較する安定解析の種類は以下の通り。

①主測線のみを用いた2次元安定解析(簡易ヤンブ式,被圧地下水)

②副測線も含めたラム・フィットマンの近似三次元安定解析(簡易ヤンブ式)

③鵜飼の三次元安定解析(η=0)

④鵜飼の三次元安定解析(η≠0)

末端

頭部

末端

頭部

末端

頭部

末端

頭部

末端

頭部

19

(3)地下水排除工の三次元効果検証結果

各地すべり事例での地下水排除工効果の計算結果を以下に示す。

(i)小北川地すべり

図 3.1 地下水排除工効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<集水井工配置の三次元効果について>

① 地下水位 A では左右対称配置では井戸数が多い A1 の方が A2 より効果が大きい。 ② 地下水位 A で同じ井戸本数の A2 と A3 を比較すると地下水位が高い位置に集中させた A3 の効果が高い。

③ 地下水 B でも同じ井戸本数の B4 と B5 を比較すると地下水位が高い位置に集中させた B5 の効果が高い。

(ii)中の町地すべり

図 3.2 地下水排除工効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<集水井工配置の三次元効果について>

① 地下水位 A では左右対称配置では井戸数が多い A1 の方が A2 より効果が大きい。 ② 地下水位 A で同じ井戸本数の A2 と A3 を比較すると井戸位置での平均地下水位が高い位置にある A2 の効

果が高い。 ③ 地下水 B でも同じ井戸本数の B4 と B5 を比較すると井戸位置での平均地下水位が高い位置にある B5 の効

果が高い。

1.01591.0178

1.01911.0178

1.0237

1.01681.0139

1.0285

1.0148

1.0343

1.01681.0149

1.0318

1.0146

1.0397

1.01681.0149

1.0318

1.0146

1.0397

1.00

1.01

1.02

1.03

1.04

1.05

A1 A2 A3 B4 B5

安全

簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

1.0928

1.0822

1.0734

1.0822

1.0864

1.0902

1.07771.0745

1.0659

1.0802

1.1078

1.09141.0937

1.0912

1.112

1.1078

1.09141.0937

1.0912

1.1119

1.06

1.07

1.08

1.09

1.10

1.11

1.12

A1 A2 A3 B4 B5

安全

簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

20

(iii)藤沼地すべり

図 3.3 地下水排除工効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<集水井工配置の三次元効果について>

① 地下水位 A では左右対称配置では井戸数が多い A1 の方が A2 より効果が大きい。 ② 地下水位 A で同じ井戸本数の A2 と A3 を比較すると地下水位が高い位置に集中させた A3 の効果が高い。

③ 地下水 B でも同じ井戸本数の B4 と B5 を比較すると地下水位が高い位置に集中させた B5 の効果が高い。

(iv)万座地すべり

図 3.4 地下水排除工効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<集水井工配置の三次元効果について>

① 地下水位 A では左右対称配置では井戸数が多い A1 の方が A2 より効果が大きい。 ② 地下水位 A で同じ井戸本数の A2 と A3 を比較すると地下水位が高い位置に集中させた A3 の効果が高い。

③ 地下水 B でも同じ井戸本数の B4 と B5 を比較すると地下水位が高い位置に集中させた B5 の効果が高い。

1.1652

1.15281.1572

1.1528

1.1853

1.129

1.1146

1.13

1.1041

1.1608

1.1409

1.1217

1.1461

1.1103

1.1915

1.1427

1.1235

1.1479

1.1121

1.1933

1.10

1.11

1.12

1.13

1.14

1.15

1.16

1.17

1.18

1.19

1.20

A1 A2 A3 B4 B5

安全

率簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

1.0134

1.0102

1.0154

1.0103

1.0172

1.0141.0122

1.0183

1.0111

1.021

1.0152

1.0129

1.0214

1.0122

1.0247

1.0139

1.0116

1.0202

1.011

1.0235

1.00

1.01

1.02

1.03

A1 A2 A3 B4 B5

安全

簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

21

(v)抜戸地すべり

図 3.5 地下水排除工効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<集水井工配置の三次元効果について>

① 地下水位 A では左右対称配置では井戸数が多い A1 の方が A2 より効果が大きい。 ② 地下水位Aで同じ井戸本数のA2とA3を比較すると地下水位が高い位置に集中させたA3の効果が小さい。

これは井戸位置での原水位高合計が A2 の方が若干大きいことが原因である。 ③ 地下水 B でも同じ井戸本数の B4 と B5 を比較すると地下水位が高い位置に集中させた B5 の効果が高い。

1.0023

1.00181.0016

1.0028

1.0037

1.0019 1.0018 1.0017

1.0024

1.0039

1.0022 1.0021

1.0015

1.0026

1.0037

1.0023 1.0022

1.0015

1.0027

1.0037

1.000

1.005

A1 A2 A3 B4 B5

安全

率簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

22

(4)排土工の三次元効果検証結果

各地すべり事例での排土工効果の計算結果を以下に示す。土質パラメータは地下水排除工と同じ

(i)小北川地すべり

図 3.6 排土効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<排土工の三次元効果について>

① 主側線での排土量が同じ P1,P2,P5 を比較すると排土総量の最も多い P1 とその次の P2L の効果が

大きい。排土総量の少ない P5 の安全率上昇は小さいが,それより排土総量の多い P2R よりも安全

率上昇は大きい。つまり排土総量と安全率上昇の相関がない。 ② 左右非対称パターンの P2 と P3 を比較すると主測線での排土形状は同じでも左右どちらを排土す

るかで実際の三次元安全率の上昇量は違う。左側壁側の排土が効果的となっている。 ③ 主断面での排土量を増やした P4 の三次元の安全率上昇は P1 や P2 などより小さくなる。

