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がん 撲減 対す 取り組 ― 消化器癌 chemoprevem 東京医科大学外科学第三講座 土田 明彦 青木 達哉 わが国のがん対策は、国の主導 として昭和59年 度か ら「対がん10カ 年総合戦略」が始まり、当初 は21世紀 に入 ればが ん撲滅が可能 になる もの と考 えられていたが、依然 としてがんによる死亡は 増加の一途を辿っている。平成16年 度か らは、が ん死亡率の激減を目標 とした「第 3次 対がん10カ 年総合戦略」が開始 となったが、一 何次 "に なったら、がんによる死亡が減少するのかは明ら かで はない。「第 3次 対がん10カ 年総合戦略」の 中で述 られているように、近年 分子生物学的 研究の成果によって、がんは遺伝子の異常によっ て起 る病気であるとい ことが明白になったが、 がんは極めて複雑性に富んでお り、発がんの要因 やがんの生物学的特性、がん細胞の浸潤能 転移 能やがんと宿主免疫応答の関係など、その全貌が 十分 に解明されているとは言 。消化器がん において も、近年 の診断技術や治療法 の進歩によ り、比較 的早期 の癌 の治療成績 は向上 して きたが、 進行 した癌では未だに再発 転移 を完全 に抑 える ことは不可能である。化学療法 も決 して満足のい きものではな く、一 部では分子標的治療薬が 開発 されて高 奏功率が得 られているものの、依 然 と して再発 転移 に対す る治療成績 は不良 と言 わざるをえな 。 この ような中で、種 々の 化学物 質 を用 いて癌 の発生 を抑制す る chemoprevention (化 学予防)が 脚光 を浴 びてい る。「第 3次 対がん 10カ 年総合戦略」のがん研究推進の重点的研究課 題 と して、 1)学 横断的な発想 と先端科学技術の 導入 に基 くがんの本態解明の飛躍的推進、 2) 基礎研究 の成果を積極的に予防 診断 治療 用 す る トランス レー シ ョナル・ リサ ーチの推進、 3)革 新的な予防法 の開発、 4)革 新的な診断 治療法の開発、 5)が んの実態把握 とがん情報 診療技術の発信 普及、の 5つ が挙げられている が、化学物質によるがん予防は、上記 3)革 新的 予防法 の開発の中で、 “生活習慣改善、化学物質 投与等による介入試験の展開 "と して取 り上げ ら れている。 の化学予防は1970年 代に提唱された概念であ り、古 くか ら種 々の化学物質 と発癌抑制 との関連 が研究 されて きた。癌化学予防物質には天然化合 物 と合成化合物があるが、天然化合物 としては、 β カロチ ン、αカロチ ン、リ コピン、クル ク ミン、 ウル ソール 酸、各種 ビタミンな どが挙 げ られ、安 全性 の面で優れている。 方、合成化合物 として は、 N‐ (4‐ ヒ ドロキシフェニル )‐ レチナ イ ド、 スリンダク、セレコ キ シブ、 ピロキ シカム、 タモ キシフェン トレミフェンなどがあ り、効力が高 く、安定的な供給ができるとい う利点がある。こ れらの化学物質を用 いた従来の研究の多 くは、癌 が発生 しな い ように予 防す る “一次予防 "が 主体 であるが、近年では、癌発生後の治療の一つ とし て、あ るいは、治療 後 の再発 転移 を予 防す る “二 次予防 "に 対 して も研究が行われている。 この中 で、合成化合物であるセレコ キ シブな どの COX‐ 2 阻害剤 は、消化器癌 に対する化学予防の 中で最 も 研究が進んでいるものの一つである。従来、リウ マチ な どで アス ピリ ンを長期 間常用 してい る患者 では、大腸癌 による死亡率が40~ 50%低 値 を示す ことが報告 されてお り、アスピリンやス リンダッ クなどの非ステ イ ド系消炎鎮痛剤 (NSAIDs) が大腸癌 の発生 進 展 に影響 を与 え る こ とが示 И Noυιsレひ′ .Iθ .1 2θ θ 4

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がん撲減に対する取り組み― 消化器癌の chemoprevemon―