(ii)中の町地すべり

図 3.7 排土効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<排土工の三次元効果について>

① 主側線での排土量が同じ P1,P2,P5 を比較すると排土総量の最も多い P1 とその次の P2L の効果が

大きい。逆に P2R での安全率上昇は小さい。排土総量が最も少ない P5 の安全率上昇は P2R より

も大きい。つまり,排土総量と安全率の上昇は相関がない。 ② 左右非対称パターンの P2 と P3 を比較すると主測線での排土形状は同じでも左右どちらを排土す

るかで実際の三次元安全率の上昇量は違う。特に P3R での効果が小さい。 ③ 主断面での排土量を増やした P4 の三次元の安全率上昇は P1 や P2 などとほぼ同じである。

1.0123 1.0123 1.0123

1.0000 1.0000

0.9798

1.0123

1.0317

1.01971.0158

1.01331.0097 1.0077 1.0053

1.0255 1.0265

1.001

1.0237

0.99771.0031

1.0137

1.0255 1.0253

1.001

1.0237

0.99641.0031

1.0137

0.97

0.98

0.99

1.00

1.01

1.02

1.03

1.04

1.05

P1 P2L P2R P3L P3R P4 P5

安全

簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

1.1946 1.1946 1.1946

1.0000 1.0000

1.3207

1.1946

1.2751

1.2193

1.13991.1194

1.043

1.2729

1.0914

1.215 1.2105

1.08391.109

1.0024

1.2082

1.158

1.2149 1.2092

1.0839

1.109

1.0024

1.2082

1.158

0.99

1.04

1.09

1.14

1.19

1.24

1.29

1.34

P1 P2L P2R P3L P3R P4 P5

安全

簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

23

(iii)藤沼地すべり

図 3.8 排土効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<排土工の三次元効果について>

① 主側線での排土量が同じ P1,P2,P5 を比較すると全体の排土総量の多い P1 の安全率上昇が最も大

きい。次に排土総量の大きい P2L と P2R の安全率上昇が大きく,排土総量が小さい P5 の安全率

上昇は小さい。この事例では排土総量と安全率の上昇幅の関係が調和的である。 ② 左右非対称パターンの P2 と P3 を比較すると主測線での排土形状は同じでも左右どちらを排土す

るかで実際の三次元安全率の上昇量は違う。 ③ 主断面での排土量を増やした P4 の三次元の安全率上昇は P1 や P2 などより小さくなる。

(iv)万座地すべり

図 3.9 排土効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<排土工の三次元効果について>

① 主側線での排土量が同じ P1,P2,P5 を比較すると全体の排土総量の多い P1 の安全率上昇が最も大

きい。次に排土総量の大きい P2L の安全率上昇が大きい。しかし P2L と同程度の排土量である P2Rの安全率上昇は排土総量がこの中で最小の P5 の安全率上昇と同程度となっている。つまり,排土

総量と安全率の上昇は相関がない。 ② 左右非対称パターンの P2 と P3 を比較すると主測線での排土形状は同じでも左右どちらを排土す

るかで実際の三次元安全率の上昇量は違う。左側壁側の排土が効果的である。 ③ 主断面での排土量を増やした P4 の三次元の安全率上昇は P1 と同程度である。

1.1743 1.1743 1.1743

1.0000 1.0000

1.3083

1.1743

1.3395

1.1393

1.2538

1.0738

1.1851

1.2772

1.0616

1.2642

1.1254

1.1573

1.0771.1001

1.2121

1.0513

1.2648

1.12591.1594

1.07731.1021

1.2126

1.0516

0.99

1.04

1.09

1.14

1.19

1.24

1.29

1.34

1.39

P1 P2L P2R P3L P3R P4 P5

安全

率簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

1.1520 1.1520 1.1520

1.0000 1.0000

1.2113

1.1520

1.1764

1.1214

1.1065

1.05721.0432

1.1588

1.058

1.1471.1382

1.0524

1.0902

1.0081

1.1303

1.0509

1.14571.1379

1.0524

1.0889

1.0068

1.1303

1.0509

0.99

1.04

1.09

1.14

1.19

1.24

P1 P2L P2R P3L P3R P4 P5

安全

簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

24

(v)抜戸地すべり

図 3.10 排土効果の計算結果(対策前:初期値=1.000 とする)

<排土工の三次元効果について>

① 主側線での排土量が同じ P1,P2,P5 を比較すると全体の排土総量の多い P1 よりも P2R の安全率上

昇が大きい。次に排土総量の大きい P1 の安全率上昇が大きいが,排土総量の小さい P5 の方が P2Lより安全率上昇が大きくなっている。つまり,排土総量と安全率の上昇は相関がない。

② 左右非対称パターンの P2 と P3 を比較すると主測線での排土形状は同じでも左右どちらを排土す

るかで実際の三次元安全率の上昇量は違う。右側壁側の排土が効果的となっている。 ③ 主断面での排土量を増やした P4 の三次元の安全率上昇は P1 と同程度である。

1.1618 1.1618 1.1618

1.0000 1.0000

1.1877 1.1618

1.1161 1.1195

1.0477

1.0611

0.992

1.1157

1.0538

1.2123

1.176

1.2241

1.012

1.145

1.2129

1.18581.2128

1.1778

1.2247

1.0135

1.1468

1.21481.1877

0.98

1.03

1.08

1.13

1.18

1.23

1.28

1.33

P1 P2L P2R P3L P3R P4 P5

安全

率簡易Janbu式(2次元)

Lambe-whitman近似三次元安定解析式(簡易Janbu)

三次元簡易Janbu式(η=0)

三次元簡易Janbu式(η≠0)

25

3. 4 三次元効果を考慮した抑制工の計画・設計手法

表 3.3 は地下水排除工の各種試算結果を安全率の算定誤差としてまとめたものである。三次元安定

解析による地下水排除工の効果評価が正しいとしてそれとの安全率誤差の平均値を表中に示している。

平均の安全率誤差が 0.1%未満の場合を優秀(◎),1%未満の場合を良好(○)それ以上の誤差が発

生したものを評価可能(△)として区分している。二次元解析の結果に安全率誤差が多い傾向にある

が,全体として二次元安定解析や近似三次元安定解析でも誤差が小さめになっている。しかし,地下

水排除工の効果は全体で 5%程度に制限するという考えもある中で 1%以上の誤差があるものは実務

では大きな問題となる。

表 3.3 各安定解析の地下水排除工効果の評価の適否

地すべり事例

安全率の平均誤差,

地下水排除工効果評価の適否(◎優秀,○良好,△:評価可能)

三次元解析 近似三次元解析 二次元解析

小北川地すべり ◎ 0.004(○) 0.008(○) 中の町地すべり ◎ 0.027(△) 0.015(△) 藤沼地すべり ◎ 0.016(△) 0.021(△) 万座地すべり ◎ 0.001(○) 0.004(○) 抜戸地すべり ◎ 0.0008(◎) 0.0004(◎)

次に,表 3.4 は排土工の各種試算結果を安全率の算定誤差としてまとめたものである。標記方法な

どは地下水排除工の場合と同じである。二次元安定解析や近似三次元安定解析では 1%以上の安全率

誤差が発生する事例がほとんどで,中には抜戸の事例のように 11%程度の誤差が生じる事例もある。

実務では相当問題となる。

表 3.4 各安定解析の排土工効果の評価の適否

地すべり事例

安全率の平均誤差,

排土工効果評価の適否(◎優秀,○良好,△:可能)

三次元解析 近似三次元解析 二次元解析

小北川地すべり ◎ 0.008(○) 0.013(△) 中の町地すべり ◎ 0.044(△) 0.058(△) 藤沼地すべり ◎ 0.049(△) 0.079(△) 万座地すべり ◎ 0.029(△) 0.057(△) 抜戸地すべり ◎ 0.110(△) 0.049(△)