東京医科大学外科学第三講座

土田 明彦

青木 達哉

わが国のがん対策は、国の主導として昭和59年

度から「対がん10カ 年総合戦略」が始まり、当初

は21世紀に入ればがん撲滅が可能になるものと考

えられていたが、依然 としてがんによる死亡は

増加の一途を辿っている。平成16年度からは、が

ん死亡率の激減を目標とした「第 3次対がん10カ

年総合戦略」が開始となったが、一体 “何次"に

なったら、がんによる死亡が減少するのかは明ら

かではない。「第 3次対がん10カ 年総合戦略」の

中で述べられているように、近年の分子生物学的

研究の成果によって、がんは遺伝子の異常によっ

て起る病気であるということが明白になったが、

がんは極めて複雑性に富んでおり、発がんの要因

やがんの生物学的特性、がん細胞の浸潤能・転移

能やがんと宿主免疫応答の関係など、その全貌が

十分に解明されているとは言い難い。消化器がん

においても、近年の診断技術や治療法の進歩によ

り、比較的早期の癌の治療成績は向上してきたが、

進行 した癌では未だに再発・転移を完全に抑える

ことは不可能である。化学療法も決して満足のい

くべ きものではなく、一部では分子標的治療薬が

開発されて高い奏功率が得られているものの、依

然として再発・転移に対する治療成績は不良と言

わざるをえない。このような中で、種々の化学物

質を用いて癌の発生を抑制するchemoprevention

(化学予防)が脚光を浴びている。「第 3次対がん

10カ 年総合戦略」のがん研究推進の重点的研究課

題として、 1)学横断的な発想と先端科学技術の

導入に基づくがんの本態解明の飛躍的推進、 2)基礎研究の成果を積極的に予防・診断・治療へ応

用するトランスレーショナル・リサーチの推進、

3)革新的な予防法の開発、 4)革新的な診断・

治療法の開発、 5)がんの実態把握とがん情報 。

診療技術の発信・普及、の 5つが挙げられている

が、化学物質によるがん予防は、上記 3)革新的

予防法の開発の中で、“生活習慣改善、化学物質

投与等による介入試験の展開"と して取 り上げら

れている。

癌の化学予防は1970年代に提唱された概念であ

り、古 くから種々の化学物質と発癌抑制との関連

が研究されてきた。癌化学予防物質には天然化合

物と合成化合物があるが、天然化合物としては、

βカロチン、αカロチン、リコピン、クルクミン、

ウルソール酸、各種ビタミンなどが挙げられ、安

全性の面で優れている。一方、合成化合物として

は、N‐ (4‐ ヒドロキシフェニル)‐ レチナマイド、

スリンダク、セレコキシブ、ピロキシカム、タモ

キシフェン、 トレミフェンなどがあり、効力が高

く、安定的な供給ができるという利点がある。こ

れらの化学物質を用いた従来の研究の多くは、癌

が発生しないように予防する “一次予防"が主体

であるが、近年では、癌発生後の治療の一つとし

て、あるいは、治療後の再発・転移を予防する “二

次予防"に対しても研究が行われている。この中

で、合成化合物であるセレコキシブなどの COX‐ 2

阻害剤は、消化器癌に対する化学予防の中で最も

研究が進んでいるものの一つである。従来、リウ

マチなどでアスピリンを長期間常用している患者

では、大腸癌による死亡率が40~ 50%低値を示す

ことが報告されてお り、アスピリンやスリンダッ

クなどの非ステロイ ド系消炎鎮痛剤 (NSAIDs)