26

これまでの地下水排除工と排土工に関する試算結果から抑制工の適性配置と安定解析によるその効

果の評価についてまとめると以下のようになる。

<地下水排除工の適性配置と安定解析での効果評価>

① 地下水排除工の効果は地下水位低下の総量と安全率の上昇幅がほぼ比例する関係にある。よって,

すべり面からの水頭高の高い位置に集水井工を配置することで効果的な対策工配置ができる。す

べり面形や移動体の形状などの影響は小さいと思われる。 ② 二次元安定解析では地下水排除工の効果を実際より大きく評価することと小さく評価することが

ある。効果の推定誤差は排土工の場合より小さくなる傾向にある。これは地下水排除工の影響が

施工位置以外(影響半径内)の地下水位低下にも影響するため,二次元安定解析でもある程度効

果を評価できると考えることができる。しかし条件によっては誤差が 2%を越えるような事例も

あり,三次元安定解析式による評価が望ましい。 ③ 地下水排除工の配置が左右非対称の場合は二次元安定解析の誤差が大きくなる事例が複数確認で

きた。

<排土工の適性配置と安定解析での効果評価>

① 排土工の効果は排土総量と安全率の上昇幅が調和的な事例と逆の事例がある。排土総量の大小で

はなく適切は排土位置を検討することが重要である。これはすべり面形状などの移動体形状が排

土位置によって大きく異なることが影響していると思われる。近似三次元安定解析でも排土位置

の検討は可能であるが,三次元安定解析の適用が望ましい。 ② 二次元安定解析では排土工の効果を実際より大きく評価することと小さく評価することがある。

効果の推定誤差は地下水排除工の場合よりはるかに大きく,誤差が 10%を越える場合もある。こ

れは二次元解析では排土工効果を正確に評価できないことが多いということであり,三次元安定

解析式による評価を積極的に導入する必要がある。 ③ 排土量が左右非対称の場合に二次元安定解析の誤差が大きくなる傾向にある。

27

3. 5 抑止工設計方法の検討 代表的な抑止工として,杭工とアンカー工を取り上げる。

(1)アンカー工の三次元効果検証方法

(i)アンカー工の三次元効果検証の狙い <アンカー工の三次元効果検証の狙い> 三次元安定解析を用いる場合のアンカー工の設計手法は確

立していない。 従来の二次元安定解析を用いたアンカー工の設計では,アン

カー力はすべり面位置に作用するとして設計計算が行われて

いる。しかし,実際の施工でアンカー力が作用するのは,アン

カー打設位置の地表面である。この違いによるアンカー工の効

果の違いを検証する。 また,二次元安定解析ではアンカー力の方向は,x,y 成分の

2成分で表されるが三次元の場合3方向の成分となる。締め付

け効果もすべり面の傾斜方向を考慮した三次元的な法線方向

となる。これらを設計理論の中に取り組む必要がある。 これらの解析結果を元に三次元安定解析を用いる場合のアンカー工の設計方法を確立する。

(ii)アンカー工の三次元効果検証の手順

表 3.5 アンカー工の解析の種類と内容

解析手法 引留効果のみ 引留め効果+締付け効果

二次元安定解析 解析 A1 解析 B1 近似三次元安定解析 解析 A2 解析 B2 三次元安定解析(手法1) 解析 A3-1(引留め+締付け) 解析 B3-1 三次元安定解析(手法2) 解析 A3-2(引留め+締付け) 解析 B3-2

すべり面 アンカー体

アンカー力P

(手法2)

地表面

アンカー力P

(手法1)

図 3.11 三次元解析時のアンカー力作用位置

の違い

三次元安定解析式は三次元簡易 Janbu 式(η=0)とする。

2 次元,近似三次元,三次元のそれぞれの安定解析で初期安全率は揃える。φを固定し,cで調整。

①主断面を用いた簡易 Janbu 式(2次元)で,負担推力を安全率負担⊿F=0.05 として,打設間隔(水平

間隔)が2m程度となるアンカー材と施工段数を選定

②Lambe-whitman 近似三次元安定解析式(簡易 Janbu)で,負担推力を安全率負担⊿F=0.05 として,

①と同じアンカー材と施工段数を採用した時のアンカーの打設間隔を算定

③三次元安定解析の手法1を用い,②と同じアンカ

ー材と配置で以下の三次元安全率を算出

1:鉛直打設角:②の角度,水平打設方向:θ=0 ゚

2:鉛直打設角:②の角度,水平打設方向:θ=10 ゚

3:鉛直打設角:②の角度,水平打設方向:θ=30 ゚

④三次元安定解析の手法2を用い,②と同じアンカ

ー材と配置で以下の三次元安全率を算出

1:鉛直打設角:②の角度,水平打設方向:θ=0 ゚

2:鉛直打設角:②の角度,水平打設方向:θ=10 ゚

3:鉛直打設角:②の角度,水平打設方向:θ=30 ゚

引き留め効果のみを考慮した場合と,締め付け効果と引き留め効果を両方考慮した場合の2ケースを実施

28

(2)杭工の三次元効果検証方法

(i)杭工の三次元効果検証の狙い <杭工の三次元効果検証の狙い> 三次元安定解析を用いる場合の杭工の設計手法は確立していない。 アンカー工は,人為的に抑止力を

与えられるが,杭工の場合地すべり

変位に応じて受動的に抑止力が発

生するため,三次元安定解析におい

て杭一本ごとの必要抑止力をどの

ように評価するかが最も重要とな

る。 三次元安定解析を用いた場合の必

要抑止力の考え方には複数の考え方

がある。その一例を右図に示す。こ

れらの理論的な検証と現場事例によ

る検証を行う。 これらの解析結果を元に三次元安定解析を用いる場合の杭工の設計方法を確立する。

(ii)杭工の三次元効果検証の手順

なお,杭工設計理論は補強杭理論を用いる。

図 3.12 三次元解析時の杭工の必要抑止力の考え方の違い

抑止杭

杭位置毎の許容水平負担力

抑止杭

杭位置毎の許容水平負担力

抑止杭

杭位置毎の水平力負担力が同じであると考える。

抑止杭

杭位置毎の水平力負担力が同じであると考える。

許容水平力最小の値と同じになる

(a)手法1 (b)手法2

三次元安定解析式は三次元簡易 Janbu 式(η=0)とする。

2 次元,近似三次元,三次元のそれぞれの安定解析で初期安全率は揃える。φを固定し,cで調整。

①主断面を用いた簡易 Janbu 式(2次元)で,負担推力を安全率負担⊿F=0.05 として,杭間隔が標準杭

間隔(すべり面深度に応じた値,地すべり鋼管杭設計要領に準拠)となる鋼材(鋼材1)を選定

②Lambe-whitman 近似三次元安定解析式(簡易 Janbu)で,負担推力を安全率負担⊿F=0.05 として,

鋼材1を用いた時の杭間隔を算定

③②と同じ鋼材で同じ杭配置を採用した場合の三次

元安全率(手法1)を算出

④②と同じ鋼材で同じ杭配置を採用した場合の三

次元安全率(手法2)を算出

29

(3)アンカー工の三次元効果検証結果

(i)小北川地すべり

表 3.6 アンカー工効果の設計条件(土質パラメータ)

表 3.7 二次元解析によるアンカー工効果の計算結果(解析 A1,A2)

表 3.8 二次元解析によるアンカー工効果の計算結果(解析 B1,B2)

引留め効果のみを考慮した場合も引き留め効果と締め付け効果の両方を考慮した場合も,主断面の

みの2次元安定解析を用いるより3断面を用いた近似三次元安定解析の方が,アンカー打設間隔が

60cm 程度広くなっている。

この時のアンカー工の仕様は以下の通りである。

表 3.9 二次元安定解析による設計アンカー工の仕様

名称 仕様

アンカー型名 SSL-65CE φ12.7-6 パッカー無し(ロータリーパーカッション) アンカー材 PC鋼より線φ12.7mm×6本

アンカー打設角 71° アンカー打設位置(水平距離) 175m

解析手法 土質パラメータ 安全率

C' φ' γ 初期安全率 F0 目標安全率 Fp

簡易 Janbu 式(2次元) 5.0446 25.60 18.00 1.0000 1.0500

Lambe-whitman 近似三次元安

定解析式(簡易 Janbu) 9.4284 25.60 18.00 1.0000 1.0500

解析手法

引留め効果のみ

施工段数アンカー

打設間隔

アンカー

体長(計

算)

アンカー

体長(括約)

設計アンカ

ー力 Td

簡易 Janbu 式(2次元)(A1) 9 2.00m 7.16m 7.50m 620.7kN/本

Lambe-whitman 近似三次元安定

解析式(簡易 Janbu)(A2) 9 2.66m 7.17m 7.50m 621.4kN/本

解析手法

引留め効果)+締付け効果

施工段数アンカー

打設間隔

アンカー

体長(計

算)

アンカー

体長(括約)

設計アンカ

ー力 Td

簡易 Janbu 式(2次元)(B1) 8 2.00m 6.77m 7.00m 587.3kN/本

Lambe-whitman 近似三次元安定

解析式(簡易 Janbu)(B2) 8 2.67m 6.79m 7.00m 588.5kN/本

30

近似三次元解析で求めたアンカー工仕様を用いて,三次元安定解析を行った場合の,達成安全率の

変化を調べた結果を以下に示す。

表 3.10 アンカー工の三次元効果の計算結果(引き留め効果のみの場合)

※三次元解析パラメータ:c’=11.25kpa,φ’=25.6゜,γ=18kN/m3,初期安全率 F30=1.0

表 3.11 アンカー工の三次元効果の計算結果(引き留め効果と締め付け効果の両方を考慮した場合)

※三次元解析パラメータ:c’=11.25kpa,φ’=25.6゜,γ=18kN/m3,初期安全率 F30=1.0

<アンカー工の三次元効果について>

① アンカー効果の大きさは,「二次元解析<近似三次元解析<三次元解析」の関係にある。 ② 水平方向の打設角が地すべりの移動方向と大きくずれる場合,二次元解析や近似三次元解析では

アンカー効果を過大に評価する危険性がある。 ③ 三次元解析の手法1と手法2では,解析 A3 では手法2の方がアンカー効果を大きく評価するが

解析 B3では逆になっている。

解析手法 安全率

θ=0 ゚ θ=10 ゚ θ=30 ゚

近似三次元安定解析式 (A2)(引留め効果のみ) 1.05

三次元簡易 Janbu 式(手法1:すべり面)(A3-1) 1.0615 1.0606 1.0530

三次元簡易 Janbu 式(手法2:地表) (A3-2) 1.0622 1.0612 1.0536

解析手法 安全率

θ=0 ゚ θ=10 ゚ θ=30 ゚

近似三次元安定解析式 (B2)(引留め+締付け) 1.05

三次元簡易 Janbu 式(手法1:すべり面)(B3-1) 1.0513 1.0505 1.0443

三次元簡易 Janbu 式(手法2:地表) (B3-2) 1.0519 1.0511 1.0448

31

(ii)中の町地すべり

表 3.12 アンカー工効果の設計条件(土質パラメータ)-中の町

表 3.13 二次元解析によるアンカー工効果の計算結果(解析 A1,A2)-中の町

表 3.14 二次元解析によるアンカー工効果の計算結果(解析 B1,B2)-中の町

引留め効果のみを考慮した場合も引き留め効果と締め付け効果の両方を考慮した場合も,主断面の

みの2次元安定解析を用いるより3断面を用いた近似三次元安定解析の方が,アンカー打設間隔が

30cm 程度広くなっている。

この時のアンカー工の仕様は以下の通りである。

表 3.15 二次元安定解析による設計アンカー工の仕様(中の町)

名称 仕様

アンカー型名 SSL-65CE φ12.7-6 パッカー無し(ロータリーパーカッション) アンカー材 PC鋼より線φ12.7mm×6本

アンカー打設角 71° アンカー打設位置(水平距離) 175m

解析手法 土質パラメータ 安全率

C' φ' γ 初期安全率 F0 目標安全率 Fp

簡易 Janbu 式(2次元) 13.3514 10.00 18.00 1.0000 1.0500

Lambe-whitman 近似三次元安

定解析式(簡易 Janbu) 14.8407 10.00 18.00 1.0000 1.0500

解析手法

引留め効果のみ

施工段数アンカー

打設間隔

アンカー

体長(計

算)

アンカー

体長(括約)

設計アンカ

ー力 Td

簡易 Janbu 式(2次元)(A1) 3 2.00m 7.34m 7.50m 636.2kN/本

Lambe-whitman 近似三次元安定

解析式(簡易 Janbu)(A2) 3 2.36m 7.33m 7.50m 636.0kN/本

解析手法

引留め効果)+締付け効果

施工段数アンカー

打設間隔

アンカー

体長(計

算)