が大腸癌の発生・進展に影響を与えることが示

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唆されている。NSAIDsは COX活性を抑制する

ことにより抗炎症作用を示すので、NSAIDsの抗

腫瘍活性を示すメカニズムの一つとして、coxが腫瘍発生に関与 していることが考えられる。

COXに は 3つのアイソザイムがあり、COX-1は

種々の正常組織で恒常的に発現 し、COX‐2は 炎

症組織や腫瘍組織で発現 し、COX-3は主に脳で

発現している。したがって、NSAIDsは 大腸ポリ

ープや大腸癌に発現するCOX-2活性を抑制する

ことによって、これら組織のプロスタグランデ

ィンE2の合成を抑制 し、その増殖を抑制すると

考えられている。このメカニズムの一つとして、

間質細胞では、プロスタグランディンE2受容体

のサブタイプである EP3の アゴニス トを投与す

ると、血管新生因子であるvascular endothelial

growth factor(Ⅵ〕GF)の発現量が著 しく増加す

ることが明らかにされているが、腫瘍細胞自体に

どのように関与しているかは明らかになっていな

い。大腸腫瘍に対する化学予防の臨床試験として

は、米国において、家族性大腸腺腫症 (FAP)や

散発性大腸癌を対象として、スリンダク、セレコ

キシブ、アスピリンなどを用いたものが行われて

いる。このうち、COX‐2阻害剤であるセレコキ

シブは、FAPの ポリープを30%減少させたとの

報告があるが、日本ではこのような臨床試験はほ

とんど行われていない。大腸をはじめとする消化

管の癌では、COX-2に 関する研究が幅広 く行わ

れているが、膵臓・胆道系での報告は少ない。そ

こで、われわれは種々の膵臓腫瘍、膵・胆管合流

異常の切除標本を用いて、COX‐2と ⅥЮFの発

現を免疫組織学的に検討したところ、膵管内乳頭

粘液性腫瘍と膵・胆管合流異常では、種々の上皮

で COX-2、 VEGFが高率に発現し、両者の間に有

意な相関を認めた 1)2)。次いで、ハムスターによ

る膵・胆管合流異常発癌モデルを用いて、COX‐ 2

阻害剤による発癌抑制実験を行ったところ、対照

群では術後12週 目の胆嚢粘膜に上皮内癌が形成さ

れたが、COX-2阻害剤投与群では癌の発生をほと

んど認めなかった (論文投稿中)。 以上の結果は、

膵臓・胆道系においてもCOX‐2阻害剤による化

学予防が可能なことを示しており、術後の発癌予

防などにその効果が期待されるところである。

COX-2阻害剤以外に、現在最 も注 目を浴びて

いる化学予防の一つとして、Vitamin K(VKlを

使った研究が行われている。従来、VKは止血に

必要な微量栄養素と考えられてきたが、1980年代

に入って、人工的に合成されたVK3に細胞増殖阻

害作用やアポ トーシス誘導作用があることが明ら

かにされ、放射線、化学療法などとの併用投与に

よる相乗効果が報告されてきたが、本格的な治療

にはいたらなかった。近年、VK2に も細胞増殖阻

害作用や分化誘導作用があることが判明し、化学

予防の一つとして改めて注目されている。%の研究が最も進んでいるのは血液領域で、われわれ

の大学の血液内科グループは、VK2が自血病細胞

のアポトーシスを効率的かつ選択的に誘導される

ことを明らかにした 3)。また、Bc卜2を 過剰発現

させた白血病細胞株では、馬 によるアポ トーシ

ス誘導はほぼ完全に抑制されるが、Gl arrestを

介 して単球系への分化が誘導されることを報告し

ている4)。ァポ トーシスを誘導する経路としては、

ミトコンドリアを介するもの、Fas¨ Fas ligandを

介するものなどがあるが、VK2に よるアポ トーシ

ス誘導の詳細なメカニズムに関しては未だ明らか

になっていない部分が多い。現在、厚生労働省の

「骨髄異形成症候群に対する新規治療法の開発に

関する研究班」と「特発性造血障害に関する調査

研究班」の 2班合同で、骨髄異形成症候群の不応

性貧血などを対象に、Ⅵ鴫単独療法およびVK2と

VD3併用療法による血球減少改善効果を検証する

臨床研究が行われている。一方、消化器癌におけ

るⅥもの研究は、主として肝癌で行われており、

初発肝癌根治治療後の再発 。二次発癌を鴨 が

抑制することが報告されている5)。

また、肝癌の

腫瘍マーカーであるPMA―IIが高値を示す症例で

は高率に腫瘍の門脈浸潤がみられることから6)、

も 投与によるPMA―IIの 減少および門脈浸潤

の予防が期待され、臨床的に証明されつつある7)。

現在、肝癌治療後の再発・二次発癌の予防を検証

する大規模な臨床研究が進行中である。しかし、

その他の消化器癌では、大腸、膵臓などの細胞株

に関する報告が散見されるのみである。そこでわ

れわれは、VK2の発癌抑制効果をみるために、胃癌

および胆道癌細胞株を用いたV馬 の化学予防効果

を検討中であり、これら癌腫に対するV馬 の効果

のみではなく、アポトーシスや分化誘導のメカニズ

ムに関しても解析を行っているところである。

以上のように、COX-2阻害剤、VK2な どの化学

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物質によるがん予防が徐々に臨床応用されつつあ

るが、未だ不明な点が多いため、今後一層の検討

が待たれる。将来的には、これらの化学物質ある

いは抗癌剤などをうまく組み合わせることにより、

実効性と安全性の高い治療を開発することが可能

であると考えられる。また、化学予防の効果を検

証するうえで、ゲノムレベルあるいはタンパクレ

ベルでの解析は不可欠であり、これによって個別

化治療への道を開くことになるものと期待される。

[文献]

1)Aoki T Nagakawa I TsuChida A et al:Expression

of cyclooxygenase-2 and vascular endothelial

growth factor in pancreatic tumors.Oncol Rep 9:

761-765,2002

2)Tsuchida A,Nagakawa Y,Kasuya K etal: Immunohistochenlical analysis ofcyclooxygenase-2 and vascular endothelial growth

factor in pancreaticobiliary maliunciOn.Oncol Rep

10:339-343,2003

3)Yaguchi M,Miyazawa K ntagin T et al:Vitamin

K2and its derivatives induce apoptosis in leukenua

cells and enhance the effect of all¨ trans retinoic

acid.Leukemia ll:779-787,1997

4)Miyazawa K,Yaguchi M,Funato K et al:Apoptosis/differentiation‐ inducing effects of

vitanlin K2 on HL-60 cells:dichotomous nature

of vitarnin K2 in leukenlia cells.LeukeFnia 15:

1111-1117,2001

5)水田俊彦 :Vitamin K2に よる肝細胞癌再発抑制

効果.消化器科 36:629-633,2003

6)Koike L Shiratori Y,Sato S et al:Des‐ gamma…

carboxy prothrombin as a useful predisposing

factor for the development of portal venous

invasion in paients wlth hepatocellular carcinoma.

Cancer 91:561-569,2001

7)小池幸宏,自 鳥康 史,椎名秀一郎他 :門脈 内腫

瘍浸潤予防を目的 とした Vitamin K― II投与による

Randomized Prospective Controlled Study.月 千臓

43(suppD:A64,2002

選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRl)劇薬・才旨定医薬品。要指示医薬品注)

J:JFil:′ Jlf蟹il:‖:PaXi:° 塩酸パロキセチン水和物 薬価基準収載

●禁忌、効能・効果、用法・用量、使用上の注意等につきましては、製品添付文書をご参照ください。

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