アンカー

体長(括約)

設計アンカ

ー力 Td

簡易 Janbu 式(2次元)(B1) 3 2.00m 6.28m 6.50m 544.8kN/本

Lambe-whitman 近似三次元安定

解析式(簡易 Janbu)(B2) 3 2.38m 6.28m 6.50m 544.5kN/本

32

近似三次元解析で求めたアンカー工仕様を用いて,三次元安定解析を行った場合の,達成安全率の

変化を調べた結果を以下に示す。

表 3.16 アンカー工の三次元効果の計算結果(引き留め効果のみの場合)

※三次元解析パラメータ:c’=9.31kpa,φ’=10.0゜,γ=18kN/m3,初期安全率 F30=1.0

表 3.17 アンカー工の三次元効果の計算結果(引き留め効果と締め付け効果の両方を考慮した場合)

※三次元解析パラメータ:c’=9.31kpa,φ’=10.0゜,γ=18kN/m3,初期安全率 F30=1.0

<アンカー工の三次元効果について>

① アンカー効果の大きさは,「二次元解析<近似三次元解析<三次元解析」の関係にある。 ② 水平方向の打設角が地すべりの移動方向と大きくずれる場合,二次元解析や近似三次元解析では

アンカー効果を過大に評価する危険性がある。 ③ 三次元解析の手法1と手法2では,解析 A3,B3 の両方で手法1の方がアンカー効果を大きく評価

する。

解析手法 安全率

θ=0 ゚ θ=10 ゚ θ=30 ゚

近似三次元安定解析式 (A2)(引留め効果のみ) 1.05

三次元簡易 Janbu 式(手法1:すべり面)(A3-1) 1.0620 1.0608 1.0529

三次元簡易 Janbu 式(手法2:地表) (A3-2) 1.0568 1.0559 1.0491

解析手法 安全率

θ=0 ゚ θ=10 ゚ θ=30 ゚

近似三次元安定解析式 (B2)(引留め+締付け) 1.05

三次元簡易 Janbu 式(手法1:すべり面)(B3-1) 1.0510 1.0500 1.0436

三次元簡易 Janbu 式(手法2:地表) (B3-2) 1.0465 1.0458 1.0403

33

(iii)藤沼地すべり

表 3.18 アンカー工効果の設計条件(土質パラメータ)

以下に二次元解析結果と近似三次元解析結果の比較を示す。

表 3.19 二次元解析によるアンカー工効果の計算結果(解析 A1,A2)

表 3.20 二次元解析によるアンカー工効果の計算結果(解析 B1,B2)

引留め効果のみを考慮した場合も引き留め効果と締め付け効果の両方を考慮した場合も,主断面の

みの2次元安定解析と3断面を用いた近似三次元安定解析のアンカー打設間隔はほぼ同じとなった。

これは地すべり規模が小さく,差が小さくなったものと思われる。

この時のアンカー工の仕様は以下の通り。

表 3.21 二次元安定解析による設計アンカー工の仕様

名称 仕様

アンカー型名 SSL-35CE φ17.8-1 パッカー無し

アンカー材 PC鋼より線φ17.8mm×1本 アンカー打設角 55°

アンカー打設位置(水平距離) 50m

解析手法 土質パラメータ 安全率

C' φ' γ 初期安全率 F0 目標安全率 Fp

簡易 Janbu 式(2次元) 4.3060 9.16 18.00 1.0000 1.0500

Lambe-whitman 近似三次元安

定解析式(簡易 Janbu) 5.2250 9.16 18.00 1.0000 1.0500

解析手法

引留め効果のみ

施工段数アンカー

打設間隔

アンカー

体長(計

算)

アンカー

体長(括約)

設計アンカ

ー力 Td

簡易 Janbu 式(2次元)(A1) 1 2.00m 2.99m 3.00m 202.7kN/本

Lambe-whitman 近似三次元安定

解析式(簡易 Janbu)(A2) 1 2.02m 2.99m 3.00m 203.0kN/本

解析手法

引留め効果)+締付け効果

施工段数アンカー

打設間隔

アンカー

体長(計

算)

アンカー

体長(括約)

設計アンカ

ー力 Td

簡易 Janbu 式(2次元)(B1) 1 2.00m 2.67m 3.00m 181.3kN/本

Lambe-whitman 近似三次元安定

解析式(簡易 Janbu)(B2) 1 2.02m 2.68m 3.00m 181.7kN/本

34

近似三次元解析で求めたアンカー工仕様を用いて,三次元安定解析を行った場合の,達成安全率の

変化を以下に示す。

表 3.22 アンカー工の三次元効果の計算結果(引き留め効果のみ)

※三次元解析パラメータ:c’=3.2kpa,φ’=9.16゜,γ=18kN/m3,初期安全率 F30=1.0

表 3.23 アンカー工の三次元効果の計算結果(引き留め効果と締め付け効果の両方を考慮した場合)

※三次元解析パラメータ:c’=3.2kpa,φ’=9.16゜,γ=18kN/m3,初期安全率 F30=1.0

<アンカー工の三次元効果について>

① アンカー効果の大きさは,「二次元解析<近似三次元解析<三次元解析」の関係にあるが,差は小

さい。 ② 水平方向の打設角が地すべりの移動方向と大きくずれる場合,二次元解析や近似三次元解析では

アンカー効果を過大に評価する危険性がある。 ③ 三次元解析の手法1と手法2では,解析 A3,B3 共にアンカー効果は同程度の評価となるが,若干

手法1の方が大きい。

解析手法 安全率

θ=0 ゚ θ=10 ゚ θ=30 ゚

近似三次元安定解析式 (A2)(引留め効果のみ) 1.05

三次元簡易 Janbu 式(手法1:すべり面)(A3-1) 1.0576 1.0567 1.0498

三次元簡易 Janbu 式(手法2:地表) (A3-2) 1.0571 1.0562 1.0494

解析手法 安全率

θ=0 ゚ θ=10 ゚ θ=30 ゚

近似三次元安定解析式 (B2)(引留め+締付け) 1.05

三次元簡易 Janbu 式(手法1:すべり面)(B3-1) 1.0514 1.0505 1.0445

三次元簡易 Janbu 式(手法2:地表) (B3-2) 1.0510 1.0502 1.0441

35

(4)杭工の三次元効果検証結果

(i)小北川地すべり

表 3.24 杭工効果の計算結果

※鋼材規格=D350・t40(SCW490)

※杭配置(手法1)=杭 237本中,32本が Hmで決定(13.5%)

<杭工の三次元効果について>

① 杭工効果の大きさは,二次元解析や近似三次元解析より三次元解析の方が大きくなる。 ② 手法1と手法2を比較すると手法1の方が杭工の効果を大きく評価する。

(ii)中の町地すべり

表 3.25 杭工効果の計算結果

※鋼材規格=D350・t40(SCW490)

※杭配置(手法1)=杭 18本中,2本が Hmで決定(11.1%)

<杭工の三次元効果について>

① 杭工効果の大きさは,二次元解析や近似三次元解析より三次元解析(手法1)の方が大きくなる

が手法2は逆転している。 ② 手法1と手法2を比較すると手法1の方が杭工の効果を大きく評価する。

解析手法

土質パラメータ 安全率 杭間隔

(m) C' φ' γ 初期安全率

F0

達成安全率

Fp

簡易 Janbu 式(2次元) 5.0446 25.60 18.00 1.0000 1.0500 0.93

近似三次元安定解析式 9.4284 25.60 18.00 1.0000 1.0500 Fd=NG

三次元簡易 Janbu 式

(手法1) 11.2500 25.60 18.00 1.0000 1.0715 0.93

三次元簡易 Janbu 式

(手法2) 11.2500 25.60 18.00 1.0000 1.0600 0.93

解析手法

土質パラメータ 安全率 杭間隔

(m) C' φ' γ 初期安全率

F0

達成安全率

Fp

簡易 Janbu 式(2次元) 13.3514 10.00 18.00 1.0000 1.0500 3.11

近似三次元安定解析式 14.8407 10.00 18.00 1.0000 1.0500 3.89

三次元簡易 Janbu 式

(手法1) 9.3100 10.00 18.00 1.0000 1.0527 3.89

三次元簡易 Janbu 式

(手法2) 9.3100 10.00 18.00 1.0000 1.0373 3.89

36

(iii)藤沼地すべり

藤沼地すべりは,2種類の杭配置で比較している。

表 3.26 杭配置区分

区分 杭配置範囲 内容 杭本数

配置① (通常の配置) 杭 7本中,1本が曲げ検定(Hm)により 杭仕様を決定

7本

配置② 配置①より配置範囲が若干狭い 全ての杭位置でせん断検定(Hs)により 杭仕様を決定

6本

杭位置毎の杭仕様がせん断検定で決まるか曲げ検定で決まるかは,移動層と不動層の変形係数,鋼材

の曲げ剛性 EI,杭位置でのすべり面深度の違いの影響を受ける。

表 3.27 杭工効果の計算結果

※鋼材規格=D250・t10(SCW490)

※杭配置①=杭 7本中,1本が Hmで決定(14.3%),杭配置②=杭 6本中,0本が Hmで決定(0.0%)

<杭工の三次元効果について>

① 杭工効果の大きさは,二次元解析や近似三次元解析より三次元解析の方が大きくなる(配置①-

手法1)が,杭本数が少ない場合(配置②)と手法2(配置①)では逆転する。 ② 手法1と手法2を比較すると手法1の方が杭工の効果を大きく評価する。

解析手法

土質パラメータ 安全率 杭間隔

(m) C' φ' γ 初期安全率

F0

達成安全率

Fp

簡易 Janbu 式(2次元) 4.3060 9.16 18.00 1.0000 1.0500 5.18

近似三次元安定解析式 5.2250 9.16 18.00 1.0000 1.0500 5.17

三次元簡易 Janbu 式

(手法1)配置① 3.2100 9.16 18.00 1.0000 1.0567 5.17

三次元簡易 Janbu 式

(手法2)配置① 3.2100 9.16 18.00 1.0000 1.0382 5.17

三次元簡易 Janbu 式

(手法1)配置② 3.2100 9.16 18.00 1.0000 1.0483 5.17

三次元簡易 Janbu 式

(手法2)配置② 3.2100 9.16 18.00 1.0000 1.0483 5.17

37

3. 6 三次元効果を考慮した抑止工の設計・計画手法 これまでの事例解析の結果から三次元安定解析を用いた抑止工設計計算の特徴を以下にまとめる。

表 3.28 はアンカー工の試算結果からアンカー力の与える場所によるアンカー効果の違いを比較した

ものである。

表 3.28 アンカー力の与える位置とアンカー効果の大きさの関係

地すべり事例 アンカー効果の大きさ

小北川地すべり 手法1(すべり面)≒手法2(地表) 中の町地すべり 手法1(すべり面)>手法2(地表) 藤沼地すべり 手法1(すべり面)≧手法2(地表)

<アンカー力の与える場所によるアンカー効果の違い>

・どちらもほぼ同様のアンカー効果となる ・ただし,すべり面にアンカー力を与える方が若干アンカー効果を大きく評価する傾向がある。 ・なお,二次元安定解析と比較した場合,三次元安定解析の方がアンカー工の効果を大きく評価する

傾向にある。

表 3.29 は杭工の試算結果から抑止力設定方法(手法1,手法2)の違いと杭工の効果の大きさを

比較したものである。

表 3.29 杭工の抑止力設定方法と杭工効果の大きさの関係

地すべり事例 達成安全率 Fp(初期安全率 F0=1.0)

近似三次元 手法1 手法2

小北川地すべり 1.05 1.0715 1.0600 中の町地すべり 1.05 1.0527 1.0373 藤沼地すべり

(配置①,杭7本) 1.05 1.0567 1.0382

藤沼地すべり (配置②,杭6本)

1.05 1.0483 1.0483

<抑止力設定方法(手法1,手法2)の違いと杭工の効果の違い>

・手法2は二次元解析による杭工効果より小さくなるケースが多い。 ・また,藤沼地すべりの配置①と配置②の違いから,同じ鋼材でも本数が足りないと二次元解析より

も杭工効果が小さくなる。

38

3. 7 三次元安定解析を用いた地すべり対策工の計画・設計手法のまとめ

5カ所の地すべり事例を用いたこれまでの試算結果から三次元安定解析を用いた対策工の設計結果

の特徴をまとめると以下のような内容となる。

表 3.30 三次元安定解析を用いた設計試算結果の特徴

対策工 特 徴

地下水排除工

① 地下水排除工の効果は地下水位低下の総量と安全率の上昇幅がほぼ比例する

関係にある。よって,すべり面からの水頭高の高い位置に集水井工を配置す

ることで効果的な対策工配置ができる。 ② 二次元安定解析や近似三次元安定解析でも地下水排除工の効果をある程度正

確に評価することは可能であるが,対策工配置が主測線より遠い場合などは

効果の評価誤差も大きくなる。

排土工

① 排土工の効果は排土量と必ずしも比例せず,排土位置の選定によって大きく

変化する。これは排土位置のすべり面形状などの移動体形状が大きく影響し

ていると思われる。 ② 二次元安定解析や近似三次元安定解析では排土工の効果を正確に評価できな

いことが多い。

アンカー工

① アンカー力を地表に与える方法とすべり面に与える方法では,すべり面に与

える方法の方が若干アンカー効果を大きく評価する傾向がある。 ② 上記の何れの方法を採用した場合でも二次元安定解析を用いる場合より三次

元安定解析を用いる方がアンカー効果を大きく評価する傾向がある。

杭工

① 杭位置毎の鋼材の持つ最大の抑止効果を各位置での抑止力とする方法(手法

1)と全ての杭位置での抑止力が同一値となるように抑止力を設定する方法

(手法2)では手法1の方が杭工の効果を大きく評価する。 ② 手法2を採用した場合,二次元安定解析を用いる従来の設計法より,杭工効

果を小さく評価する傾向にある。

これらの解析結果を踏まえて,地すべり対策工計画手法を作成する上での課題として以下のような

内容が挙げられる。

<三次元安定解析を用いた地すべり対策工計画手法作成に関する課題>

① 地下水排除工はすべり面からの地下水が豊富な場所へ効果的に配置することが,大切であるが,

そのためには三次元的な地下水分布を事前に把握する必要がある。 ② 排土工の効果は排土位置の影響を強く受ける。排土量と排土効果は必ずしも比例しない。よって,

移動体の形状,特にすべり面形状の三次元的な分布をより正確に把握するとが重要である。 ③ アンカー工については,従来の設計方法であるすべり面での作用荷重として与える方法は,実際

の荷重条件である地表に作用荷重を設定する場合より,アンカー効果を大きく評価する傾向があ

る。実際の荷重条件での解析よりアンカー効果を大きく評価する設計方法の採用は難しい。 ④ 杭工については各杭位置での抑止力の設定の方法によっては,三次元解析の結果が二次元解析の

結果より対策工効果を小さく評価することになる。主測線もみを用いた二次元安定解析より側壁

などの三次元効果を考慮した三次元安定解析を用いた方が,抑止工の効果は大きくなるのが一般

的であり,これと相反する設計方法は受け入れがたい。

この他,三次元安定解析を用いた対策工計画手法を実務の中で利用するためには,これまで利用して

きた二次元安定解析による工事数量と極端に異なる数量にならない計画手法とすることも重要である。

例えば,三次元安定解析を利用することで対策工数量が数%~十数%減少したという程度は良いが,

対策工数量が半減したなどという結果になれば,これまでの対策工が過大設計であったなどの疑念が

生じることになる。